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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
70/83

奇襲

奇襲


 〜〜〜〜〜


「ハッカウゼン閣下!! 報告致します!! 右翼隣の森から、敵騎兵200騎程進行中!!」

「なんだと?! まだそれだけの数、しかも騎兵を残していたとは!!」

「敵騎兵の目的予想地は何処だ?!」

「我軍の本陣、こちらだと思われます!!」

「そうか……、既に余分に動かせる部隊は無い……。万事休すか……」

「とりあえず、やれることはやりましょう。耐えている間にフミトさん達が何とかしてくれます!」

「レンティ、君の言うとおりだ。槍兵を戦端に固め、盾兵は弓兵を護衛するように配置。出来るだけ敵騎兵隊の先端を狙うように!」

「はっ!! 了解いたしました!!」

 アルドは現状やれることは命令し終えた。だが、座り込むことは出来ない。兵は配置したが、500人の兵で200騎の騎馬隊はどうあがいても防ぐことは出来ないだろう。地の利も無い。兵站部隊を無理やり動かしたとしても550ほど。しかも、そのうち半数以上は索敵伝令として散っている。弓兵は100ほどしいか居ない。どう考えても蹂躙される以外の未来はなかった。

 敵は力押しで来ると思い込んでいた。だから、押されたフリして中央を開け、冒険者部隊を突撃させる作戦を取ったのだ。フミトがいれば……と考えるが、後の祭り。今更考えても仕方がない事だった。

「今更嘆いても仕方がない。最後の足掻きとして俺も戦って来る。少しは兵の士気が上がるだろう。レンティ、君には何人かつけるから、兵站部隊まで下がっててくれ」

「アルド閣下、私にやらせてください」

「いや、君はフミトから無理に預かった身、そこまでやる必要は無いよ。兵站部隊まで下がっててくれ」

「是非やらせてください」

 アルドの事を真剣な眼差しで見つめ続けるレンティ。しばらくその状態が続くが、結局アルドが折れることになった。

「死ぬだけのつもりは無いんだな?」

「はい!」

「わかった。弓兵と盾兵の一部を彼女に!彼女を守れ!!これは厳命だ!!どの命令より最上位の命令と思え!」

「はっ!了解いたしました!!」

「行って参ります」

 レンティは礼をすると共に副官と歩いて行く。副官が大声で指示するとレンティの後ろに弓兵と盾兵が2列縦隊で連なっていく。

「フミト、すまない。彼女は俺では止められなかったよ。あの世に来たら詫びをしよう。急がずに来いよ……」


 〜〜〜〜〜


 防御陣の最前列まで歩み続ける。敵騎兵の約200騎はもう視界に入っている。進行方向もこちらの本陣に間違いないと言えるくらいに隊列が整っている。

 いつも平然としている自分のはずが、今は心臓が早鐘の様に鳴り響いている。その心臓を落ち着けようと何度も深呼吸するが、あまり効果は期待できなかった。

「やはり、怖い物なのですね」

 そう独り言が漏れ出る。普段はリーアやフミトさん、ノンナさん、ナイアさんやティアさんに守られつつ戦っている。最前列と言うのはこれほど怖いものなのか。いや、相手との物量、兵種の相性の差かもしれないが、ともかく落ち着いて何かを成すには最悪な状況ではある。

 失敗すれば皆とは別れることになる。一番の不安である要因はそこだった。一人も別れの言葉を言うことが出来ていない。フミトさん達は今頃敵国司令官を倒すために全力を尽くしている最中だろう。今更助けて欲しい、近くにいて欲しい、話を聞いて欲しい等、普段なら簡単に聞いてもらえそうなお願いごとはもう届かない。

