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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
72/83

潜入

潜入


「あんのヤロウ。やっぱり殴ってくるべきだった」

 俺達のパーティーは一つの馬車に乗り、オルティガーラに潜入する為、戦争直後なのに休むこと無く向かっていた。

 馬車の荷台で揺られ、楽をしていることとはいえ、今日何をしてきたかを考えればやっぱり殴ってもいいと思う。

 日が登ってから碧玉の国との本格的な大規模戦闘へと移行した今回の戦争。約4500人対約3500人。敵軍は約3000と聞いていたが、実際はこのくらいになっていたそうだ。兵士の質を考えれば善戦したほうかもしれない。

 更には戦術で勝つ為の策を使ったが、結局俺とレンティの二人が居なくてはどうにもならなかった事も聞いた。

 レンティがアルドに対して言い寄っていたのは、レンティが魔力枯渇に寄る意識不明状態になっていた時、かなり後方の兵站部隊に移動させられていたからだそうだ。

 兵站部隊に連れてこられてからすぐ目を覚ます。魔力も体力も少ししか回復していない状態だが、戦場に居ると言う危機感からだろうか。それとも、魔法の発動結果がわからず、戦況を変えられたか不安だったからか。

 どちらにしても目を覚まし、すぐに状況を確認した所、知らない場所に居た。と言う事だ。しかも、目を覚ましてからレンティの護衛部隊と称する4人の兵士からしつこく本陣に行く事を遮られ、イラツキのピークに達した時に本陣のある方向から歓声が上がった。すぐ行動に移したかったのだが結局その4人に足止めされる。今何を言ってもダメな状況だと気づいたので、魔力回復を重視していた所、本陣からの伝令が兵站部隊の部隊長へと届いた。そこで兵站部隊達からも歓声が上がり、何をそんなに喜んでいたのかと聞いてみると、戦争に勝ったと言う事がわかった。

 ある程度魔力の回復したレンティは、止められるとわかっていたので、先にスパイダーアンカーで4人を拘束し、その隙に本陣へと走って説明させようとした所、アルドに抱きつかれたのが事の顛末らしい。

 万が一攻め込まれた時にレンティだけでも生きてもらえると言うのであれば、行動としては正しいだろう。

 だが、俺が居ればその様なことはさせなかったかもしれない。死んでも守るというようなことではなく、彼女は除け者にされる、当事者のはずが知らない所で事が終わっている等、この様なことが意外と嫌いだという事がわかっていたからだ。たぶん、リーアに着いて来たのもそんな性格からだろう。どんなことが彼女たちにあるのか知らないけど。


