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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
71/83

戦いの結末

戦いの結末


 〜〜〜〜〜


「ひぃぃぃぃ!!!」

 オットーの叫び声。だが、響くことはなかった。何故なら周りの兵士達も悲鳴をあげていたから。

「た……助けてくれ……」

「ゆ……揺れ……」

「うわぁぁぁぁあああ!!」

 部隊全体から悲鳴が上がっている。腹の底から湧き上がる恐怖に抗うためか、抗えないからかわからないが、声が出てしまう。

 オットーは遠くに居たため、この恐怖から脱することは他の兵士達に比べれば早かった。

「な……なんだ?!この状況は!?」

 オットーが叫び、そして少しの放心状態の後、改めて目に入ってきた状況は一言で言えば惨劇だった。視界に入っている味方兵士のほぼ全部が悲鳴を上げながら座り込んでいる。声も出ず放心して座り込んでしまっている者も居た。更にもっと酷いのは抵抗することを諦め地に伏してしまった者も。

「どうなっている!?」

 声を荒げて伝令兵士がいる方向を見るが、その兵士は頭を抱え塞ぎこむ形で地面にうずくまって悲鳴をあげていた。

「誰か状況を報告せよ!!」

 だが、オットーの声は味方の悲鳴にかき消される。

「何が起こったのだ……」

 味方の兵士が役に立たないと言う事がわかり、戦況を再確認しようとした所に声がかかる。

「オットー様!!ご無事でしょうか!?」

「ひっ!?」

 オットーは悲鳴を上げその声の方向に慌てて振り向く。が、そこには10人ばかりの味方の兵士が居た。

「なんだ!!驚かすな!!」

「申し訳ございません。それでご無事でしょうか?」

「ああ、問題ない。それより何が起こったのだ?!」

 なんとか司令官の威厳を保とうと必死になっているが、まだ若干の恐怖が腹の底からじわじわと湧き上がる。気を抜くと悲鳴を上げてしまいそうな状況を司令官であると言う自尊心のみで耐えている。

「申し訳ございません、私達にも何が起きたのか……。地面が揺れたことだけはわかりましたが、その地面が揺れたことなど初めてでして……」

 質問に答えた兵士も若干声が震えていた。それほどの恐ろしい事が何故起きたのかがさっぱりわからなかった。

 落ち着いて思い出してみると、揺れる直前敵兵士は全員しゃがみこんでいた。いや、一人だけ立っていたのを覚えている。その者が声を発した途端に揺れ始めた様な気もする。

「まさか……?」

「どうなさいましたか?」

「いや……何でもない」

 あの様な事象を起こせる者が相手にいるのか?もし居るとすれば我軍は簡単に壊滅してしまうだろう。

 糞!ユーベルを追い落とす機会だったのに!!

 嘆いても仕方がないので、今居る敵軍を何とかして排除しなくては……と思いオットーは戦いの先端である場所を見てみると驚愕の光景があった。

「なんで敵軍は動けているのだ?!」

 雄叫びを上げながら走り始める敵軍。その声に驚き逃げ惑う我軍の兵士達。腰を抜かしたものや武器を捨て、命を懇願するものまで居た。

「くそっ!!」

「どちらに行かれるのですか?!」

 味方兵士が止めるのを振り切り、オットーは鎧を脱ぎつつ走り始めた。

「死んでなるものか!!」


 〜〜〜〜〜


「敵司令官は何処だ!!」

 100人ほどが突撃できてるとはいえ、まとまった位置からの突撃ではない。完全に魔法に抵抗できた者だけの突撃。行動はバラバラであり、丘の上に最初に取り付いたのは俺とダグラスを含む10人だけだった。

 急いで丘の上にある敵司令官の天幕を探すも一人も居なかった。

「ちくしょう!逃げられたか?!」

 敵司令官が逃げたと言う事はとりあえず勝ちには間違いない。だが、その証明が出来なければ、敵部隊の士気は思ったより落ちないだろう。その為、ここで逃してしまうという事は死ななくて良い味方兵士や冒険者が死んでしまうという事だ。

