結婚式は人前式で……
今日は、蛍と祐也の結婚式。
その半年前に、入籍だけはしているのだが、祐也は恋人にいくつもドレスを着せたいのだと、結婚式は人前式、そして披露宴は豪華に準備していた。
普通は新婦が熱心なはずだが、新郎の祐也は本当に真剣で、ドレスも全てオリジナルをデザイナーに頼み込みつくってもらったり、花や、食事や、お返しの品まで準備を重ねたらしい。
普段の仕事の合間にずっと熱心にするものだから、一度は、
「うわぁぁぁん‼ゆーやのバカァァ‼構ってくれない~‼」
「わぁぁ‼蛍‼ごめん、ごめん‼」
「わぁぁん、キライ‼ゆーやなんて、嫌いだもん‼」
と、蛍は隣家である実家に里帰りし、
「蛍‼ごめんなさい‼戻ってきて‼」
「……構ってくれたら、帰る」
「当たり前や‼蛍のために頑張るけん……」
と半日の夫婦喧嘩があったらしい。
ほほえましい限りである。
そして、先に結婚した蛍と穐斗の母の風遊は現在妊娠中で、現在7ヶ月のお腹を抱えており、夫の醍醐は、それはそれはデレデレしているらしく、周囲もあまりの変わりように驚いているらしい。
そして、日向と糺には風早と言う息子が生まれ、日向はよきパパになっている。
結婚式はもう少し落ち着いてからと、周囲に言われているらしい。
そう。この3組の夫婦を、地域の皆がお祝いしていた。
限界集落にひさびさのお祝い事である。
地域ぐるみで大騒ぎだったことは言うまでもない。
特に風遊の両親の麒一郎と晴海は嬉しく喜ばしく……結婚式の日にはボロボロと泣いた。
ようやく幸せをつかんだ娘を思って……。
この結婚式のあと、醍醐の兄、紫野と蛍の異母姉の雛菊が結婚する。
今日の式にも、手を繋いで現れた二人である。
こちらは、松尾大社での挙式に披露宴は京都でとなっている。
ウェイン……ガウェイン・ルーサーウェインことガウェイン・ルーカス・サー・ウェインは、ようやく恋人になりかかった……と本人は思っているが微妙である……紅と、ならんで座っている。
一応、新郎新婦側に別れるのだが、新婦側がかなりの数だったため、移ったのである。
紅は、妹の媛と並んで、潤んだ瞳で義父の醍醐と並んで歩く蛍を見つめている。
「か、可愛い‼あ……蛍ちゃん、肌が白いし、ドレスも……あのデコルテ、上品やし似合うわぁ‼絶対にゆうにいちゃん本当に蛍ちゃんのために選んだんやなぁ」
「本当‼蛍ちゃんにジュリエットドレスって、一平兄ちゃん。ボケや~‼ゆうにいちゃんに殴られるもわかるわ。ヴィヴィ姉さんやから似合うのに‼」
実は一平達も来月挙式である。
結婚ラッシュで、自分自身もしたいなぁと思うのだが、
「ねぇ、紅」
「何?あぁぁぁ!ちょっと待って。ドレスの裾、ウワァァ……綺麗。腰のラインから流れて……いやぁぁ‼ちょっと待って‼これ、ビーズ?」
「違うよ。お姉ちゃん。月光石や紅水晶の丸玉だって」
「すごーい‼」
声をあげる。
ダイヤモンドではなく、可愛らしい天然石があしらわれたドレス姿の新婦は、それはそれは美しく、甥のウェインですら、
「可愛い。と言うか、祐也は蛍に何でも贈りそうだね」
「蛍ちゃんの為なら‼って言ってたね」
「良いなぁ……うちも、ゆうにいちゃんみたいなかっこいい旦那さん探そかなぁ」
「あの……」
声に振り返った紅と媛がにっこりと、
「愛おばさん、寛爾おじさん、それに、祐次に葵衣。待ってたよ~‼」
「おばさん、おじさん。元気そうだね‼」
「紅ちゃん、媛ちゃん」
ソワソワとした様子の女性に、穏やかな男性が、
「ごめんね。愛が、躊躇っちゃって……」
「ホラホラ!おじさんたちコッチコッチ‼」
媛は、寄せる。
「見て?ホラホラ。蛍ちゃん。で、義理のお父さんが醍醐兄ちゃん。で、あそこで待ってるでしょ?」
紅の指を追った愛は、
「祐也……」
ボロボロと涙を流す。
よく見ると、祐也に良く似た顔をしている。
「あ、初めまして。蛍の甥のウェインです」
日本語で挨拶をすると、ぎょっとされる。
「ゆう兄ちゃんの親友よ」
「それと紅姉さんの彼氏」
「止めて~‼恥ずかしい‼それよりも、ウェイン。愛おばさん……ゆう兄ちゃんのお母さんで、旦那さんの寛爾おじさんと、祐次と葵衣。祐次が小学校2年生。葵衣は4才」
「よろしくお願いいたします。ガウェインが本名ですけど、ウェインって呼んでください。年は、祐也と蛍と同じです」
「あのときは……ほ、本当にありがとうございました」
頭を下げる愛に、
「いえ、祐也は僕の親友です。祐也の親友になれたことが誇りです。祐也と出会いを作ったのは穐斗でしたが、生んでくださった、貴方の、お母さんのお陰です。ありがとうございます」
「……‼こんな……母親失格の私が来るべきではないと……でも、夫にも、子供たちにも……」
「祐也だって嬉しいですよ。喜んでいるでしょう」
式が始まる。
人前式……地域の人、親族、友人を招いての式なのである。
「今日、来てくださった皆さん、家族、友人……皆本当にありがとうございます‼私、清水祐也は、清水蛍を愛し、敬愛し、守り、共に手を繋いでここで生きていくことを誓います‼」
祐也の言葉の後に、
「きょ、今日は本当にありがとうございます‼私、清水蛍は、夫、清水祐也を愛し、尊敬し、大きすぎて無理かもしれませんが支え、共に手を繋いでここで生きていくことを誓います‼」
『大きすぎて』の部分で笑い声が弾けたが、指輪の交換に、そして誓いの口づけ。
そのまま、披露宴となったのである。
「お母さん」
声をかけられ、愛達が振り返る。
可愛らしいカクテルドレスの蛍と共に、祐也がたっていた。
「祐也……」
「来てくれてありがとう。良かった……すごく嬉しいよ。お父さんと祐次と葵衣も来てくれて本当にありがとう」
「おめでとう。祐也」
寛爾は微笑む。
「蛍さんも、初めまして。不知火寛爾です」
「初めまして。清水蛍です。よろしくお願いいたします」
蛍はにっこり笑う。
「うわぁぁ……お兄ちゃん‼カッコいい‼俺も、カッコいい男になる‼」
「祐次は、ほんとに大きくなったなぁ……」
「小学校2年生だぞ~‼」
「じゃぁ、夏にここに遊びに来るといい。じいちゃんばあちゃんが待ってるからな?」
「お姉ちゃん、綺麗……」
葵衣はもじもじと蛍を見る。
にっこりと笑い、
「葵衣ちゃんの方が一杯かわいい‼お姉ちゃんと仲良くしてね?」
「うん‼」
二人の式は、和気あいあいと続いていくのだった。