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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
8/83

新人冒険者

新人冒険者


 2日後、朝準備を済ませ、フェスティナ商会へと向かう。

 装備はワイバーンスケイルメイルとバスタードソードとマント。左腰には羊皮紙バックとナイフが刺さっている。手荷物は調味料と薬、小さくなる予備バッグに洗面具、砥石、武具用の油などだ。テント等は商会が準備してくれるようだ。

 本当に魔法使いか?と自分でも問いたくなる装備。

 冒険者仲間からは魔法使い詐欺だ。と言われる事もしばしば。

 鎧に関してはエステファンとシルヴィアさんからの御礼の品。この国では目撃例の無いワイバーンの鱗なんてどうやって手に入れたのかと聞いたら、胡椒の国が産地らしい。シルヴィアさんに足を向けて寝られないな。エステファンはどうでもいいや。


「よう!ギルン、ティティス、ボマ!」


 今回の御者4人のうち今見えてる3人に声をかける。


「今回はフミトなんだ。なら新人いても安心だな」

「よろしく頼みますね」

「女の子いたよ」


 なんか気になることをいう人がいるが、一応スルーしておく。


「アピまで短い距離だが、よろしく頼む」


 と爺さんが出てきた。


「ジルフ爺さん、あんたもいるのか?冒険者男だけにしないとまずいんじゃ?」


 ジルフ爺さんはすごく素敵な奥さんがいるのに、破天荒で助平な爺さん。冒険者の女の子にしょっちゅうスキンシップじゃと言って色んな所を触ったりする。羨ましくないんだからねっ!


「なんてこと言うんじゃ、この若造が。彼女たちがワシを離してくれないんじゃよ」


 こんな軽口叩いてるけど、御年59歳、御者一筋40年のベテランだ。フェスティナ商会立ち上がる前から御者をしていて、先代の立ち上げからずっと専属になってもらった人。元冒険者で剣士をしていたそうだが、54歳を超えたら剣を思ったように振れなくなった様で、魔獣との先頭になっても基本冒険者に任せ、他の御者と一緒で馬車を見るようになった。冒険者が不利な状況になった時は、剣を持って駆けつけてくれる。実は俺の剣の師匠の一人であり、今でも老獪な剣筋はそこそこの冒険者を手玉に取るくらいだ。剣技だけなら今でも負けることがある。体もしまった筋肉質なので、見た目は良い。冒険者の護衛があまりつくことがなかった時代の御者は誰しも剣が振れたようだけど、この爺さんは別格だったようだ。


「はいはい。この前は手が吸い付いて離れないって言ってましたよね」


 呆れ顔で爺さんを見る。


「そんなこと言ったかのー?記憶に無いのじゃが、お前さんの間違いじゃないのか?」


 わかって言ってるからな、この爺さん。


「はいはい、爺さんの魅力にまいってるんですよね」


 いつもこんな流れだ。


「で、他の冒険者はまだ来てないのかな?エステファンに顔出した後、ギルドで確認したら商会合流って言ってた思うんだけど」


 周りを見回してみると、ちょうど4人がこちらに歩いて来ていた。


「あれじゃな?ほほぅ、女が4人じゃな。良い旅になりそうじゃ」


 すいません、不安な旅になりそうです。


「おはようございます!フミトさん、お久しぶりです!それと、御者の皆さんよろしくお願いします!」


 この元気っ子はノンナ。戦士養成所出たての新人冒険者の時、しばらく面倒を見た子だ。突貫グセがあり、ちょいとお馬鹿なのが困った所。ブレストプレートと長剣、ヒータシールドとマントの装備だ。


「おはようございます。お久しぶりですね、フミト。皆様よろしくお願いします」


 こちらの肌が黒いエルフはナイア。ダークエルフ。同じくレンジャー養成所出たての新人冒険者の時、しばらく面倒を見た。その後、ノンナの相棒になってしまった人。知的な人で、ノンナをうまくコントロールしている。

 ハードレザーとロングボウ、レイピアとマント装備。メガネとスーツがあれば美人女教師が板につきそうな人。ボンッキュッボーン。


「それで、この二人が新人ちゃんです。はい、あいさつ」


 ノンナが二人を押し出す。


「リーアです。アイガー戦士養成所を出ました。よろしくお願いします!」


 ハードレザーと長剣、木の盾の装備。いかにも初心者という装備だ。

 しかも鎧のサイズがあっていない。小さいのかボリュームが溢れている。

 ジルフ爺さんの「ほほぅ」と言う声が聞こえるが無視をする。


「レンティ。マルビティン魔法学院。よろしくお願いします」


 ローブと杖という、これぞ魔法使いというスタイル。一般的にはソフトレザーアーマーを冒険中はローブの下に着るそうだ。

 彼女は多分そんなことは無いと思う。すべてがスラっとしているから。そんな視線に気づいたのか、侮蔑のような目でこっちを見る。えっと、装備を見ていただけだからね?ジルフ爺さんみたいな見方してないからね?