「フミト!! これを見てくれ!!」

 そう言うとダグラスは主の失ったヘルメットを差し出してくる。

「これはひょっとしたら……」

「ああ、俺もそう思う」

 かなり豪華なヘルメットであり、派手な飾りもついている。自己主張の激しい隊長クラスしか付けないが、今まで見た中では一番お金をかけて作られてそうなものだった。

「探せ!! 逃げた可能性がある!! 全方位索敵!!」

 俺はダグラスの言葉を待たずに命令する。もし、逃げ出したとすれば1秒でも惜しい。ここにヘルメットがあるという事は、鎧まで脱ぎ捨てて走り去った可能性もある。鎧を来ているこちらとしては、追いつくのはかなり難しくなる。俺が司令官だったら逃げる方向は森の中と言う考えに基づき、味方右翼方向にある森に目を向け動くものがないか確認するが、特に見当たるものがない。

 焦りのために嫌な汗が出てくる。ダグラスもその様で、汗を手で拭いながら目を凝らして探している。

「フミトさん!!あの一団は何でしょうか?」

 ノンナが指差す方向に細い道と、小さな影となって10人くらいの兵士らしき者達が見えた。更には、一人だけ突出して走っている。

「見つけたぞ!! 方角西!! 約10人!! ダグラス!!」

「全員!! 突撃!!」

 ようやく50人になろうかとしている辺りで再度突撃命令が出る。今まで走ってきて力尽き座り込んでいるものも居た。その様なものにも鞭を打ち走らせる。この戦いの最終局面であるために。そして、俺達で戦いを終わらせるために。


 走り続ける。足音、鎧の擦れる音、疲れ果て、体重が乗ってしまった足音。かなりの人数が疲れ、脱落していく。だが、逃がしてはならない。その一心で走り続ける。しかし、その差は一向に縮まらない。鎧を脱ぎたくなる気持ちがあるが、この鎧を脱ぎ捨てる時は最終手段でしかあり得ない。

「ハァ……ッ……ハァハァ……」

 息もまともに吸えなくなってきた。隣を走ってるティアやナイアはまだ平気な顔をしている。リーアやダグラスは少し遅れ始めている。

 走り始めた辺りでナイアに聞いてみたが、矢はギリギリ届くかもしれないとの事だった。精霊にお願いすれば1撃で仕留められると思い、お願いしようとしたが、既に精霊にお願いできるほどの力は残ってないと言っていた。偶然を期待して攻撃してもいいが、外れた時は敵の足をより早めてしまうかもしれないリスクがあると言う事で最後の最後でお願いすることになった。

「何……だ……?」

 ふと足音に混ざり、重量感ある音が混ざる。聞き覚えのある音だ。

「騎馬隊だ!! 密集体型!!」

 息を切らしながらだが、なんとか声を張り上げる。ダグラスとリーアは慌てて俺達の前に回りこみ、座りたい気持ちを抑えて盾を構える。他の冒険者も盾持ちは全面に出て、中衛から後衛は俺達の後ろや横に並ぶ。

 こんな所で騎馬隊と遭遇とはツイてない。魔法は単体魔法系しか今は手元にない。だが、何枚かそれでもいいので取り出しておき、何時でも使えるように腰のベルトに指しておく。

 数によっては最悪全滅だろう。だが、そこまで多い騎馬でもなさそうな音だ。ギリギリなんとかなると思い、ここで踏みとどまる。


「まーかせて」

 騎馬隊が森から出てくると共にその言葉が聞こえる。俺の知っている声。

「ノンナ!!」

 どうやら森の中を通り、裏から奇襲でも仕掛けるつもりだったのだろう。だが現在は10騎しかいない。敵にやられたとすれば、ノンナがのんきな声で出てくるとは思えない。ひょっとしたら先ほどの地震が馬を怯えさせてしまい、森の中で立ち往生してしまっているのだろう。

 派手な赤い母衣は味方の冒険者達にもすぐ味方だと理解され、弓や剣が収められる。

 疲れ果ててしまっている冒険者達。このまま座ってしまいたいところだが、ダグラスから鞭が入る。

「全員進撃!!」

 そう。まだ決着はついていないのだ。

 ノンナ達は森から出てきて2列縦隊で進む。その先頭はノンナだった。指揮が有能と言う事は無いだろうが、馬の扱いは負けてないだろう。しかも、あの利口なシザーリオだ。それで先頭になっているのだろう。

