表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
79/83

レジスタンス

レジスタンス


「えーっとー……」

 突然言われた一言、桜の事が好きなのかと。微塵も遠回りするような部分を挟まず、本当にまっすぐ聞いてきた。ティアの性格も真っ直ぐな方なので、もしナイアが口を開いたならばもう少し違った言葉だったかもしれない。腕組などをしていないところがまだ心理的に助かっている部分でもある。怒っているわけではなく、素直に聞きたいだけなのだろう。

「どうしてそういうことが聞きたいんだ?」

 質問に質問を返す。あまりやってはいけないことだと思っているが、思わず口から出てしまった。しかし、二人共その質問に答えず、じっとこちらを見つめているだけだった。

 改めて桜のことを考える。好きか嫌いかで言ったらもちろん好きだ。馬が合うし、ノリも合う。前世での倫理観も持ち合わせている俺でも、成熟した女性として目に映ることもある。だが、恋愛対象としてはどうなのかと言われると正直困る。そんな目で見ていたのか、そうではなかったのかいまいち自分に自信が持てない。多くの人に告白しまくっていた過去を持っているが、あれは若気の至というか、前世で大失敗した事を引きずって闇雲になっていたというのか、記憶や知識がいまいち体に定着しなかった為と言おうか。全戦全敗である俺にとっては部分消去したい過去なのだが、それを含めて今の俺が造られているので諦めるしか無い。故郷に戻れば母親世代から自分より年下世代にまで茶々を入れられる事も多く、前世でそういうことはなかったが、中学生の頃に魔王だの勇者だのの生まれ変わりにの自分とか演じていて、大人になった時の同窓会に行った場合、この様な気分になるのだろうか。

 しかし、生前の中高生時代を思い出すと、その馬が合う、ノリが合うというだけでその人を好きになっていたなと。そう考えれば、彼女のことを好きになってもおかしくはないと言える。今はダリアンさんからの義務感みたいなもので動いているのだが、ひょっとしたら心の底では引かれているのかもしれない。こちらの年齢で言えば11歳差、前世の戸籍で言えば20歳差近くになる。年齢差だけで考えれば無いかもしれない。だが、それを言えばティアとなんて70歳、ナイアとは約60歳の差となる。成長速度や肉体年齢のピークの差が大きいとはいえ、数字だけで言えば子どもとおばあちゃんの差がある。こちらの世界で言えば、適正年齢というものは一応あるが、馬鹿馬鹿しい事と一笑されてしまう出来事。そう考えれば、生前の倫理観から逸脱してしまっても問題ないのかもしれない。受け入れたと仮定すれば、俺は桜のことが好きになっていると言えるのかもしれない。

 人間成長すれば色々なものがつきまとう事になる。家族、友人、仕事等大きいものから、好きな場所、お気に入りの店、好きな食べ物等。もし桜を好きになり、その先のステップに進むとすれば、これらのものをどちらかが全て降ろしていかなくてはならなくなる。それらを考えると桜に対してその感情をあらわにしていいのかわからなくなる。少し考えてみてひかれているのは間違い無いと考えることが出来たが、それを言葉にしていいものか結局は迷ってしまった。

 そうこうして居ると、思ったより時間がかかってしまっていたみたく、二人の表情が不安の色が濃くなってきたいた。

「フミト、明日も早いよ」

 突然声をかけられ、俺を含める3人はビクッと体を跳ねさせる。声の主を確認すると宿の入り口から顔だけのぞかせているメルトヒルデが見えた。

「ああ、もう寝る。ありがとう」

 正直この状況に耐えられなかった俺は、助け舟が入ったと思い、割り当てられた男部屋に逃げこむことにした。

 逃げ込んだ先もいびきだらけで平和とは言えなかったが、針のむしろに近い状態から脱せたことには感謝していた。


 翌日、二人の視線が痛いまま出発する。最後尾に普段から居るという事が今回は非常に助かっている部分である。だが、食事の時にはその視線を受け続けなければならないのが心理的にきつい所だ。王都ドラケンスバーグまで行くには順調に行って7日間。この状態が続くとなると俺の心が折れてしまいそうな気持ちになる。