「ああ、俺は死ぬんだろうな」

「そんな事言うな、俺はオルティガーラにいる家族に絶対会うんだ!!」

「畜生、糞貴族共、死んだら呪ってやる!」

「アイラ……、俺を守ってくれ……」

「君を守るよ」

「いえ、私こそ貴方を守り通します!」

 様々な人々の言葉が聞こえる。色々な言葉で伝わってくるが、全て1点同じ意味を含んでいた。死にたくない……と。

 意を決して魔法の詠唱をはじめる。

「我らが母なる大地よ。生きとし生けるものが帰る場所である大地よ。帰ったものが再び芽吹く場所である大地よ」

 精神を統一し、ゆっくりと、そして確実に魔力を込めつつ詠唱し続ける。普段の魔法であれば、既に終わっている時間以上に詠唱を唱え続ける。フミトさんより短縮魔法を教わった時に、逆に強力にする文面も教わっていた。単純な魔法でも、規模、威力、効果時間等色々と変えることが出来ると知った時、魔法学院で学んでいたことはほんの一部でしか無かったことを悟った。対魔獣での戦闘は基本短縮し、いかに早く発動させるかがポイントになっていることが多い。だが、今回は確実に、そして大規模に、そして強力にせざるを得ない。自分でも未だかつて無い程に大量の魔力を注ぎ、大規模で強力な魔法にするつもりだ。詠唱をしている間にも体から何かがはじけ飛びそうな何かを精神で無理やり押さえつける。肉体的な痛みは無い。しかし、痛い。心が痛い。苦しい。逃げ出したい気持ちが膨れ上がる。だが、アルド、そして今時分を守ってくれている人達の言葉を思い出し、意志を持ち直す。死なせたくない。自己犠牲なんてフミトさんに言わせると無駄なことだと言われそうだ。だが、好きになった人を守る。この行為は自分の中の信念には反していない筈だ。

 好き?うん。アルドさんは好き。異性として好きかと言われるとわからない。でも、少ししか話してないけど気に入っているのは間違いない。私達の生活を守る為に死を覚悟して挑んでいる。それだけでも尊敬に値する事。更には国の行く末や国の最高権力者で、この国を一番愛しているはずの人への配慮も尊敬できる。そんな人は死なせてはならない。勝つとしても、負けるとしても死なせてはならない。私がここで倒れるとしても、あの人だけは助けなくてはならない。

 詠唱が終わりに近づき、薄く目を開ける。既に精神がトランス状態になっており、外的要因、よほど強い刺激が無い限り戻ることは無いだろう。その視界に敵騎兵がもうすぐ弓の射程に入る位まで近づいているのが見え、しかも突撃体制を整えていた。魔法の発動時間は多分間に合うだろう。さあ、過去一番の大勝負だ。

「その者達を奈落に落とせ!! ピットフォール!!」

 以前フミトさんが大怪我することになったきっかけの魔法。あれ以来一度も使うことが出来なかった。練習でも発動させようとすると心が痛く、そして体が震え最後まで詠唱することが出来なかった魔法。自分の知っている魔法で他に規模を大きくすることが出来る魔法は無くはないが、敵兵を撃ち漏らした時でも、他の兵士達に影響がさほど出ないもの、だが効果が高いもので思いつくのがこの自分の心の傷と戦う必要のある魔法だった。アルドを、そして皆を助けたいの一心で自分のトラウマと戦うことを決意し、紡ぎ上げた魔法。

 だが、ピットフォールは本来ウルフの足を、人の足を落とすくらいの魔法である。それを超大規模にした形、いわば完全に別の魔法として組み上げていた。効果は地面の沈下と一緒ではあるが、大規模であると言う事は、その中に敵の騎馬隊まるごと納めてしまおうと考えたからだ。

「はぁぁぁぁぁあああ!!」

 レンティの体から魔力がどんどん流れていく。まだ魔法の効果は完全に完了していない。レンティの額から脂汗が滲みでてくる。頬を伝わり、顎の先でしずくとなって落ちていく。消費する魔力を体力や生命力などで補っているのか体が震え始め、腕から力が抜けていく。魔法を放つために上げている腕も、同じ位置では維持できなくなるくらいに力が入らない。だが、この状態で腕を下ろしてしまうと魔法が完成しない可能性がある。魔法の失敗は仲間の、アルドの死に直結してしまう。それだけは避けたい。何としても魔法は完成させたい。その一心で魔法を完成させた。

 レンティの少し先からひび割れが起き、地響きと共に大きな地盤沈下が起きた。そして効果範囲約横20m、長さ80mほどのなだらかな溝が出来上がる。深さで言えば、一番遠いところでは1cm程度かもしれない。だが、レンティの足元では5m程大きく掘り下げられていた。