 人間の足と馬の足。俺達が必死になっても追いつかなかった敵司令官達にどんどん近づいていく。

 一人の兵士がノンナ達の騎馬隊に気づいたのか、幾人か後ろを向く。先頭に走ってる者はより逃げるペースが上がった。それに合わせて2人が剣と盾を構え騎馬隊の進路を塞ぐように立つ。

 だが、騎馬隊の勢いは止まらず、そして敵兵士も恐怖からか騎馬隊から横に逃げ出し、そしてその場に座り込んでしまった。

 残り護衛は約8人。馬の速力であれば、後少しで追いつける。だが、敵兵もそう簡単に司令官に追いつかせるつもりはないようだ。

 8人が雁行陣形を組み、馬に引かれるつもりで剣を地面に突き刺し、その後ろでしゃがみこみながら盾を、カイトシールドと呼ばれる縦長な盾を全面に押し出し、即席のバリケードを作っていた。

 決死の覚悟で挑んでくる兵士、死兵は非常に怖い存在だ。更には剣を地面に突き刺している事も馬にとっては怪我しかねないもの、本来避けるべきものである。槍やランスで攻撃するのも、馬より前で攻撃を当てようと思えば当てられるが、突き刺した剣を避けることが出来るかはわからない。人は突き飛ばせば良いが、突き刺さった障害物は人と一緒に飛ばすことが出来ない。単純ではあるが考えられた作戦である。ただし、死んでも良いと言う死兵ではなく、普通の兵士であれば、恐怖で逃げ出してしまうので普通は出来るわけがない。

 俺達がたどり着いて排除しなければならないかと思い、ダグラスに速度アップを進言しようと思った所、ノンナだけが速度を上げ始めた。

 他の騎馬は少しペースを落とし初めていたのでより大きな差が開き、とうとうノンナは単独でそのバリケードに突っ込む形となった。

 ナイアに敵兵の一人を撃ちぬいてもらおうと頼もうとしたが、時間的に間に合わない。このままでは衝突し、運が良ければ通り抜けられるが、逆に言えば奇跡を期待しなければ無傷で通り抜けられそうになかった。

 衝突する!!と思った瞬間、ノンナとシザーリオはそのバリケードをジャンプして飛び越えてしまった。重量のある鎧をつけたまま、しかもノンナも鎧は一つも外していない。シザーリオの足には相当負担がかかるので本来なら命令してでもやめさせることだ。

 だが、無理に高く飛ばず、最低限の高さで前に飛んだシザーリオ。そして前足が着くとすぐに後ろ足でも着地し、そして小刻みに前後の足を運ぶ。上手く重量を一回で受け止めるのではなく、数回に分けて体で受けるかのような仕草に見えた。

 生前で見た馬術の障害、人馬一体となった選手はとても美しく、走っている、そして飛んでいる様子は見ていて飽きなかった。今の二人はその様に見え、走りながらだが思わず見とれてしまった。

 見とれてしまったのは俺だけでなく、バリケードを組み上げていた兵士達にも言えたことで、しっかりと盾を使い進路を見せなくしていたのだが、体が横を向き、首も通りすぎていったノンナの方向を見てしまっていたので、剣の在り処がはっきりと見えてしまい、次々と騎馬隊のランスの餌食になっていた。

 ノンナとシザーリオはそのまま走り続け、もう少しで敵司令官にたどり着く。

 二人に気づいた敵司令官は、慌てふためき、足がもつれて転んでしまう。なんとか立ち上がり、走って逃げようとするが恐怖に足がすくんでしまったのかまともに走れていない。恐怖からか、手に持っていた石の様なものや、体についていた飾りをノンナの方に投げる。だが、力が入らないので全然届いていなかった。