 そんな事を考えずに桜は普段通りに接してくるので、嬉しいやら苦しいやら。そして、2日目の夜、夜間歩哨のタイミングで俺がテントに入る前に少し時間が欲しいと言ってきた。

「桜は初めの時間だろ?俺は男3人で夜明け前の一つ手前だから寝ておきたいんだがな」

「すぐ終わるから」

「わかったよ」

 そう言うと連れて行かれた場所は普通に焚き火をしている場所だった。まだ砂漠地帯から抜けることができてないため、夜は多少冷え込むので、その場に行くのは仕方がないかと思う。他の人に聞かれていい話しなのかと思ったが、気を利かせてなのか、一緒に居るはずのメルトヒルデが席を外していた。

「フミト、いまさらだけど、ありがとうね」

「ん?なにが?」

「私に着いて来てくれてありがとうって」

「なんかしおらしい桜も違和感あるな」

「うるさいっ!」

 持っている火の付いた薪で横腹を突いてくる。

「あぶねーよ!!」

「こんなもので燃えるような鎧じゃないでしょ」

「そうだけどよ……」

「もう、いいじゃない。感謝の気持は本当なんだから」

「ならその危ないツッコミはやめてくれ」

「わかったわよ」

 本当に残念そうに薪を火に投げ入れる。

「ミカ王子は本当にいい人よ。私に剣を教えてくれたし、王宮での面倒を見てくれたわ。ダリアンの元に来てから年齢の近い知り合いも彼しか居なかったし。王様は普段から人々のことをいつも考えていたわ。昔の戦争のおかげで貴族たちより力が弱くなっちゃったみたいで、どうすればいいのかいつも悩んでいたわ」

「桜はその二人を助けたいんだな」

「うん。あの人達は本当に優しい人達よ。この世界に来てからダリアンとダリアンの家の人達、それとミカ王子と王様が居なかったら多分この世界の事嫌いになってたかもしれないからね」

「ほんとに感謝してるんだからね」

 そう言いながら立ち上がった桜は俺の後ろから抱きしめてきた。お互いに鎧を着ているためにその感触は全く届くことはなかったが、何故か俺は背中に神経を集中させてしまっていた。



 〜〜〜〜〜



「なによ!あんなにくっついちゃって!!」

「私ももう見てられません」

 声の主はティアとナイアだ。本来なら夜間歩哨を交代するために寝ていなければならない時間だ。そんな二人はテントの影から焚き火の近くに居る二人をずっと眺めていた。

 だが、歩き出そうとした二人を後ろから止めるものが居た。二人のマントを首元からつかみ、動かなくさせる。冒険者として名を馳せたわけではないが、少なくとも人の動いた仕草や音を把握する能力は高くなっているはずだ。その二人が意図も簡単にあっさりとマントとはいえ首元を掴まれる。二人とも小さな悲鳴を上げ、その襲撃者に対して攻撃を仕掛けようとした所で声がかかった。