「この輸送隊のリーダーを勤めてるギルンだ。往復よろしく頼む」


 ジルフ爺さんは、リーダーをしていたが、後輩を育てるためにリーダーはしていない。


「ティティスです。よろしくお願いします。ノンナ、ナイアまたよろしく」


「ボマ。よろしく。ノンナ、ナイア、またあえて嬉しい」


「さてワシじゃな、世界の女性は全てワシのもの!ジルフじゃ!」


 うん。いつもの通り、女性陣は固まってるな。この後自己紹介しにくい……。


「フミトです。こんななりですが、魔法使いです。よろしくお願いします」


 レンティが反応する。


「やはり、貴方が学院史上最低魔力のフミトさんですか。その格好で魔法使いですか?」


 ごもっともです。疑われるような格好しかしてませんし、魔力無しでの魔法使いも前例が無いため、当然のごとく疑われるしね……。


「疑われるのは当然だよね。まぁ、一応信用してよ」


 と言うと今度は睨んできた。魔法学院出身で魔法を使わない格好の俺に何か含む所があるのだろうか?


「フミトさんは結構頼りになりますよ」


 とナイアが訝しんだ視線に気づき、擁護してくれる。


「嬢ちゃんの胸は無いのー、どこに落としてきたんじゃい?」


 と、ニヤニヤしながら二人を舐め回すように見る。ちょっと爺様、何言ってるんですか。


「私は落としてないですよ、ちゃんとついてますから」

 と、ナイア。胸を強調しジルフ爺さんに見せる。ナイアは気をそらすように配慮してくれたようだ。


 レンティはナイアに言葉を遮られてしまったため、多少苛つきながら言葉を飲む。爺さんに色々と言いたいことがありそうだが、出発の時間も差し迫っているため、二人に指示する。


「アピまでの短い旅で、どうしても戦闘になると思う。二人で相手できそうな魔獣なら二人に率先してやってもらおうと思ってる。複数であっても。それと、当たり前なんだが、もう実践だからね。殺し合いだ。相手は手加減なんてしてくれないよ。生存競争になるんだから」


 と釘を差しておく。冒険者の心得なんて決まったものはないが、多数の敵に囲まれた時等に背中を預けることになるので、早く成長してもらわなければならない。


「はい!わかりました!ご指導お願い致します!」


 どうやらリーアは指示を受け入れてくれそうだ。そして締まった顔になってきた。レンティは最初から硬い表情のままなので、正直どちらか判断できない。


「まだそんなに気をはらなくても大丈夫よ。でも適度に緊張はしてちょうだい。積み荷が積み荷だからね」


 ナイアは良い先輩だ。俺も当時そんなこと言ったような記憶があるんだが、今の俺が言うより聞いてくれるだろう。


 黒胡椒はこの国でも栽培を試してみたそうだが、根付かなかった。原産国でも栽培方法は秘匿されているらしい。その為、嗜好品とはいえ、一度その味に触れてしまえば戻ることは難しい。消費より供給が少ない状況であれば、値下がりは難しい。一般庶民の口にも入るようになってきてはいるが、まだ贅沢品から抜けることはない。

 赤胡椒、いわゆるトウガラシはようやくレーニアで栽培され始めた。フェスティナ商会の懇意にしている農家に委託し、栽培を始めた。まだ数の安定供給ができないために、輸入品の一つとして存在している。赤胡椒は農作地の魔獣よけにもなるということなので、増産は急務にもなっている。これはエステファンが意欲的にやっており、フェスティナ商会の将来の主力品目にまで持ち上げるのが第一目標で、庶民の食卓に常備されるようになるのが最終目標だと熱弁されたことがある。まぁ、他に良い食材があったらその食材も食卓に常備するのが最終目標と言いかねないが……。それ以外にも商会の将来のため、色々と手をつくしているからすごいやつだ。


「はい!わかりました!」


 両手を胸の前にし、拳を握る。可愛い仕草だが、気抜けてないじゃないの……。


「それじゃ、そろそろ出発しようか、ギルンよろしく。こちらの隊列はノンナ、ナイアが先頭、真ん中がリーア、レンティ、最後に俺ということで。ナイア索敵よろしく」


 簡単なフォーメーションを説明している間に馬車が来る。


 馬はサラブレッドより頭一つしたくらいの大きさ。体型は牛よりスリムな体型だ。イメージとしては小さな道産子とでも言えばいいか?