 ノンナはそのままシザーリオに合図を出し、突撃する。なんとか敵司令官は避けようともがくが、ノンナの槍は敵司令官の左肩をしっかりと貫いた。

 弾き飛ばされた敵司令官は痛みにもがき、その場で転げまわる。

 その間に、ノンナと騎馬隊は敵司令官より先に進み、雁行陣形を使って敵司令官が逃げ出せないようにバリケードをこしらえた。

 俺達は速度を上げ、敵兵士のバリケードを通りぬけ、悲鳴を上げつつ転がっている敵司令官の側にたどり着いた。

「いぃぃぃ……た……助けてくれ……」

 痛いと叫びたいのと、助けてくれと叫びたい、言葉の優先順位としては痛いが先に出てしまったようだ。

 ダグラスが俺より重い鎧を着ているので、息も絶え絶えになり、声が出せない。俺に視線を向けてきたので、代わりに俺が前に出て話すことになった。

「お前が碧玉の国の司令官で間違いないな?」

「いぃぃいいいたい……そ……そうだ……助けて……くれるのか……?」

「いや、殺させてもらう」

 そう言うと敵司令官はなんとか逃げ出そうと後ずさり始める。だが、恐怖で震え、左肩にも激痛があるのでまともに動くことが出来ない。地面をかかとで蹴っているつもりなのだろうが、力が入らず草の上を足が滑っているだけになっている。

 呼吸を整え、剣を構える。そしてゆっくりと近づいていく。近づくに連れ、敵司令官の悲鳴が小さくなる。だが、表情は恐怖で歪みきっている。どうやら気持ちが振り切ってしまい、声が出ないのだろう。

 この恐怖からすくってあげるのも慈悲だと思い、大きく踏み込んでカタナを横に引き切る。

 江戸時代の首切り、死刑執行の介錯人は切腹時、腹に小刀を差し込んだ後、痛みから開放させるために介錯として首を落としていた。江戸中期には扇子腹といって、小刀の代わりに扇子で腹を突いたそうだ。この時の作法として、介錯人は首の薄皮一枚残して切り落としていた。理由は身分制度である。位の高い人の顔を土で汚してしまうのは恥と考えられ、介錯人も相応の腕を持った達人を選ばれたと聞いたことがある。

 だが、俺の腕はそんな事は出来ず、完全に切り離してしまい、更には少し離れた辺りに飛ばしてしまった。

 少し申し訳ない気持ちがある中、敵司令官の首を拾い、ダグラスに向ける。

「敵司令官を打ち取った!!」

「おおーーー!!」

「我軍の勝利だ!!」

「おおおーーーー!!」

 息が整わなかった中無理やりダグラスは声を張り上げた。少しかすれた声になり、聞きづらかったが、冒険者や騎馬隊には理解され、すぐさま歓声がとび交う。

 勝利と言ったが、まだ確定したわけではない。だが、敵陣の天幕にはそれらしい人物は居なかった。これが影武者だと言う事は無いだろう。第一影武者だったとしても、この首を見せれば敵軍の戦意は落ちること間違い無いだろう。

 力いっぱいの叫び、そして歓声は何度も続く。冒険者として輸送任務を行なっていれば、大抵オルティガーラには行ったことがあるだろう。馴染みの酒場の女将、武器屋の親父、宿屋の主人、行きつけの女宿、更には幾度も行くうちに出来る友人達。それらを思い出したのか、泣き始める者も居た。ようやく開放するための一歩、それも大きな一歩を踏み出すことが出来た。

 敵司令官の亡骸を引きながら敵本陣天幕近くまで戻ってきた所でダグラスが戦場に向かい手に持った首を見せながら大声で告げる。

「碧玉の国司令官の首は取った!! 蒼玉の国、俺達の勝利だ!!」

「おおおおーーーーーーーー!!」

 魔法に抵抗できず、へたり込んでいた冒険者達からも声が上がる。

「これから掃討戦にかかる!! 半数はフミトの指示で生存者を探せ! 残りは俺に続け!!」

「おおおおーーーー!!」

 俺達が戻ってくるまで敵本陣と残存冒険者達の間で戦闘は行われていなかった。もう既に降伏の意志を示した者、未だに意識を手放している者、逃げ出したいが勇気のない者等が多数を占めていたためだ。ダグラスの宣言でこの部隊のほとんどは武器を捨て降伏した。元気のある者は武器や防具を捨てて逃げ始める。

 抵抗するものがすぐに居なくなってしまったので、ダグラス達は手短な味方右翼部隊を援護するために転進し、攻撃しに行った。

 その味方右翼部隊側も、ダグラスの声が届いていたようで、森に隣接している兵士達は幾人も逃げ出しているのが見えた。


「さて、俺達も仕事だ。血止め、治癒の魔法が出来るものは腕に白い布を巻き部隊を作れ。それ以外の半数は傷ついた味方の冒険者を効率良く助けるために分散して行動し、効率良くその救護部隊に連れて行くこと。残りは降伏した敵兵士の武装解除、あわせて味方本陣までの移送を頼む」