「大丈夫。すぐ戻ってくる」

 その声はゆったりとしたもので、さらには二人が知っている声だった。

「メルトヒルデさん?!」

「驚かさないでください……」

「ごめん。でも、大丈夫」

 そう言って二人を開放する。二人もそこからなにかする気力が沸くわけでもなく、その場で脱力したまま立っていた。

「それで大丈夫ってどういうこと?」

 そう言うとメルトヒルデは静かにするようにと言うジェスチャーと、メルトヒルデと桜が寝る予定のテントの中を指さし、歩いて行ってしまった。

「とりあえず行ってみようか」



 〜〜〜〜〜



 4日間かけて砂漠地帯を抜ける。桜とメルトヒルデによるとあと3日間で王都に辿り着ける。その間は全て緑地帯だという事だ。森と草原だけが占め、そして王都に近くなれば魔獣と遭遇することがほとんどなくなるそうだ。緑地帯に入るまでに遭遇した魔獣なのだが、グングルーと呼ばれる飛び跳ねる事が出来る二足歩行系の魔獣5匹と1匹のサンドバイパーしか遭遇しなかった。グングルーは形状が爬虫類になったカンガルーといえばわかりやすいだろうか。2メートルはある巨体なのに、俺の目線以上飛び跳ねることの出来る魔獣。だが、攻撃手段が腕力で殴りつけるか、自重で押しつぶすかの2通りしか無いので、意外と楽な相手ではあった。だが、少々赤面してしまう出来事が一つ。冒険者歴15年の俺が、その赤面してしまった出来事とは、グングルーのフットワークを見誤り、盛大に空振りしてしまったのだ。初体験の魔獣だとはいえ、さすがにこれに関しては恥ずかしく、王都に着くまで色々といじられることになった。主に桜なのだが。

 戦闘後に桜とメルトヒルデに確認してみると、この砂漠の頂点は今回遭遇できた3種が三つ巴状態で君臨しているとのことだ。サンドバイパー>サンドリザード>グングルー>サンドバイパー、この様な形になっているそうだ。サンドリザードがグングルーの事をどうやって倒すのかと思ったら、皮が硬くて噛み切れないと言うのが主な理由だそうだ。前世での自然界でも、防御に特化して攻撃されないためにと言うのがあったのを思い出すと、こちらの世界でも同じような自然の理論があるというのがなんとなく嬉しかった。そして、グングルーがサンドリザードを倒せないかというと倒せる場合もあるが、大抵は押しつぶす以外の攻撃が効かないのと、押しつぶす回数が多くなるため、その間に疲労し、そして疲労した足に噛み付かれ、結局その傷が元で逆に倒されてしまう事があるので、あまり攻撃を仕掛けないのだそうだ。


 王都ドラケンスバーグは、王都と呼ばれるだけあって、敷地は凄く広く造られていた。魔獣の襲撃が殆ど無いと言う事で、城壁は王城の周りにしかなく、その城下町には木で造られた塀や柵さえ見当たらなかった。オアシスの街アイルとは違い、木造の建物や、石造りの建物が多く、大通り以外の通路も整地され、小さな国とはいえ、一国の王都だという造りだった。

 ここで潜伏し、王城に乗り込み、王様と王子様をたすけなければならないのだが、まずはこの馬車を預かってもらえることろを探さなければならない。アイルの一件を考えると冒険者ギルドは信用することが出来ないと思え、他を当てにせざるを得なかった。桜の冒険者仲間は、結局ダリアンお抱えの冒険者だったため、他に知己が居ない。そのダリアン宅には多分摂政派の手が入っているだろう事を考えると、顔を出すことさえ難しく思う。

 どうすればいいのか悩んでいた所、リーアから声がかかった。

「フミトさん、少し時間頂いてもいいでしょうか?」

「何するんだい?」

「人を探したいんです」

「この街に知り合い居るの?」

「いえ、知り合いではないのですが、ここに来た時に絶対に会わなくてはならない人が居るんです。大まかな場所はわかっているのですが、それ以上はわからなくて……」

「わかった。だけど、単独行動はダメだ。だから、俺達も着いて行く」

「そんな、申し訳ないです」

「リーア。一応ここは敵国領内だよ。用心するに越したことはない」

「はい。わかりました。それではお願いします」

 リーアが桜に方向を聞き、その地域に向かっていく。一瞬桜がリーアから聞いた地区の言葉を聞いた瞬間嫌な顔をしたのを見逃さなかった。

 そしてその場にたどり着いた時、桜の嫌な顔になった理由がわかった。

「スラム街ってやつか……」

「スラム街?」

 その場にたどり着いた時、思わず漏れでた言葉をリーアが拾い、好奇心のまま俺に聞いてくる。

「前世での言葉なんだけど、あまり裕福でない人達が集まった場所って事さ」

「そうですか……」

 大きな都市には光と影がある事が多いと聞く。蒼玉の国の首都、アルプフーベルにはあまり目に見える闇は無かったため、この様な存在を忘れていた。このドラケンスバーグにはその光と闇がはっきりと区別されていた。光はもちろん通商ルートのある東側。区画が整理され、通路も整地され、見た目も良くこの世界にしては清潔感があった。そして闇とはこの区画、スラム街のことだ。土地柄、仕方なく土壁にしなければならないアイルとは違い、ここは木の存在が多く見受けられる場所なのに、土壁の家がちらほら見かけることがあった。そして、木の家も、粗雑な造りが多く、石造りの家があったとしても既に風化が始まっており、それがより闇の部分だと強調しているようにも思えた。


