ハッタリ
野良子は決して人に懐かない。
世間ではそう言われてた。確かに懐いたとまでは言えないのかもしれないけど、今、ジルは小さいアーストンと普通に遊んでた。
追いかけっこで。
東で一番大きな国に入る前日、すぐ近くの湖のほとりで野宿をしていたトーマ達と私だけど、少し離れたところで野宿してたはずなのに、ジルと小さいアーストンが勝手にそうやって遊び始めたんだ。
「まあ、子供同士ってことなのかもね」
ライアーネがその様子を見ながら呟いた。私もそういうことなのかなと思った。それにしても楽しそうだな。
だけど、逃げるジルを小さいアーストンが本気で追いかける様は、まるで動物が狩りをしてるみたいでなかなかハードな遊びだとも思った。
木を使って躱そうとするジルの動きを読んで先回りしたりとか、何気に実戦的かもしれない。
でもその時、私は林の中に何かがいることに気付いて、ジルと小さいアーストンの近くへと駆け寄った。
すると、
「なんだ、人間かよ。獣かと思って弓を引いちまうところだったぜ」
という声が奥から聞こえてきた。それと同時に、がさがさと下草を踏みながら出てきたのは、猟師らしい男の人だった。獣の毛皮を被ってたからパッと見はそっちの方が獲物にも見えた。
ジルが警戒してすごい勢いで距離をとる。無理もないなと思った。
「俺の名はヤン。まあ見ての通りの猟師だ。それにしても子供だけで遊ばせておくのは危ないぜ。ホントに獣がいるみたいに見えるからな」
「ああ、そうだな、気を付けるよ」
トーマが近付いてきてそう応えた。
「お前さん達は、ナリを見る限りだと西の方の冒険者か? シュクに入るのか?」
シュクというのは、東で一番大きな国の名前だった。
「その予定だ。俺達はあっちこっちの国を巡って見聞を広めてるんだ」
「なるほど。東方見聞録ってことか」
「?」
「ああいや、昔、お前らと同じようにして東の国々を回ってそれを本に書いたのがいたらしくてよ。お前らもかなって思ったんだ」
「まあ、似たようなものかな」
とその時、ヤンが私の方を見て言った。
「お前さん、その顔は、海の向こうの国の<隈取り>とかいうメイクだな。でもお前さん自身は西の人間だろ? なんでそんなメイクを?」
「…別に…私はそのままの姿だと舐められるからハッタリの為にこうしてるだけだ…」
このメイクのことを知ってるのなら下手に誤魔化すよりはそう言った方が良いかと思って応えた。少なくとも嘘じゃないから。
「ははは、そりゃいい」
と、ヤンは豪快に笑ったのだった。