 敵騎兵は突撃を実行しており、急に出来ていく下り坂に対処できない。馬の勢いは簡単に止めることが出来ない上に、突撃体制である縦列体型であったことがより魔法の効果を発揮させた。つまりは、最前列の停止命令が届く前に後続が押しこみ、方向転換も出来ず、まっすぐレンティの足元の一番深い辺りまで押し込まれてしまった。

 魔法の完成と同時にレンティは糸の切れたマリオネットのように力が抜け、足元から崩れ落ちてしまった。自分の発動させたピットフォールの中に落ちてしまう所をギリギリで護衛部隊が助けることに成功し、彼女の体は、この一部の局面での英雄の体は救われた。


 〜〜〜〜〜


「弓隊!囲め!!盾隊!!5列縦隊で敵騎馬隊後方から壁を作り押し留めろ!!」

「はっ!!」

「完了次第、騎馬隊には降伏勧告をせよ、拒否する場合は弓隊3斉射の後に再度降伏勧告をせよ!!」

「はっ!!了解しました!!」

 彼女の、レンティの魔法が発動したことにより、圧倒的不利な状況から、檻の中に閉じ込めるような圧倒的有利な状況へと変化する。

 死を意識していた者達にも希望の目、それも勝利の目に近い感情が含まれていた。たった一つの魔法。規模はかなり大きいものだが、それだけで戦局を一気に覆してしまった。これを讃えずに何を讃えれば良いのだろうか。

 彼女が倒れて直ぐに駆け寄りたかったが、彼女が身を挺して放った魔法、彼女が全力を持って作った好機を不意にするわけにもいかない。だが、とりあえず命令は終わった。後は報告を受けるだけ。この戦局に置いて短い自由を得たアルドは駆け出していた。

「衛生兵!!衛生兵!!女性の衛生兵はいるか!?」

 走りながら叫びつつ呼ぶ。女性の衛生兵を読んでいるのは彼女に対しての配慮だ。この様なところが貴族たる所以なのかもしれない。フミトなら男でも構わず連れてくるだろう。彼女のことが心配ではあるが、こんな事を考えてしまうのは浮かれているからだろうか、それとも余裕が出来たからなのだろうか。

「はっ!!おそばに!!」

「着いて来てくれ!!」

 アルドは着いて来る女性の衛生兵を一瞥もせず走り続ける。

「レンティ!! 大丈夫か!? 急いで診てくれ!!」

「はい!!」

 衛生兵も彼女が行った行為がわかっており、死なせてはならない人と言う認識で護衛兵に抱えられているレンティを広い布の上に寝かせ、診察をはじめる。

 少しすると、女性の衛生兵は首を傾げ始めた。

「どうした?!何かあったのか?!彼女の様態はどうなんだ!?」

「あ……あの……」

「良いから早く!!」

 アルドは衛生兵が何故言葉を止めているのかわからなかった。まさか、この英雄を死なせてしまったという事なのだろうか?それとも、生きてはいるが、二度と目を覚まさない等か……。

「お眠りになっています……」

「へ?」

「疲れたようなので、お眠りになっています……」

「あ……、ああ、そう……」

 一瞬呆れてしまったが、逆に考えれば魔法を一回唱えるだけで気を失うほどの魔法を使ったと言う事だ。それだけだいそれた事をしているのだ。ゆっくりと眠らせてあげようと伝え、護衛部隊に揺らさないように兵站部隊まで下げるように指示した。


 〜〜〜〜〜


「くそっ!!騎馬隊の奇襲が失敗しただと?!」

 オットーはもう天幕の中にいることはせず、外で戦況を見続けていた。だが、小高い丘の上にいる敵本陣に騎馬隊が迫った所、土中に潜っていくかの様に消えていった。敵本陣が陣を敷いている辺りは既に調べ尽くしてある。監視も多角的に行なっていたし、小競り合いをしていたのはこの様な罠を仕掛けられないようにしていたからだ。昨日は右翼側、その前の日には騎馬隊が消えた辺りに向かい少数に寄る奇襲をしかけていた。半日、しかも夜間作業で騎馬隊200騎がすっぽり入ってしまうような穴を作ることはあり得ない。その上、その様な罠は隠すことが出来ないだろう。更にはその様な大きな穴が空いている場合、とんでもない愚か者じゃない限り、戦争中に穴の中に向かうことは無い。

