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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
7/83

フェスティナ商会

フェスティナ商会


 フェスティナ商会とは、現在いる街のレーニア発祥の商会である。元々は海運を主軸に売買をしていたのだが、外国の特殊商品を扱えるようになるとレーニア内でどんどん力をつけていくようになり、現在では主戦場の街『ケイトウ』、鉱山と温泉の町『アピ』、騎士の都市『アイガー』、商業と快楽の街『グランサッソ』や母校のある『マルビティン』まで支店を持つ国内では中規模に値する商会だ。

 船は3隻所持しており、3カ国への定期的に往復している。

 その定期便の荷物を各支部へと送るのが基本の輸送護衛任務だ。町の外は完全に安全とはいえない為、輸送自体は頻繁には行われていない。それと輸送任務で稼ぐより最前線で戦い名誉を一攫千金を得る方が良いという風潮も手伝って、冒険者は魔獣の多い地域へと行きたがる為、頻繁に行うことができないでいるのが現状だ。

 それを比較的安定的輸送を行っているのがこのフェスティナ商会。

 おかげで小さい商会だったのが中規模商会まで大きくなれたのだ。


 フェスティナ商会の輸送護衛任務は比較的安全な地域であり、金払いも良いということでそこそこ人が集まるようになっている。

 距離や輸送する物品により給金が違うため、船が寄港しそうな時期を見計らって冒険者ギルドには人が集まる。

 そんな中一人ご飯を食べているフミトだが、12年前にまだ1隻しか船がなく小さな商会で、まだ会頭本人が輸送任務を行っていた時代にたまたま輸送隊を助け、護衛任務を請け負ったのが始まり。その為、レーニアにいる限りは優先的に仕事を回してもらっている。


 港近くの商業区の一角、平屋建てだが一般的な商業家屋の倍の大きさを持つ建物が目に入る。ガラスを入れた両開きのドアを開けて入ると、商談スペースと仕事用スペースが目に入る。奥には会頭室が特別に設けられている。

 この時代、まだ店頭取引がメインではあるが、レーニアに寄った貴族や比較的大きな店舗の商人等は腰を据えて商談した方がいい取引なるのでは?と助言をした所、作られたのが商談スペースだ。前世で企業見学に行った時に見た事を伝えた程度だが、意外と効果が出ているらしい。


「こんにちわ。会頭いる?フェリシアから伺って来たんですけど。」


 受付にいるお姉さんに呼び出してもらう。


「やぁ、フミト。相変わらず一人だね」


 にこやかに握手してくるこのほんわかした男はエステファン=フェスティナ。一応男爵の称号を持つ貴族だ。父親がフェスティナ商会を立ち上げ、海運で実績を作った後病により死去、後を継いですぐとりかかったのが国内販路拡大。美男子といえる容姿なのと、頭は良いのだが、おかしいところが幾つかある。


「そういうエステファンこそ、シルヴィアさんの尻に惹かれてるんじゃないか?」


 失礼な人には失礼で返す。これは礼儀?


「彼女のお尻は魅力的だからね、それはいいものさ」


 と答えた瞬間、エステファンの頭が弾ける。


「あんた、アホなこと言ってないで仕事しな」


 このきつい女性はシルヴィアさん。エステファンの奥さんで3児の母だ。

 フェスティナ商会がまだ1国しか取引先が無い時に、俺が販路を安定させつつあった状況を見て、勝手に船に乗って取引先を1国決めてきてしまったすごい人。ちなみに女性ながら男爵の爵位を持つ人。フェスティナ家に嫁いだため、名誉男爵となってしまったが、男爵号を得たのは結婚前で、王都で実績を作り称号を頂いたからスーパーウーマンと言うところか。王都から離れたこの地に嫁いだっていうのはある意味厄介払いだったのかもしれない。伯爵にも楯突いたと言う噂も聞いたことがある。単なる噂だけかもしれないが、この人ならやりかねない。


「シルヴィア、痛いじゃないか。頭が割れてしまうよ。それに、君のお尻の魅力を伝えて悪いのかい?」


 火に油を注ぐようなことを言わないでください。


「ほんとに割ってやろうかえ?!」


 怒気をはらんだ声だ。両手を腰に当て、少し威圧するように顔を近づける。


「 「ごめんなさい」 」


 二人して即謝る。


「またフミトまで謝る。そんなに怖かったのかい?」


 少し呆れ顔で笑いながら。


「すいません、やっぱりちょっと怖いです」


 と言った途端に俺の頭が弾ける。痛いッス。


「そんな冗談言わないでよ。フミトとの仲じゃないの」


 笑いながら手が出る。これはツッコミなのか?