 俺は一応治癒部隊に居ることにし、普通の羊皮紙を使い治癒の魔法をかけていった。だが、枚数に限度があるため、ほとんど他の冒険者に任せっぱなしだったのだが。

 ここでかなり疲れているはずのリーアが目立っていた。彼女も治癒までは使うことができるので、本陣まで厳しいという冒険者達を多く助けていた。

 行動を起こしてから少しすると、ノンナの居た騎馬部隊41名の隊長から声がかかる。

「私はソルデビラと申します。今回は私の不在、そして部隊の援護、誠にありがとうございました」

「フミトです。自分がやれることをしたまでです。それに、騎馬隊を指揮していたのは彼女、ノンナですよ」

 そう言うと二人はノンナの方向を見る。恥ずかしそうにそっぽ向いてしまう。そう言えば褒めたことってあまりなかったなと今更ながらに思う。

「地揺れが来る前に彼女が大声で下馬と落ち着くことを進言して来まして、私を含めて大多数がその指示に従いませんでした。幾度も彼女からの要請があったのですが、他の隊員が怒り始めた所で大きな揺れが起こり、下馬していないほとんどの兵士が落馬や馬の暴走があり、部隊として成り立たなくなってしまっていたのです。その時に彼女に従った9名が馬を落ち着かせ、すぐにでも動ける体制を整えていました。更には彼女は少ない人数で構わないから進撃させてくれと。私はまだ混乱していましたが、彼女を隊長として送り出すことに決めました。これは大失敗した私の指示の中では非常に正しい判断だったと思います」

 合流してから他の兵士がこの隊長に話したのだろう。その後の行動の詳細を俺にも聞かせ、礼を言ってきた。他の兵士が言ったと思ったのには、ノンナがこう細かいことを伝えないだろうという所なのが少し残念なのだが。

「私達はこのまま本陣に戻ります。彼女のパートナー、シザーリオですね。彼女を休ませたいので戦闘は避けようと思います」

 そう言うと雁行陣形で本陣に戻っていった。陣形の中央は隊長ではなくノンナだと言うのが粋なはからい、いや、手柄を上げたからだろうか。ともかくカッコ良かった。

 戻る前にダグラスから預かった敵司令官の首を槍の先に突き刺して行けと言ったら、「気持ち悪いからヤ」と言われ、威圧するには必要なアイテムだったのでどうしたものかと考えた所、敵司令官のゴージャスなヘルムを思い出したのでそれをぶら下げていく事になった。


 〜〜〜〜〜


「やった!! ダグラス!! フミト!! よくやってくれた!! 俺達の勝ちだ!! 勝ったんだ!!」

 アルドは副官に対して抱きついてしまうんじゃないかという勢いで肩を掴み喜んでいた。多分女性が隣にいたら誰でも構わずハグしていただろう。相手だ男だから無意識にとどまっているだけだろう。それだけの喜び様だった。

 この喜びは伝染し、本陣にいる味方部隊にも届き、ざわつき、そして大声での雄叫びとなっていった。

 演じていた劣勢とはいえ、部隊からの不信感は少なくなかっただろう。しかも、途中からは演じていたわけでも無さそうだというのがその不信感が湧き出てしまった要因の一つと思われる。しかし、その劣勢を、本陣にいる者達には、騎馬隊による蹂躙の危機、そして死から一気に覆しての生存、そして勝利。沸き上がり方も尋常ではなかっただろう。叫び声の中には「俺は生きてるぞ!」と言う声が混ざっている。やはり怖かったのだろう。初の対人での戦いだ。より怖かったのだろう。生き残った幸福を叫び声で表すのは生きているものにとって仕方のない感情かもしれない。だが、幸福に浸りきっているわけにも行かない。

「お前たち!! 後一仕事残ってるぞ!!」

 そう言うと副官を含め、近くにいる兵士達は整列する。その表情は喜びを隠せてはいないのだが。

「他の部隊への援護、そして殲滅戦へと移行する!! 現在、敵騎馬隊の監視及び、馬、武器剥奪している者達以外は整列の後に中央部隊右まで前進。 敵中央部隊、及び右翼部隊を蓋するかのように左に転進し攻撃に移れ。降伏するものは武器と防具を取り、一箇所にまとめろ」

