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ラブレター ~追憶のププリーヌ~  作者: せんのあすむ
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ボーデン商会

「次の行き先が決まったぞ。ポタリアっていう国だ。そこに古い書物が大量に残ってるらしい。それを入手するのが今度の仕事だ」


事務所のドアを乱暴に開けて、アーストンがそう言った。そんなアーストンに向かって、小さな女の子を抱いたレリエラが怒ったような顔で言い返した。


「もう! ドアは丁寧に開けてっていつも言ってるでしょ! シェリーナがびっくりしちゃうじゃない」


シェリーナっていうのは、レリエラが抱いてる女の子の名前だった。アーストンとレリエラの子供で、今年四歳になるんだって。


レリエラはびっくりするからって怒ってるけど、当のシェリーナはぜんぜん気にしてなさそうなどころか、お父さんのアーストンに向かって嬉しそうに手を伸ばしてた。


「ごめんごめん、シェリーナ。びっくりしちゃったか?」


と言いながら、クリッとした大きな青い瞳の、レリエラそっくりのゆるくウェーブした亜麻色の髪を胸の辺りまで伸ばしたドレス姿のその子を抱き上げた。


するとシェリーナは、きゃあきゃあと笑いながらアーストンにしがみつくみたいに抱き付いた。お父さんのことが大好きなんだと思った。


その時、隣の部屋のドアが開いて、そこから口髭を生やした銀髪の男の人と、十三歳くらいの女の子が現れた。私達がいるこの事務所を拠点にした会社の社長のボーデンと、ナフィだった。ナフィは実はこの会社のスポンサーの一人で、ボーデンよりも偉い人だった。


「ポタリアか。それなら海路の方が早いし確実だな。よし、ではさっそく船の手配をしよう」


そう言ったボーデンをナフィが遮る。


「いや、今回の書物は特に古いものらしいので、潮風で痛んでは困る。時間は掛かるがここは陸路で頼みたい。それにかかる費用はこちらで負担する」


ポタリアは、ここからだと<内海ないかい>と呼ばれる海を挟んだ反対側だった。陸路でも行けるけどすごく遠回りになるからか、ボーデンは渋い顔をしながらも頷いた。


「陸路で移動する分の人手は痛いが、クライアントの頼みとあっては断れないな。分かった。馬車と途中の宿の手配をしよう。ルートは安全を期して公路のみとする。裏道で山賊に出くわしたら元も子もないからな。それでよろしいですか?」


「結構だ。金に糸目はつけない。安全第一で頼む」


こうして、私達の新しい仕事が動き出したのだった。




と、ここまで新展開を紹介したところで、状況を説明しておきたいと思う。


アーストンとレリエラとナフィに助けられた私はそのまま、このボーデンが社長を務める貿易会社<ボーデン商会>まで来たのだった。私のことを知る人間に見付からないように荷物の中に紛れて馬車で一週間かけて。それは別に平気だったけど、途中、アーストンとレリエラの仲の良さを何度も見せつけられて、ナフィはちょっと呆れてた。


それから五つの国を越えてようやくたどり着いたここで、私はボーデンと会ったのだった。でも最初に見た時、アーストンの言ってた<私に縁のある人>という意味が分からなかった。それはボーデンの口から説明されてようやく判明した。


「あなたを森から運び出した国の地下牢の看守は、僕の父です」


だって。


「あの時、あなたが父の間違いを正してくれたおかげで母の病は回復しました。その父も母も既に亡くなりましたが、もっと早くに失われていたかも知れない僕達家族の時間を与えてくれたあなたは、僕の恩人です」


とか言ってた。それでようやく、地下牢の看守のおじさんの息子さんなんだって分かった。なるほど縁があると言ったらそういうことになるのかな。


こうして私は、このボーデン商会の事務所に飾られてる人形としてここにいることになった。そのため、変装と言うかただの人形のふりをするということで金髪のウイッグをかぶり、昔のデザインのドレスを着て、アンティークの調度品の一部に溶け込んでた。だから、私のことを知ってる人以外は誰も私のことに気付かなかった。アンティークの人形だと思われてただけだった。


アーストンが言ってた通り、彼とレリエラもここで働くことになった。私は友達になった三人の名前を憶えることにした。長い間、人間の名前を覚えることをしてこなかったからか覚えるのに一ヶ月くらいかかっちゃったけど、覚えられるようになったら今度は他の人の名前も勝手に覚えられるようになった。ボーデンの名前を覚えたのもそれで。ここの従業員の名前はだいたい覚えた。だけどあくまでただの人形としてここにいる以上、他の人の前では一切動かないようにしてる。私が魔法の人形だって分かったらまたどこからその話がどこに伝わるか分からなかったし。


それから一年ちょっと。私もすっかりここでの暮らしに慣れていた。普通の人形として黙って座ってればいいから、森にいた頃を思い出せてた。


この事務所には十人くらいの人が働いてて、今は仕事でみんな出払ってる。そして残ってたアーストンとレリエラが今回の仕事を受け持つことになった。ボーデンが手配した馬車が届くまでに用意を済ませる。私も本の内容をチェックする役目として同行する。だから他の人がいないのが都合よかった。


私も貿易用の商品の一部という扱いで箱詰めされ荷台に乗せられた。


「いってらっしゃーい」


ナフィと一緒にお留守番になるシェリーナがそう声を掛けるのが聞こえた。もう慣れてるし、ボーデンも彼女の親みたいなものだから泣いたりしないんだって。


ポタリアに着いてからは、私は今度は逆に人間のふりをしてボーデン商会の従業員として動くことになる。それに合わせて、移動中にレリエラが私にメイクを施してくれた。元々の人相を変える為と、さらに人間に似せる為だ。


「どう? 今回もいい出来だと思うんだけど」


そう言いながら見せてくれた鏡には、一見しただけだと人形とは分からなくなった私の姿が映ってた。


「うん、いいんじゃないかな」


馬車は、公路って言われる、国が管理してる整備された道をゆっくりと進んだ。難所と言われるようなところを迂回して、安全な場所を選んで通した道だから時間はかかるけど、盗賊や山賊は出ないし安全だった。それとは逆に、厳しい場所とかを敢えて通る、裏道って言われる道もある。だけどそっちは、距離が短くて早く行ける代わりに危険な場所も多いし、国による警備もされてないから盗賊や山賊も出る。速さを売りにしてる輸送業者や貿易業者には、武装した早馬でわざと裏道を使うところもあるらしい。


だけど、今回は、ナフィの依頼もあって早さよりも確実さを選んでる。公路は安全第一だからあまりスピードを出すと警備に止められたりもする。警備に目をつけられないようにのんびりと目立たないよう片道十日間、往復で二十日かかるっていう行程だった。変に目立って私のことに気付かれても困るからね。途中の宿も、ボーデンが懇意にしてる馴染みの宿だけを使った。


そして私達は、予定通りにポタリアへと着いたのだった。



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