「所で、もう一度聞くけど、この二人は何?」

「そんなつれないこと言わないでくださいっすよ、フミトの兄さん」

「そうっすよ。仲間じゃないっすか。フミトの兄さん」

 俺はお前たちの兄さんになったつもりはない!! 第一こんなむさい男二人の兄になるのは嫌だ。

 妙に装備の良い男二人に対して心の中で悪態をつく。それに、なんとなくナイアに対しては俺達以上に馴れ馴れしいのが苛つく。

「ええと……、敵本陣に攻め込んでいる時に少しだけ面倒見た冒険者です」

 ナイアは困ったような顔をしながら俺に答える。

「うん。それは聞いた。それで、なんでこの二人が今一緒に着てるのかなって事」

「なんででしょう……?」

 素でわかっていない顔をするナイア。リーアを見てもよくわからないと言う顔をしている。ティアは何か知っているのか妙な顔をしている。

「そんな、ナイアの姉さん。俺達に対して面倒見るって言ったじゃないっすか」

「そうっすよ。だから俺達がんばってがんばって敵兵に向かって行ったんっすから」

 こいつらが間に入ると話がよくわからなくなる。だが、面倒見るといった一言に少し引っかかり、男たちに質問する事にした。

「えーと、アスドバルだっけ?ナイアになんて言われたんだ?」

 長身細身でやや残念イケメン風の男に聞いてみる。

「あがいて生きてみろって」

「それだけ?」

「ダメだったら殺してあげるって言われました!」

 もう一人の体ががっしりしてるが少し物事を考えなさそうなアネトンと言う男から追加の答えが来る。

「ナイア、殺してあげるって言ったの?」

「えっと……はい……」

 バカそうな二人が理解できて、ナイアが理解できない。そうそうあり得ることではないのだが、こればかりは仕方がないかもしれない。

「ナイア、その言葉、多分本当に邪魔だったからか、追い払いたかったからそう言ったんだよね?」

「はい。そのつもりでした」

「そんな!酷いっす!」

「酷いです姉さん!!」

「あーもう!お前ら黙れ」

 二人を目で威嚇し、黙らせる。

「ナイア、これは文化の違いと言うか、何というか……。最近レーニアに来たらしい劇団の演劇の演目の最後で似たようなものがあってね。その劇中では、殺してあげるって言葉が、愛の告白になってるんだよ」

「え……?」

 俺からの言葉を聞くとナイアは真っ青になってしまった。青くなるだけではなく、座っているのにふらふらし始め、手を着いて体を支えようとするが力が入らずそのまま倒れてしまった。

「姉さん!!」

 二人はそう言って助けだそうとするが、俺は何も言わずに二人の脳天にゲンコツを食らわせ座らせる。

「黙ってろって言ったろ」

 そう言うと二人はまるで怯えた犬かのように小さくなる。だが、ナイアが心配なのかそれでもそわそわしている。まあ、話に割り込んでこなければ良いかと思ってそのままにしておく。

「ティア、この事知ってただろ?」

「うーん……この二人が生きてるとは思わなかったんだよね……あんなにへっぴり腰だったし……」

「わかった」

 そう言うとナイアに近づいてゆっくりと抱き起こす。完全に脱力してしまっているので思ったより重い。顔を見れば何処にも力が入っていない。口も半開きで目も虚ろだ。それほどにまでショックなことなのだろう。

「ナイア。この言葉に強制力は無いよ。ナイアが彼ら二人に対して責任を取る必要は全くないから」

 そう言うと放心していたナイアの目にうっすら輝きが戻る。

「本当ですか……?」

「ああ。第一言葉ひとつでそんな事になったら詐欺師が世の中に蔓延しちゃうよ」

 凄い説得力の無い言葉。なんでこんな言葉が口から出たのかさっぱりわからない。

 ひょっとして俺も動揺しているのか?

「わかりました。ありがとうございます。そして、ご迷惑をお掛けしました」

 こんな言葉で理解できたとは思わないが、言いたい事の少しは伝わってくれたようだ。気力が戻ってきたのだが、ナイアはまだうまく力が入ない。震えながらではあるがなんとか普段通りの座り方に戻る。しかし、ナイアの精神状況が酷い状態ではあるが、一言付け加え無ければならない。

「彼らには責任を取る必要はない。だけど、パーティーに対しては取ってもらうよ」

 そう言うとナイアは体を強張ってしまった。リーアやレンティも表情が曇る。

「彼らの面倒はナイアが見るんだ。それと、彼らは俺達には絶対服従。それが条件で。いいね?」

「はいっ!!」

 強張っていたからだは柔らかくなり、表情も明るく戻る。リーアやレンティの表情も安堵へと変わる。

 俺の言葉がそんなに不安だったのかと……。第一、あの二人とナイア一人、全然釣り合いが取れないじゃないか。あいつらなら50人居てもナイア一人に劣るだろうよ。

「聞いていたと思いますが、二人には着いて来る許可が出ました。冒険者にもなれてない貴方達は私達に対して服従して頂きます。それが嫌でしたらすぐにでもこの馬車から降りてください」

 姿勢を正したナイアが冷たい口調で二人に伝える。普段の優しいナイアから出る言葉とも思えなかったが、致し方ないのだろう。

「途中で嫌になったら何時でも言ってください。すぐ開放してあげます」

 開放……、ナイアの冷たい口調で言われるとやばい方向での開放しか思い浮かぶことが出来なかった。

「離脱でも、死でもどちらでも選ばせてあげます」

 どうやら含まれていたようだった……。

「それと、今後あなた達は戦わないでください。邪魔です。荷物持ち以外役に立ちません。逆に食料を無駄に消費するだけの存在です。それだけは理解してください。ああ、殺されそうになった時は許可します。好きにしてください。ですが、その武器を私達に向けた時は容赦なく殺します」

