人間としての心
「そうか。絵本だって<本>だもんな。昔の逸話とかを題材にしたものだって少なくない」
<海賊見習い>だった頃には文字すらまともに読めなかったアーストン、ううん、トーマも、たくさん経験を積むことで本も読めるようになったし、なんだかそれっぽいことも言えるようになってきてた。
人間は成長するからね。そこが私とはまったく違う。すごいところだと思う。
小さいアーストンが絵本の中に<セレイネス>の文字を見付けられたのだって、小さいアーストンが成長してるからだ。
そうして見付かった<セレイネス王国を作った英雄の物語>を読むと、セレイネス王国は、東の国々と西の国々の間に作られた国ってことだった。
もちろん、絵本だからそこに書かれてることがどこまで正しいのかは分からないし、このセレイネス王国というのが私達の探してるそれだという保証もない。
だけど、貴重な手掛かりには違いない。もし違っていたとしても構わない。別に焦ることじゃないから。
それでも、<セレイネス>の文字が見付かったことで、トーマやライアーネのやる気が上がったし、小さいアーストンも、『自分がそれを見付けた』というのが、大好きな両親の役に立てたというのが、彼なりに嬉しかったみたいで、絵本を熱心に読むようになっていった。
と言っても、一日中とはさすがにいかないけどね。半日も過ぎればさすがに飽きてしまって、やっぱり遊ぶことをせがんだり。でも次の日にはまた半日、絵本を読み漁ってくれる。
すると今度は、
「ん……」
私に寄り添うようにおとなしくしてたジルが、机の上に広げられた本を指差した。
私が次に読もうと思って用意していた本だった。
そしてそこにも、<セレイネス>の文字が。
「ジル…? 文字が……?」
『文字が読めるの?』と一瞬思ったけど、もし彼女がゼンキクアのお姫様の子孫で、<ゼンキクアの王族の印>を付けられるまでは誰かと一緒に暮らしていたのなら、文字というものを多少なりとも理解していてもおかしくないかもしれない。
しかも、小さいアーストンがセレイネスという文字を見付けた時に私達がその絵本を机の上に広げて文字を指差したりしてたから、その時に文字の形を覚えたのかも。
それにしたってお手柄だ。
「ありがとう、ジル。見付けてくれて」
私が囁くようにそう言って頭を撫でてあげると、
「……」
ジルは少し嬉しそうな表情になってた気がした。もしかすると彼女にも、<人間としての心>が芽生え始めてるのかもしれない。
それがどうかは分からないにしても、私もなんだか嬉しかったのだった。




