(14)
ありがとう。本当に、嬉しいよ。
僕の思い違いじゃなかった。彼女は、ちゃんと僕の事を見ていた。
人生。いや、一度終わった人間が人生なんて表現はおかしいか。
ひょんな事で憑りついた男の居心地がなかなかにはまって、この男と生活を共にするようになって、男のコンビニのバイトを後ろからずっと眺めていた。
そんな時に君が現れた。
君は、初めて会った瞬間、すごく驚いた様子だった。
ああ、ごめん。怖かったんだろうな。
最初はそう思ったけど、すぐにそれが違和感に変わった。
僕の事を見る君の瞳に、怯えはないように思えた。それどころか、とても、熱っぽくさえ見えた。
まさかな。
でもそのまさかだったんだ。
毎日のように、君は僕に会いに来た。僕に会いに来ているという事を理解してもらうために。
あれだけ視線を合わせられれば、僕にとっては十分だった。
自分が無念を残してこの世にいるかどうかも分からない。
生きていた頃に波打った心は、霊体となってからは凪のように静かだった。
そんな心が、再び波打った。
恋だ。
これは立派な恋だ。
しかし、あまりにも隔てる壁の大きい恋。
僕にはどうしようも出来なかった。
それを知ってか、彼女から歩み寄ってくれた。
僕に何が出来るだろう。
分からない。
でも、彼女を想う気持ちは、とめようがない。
人間と幽霊。
知った事か。
僕の恋路に、そんなものは支障にならない。
彼女が求めるなら、僕は全力で答えよう。