 なんか胃が痛くなってきた……。何もここまで言わなくてもと思わなくもない。本気で邪魔と言う気持ちもあるのだろうが、これから行くのは潜入し、開放するためのとても繊細な行動になる。俺が一言喋らないようにと守らせた約束がものの数秒で破られた。これだけでも特に何も考えないで行動する者と言うのが理解できる。阿吽の呼吸で動かなくてはならない可能性を考えると、この二人は足手まとい……、いや、状況によっては敵と同等になる。誰が言ったか忘れたが、有能な敵より無能な味方の方が恐ろしい。これは真実なのだろう。それを体験しないことを祈るばかりだ。

 二人はその条件を了承し、俺達に着いて来ることになった。男のメンバーが増えるというのは個人的に嬉しいはずなんだが、出会いがこの様な形だ。仲良くなるまで時間がかかるかもしれないな……。


 とりあえず、二人を空気のような扱いで行く事にし、揺れる馬車の中で先ほど水の樽から入れていたコップの水を飲む。緊張していたとは思わないのだが、意外とのどが渇いていた。

 ふた口目を飲み込んだ所でふとレンティが悶絶しているのが見えた。本来の意味は痛み苦しんで気絶する、その様な意味の悶絶ではなく、顔が真っ赤になっているので恥ずかしさから頭を抱えつつ唸っているという方が近いだろう。

「レンティ、どうしたんだ?」

 さすがに気になって声をかける。が、目を向けてくれたがそれ以外の反応は無い。リーアを見ても首を振るだけだった。

 ふと本陣に戻った時を思い出す。ある一つの情景が思い浮かんでくる。まさか……!!

「レンティ!!アルドに手出されたのか?!」

 そう言った瞬間俺の頭にコップが当たる。もちろんレンティから。木のコップだが意外と痛い。少し涙目になりながらレンティを見ると一瞬だけ真っ赤な顔が見えたがすぐに伏せてしまった。

 ハグされた時に恥ずかしかったのか……と、言おうと思ったが、そう口に出してしまうと今度は今握っている槍が飛んできそうなのでその言葉は飲み込んでおいた。

 どうしたもんかと悩んでいると、大きく息を吐く音が聞こえた。レンティからだ。赤い顔がほんの少しだけ治まった状態で顔を上げこちらを見てくる。

「色々と誤解させ続けるのも後から苛つく事になりそうなので今ちゃんと話します」

 まだいつもの声には戻っていない。少しうわずったような、緊張とも違う声になっている。先に進めて欲しいと言う意味を込めて軽く頷く。

「フミトさんの気持ちがわかりました」

「はぁ?!」

 二人から冷凍光線の様に思える視線が突き刺さる。

 ちょっと待ってくれ!!俺が何をした?!というか俺はレンティに対して何か告白めいたこと話したことあったっけか??

 突然言われた言葉に対し、全く持ってあずかり知らないことなので、俺の頭の中は混乱していた。

 その視線で冷や汗をかき、背筋が寒くなる。両手を上げ、必死になって首を振り、俺は何もしてないとアピールするが、一向に無くなる気配はない。どうしてこうなった……と泣きそうになった辺りでレンティが言葉を続ける。

「みんなの前だとあんなにも恥ずかしいものなのですね」

 やばいやばいやばいやばい!!二人共落ち着いてくれ!!

 二人がゆっくりと鯉口を切っていく仕草が見えた。うん。日本刀の形は座っていても抜けるんだよね。って現実逃避を始めるが、状況が良くなるわけでもないのですぐに戻ることにする。

 死にたくないのでどうやって二人の攻撃を防ごうかと悩んでいた所でレンティからまた言葉が続けられる。

「大魔法使いや、英雄って言われるのがこんなに恥ずかしいなんて……」

「ほぇ?」

 間の抜けた声が漏れ出る。もちろん俺から。そして氷のような視線が無くなり、5人の視線はレンティに集まる。

 集まった視線の先のレンティだが、未だに頭を抱えて悶絶している。その様子を俺を含む3人は呆れた顔になる。

 その後時間をかけてポツポツと悶絶を合間にはさみながら話した内容を要約すると、怒り心頭で本陣に戻ってきたのだが、その途中で味方の兵士から様々な言葉をかけられたそうだ。

