ルーツ
だけど、私はこのヤンという<猟師>に対して違和感を覚えてた。ただの猟師にしては博識すぎると思った。私達が西の方の冒険者だっていうのはすぐに分かるとしても、<東方見聞録という本が昔書かれた>とか、<海の向こうの隈取りというメイク>とか、ずっとこうして猟で獣を狩ってるだけだとしたらそんなこと分からない気がしたから。
でも、だからってそれを尋ねることもしなかった。藪をつついて蛇を出すようなこともしたくなかったから。こういう感じのはいろいろ事情を抱えてるってのは散々人間を見てきて分かってたから。滅ぼされた国の人が落ち延びて人知れず暮らしてるとかね。
しかも、
「それにしてもあの女の子?の方。あれ、ゼンキクアの血が入ってるっぽいな。純粋な西の人間じゃないだろ」
とかまで言い出した。
「ゼンキクア?」
ライアーネが訊き返す。するとヤンは説明を始めた。
「ゼンキクアは、東の外れまで行った海に面した土地を治めてた国だよ。五十年ほど前にシュクに滅ぼされてなくなったけどな。顔立ちや髪色が、ゼンキクアか、その辺りの人間のそれっぽいんだ」
ヤンの言葉に、今度はトーマが反応した。
「そのゼンキクアって国は、このプリムラがやってるメイクが伝わってるっていう、海の向こうの島国とやらと繋がりがあったりするか…?」
という問い掛けに、ヤンも静かに頷いて言った。
「ああ、交易があったらしいな。なるほど、だからお前達は一緒にいるのか」
それでだいたい察してしまった。ジルがのゼンキクアとかいう国の流れを汲んでるのなら、野良子になる以前、まだ親と一緒にいた時にこのメイクに似たものを見たか何かして、記憶に残ってたのかもしれない。
だから私のメイクがすごく気になってついてきてしまったのかもしれない。
もっとも、今さらゼンキクアっていう国があったところに行ったところでジルのことを知ってる人間がいるとも思えないし、万が一いたとしてもすっかり野良子になってしまったジルを受け入れてくれるとも思えない。
でも、ヤンが帰った後、トーマとライアーネが言い出した。
「せっかくだし、そのゼンキクアってって国があったって場所まで行ってみるか」
「そうね。帰ることはできなくても、ルーツくらいは分かるかもしれないし」
西の国々には、東の国々との交易とかと同時に流れ込んできて居着いてしまった人が少なくない。だから東の方の人々の特徴を持った人も別に珍しくないので気にしなかったけど、言われてみればジルはそれっぽい顔立ちはしてる気もした。
こうして私達は、とにかく海を目指して進むことになったのだった。