 一応この様な場所でも商店と呼べるものがあり、そこでリーアは購入しつつ尋ね人のことを聞きまわる。

 幾つも使うことが無いようなガラクタが増え、意味が無いようにも思えた行動だったが、徐々にその行動範囲が狭まっていき、目的の人を探し出すことに成功したようだ。

「あなた達が、チェーリアとレッテリオでいいのかな?」

 リーアがまだ成人する前の女の子と、その女の子の後ろから怯えつつこちらを伺っている男の子のふたり組に声をかけていた。

「お姉ちゃんのことで話があるんだ」

「ラリサお姉ちゃんの事?! ねえ!! お姉ちゃんは今何処なの!?」

 リーアは何も言わずにゆっくりと手持ちの袋から2つのものを取り出した。

「ごめんね、これしか持ってこれなかった」

 取り出したものは一房の髪の毛と、ペンダントだった。

「まさか……」

 そのふたつを受け取ったチェーリアと呼ばれた娘は恐る恐るリーアの顔を見るが、否定することはなかった。

「お姉ちゃん……」

 チェーリアのその言葉が弟のレッテリオの何とか耐えて、せき止めていたものが決壊し、あふれはじめた。

 大泣きしている弟をなだめつつ、チェーリアは思ったより冷静に受け止めていた。

「無理矢理ですけど、兵役に付いたと言う事は知っていました。それに戦争に行かなければならないというのも街の噂で耳にしていました。なので、こういう事はあるのだろうと……」

 あたり前のことだが、彼女の肩はあからさまに落ちている。実の姉が亡くなった事を知らされたのだ。この様な対応が出来ていることを褒めるべきだろう。だが、リーアの次の言葉で彼女の理性が決壊してしまった。

「剣を止めることが出来なかったの……」

「貴方が!! 貴方がお姉ちゃんを殺したのね!!」

 泣き叫び、弟のことを放り、リーアへと駆けつけ、そして力いっぱい手を握り体に叩きつける。

 リーアはチェーリアが気が済むまでずっと叩かれ続けた。次第に叩く力が弱くなり、最後には膝から崩れ、座り込んだまま泣くことになってしまった。

 こんな状態なのに、周りから人が飛び出てくることがないのはこの地区特有な空気なのだろうか、それとも完全装備の俺達が彼女たちの所を見守っているからだろうか。視線は先程から感じるのだが、一向に人が出てくる気配はなかった。

 チェーリアは完全に泣き止み、そして顔を拭いた後ゆっくりと立ち上がった。

「すいませんでした。戦争として戦った相手、しかも本当ならそんな義理も無い相手に対して、お姉ちゃんの形見を持ってきてくれたんですから。本当ならすぐに感謝の言葉を言わなくてはいけなかったのに」

 リーアはその言葉に対して、何も言うことが出来ず、ただ首を振るだけだった。

 しかし、自分の姉を手がけた相手を目の前にして、うろたえはしたが、立ち直ってからこの落ち着いた対応。これにはさすがに驚いた。まだ成人前なはずなのに、この落ち着き様。姉の居ない時間が長かったのか、それとも短い期間でそうならざるを得なかったのか……。

 完全に立ち直ってからの振る舞いは更に驚いた。リーアだけでなく、遠くから眺めていた俺達に気づき、俺達を含めて家に招いたのだ。

 全員家に入るには狭かったので、アスドバルとアネトンは馬車の監視についてもらうことに。それ以外は家の中に入り、椅子に座れるほど個数がなかったため、そのまま立っていることになった。