 ありがとう、命の恩人等はかなり多かった様だが、感謝の言葉以外で多かったのが大魔法使い。次点で英雄と言われたそうだ。戦争の敗北と死を意識した時だったので、生き残る事が出来た。しかも味方は無傷で。こんな事をやれるのは英雄しか居ない、大魔法使いだから出来た。こう思われても仕方がないだろう。ちょっと違うが吊り橋効果に近いものがあるのだろうと思われる。

 そのやたらと持ち上げられた事がとても恥ずかしく、逃げ出したい気持ちがようやく沸き上がってきたようだ。本陣に居た時に湧き上がらなかった理由は怒りが優先されていたのだろう。思い出し悶絶して、ようやく俺のケイトウで逃げまくってた気持ちが理解できたという事らしい。一人でも理解者が増えるというのは嬉しいことだ。これから逃げ出す時はレンティを仲間に引きこむことができそうだと考える。

 しかし、真っ赤になって俺の気持ちがわかったなんて言葉は非常に勘違いされやすいよな……。


 外が真っ暗になる前に全馬車が一度集まり、潜入のための打ち合わせをする。全員が集まってもうるさくなるだけなので、パーティーリーダーのみ集まることに。

「ハッカウゼン閣下から潜入メンバーのリーダーを努めさせているレーニアのフミトだ。短い間だがよろしく」

「俺はオルティガーラのデリックだ。侵入経路は任せてくれ。ようフミト。いつ以来だ?」

「どうだろう?2・3年ぶり?」

 腕を組み合い挨拶をする。なんでかこいつとは一度も握手をしたことがない。

「グランサッソのリリアーヌよ。私のお店に来たら良い娘をサービスするわよ。違う趣味の殿方だったらごめんなさい。他を紹介させてもらうわ。フミトはどう?」

「え……ああ、機会があったらな」

「そう?残念。私が直接相手したかったのに……。また振られちゃったわ」

 耳の尖った妖精族の末裔から誘いを受けるが、鉄の意志を持って断る。

 ん?恐怖心からじゃ無いよ?うん。多分。

 リリアーヌの握手は少しねっとりとした握手になる。液体がついてねっとりというわけではなく、妙に手にからまれるというか、吸い付かれるというか。ひょっとしたらこれが彼女のテクニックなのかもしれない。

「リスィのノエルよ。シャウナブル山では助かったわ、フミト。今回もよろしくね」

「久しぶりノエル。よろしく頼む」

 シャウナブル山はリスィと魔獣の森、そして碧玉の国近くにある山の事だ。小型のドラゴンの巣になっていて滅多に降りてくることはない。だが、まだダグラス達と組んでいた時に、頭数が増えすぎて餌が無くなったのか、街道まで飛んでくることがあった。しかも、人間を餌にすることは無かったが、馬を奪われることが多発し、討伐隊が組織された。その時に一緒に組んでいたパーティーだ。

「王都アルプフーベルのフェルナンだ。南方を主として行動している。フミト久しぶり。何か商売始めたそうじゃないか。面白そうだから俺にも分けてくれよ」

「久しぶりフェルナン。まだ軌道に乗ったばかりで、余剰分なんて殆ど無いからな。どうしても欲しかったらフェスティナ商会に毎日顔出すことだな」

「ケチだな。いいじゃないか、あのセイシュって奴一樽くらい」

「あのなぁ……あれ相当作るのに手間かかってるんだぞ?」

 お互い笑顔で握手しあう。だが、二人共思いっきり握り合っているため、おでこに青筋が出てたりする。

「マルビティンのサマンタよ。フミトさんは学院以来かな?」

「そうかもな。久しぶり。あんな小さかった娘がこんなに立派になるなんてな」

「褒めても何も出ないですよ?」

 冒険者として数年経った後、たまたま魔法学院に寄った時に出会ったダークエルフと人間とのハーフであるサマンタ。ゼロのフミトが来てるって噂で学院中駆けまわって俺を見つけに来たかなり好奇心旺盛なお転婆な娘。小動物と絶壁だった状態から、狼と山脈になるまで体型が変わってしまっている。正直最初はわからなかったが、笑顔だけは当時と変わらなかったのですぐに思い出すことが出来た。