 わざと力押しに見せかけ、左翼側の森から大きく周り込んでの攻撃をしたのだ。力押しでも勝てると思っていたが、この先も勝たなければならない事を考えるとここで兵士を減らしてしまうのは余り望んでいない。自分の望みを叶えた後勝手に死ぬのは一向に構わないとは思っているが。

「報告致します!!」

「なんだ!」

「騎兵部隊は敵の罠、大規模に地面が落ちる罠はまってしまったようで、200騎全騎降伏したとのことです」

「くそっ!くそっ!!無能どもが!!」

 荒れているオットーから逃げ出すように報告に来た伝令は逃げていった。

 オットーの怒りや苛立ちはおさまることがなく、剣を抜き、天幕を何度も何度も切り裂いていた。

 自分の天幕が見るも無残な状況になった辺りで別の伝令から声がかかる。

「報告致します!」

「なんだ!!」

 苛立ちはまだ完全にはおさまってないようで、声には怒気が多く含まれていた。だが、伝令は報告義務があるため、我慢しつつ報告する。

「オルティガーラにいるユーベル閣下からの言伝です」

「ユーベルからだと?!」

 オットーの怒気はより大きくなり、今にも伝令は切りつけられかねない状況であった。だが、伝えれば生き残れるかもしれないと思い、慌てて若干早口で伝える。

「数が少ないが、こいつらを役に立ててくれ。そろそろ入用になるだろうとの事です」

「くそっ!あいつにも見透かされていたのかっ!! バカにしおって!!」

 だが、オットーは剣を振り下ろすことはなかった。ユーベルからの兵士を本陣まで近づけてしまうと敵軍に見つかってしまう。それにこの兵士じゃないと多分居場所はわからないだろう。

 伝令に作戦を話し、ユーベルからの部隊に伝えてもらうことにした。苛立ちのままに殺してしまいたいところだったが、なんとか耐える。全ては勝ってユーベルより上の地位に着くために。

「あいつらの希望、目の前の部隊を壊滅させれば後は力押しでどうとでもなる」


 〜〜〜〜〜


「ダグラス様!!新たな部隊が敵左翼後方に出現しました!」

 敵本陣にはっきりとわかるくらいくさび形に食い込み、後少しで突破できそうなタイミングで新たな報告が入る。

「何の部隊だ!?」

「騎馬隊です!先ほどの我軍でしょうか?」

「何を言っている!我軍の騎馬隊であれば、赤い母衣を付けているはずだろう!!」

 伝令代わりになっている冒険者が抜けたことを言う。ダグラスにはすぐその差に気づき、敵部隊だという事がわかった。数も赤母衣隊より多く約70騎近くいる。

「弓持ち!!敵騎兵隊が射程に入り次第順次攻撃!!手の空いているものは落ちている矢を拾い、弓持ちに渡せ!! 槍持は集合し、敵騎馬隊に向かい防御陣を!!」

 現在の冒険者部隊はくさび形に陣形がなっている。最前面からの突撃は無いだろうが、上手く敵部隊が横から隙間を開け、騎馬隊を通すことが出来た場合、こちらは部隊を寸断され、前衛は全滅、後衛も撤退しなければ全滅してしまう事になるだろう。

 更には、味方右翼部隊とも現在離れてしまっている為、簡単にこちらの後方に回りこみ、突撃と言う事も考えられる。だが、こちらの弓を一番効率悪くさせるのは敵陣を横断してくることだろう。それに、後方まで回りこむ間にこちらは少しでも体制を整えられる。槍持を全面に押し出せば突進を減衰させることが出来るかもしれない。だが、数が圧倒的に不利な状況である。一般兵の兵の割合であれば槍持だけで少しは減らせるだろう。だが、槍持の冒険者は正直少ない。結局蹂躙される他無いだろう。

「最前線に行き、策を講じてくる!少しの間頼むぞ!!」

 そう言うと返事を待たずにダグラスは走りだす。


 〜〜〜〜〜


「フミト!!」

 敵部隊最奥まで食い込み、後少しで喰破れる辺りであったが敵司令まで突撃するには少々体力を使いすぎたのと、思ったより抵抗が厚く、決定打と言えるものが打てないので、4人で少し最前列から下がった所で休んでいた。血の匂いが辺りに漂い、敵兵や冒険者の死体が転がり、臓腑が漏れ出ている所で休憩というのもおかしなことではあるが、息を整えていると言うところか。