 それが2頭立てで一つの馬車を引いている。馬車の中には箱が20箱ほど積載されており、商品によっては2頭でもきついかもしれないと思われる。今回は香辛料が基本なため、そこまで重くないのだろう。

 海塩が乗っている馬車はやはり箱が少なめだ。塩は結晶化しているために重くなりがちだ。香辛料は基本乾燥させているために軽い。フェスティナ商会の船には、香辛料満載では基本持ってこない。他に武具や鉱石、小麦等をわざと載せる。理由は鉱石などを載せている時より、喫水線が高くなるため、優先的に狙われる可能性があるためだ。たまに、業務上載せざるをえない時があるが、その時は船底のバラストを増やしてカモフラージュするようだ。

 最後尾にジルフ爺さんの馬車が来る。中身は香辛料以外に食料やテント、手紙や素材、砥石や薪などだ。満載しない理由は、途中で襲ってきた魔獣を狩り持ち帰るためだ。

 魔獣の材料は基本冒険者と商会と半々になる。これはフェスティナ商会の取り決めであり、他の商会は多種多様だ。


「ん”ーー!!」


 ジルフ爺さんの馬車から変な声が聞こえる。


「ちょっと、止まって!爺さんの馬車から変な声が聞こえる!」


 嫌な予感がする。フェスティナ商会は人身売買や奴隷は扱っていない。そもそもこの国に奴隷はいない。そのような状況にあったとしても少なくとも給金は受け取っているはずだ。


「変なものは載せてないはずなんじゃがなぁ?」


 爺さんが馬車の裏を開く。何が出てきても良いように念の為に体を緊張させ、気分を落ち着かせながら覗いてみる。


「お前、また何かやらかしたのか……?」


 猿ぐつわされ、腕や足をロープで縛られたエステファンが荷台に転がっていた。服はほとんど汚れていない。と言うことは、朝この中に入れられたのだろう。少し前にお前のすごいところを思い出していたのに、一気に評価を落とさないでくれるか?


「ほら、変なものはなにもないじゃろ?」


 ジルフ爺さんは、すまし顔で応える。


「ええ、確かに変なものは無かったですね、変態は乗っていましたけど」


 呆れながら質問する。毎度事件を起こすんじゃない。


「シルヴィア様から、「このゴミを途中で捨ててくれ」と依頼されたんじゃよ」


 と、爺さんが応える。爺さんの言葉なのに、シルヴィアさんの声を直接聞いているようにその情景が思い出される。


「それじゃ、問題ないか。行きましょうか」


 と爺さんに答えた瞬間、


「ん”~~!ん”~~~~~~!」


 横たわったケダモノがうるさく主張する。


「何だよ、荷物が文句言うんじゃない」


 しかもゴミだからな。だが、あまりにも涙目だったので猿ぐつわを取ってあげる。


「やぁ、助かったよフミト。本当に捨てられてしまうのかと思ったよ」


 いい笑顔で応える。ホントにそうしても良かったんだよ?


「また、何したんだよ」


 過去の例を思い出しながら、どの程度であればこのような状況になるか想像してみる。


「いつもと同じで、彼女の素晴らしいところを褒め称えただけだよ」


 何故こうなったのか?と言う顔をしないでおくれ。


「あ~……、なるほど、理解した」


 真っ赤に赤面したシルヴィアさんを思い出した。ほんと、特殊な夫婦だな。合わせてロープを解く。


「ところでフミト、なにか忘れ物とかないかい?すぐ準備できるものなら手配させるよ?」


 縄文土器のような模様のついた腕をさすりながら質問する。


「そうだな、盾はないか?高くなくていい。予備程度で。サイズは一般的なヒータシールドが良いのかな?料金は後で支払うよ。デザインは毒々しいものじゃなければ何でもいい。あと、マントを。サイズは小さめ2枚」


「わかった。何かあるだろう。すぐ手配するよ。少し待ってて」


 商会に戻っていくエステファン。両手が赤くなってるのが見える。オシャレに見えるが決してオシャレじゃない。


 5分ほど待つと、いつもの受付嬢が盾とマントを持ってきた。


「お待たせしました。これがご注文の盾とマントです」


 はい、と手渡してくる。

 いつも苦笑いの顔しか見ていないイメージなので、ちょっとかわいい笑顔と仕草をされると撃墜されそうになる。


「エステファンは?やっぱりシルヴィアさんに捕まった?」


 なんとか耐え、受け取りながら疑問に思ったことを質問する。


「はい、そのとおりでございます。ですので、私がその代理でお伺いしました」


 いつもの苦笑いになってしまった。少し残念。


「わざわざありがとう。それじゃ行って来ます」


 馬車に向かいながら軽く振り返り、手を振りつつ彼女に挨拶をする。


「行ってらっしゃいませ、ご無事でお戻り下さいませ」


 と丁寧なおじぎをする。よく出来たお嬢さんだ。


 ジルフ爺さんの荷馬車に盾とマントを積み、


「出発!」


 の号令をかける。新人教育か、どこまで出来るか試さないとな。








文章の辻褄があわず、四苦八苦しています。昔の文豪は紙媒体でレベルは違いますが同じ作業をしていたと思うと、頭が下がります。


10/25 句読点の修正

10/30 誤字修正

2016/01/04 三点リーダ修正

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