「僕はレーニアのエヴァス。陰ながらフミトの実験台になっている者さ」

「え?エヴァスなにやってるの??」

「君の開発した調味料を親父さんの店で常に注文してるだけさ」

「それは実験台とは言わないだろうよ……」

 一通り自己紹介が終わるとすぐフェルナンが話し始めた。

「なんでぇ、全員フミトの知り合いじゃないか。ならこの仕事も安心だな」

「そうみたいだな。俺も気が楽になったよ。しかし、ハッカウゼン閣下って気持ちの悪い言い方すんなよフミト。噴出すところだったぞ」

 続けてデリックから。

「私も笑いそうになったわ。デリック、貴方が居てくれたおかげで一呼吸整えることが出来たわ。ありがとう。エヴァスとはお店以来ね」

 突然振られたエヴァスはかなり驚いた様だが、すぐに取り繕って会話に加わる。

「そうですね。貴方のお店は最高の女性ばかりですから」

「そう?ありがとう。でも、少し手加減なさって下さらないかしら?来てくれるのは嬉しいけれど、身が持たないって言われてるのよ」

「まじか!こんな優男なのに!!」

「あ、私もその噂聞いたことあるわ。稼いだお金は全てグランサッソに還元している冒険者って貴方なのね?」

 フェルナンが驚き、ノエルが噂を話す。

「皆さん、下品ですよ」

 そこでサマンタが会話を絞める為に口を挟む。だが、矛先が変わるだけだった。

「サマンタ、初体験まだなんですって?」

「ほゎあっ!!」

 ノエルは噂話を続けたかった所に水を刺されたので仕返しとばかりにサマンタ話を振る。だが、矛先はここだけではなかった。

「フミトもまだなんじゃね?」

 フェルナン!!お前なんてことを!!

「いやいや、女の子5人引き連れてしてないってそれは無いでしょう?」

 エヴァス!!そう思ってくれるのは嬉しいが、すごく心が痛いぞ!!

「どうなのかしら、フミト?」

「いやいや、それはどーでもいいから。さっさと話を進めるよー」

「なるほど。これはまだだな」

「まだね」

「まだなんだな」

「うるせー!説明するぞ!」

 真っ赤になったサマンタを何とか現実に戻してから話を進める。

 潜入経路はデリックが知っているという事で、デリックからの説明があった。要約すれば、東の森側の城壁に街の中に通じる地下通路があるという事だ。そこにたどり着くまでには夜間歩哨の監視をくぐり抜けなければならない。先日出入りした時は人数が少なかったが、戦争に負けた事がわかればすぐにでも監視を増やすだろう事と、これだけの人数を潜入させる場合、一人二人歩哨には亡くなってもらう必要があるかもしれない。死体はどうするかと相談した所、隣の森に近くに置くか、投げ込んでおけば猿の魔獣、カームエイプが持っていくだろうとの事だ。

 城壁から森はそこそこ近く、森の外に魔獣の死骸を置いておくと森から飛び出て回収すると言う事例がかなりあった。それを利用しようという事だ。

 中に入ってからは、2日後、体制を整えたアルド達が南の城門を攻めると言っていた。それに合わせて城門確保と南側に面した物見の塔2つ、オルティガーラ伯救出と冒険者ギルド開放。これだけを終えなければならない。1日時間があるとはいえ、一般人に変装して実地調査くらいしか出来ないだろう。

 グロリアが居れば1日あれば街の要所は全て制圧出来るかもしれない。だが、ゆっくりとやれるわけではないので、7パーティーと人数増やして短時間で行うのだ。

 相談の後、物見の塔はノエルとリリアーヌが、城門は一度合同で仕事をしたと言うフェルナンとサマンタが。冒険者ギルドはエヴァスで、オルティガーラ伯は知り合いだというデリックが救出部隊となった。

「あれ?フミトは?」

 デリックは俺が何もしないという事に気づき、質問してくる。

「ああ、俺達は既に決められているんだ。ユーベルを確保、もしくは殺すこと」

「まじかよ……」

「それは大変ね……」

 各々が違った反応を示すが、結局は一つ、面倒事だという言葉が含まれている。まあ、アルドに言われる前から覚悟していた。本来なら全員突撃時に突撃兵に混ざり行かせて欲しかった。だが、戦闘中ではユーベルの護衛が増えるかもしれないので、門に突撃する前に暗殺終えるのが一番良い。という事になり、潜入することになった。それに、先に倒すことが出来れば味方の被害も減るだろうと言う事も含めて。