 そんな場所にダグラスが走り寄ってくる。大将がこんなところに来ていいのかとも思うが、戦いの最終局面というのであれば問題ないだろう。だが、あいつの顔を見るとどうもそんな状況では無さそうだ。

「ダグラス!どうした!?」

「敵騎馬隊からの襲撃だ! 何とか出来ないか?」

 そう言うとダグラスは騎馬隊の方向を指さす。パッと見50〜70騎ほどの騎馬隊が隊列を組みこちらに向かっている。散会状態になっているとはいえ、突撃されれば少なくない被害が出るだろう。更に、一番怖いのは分断され、各個撃破されること。今の敵部隊にそこまで部隊運用出来るかわからないが、万が一できてしまった場合、最前線にいる俺達は死を免れないだろう。この4人にそんな未来は与えたくないし、見せたくない。グロリアにも、グロリアとダグラスの子にも父親の顔を見せてやりたい。

「しかし、まだ出てくるのかね、敵の兵士は……。本隊も奇襲受けたみたいだし」

「何?本隊が?」

「よくわからんが、撃退したみたいだけどね」

「そうか……よかった……」

 俺が本隊の奇襲に気づいたのはほんの偶然。ティア達3人が俺に合流してきた辺りでふと後ろを見た時、視界に騎馬部隊が本陣のある丘に突撃しているところだった。俺達の裏を完全にかかれ、絶望し、少し放心してしまっていた。だが、本陣から歓声が上がりはじめ、兵士達も倒されていく様子が全くなかったのでとりあえず戦いに戻ることにした。休憩に入った時、再度本陣を確認した所、やはり兵士達は倒された形跡が無かったので、無事だったと判断しただけなのだが。

「それで、話は戻すが、あの騎馬隊どうにかならんか?」

「そうだな……、わかった。何とかしよう」

「出来るか!」

「ただ、悪いが俺から指示出すけど良いか?」

「ああ、任せる」

「わかった。ティア、ナイア、部隊全員に俺の声を伝えられるか?」

「出来るわよ」

「それなら、すぐ準備を始めてくれ。でき次第呼んでほしい」

「わかった」

 そう言うと二人は精神を集中し始めた。突撃時みたいに支えて欲しいとは言ってこなかったので、そこまで大変では無いのかもしれない。

「ダグラス、リーア、二人は敵兵が来たら頼む。俺はこれから少し作業する」

「わかった」

「はい!」

 俺は二人の準備の間、1枚だけ手に入れることが出来た高級羊皮紙とインク壺、ペンを取り出し、今回必要な魔法を書き始めようとする。

「フミト、準備できたよ」

「わかった。それじゃ、お願い」

「うん」

 深呼吸している間に、ティアからOKのサインが来る。

「全冒険者に告げる!!俺はフミト、緊急事態に付き、ダグラスから一時的に指揮権を与えられた者だ!」

 遠くの方にいる冒険者が何事?というような表情をしている。敵と対峙してない冒険者だから余計におかしな表情をしているのがわかった。

「現在我ら冒険者部隊に敵騎馬隊が進軍中だ。だが、安心してくれ。その騎馬隊を無力化する策をこれから行う。その策を行う時、全冒険者は絶対にしゃがんでくれ。座り込む必要はない。だが、敵と対峙しているものも確実にしゃがんでくれ。これだけは厳命する。以上、策を実行する時を待て」

 ティアとナイアに対し、終わりの仕草をする。二人が精霊の力を開放し終えるとダグラスが突っかかってくる。

「フミト!!冒険者達を見殺しにするつもりか?!」

「大丈夫だ。信じてくれ。それより、護衛頼む。騎馬隊がたどり着く前に書き終えなければならない」

 再び書いている途中の羊皮紙に集中する。大規模魔法になるため、威力を上げるため魔法の詠唱に色々と文面を追加する。頭の中で構築してから書き込むのだが、普段は検証するつもりで1枚練習のつもりで書くことが多い。だが、今回は時間もない上に高級羊皮紙が1枚しか無い一発勝負。頭をフル回転させ効果をより高くする為に文章を組み上げては書いていく。本来であれば、パーティーメンバーの命を救うためだけに使うつもりだった高級羊皮紙。だが、このクラスの羊皮紙を使わないと魔法の規模が期待できない。