 チェーリアは俺達に気を使って飲み物を準備するという事で炊事場の方に向かう。ティアはこれだけの人数を一人でやるのは大変だと思ったのか、彼女に着いて行った。

 カウンター式の炊事場だったため、中の様子はよく見え、二人で分担しながらお湯を沸かし、お茶の準備をしていく。家に常備しているカップだけでは足りないので、レンティが馬車からカップを取りに行った。レッテリオは寝室だろうか、その影からこちらの様子をずっと覗き見ている。警戒しなくてもいいと思いたいところだが、上の姉を殺めた人の仲間なのだ。内気な子じゃなくても致し方ないだろう。

 しばらく待っていると、人数分のお茶が用意され、各々に渡していく。渡りきった後で彼女から声がかかる。

「それで、本題は何でしょうか。戦っている相手のあなた達がわざわざ姉の死を知らせに来るだけとは思えません」

 皆で顔を見合わせるが、正直リーアに着いて来ただけで何も考えていなかった。だが、話すことにより何かアクションが出るのではないかと思い、少し話をして見ることに。

「君は戦争のことをどう思っているかい?」

「くだらないことです。食べ物も無く、無駄に人を消費していく。今回は姉が亡くなりましたが、将来的には弟も亡くなるかもしれませんし」

「それなら、魔獣と戦わなくてはならならい職業も同じ事じゃないかな?」

「腐ってる商会は多いです。ですが、少なくとも食料を行き来させているという事で略奪しに行く事に比べれば遥かにいいと思います」

「わかった。ありがとう。それで、別の質問だけど、この国の今はどう思う?」

「自分のことしか考えてない貴族ばかりで嫌になるわ」

「この国から出ていきたい?」

「さあ、そこまで考えてないわ。出る力もないし、そのお金もないもの」

「それじゃ、この国を変えたいと思ってる?」

「私でどうにかなるのならね。そんな事が出来ると思ってるほど傲慢じゃないわ」

「この国の王様と王子様に関してはどう思う?」

「あの方たちは、私がこういうのも傲慢かもしれないけど、良い人です。だけど、腐ってる貴族たちを御することが出来ない愚か者です。この頃表に出てきてる話は聞きませんが」

「なるほど。それで聞きたいんだけど、王様と王子様を助け出すにはどうすればいいかな?」

「……呆れますね……初対面の相手に対していきなりそんな事言うなんて。私が摂政派と繋がっていないとでも?」

「感でしかないけど、君はそんな事ないと思うよ。腐っている貴族と言った君の顔、一瞬だけど、すごい顔してたからね」

「そんなに顔に出てましたか……」

「しっかりとね」

「それだけで、よく信用できましたね」

「それも感だけど、二つほど。一つはリーアから聞いた君のお姉さんの事。戦った相手だとしても好感が持てたよ。リーアも彼女の事を殺めたくなかったと。それと、君が今お茶を準備してくれた時、ティアの事何度か見てたね。その時の目が何かを懐かしんでいるというか、願望とでも言うのかな、そんな物が見えたんだよ」

「それだけで決めたなんて、呆れた人ですね」

「ダメだったらしょうがないさ」

「本当に呆れた人ですね……。わかりました。レッテリオ、お姉ちゃんこれから出かけてくるわ。お留守番よろしくね」

「何処に行くんだ?」

「お姉ちゃんの敵ですけど、信用できる人だと判断しました。特別な所に案内します」


 チェーリアの先導でその場所に向かうことになった。彼女を先頭で歩いてもらい、俺達はいつもどおりの陣形で歩き始める。一応ここは敵国と言う事を想定してのことだ。実際数で来られた場合はどうすることも出来ないかもしれないが、同数前後なら何とかなるかもしれないからだ。

 歩き始めた辺りでレンティが小さな声で話しかけてくる。

「フミトさん、これを狙っていたのですか?」

「いやー、全く。なんとなくそれっぽいこと話してたらこうなっちゃった。どうしよう?」

 そんな言葉を聞いたレンティは、開いた口がふさがらないとはこういう事かと言わんばかりに口を開いたまま俺を見続けていた。


 チェーリアに案内されてたどり着いた場所には大きな倉庫が併設されている建物だった。馬車は倉庫に入れて欲しいとのことだが、万が一もあるのでアスドバルとアネトンを残しておくことに。役に立つかは正直わからないが……。