「はっ!!了解いたしました!!」

 そう言うと、雄叫びを上げている集団へと向かい、仕事だ!!と諌めつつ整列させていく。

「全伝令騎馬隊の一部を呼び戻せ、50騎くらいで構わん。指揮は誰でもいい。集まり次第、敵兵站部隊へと向かい、降伏勧告せよ」

「はっ!」

 兵站部隊を狙うのは、こちらの食料だけで捕虜を賄うことが出来ないからだ。大体1.5倍くらいになると思われる。逐次補給物資が送られてくるが、すぐ足りなくなるだろう。

 そうなると、早めにオルティガーラを攻め落とさなくてはならない。喜びに浸っていたいところだが、先を考えなければ司令官は務まらない。

 隊列を整え、敵中央部隊、敵左翼部隊を包囲し始めた辺りで41騎の騎馬隊と合流する。

 雁行陣で41騎は来ていたのでそのまま後ろに並ぶ形で敵部隊の蓋をするために移動する。その際に敵司令官を打ち倒したことを伝えると、すぐ逃げる者、すぐ降伏する者が半数ちかく占め、この戦場での戦いは終わった。


 〜〜〜〜〜


「ダグラス!! フミト!! ありがとう!!」

 残敵の降伏を受け入れ、武器防具の取り上げ、捕虜化、味方冒険者や右翼部隊兵士、敵軍兵士の怪我人保護を終え、本陣に戻るとアルドは両手を上げ俺達を賞賛し、二人いっぺんに抱きついてきた。

「おまっ!キモい!!」

「俺には嫁がいる……」

「お前のその反応おかしくないか?」

 隣でダグラスが予想外の言葉を漏らしたため、即座にツッコミを入れてしまった。アルドは俺に気持ち悪いと言われたのにも関わらず、笑顔で抱きしめる力を抜いてくれない。冷気とかを感じているわけではないのだが、妙な気配が首の向くことが出来ない背中方面から漂ってくるので、そろそろやめて欲しいところだ。

 そろそろ殴って終わりにしようかと思ったところに後ろから声がかかる。

「よくもやってくれやがりましたね」

「へ?」

 俺は思わず変な声が出てしまった。妙な言葉遣いというのもあるが、その声の主を俺は知ってるからだ。

「おお!! レンティ!! 目が冷めたんだね?」

 アルドは俺達を離すと、レンティに向かい歩いて行った。振り向くとレンティは怒った顔で、しかも肩が上下している。走ってきたのだろうか。何故本陣に居たはずのレンティが走るのか、しかもやってくれたと言っていた。意味がわからずそのまま流されるまま観察することにした。

「レンティ、君のおかげで私達の命はあるんだ。ありがとう!!」

 そう言うとアルドはレンティのことをハグする。

「ぎゃーーー!!」

 両腕の外からハグをされてしまったために、レンティはハグされた後振りほどくことも出来ず、殴ることも出来ず、つまりは悲鳴を上げることしか出来なかった。しかも、女の子らしくない悲鳴を……。

 予想外の行動だったため、俺もダグラスも固まってしまい、その後の行動を阻止することが出来なかった。そう、妖精族の末裔である二人からアルドがメッタ打ちにあう事を……。


「戦いの無かった本陣での初の負傷者を出してしまった珍事は置いておくとして……」

 何をしれっと話を進めてるんだと3人は怒りをあらわにしようとしていたが、戦場で、そして現在の状況を考え抑えることにしたようだ。

「フミト。悪いけどあと6パーティーほど引き連れて今すぐオルティガーラに潜入してくれ」

「へ?」

 本気で一発殴っていいかな?




ようやく大規模戦争(大規模?)が終わりました。2話くらいで終わるんじゃないかと思って書いていたら4話も使ってしまいました。おかげで濃い内容になれたのではないかと思います。戦争描写を得意となさっている方々から比べると稚拙ですけど。

台風が過ぎ去り、鈴虫がイイ音を奏でる季節になって来ましたね。

極稀に昼夜を間違えたセミが網戸で鳴き始め、怒りに任せて網戸を叩こうとして何とか自制して叩くと言う事もあるかもしれません。力加減はご注意ください。

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