 全て説明を終えると、外はもう暗くなってしまっていた。

 急いで馬車に戻り、オルティガーラからギリギリ見えない位置にある林まで馬車で移動する。

「ここからは徒歩で移動だ。全員マントに体を包みフードを深く被る事。そして、色が見えないようにして置くこと」

 熟練冒険者から中堅冒険者の集団である。あまりこの様な指示をしなくても本来問題ない。まあ、二人を除いてなのだが……。

 馬車で出発する前にアスドバルとアネトンの装備を確認した所、マントを持っていなかったらしい。慌てて兵站部隊にあったマントをもらってきたのでサイズは全然合っていない。まあ、光を乱反射しそうな鎧だけでも隠せれば良いかと思い気にしないことにした。

 しかし、皆が静かに歩いているのに二人だけドスドス歩く。苛ついた俺は二人を殴り、静かに、足元、というジェスチャーで指示すると少しはまともになった。


 城壁まで残り300mほどの地点で林が途切れる。途中には余り大きな障害物が無い。東側には森があるので、そこを通ればいいかもしれないが、カームエイプの事もあるので安易には近づくことが出来ない。

 ここからどうするかと悩むところだが、覚える者もほぼ居ない上に余り役に立たない魔法を俺が使うことにした。

 闇属性の魔法は存在しているのだが、一点を真っ黒にする魔法や、日陰を作る魔法、霧みたいな黒いモヤを作り出す魔法。この様な本当に役に立たない魔法ばかり見つかっている。もっと他にあるかもしれないが、研究機関であるマルビティンでもこの程度な上、研究する教授も一人しか居なかったので、わからないことが多い。

 だが、この時は黒いモヤの魔法が役に立つ。場所に発動させる場合と、キーとなる物の周りに発動させる場合が選べるので、1パーティー毎、拾った木の枝に魔法をかけていく。おかげで城壁までたどり着くことが出来たのだが、緊急事態が発生した。

 暗闇でまだはっきりと見えていないが、東の城壁、こちらの進みたい方向に少数の兵士が居るらしい。足音と声で判断できた。

 このままではまずいと思ったが、デリック達の部隊が全員足音も立てずに走り始めた。

「なんだ?」

 黒いモヤが巡回中の自分たちに近づいてくる。近づくに連れて人の形が見えてきた様で疑問に思ったようだ。

 おかしいと思った瞬間、キラッと光った剣が3人の兵の喉を切り裂き、声を上げる間もなく息絶えた。

 モヤの中から一人が俺達に手招きし、残りのメンバーで死体を森の近くに置く。

 その間に黒いモヤから出ていたデリックが侵入するための階段を探し当てていた。

 だが、運の悪いことに、死体を置いて離れた瞬間、亡骸となった兵士3人はカームエイプの餌食となってしまった。そのことで、カームエイプが叫び、物見の塔の兵士が騒ぎ始める。

「まずい!!急げ!!」

 デリックは、俺達を地下通路への階段へと急がせる。この場所が発見されてしまえば反抗作戦が危うくなってしまうからだ。

 全員が地下通路へと潜り込み、なんとか階段のカモフラージュをデリックが終えた所で一息つく。

「危なかった……」

 思わず熟練冒険者のデリックから声が漏れ出る。しかし、慌てて口をふさぐ。まだここは安全では無いのだ。万が一この近くに敵兵士が居た場合、この声が聞こえてしまったら最悪な自体になる。

 暗い上に月の光さえ届かない場所。だが、松明を灯すと光が漏れ出るかもしれない。だが、地下通路を100m程進んだ所に灯があり、薄暗いが見えないという事はなかった。

 その灯に向かって歩いて行くと、灯の奥から人影が見えた。灯の奥に居るため誰が立っているのかはわからなかった。しかし、その人影から危険な宣告がされた。

「この通路を人に知らせるわけには行かない。全員死んでもらおう」



今週、凄く書くのが遅かったです。戦争描写で燃え尽きた感があったのは間違いないんですけど、普通ならこれからが盛り上がるところですよね?

盛り下がってるわけではないのですが、なんか凄く大変でした。

もうひとつの方は全く手付かず状態。先週のペース…戻って欲しい…。

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