 建物内部に入り、客室と言うよりは相談室や会議室といったほうがいいだろうか。大きめのテーブルに多数の椅子が置かれている部屋に案内され、片側に全員座ることに。出入口側ではなく、奥に通されたのは一般的な対応としてか、それとも逃さないためか。まあ、面接者がどの様な行動を取ろうとも、対応は出来るだろう。最悪壁を壊して逃げればいいのだから。

 しばらくすると、チェーリアが数人の男性を引き連れて入ってきた。だが、その男たちに俺は驚いたことがあった。全員武器を所持していなかったのだ。

 その男性の中から一人、見栄えのいいリーダー各の男が話し始めた。

「お前さんたちか、勇者様を連れて帰ったと言う冒険者は」

 突然勇者と言われて桜が慌て始めるが、俺はもうとっくにバレていると思っていたので、さらっと受け流し、そのまま自己紹介することにした。

「蒼玉の国、レーニアの冒険者フミトだ」

「碧玉の国開放義団、頭をやらせてもらってるオーシムだ。とりあえず座ってくれ」

 机越しにオーシムと呼ばれた集団の頭と握手し、椅子に座ることに。集団の名前を聞いた瞬間、少し動揺したが、なんとかごまかし、違和感なく座ることが出来た。全員座った辺りで飲み物が用意され、全て配り終わった辺りでオーシムから口を開いた。

「ところでフミトさん、あんたはここに勇者様を連れて何しに来たんだ?」

「勇者が誰だってわかっているんだな」

「当たり前だろう、俺達はダリアンさんに希望を持っていたんだ。そのダリアンさんが数年前から勇者様を育てていると言う話は聞いていたし、実際に見ることも出来たからな」

「そうか……。それならまず一つ、詫びを入れさせてもらいたい。ダリアン、彼を助けることが出来なかった。すまない」

「なに……あの人も亡くなられたのか……」

「俺達も桜も尽力したが、助けることが出来なかった。桜のパーティーメンバーは遺体さえまだ見つかっていない」

「そうなのか……。こちらこそ詫びをしよう。勇者様、辛いことを思い出させてしまって申し訳なかった」

「大丈夫。まだやるべきことがあるから、その程度で折れることはないわ」

「そう言ってくれるか、ありがとう。それと、リーアと言ったか、君にも礼を言わせてもらおう。俺の大切な人の形見をありがとう」

 その言葉を聞くとリーアは静かに泣き出してしまう。殺めたことは間違ったことだったかもしれないが、形見を持ってきたのは間違ったことではなかったと思えたからだろう。


「父達の世代から聞いた話なのだが、ダリアンさんは平民出身で貴族の称号を得たとても珍しいお方だ。騎士はこの国で4人しか居ない特別な役職。主に国の軍事方面を司ってる人達なんだ。3人が各々の街の軍管理を行い、魔獣の討伐や商人からの護衛依頼を行なっていたんだ。4人目はその統括役として全体を指揮する役目を追っている。そして、ダリアンさんは王都ドラケンスバーグの管理する人だった。そして、その騎士の称号を同時期に得た人、それがベール=アンティカイネンだった。二人は騎士の称号を競い合い、互いに励ましあった友人だったそうだ。もうわかっているだろうが、ベールは貴族出身だ。元々、将来は家の伯爵号を継ぐ予定になっている人だった。そんな二人がよく友人という間柄になれたとかなり話題になっていたそうだ。国境の街ラス・ダシャンのベール、王都のダリアンさん、お互いに刺激しつつ成長していった。ダリアンさんは完璧にその役割を実行し、人々からも喜ばれていたそうだ。国民からはダリアンさんが次の統括役になるものだとばかり思っていた。だが、実際になったのはベールだったんだ」