 全て書き終えた辺りで、ティアとナイアに再度声を伝える準備をしてもらう。準備の間に書き損じ等を探す。

 確認している間に右翼方向の敵兵士が真ん中から割れて行く。その間から敵騎兵が見え始める。

「フミト!!急げ!!」

 ダグラスが俺のことを急かし始める。急ぎたくても確実でない場合は魔法が発動しない。そのリスクを犯すより、失敗を踏まえて他の魔法を使い被害を最小に抑える事の方が良い。

「フミト!準備良いよ!」

 視界の片隅にいる騎馬隊が速度を上げ始めるのに気づく。4人の緊張が伝わってくる。ティアに目配せし、発動してもらう。

「今だ!全冒険者!しゃがめ!!」

 俺以外の冒険者、遠くにいる伝令までも馬から降りてしゃがむのが見えた。

「いくぞ!!アースクエイク!!」

 足元がドンッと突き上げる感触が来た後、連続して揺れ続ける。体感震度で言えば前回リーアやレンティが体感した時より遥かに高く、震度6クラスだろうか。最初の1撃は直下型であったため、それだけで心の底から這い上がってくる恐怖が伝わり、敵兵士から叫び声が……聞こえなかった。表情は恐怖に固まっていたので、どうやら怖すぎて声が出なかったのだろう。

 しゃがませた理由は、この魔法に抵抗しやすい為と、地震を体験したこと無い人達で、立っているのとしゃがんでいるのでは大分感じ方が違うからだ。

 目的の騎馬部隊無力化は、恐怖に陥った馬が騎士の制御を離れ、無差別に走りだす。その恐怖から逃げるために走りだした馬に轢かれる者もいた。そして、他の馬たちは立ち上がり騎士を振り落とす、急制動をかけ、騎士が墜落する等、こちらの思惑通りに事が運んでいた。騎馬伝令隊の馬が暴走しがちになったのは仕方がない誤算だったかもしれないが。

 今までどんな事があっても受け止めてもらった大地、母なる大地と呼ばれる命を育む大地、それが大きく揺れだし、場所によっては人の高さまで隆起した場所まである。時間が立つにつれ、恐怖で突き抜けた状態から思考が追いつき、恐ろしさを理解し、悲鳴が上がり始める。その声に反応するように次々と悲鳴が連鎖していく。

 座り込み震える者、大声を上げる者、ひたすら助けを懇願する者等、まともな敵兵士はほとんど見当たらなかった。

「ダグラス!!」

「……」

「ダグラス!!」

 少し放心してるようなので、背中に蹴りを入れ再度大声で呼びかける。

「すまん!! 冒険者たちよ!! 今だ!! 敵司令官に向かい突撃!!」

「おう!!」

 およそ100名ほどの冒険者が立ち上がり声を上げ走り始める。死神が走り寄ってくる光景を目にした敵兵士は大声を上げ逃げ始める者、腰を抜かし動けなくなった者、両手を上げ降参するもの等。だが冒険者達は敵兵に目もくれず走り続ける。そう、もう兵士のバリケードは無い。丘の上の敵司令官を目標に走り続けるだけだ。

「さあ、この戦いの幕引きだ。俺達で終わらせるぞ!!」



冒険者と言うより傭兵部隊の様な感じになっていますね。賛否両論あるかと思いますが、冒険者のみで話を作るには少々自分の想像力とスペックが足りませんので、このままお付き合いいただければと思います。

台風迷子ですね。中々に面白い軌道を描いています。数年前にはうどん台風と一部で呼ばれた香川県に上陸しかかってから東日本方面海上に抜けていった台風もあったように記憶しています。


それと、各ページの下部側にある黄色くて小さいリンク先に、こちらが行き詰まった時の発散するために書いた小説を載せることにしました。まだ1話しかありませんが、そちらもどうぞご贔屓によろしくお願い致します。


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