お伽話
「ありがとう…」
蒸かした芋を受け取り、私はそう応えた。
でもその女性は私が座っていた切り株に腰を下ろしてしまった。彼女が去ってからジルに芋を全部あげようと思っていたのに。
仕方なく私は芋を一つ手にしてジルに向けて差し出した。するとジルはそれをひったくってガフガフと貪るように食べ始めた。
「その子、頭がちょっとあれなのかい?」
女性が無遠慮にそう訊いてくる。私も誤魔化しても仕方ないと思って、
「ああ…自分の名前しか言えない。私のことも姉だと分かってるかどうかも分からない……」
と、ジルのことを訊かれた時にと用意しておいた答えを返した。
「そうかい。それは大変だねえ」
なんて言ってくれるけど、それが社交辞令っていうものだとはすぐに分かった。でもその時、ジルのことを見ていた女性が、
「あれ? この子、ゼンキクアの子じゃないかい? しかもその模様、王族の印だよ?」
ジルの首筋についていた模様を見て驚いたように言った。と言うか、それ、模様だったんだ。てっきり、殴られたりなんかした時の痣だと思ってた。他にも痣があったし、野良子の体にそんなのがついてるのなんて普通だったから気にもしてなかった。
「え…?」
思わず私が呆気に取られると、女性が訝しがるような表情になった。
「あんた、この子の姉なんかじゃないね? 何者だい?」
と訊いてくるけど、私からしたらあなたの方こそ何者?って感じだった。どうしてそんなこと知ってるの?
とは思ったけど、取り敢えず観念して、
「この子は、ある町で私に勝手についてくるようになった野良子だ…私の妹ってことにしておいた方が話が早いからそうしてた。なんでか知らないけど離れようとしないんだ」
って正直に話した。すると女性は寂しそうな顔になって呟いた。
「そうかい…生きてたんだね……」
それから改めて話し出した。
「この国の東の果ての海辺の土地にはゼンキクアって国が昔あったんだけど、この国に滅ぼされちまってね。その王族は殆どが処刑されたそうだけど一部の子供だけはラプンっていう海の向こうの国に逃げ延びて、でもそのラプンにまでシュクの追手が迫って、船でまた脱出したそうなんだ。
その子らの子孫が西で生きてるとかどうとかいう噂だけはあったんだけど、本当だったんだね…」
「どうしてそれを……?」
「私の祖父さんもゼンキクアの人間だったんだよ。で、お伽話みたいにゼンキクアとそこのお姫様の話をしてくれたのさ……」