 少し長い話をしていたため、一呼吸入れるのと、喉を潤すためにオーシムは飲み物を飲む。飲み干して少し間を開けてから再度口を開き始めた。

「ベールは一部から素行が良くないと噂されていた人物だった。だが、彼は貴族会議を上手く利用し、平民が頂点に立つことを良しとしない方向に動かし始めたんだ。その結果、俺達の希望であるダリアンさんではなく、ベールが統括役になり、さらにそのタイミングで伯爵号を受け継いだんだ。そして利用した貴族会議の中で登り、最終的には今の地位、摂政までなった。本来なら軍事と政治は両立できないはずだったが、ベールはその通例を無視し、両方を兼任することにしたんだ。このベール摂政就任から貴族との格差はどんどん広がっていき、一部の人はその日の食べるものさえ苦しくなる様になっていった」

 オーシムの話を聞いた後、桜の様子を見てみると、そのことを知らなかったのか、知らされてなかったのか、青い顔して話を聞いていた。ダリアンの昔のことで知りたかった事でもあっただろうが、それ以上にこの国の実態を知らされたという事が心に突き刺さったようだ。

「東側に住んでいる人々はまだいいが、俺達のような西側地区に住んでいる者達はより酷い扱いを受けた」

「例えばどんなことだ?」

「畑を貸し与えられ、農業に従事させられることになった」

「それだけ聞けば良い事に聞こえるのだが、裏はあったんだな」

「そうだ。俺達に貸し与えられた土地というのが、魔獣がでないことを良い事に遠くに造られた畑だったんだ」

「そっちに移り住めばよかったんじゃないか?」

「それがそうも行かなくてな。この西区に住まない限り、畑は貸し与えないとなってな」

「他の土地に移る……というのにも制約が出来たのか?」

「よく気づいたな。管理している貴族間で移り住むためには税をかけやがったんだよ。しかもかなり高額のな」

「そうか。しかし、よくそんな事がまかり通ってるな」

「この国は基本、人頭税だ。だから、本来そこまで高い税ではない。だが、その次に土地を所有する貴族が勝手に決められる法によって税を作ってるんだ」

「なるほどな。それが今より苦しい状況になっていると。そんなに支払えないものなのか?」

「西区の貴族に支払う税は収穫物で支払えって事になってるんだよ」

「なるほどな。不作の時、支払うことが出来なかったら罰があると」

「機嫌が良ければな」

「まさか……」

「多分、想像した幾つもの事が全て当てはまると思っていい。この子、チェーリアの両親もそれによってな。ラリサが兵役に着くことになったのはまだ良い方だったよ。ただ、ラリサが兵役に着く前後に多くの人が兵役に着くことになったのは、今回の戦争が関係してると思えるだろうな」

「だから3500人にもなっていたのか」

「そんなに居たのか。だが、他の地区は俺達西区ほど酷い税じゃ無かったのと、上手く先導されてたそうで、自分たちで戦争に参加したそうだ。だからそれに関しては自業自得だ」

「厳しいな。だが、その言い方だと名前に傷がつかないのか?」

「傷とは?」

「碧玉の国を開放したいのだろう?」

「なるほど。それもそうだな。その地区にも同士がいるのだが、多くは見ようともしないものばかりだからな、失念していたよ。そう言えば、話がずれていたな。勇者を連れて何しに来たんだ?」

「王様と王子様を攫いに来た」

「は?」

「チェーリアから聞いてないとは言わせないぞ」

「ごまかせないか。確かに聞いていた。だが、直接言葉にしてもらうまで信用できなかったのでな」

「そうか。そこでお願いがある。俺達に協力してくれないか」

「内容によっては、摂政派に売ることも視野に入れるぞ」

「そんな事はしないさ。この国を開放するんだろ?」

「わかったよ。俺達に何をさせようっていうんだ?」

「とりあえずは飯と寝床」

「は……?」

 今日二度目の開いた口がふさがらないと言う状況を見てしまった。

 ジョークを言ってるつもりは無いんだけどね……。





表題バレバレですみません。他の良い題名が思い浮かばなかったもので……。

最後もカギ括弧の話し合いだけになってしまったのは、今回もギリギリで仕上げたからです。

本当はお互いの表情描写などいれていきたかったのですが、更新締め切り(月曜日になる前という勝手に決めた時間ですが)で書き込むことができませんでした。

もうひとつの方も少しずつですが進めています。早めにお出し出来るよう尽力いたしますので、お待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