「僕は怒って歪んだ顔も大好きだ。歪んでも綺麗だからね」


 こらエステファン、収まりかけたこの状況を悪化させてどうする……。


 一息ふぅと息を吐いた後、一気に空気を吸うと、

「はっ!」


 という一声と共にエステファンが吹っ飛んだ。良いパンチだ。


「あんた!仕事しな!」


 怒りながら会頭室へ戻っていってしまった。


「大丈夫か?エステファン」


 いつものことだが、一応声をかける。受付嬢も苦笑いしてこちらを見ている。普段からあることなので、従業員は慣れたらしい。


「ああ、大丈夫だ。彼女は照れ屋なんだ」


 普通はそうは思わないだろうな。この状況では……。あーあ、右の頬が赤くなってる。膝も生まれたての子鹿みたいだよ?


「それで、今回の輸送先はどこなのかい?新人が二人就くというから近場だろうとは思うけど」


 気を取り直してお仕事お仕事。まだ受付のお姉さんは苦笑いしている。


「アピ支店に行ってもらおうかと。距離も近いし魔獣もそこまで強いのはでてこないしね。新人教育を含めればそのくらいが妥当じゃないかな」


 カクカクしながらいい笑顔で応える。

 アピは隣町だ。と言っても7日はかかる距離だが。


「それなら新人二人いても問題ないか。ちなみにどのくらいの新人なの?」


 どのくらい任せられるか考えなければならないので情報収集と。


「完全に新人だよ。一人はアイガーで戦士養成所出たばかり、もう一人は魔法学院卒業直後。冒険者登録したばかりで、装備も整ってないから乗合馬車でこっちに来たそうだ。どうもアイガーの冒険者ギルドはお金が無い冒険者をレーニアに集める傾向があるね。助かっているけど」


 考える時に頬に手を当てる癖があるのだが、ついついやってしまい痛そうな顔をする。


「ほんとに完全な新人だな。と言うか育成しろってことなのか?あのおっさんは。いい加減に後輩に席を譲れ」


 新人の頃にお世話になったアイガーのギルド長が、40歳ぐらいでギルド長になっていた為、未だにギルド長をやっているのだ。


「あの人も長いね。それで聞いた?3人目の奥さんもらったって。20代の元ギルド職員。まだまだギルド長の椅子は降りないつもりみたいだよ?」


 一夫多妻制。貴族だけに認められた特権。

 まだ魔獣の影響の多い土地が多く、安全な土地がそんなに確保できるわけではない上に、富裕層も貴族以外で多くはないので、余裕のある貴族が多くの女性を囲うのはしかたのないことなのだろう。一人でいいから分けてほしい。

 ちなみにエステファンは一途な為、シルヴィアさんだけ。決して怖いからというわけではない。


「ギルドの仕事早いし、冒険者の手配も早いし、女性への手も早い。泣かされた女性は幾人か知ってるんだがなぁ……。泣かなかった女性も幾人か知ってるんだよなぁ……」


 ギルド長なのにアイドルっぽい扱いを受けたりしてるのが不思議だ。

 後は貴族なのに嫌味じゃないところだろうか。


「僕は毎晩シルヴィアを泣かせてるけどね」


 と言ったところでエステファンの髪の毛が少し散ると同時に「ダン!!」と後ろで音が鳴った。なにごと?と思い、後ろを振り向いてみるとナイフが壁に突き刺さっている。

 恐る恐る振り返り会頭室を見てみると、ドアの隙間からどす黒いオーラが漏れているように見える。

 シルヴィアさんの特殊技能は感情のピークになった時だけ投げた物体を速度等のエネルギーを維持したまま転移ができるという使い勝手の悪いものだ。物量は2kg程度まで。質量は水筒程度。喜怒哀楽どの時でも利用可能。ピークと言うのも安定したものではなく、怒る感情でわかりやすいのが「キレた時」。キレて約5秒過ぎると失敗するとのこと。しかも、転移先はイメージ通りの場所ではなく、半径10m以内で、大体目標近くしか行かない。まぁ、他の感情で試したことが殆ど無いんだけどね。難しいし。喜びながら物を投げるなんてどうやればいいんだろう?狂喜乱舞?


「さて、仕事の話に戻ろう……」


 震える声で俺はエステファンに提案する。


「そうだね。お互いに天寿を全うしたいものね」


 慣れているエステファンでもこれにはまずいと思ったようだ。

 でも、受付のお姉さんは苦笑いしかしていない。どういうことだ?


「送る荷と馬車の数はどうなんだ?それとアピではティモールさんに渡すだけか?出発はいつに?」


 アピはフェスティナ商会の第1号支店だ。そこの支店長のティモールさんとは10年来の付き合いだ。アピでも小さな商会を商っていただが、フェスティナ商会の未来を見て支店になることを了承してくれた人だ。


「それで問題ないよ。彼なら渡すだけで問題ないからね。それで運ぶ荷は黒胡椒と、赤胡椒、海塩だよ。後はそれ以外の香辛料を幾つか。馬車は4台の予定だね。出発は2日後に」


 フェスティナ商会が大きくなった理由の一つがこの香辛料。地球の大航海時代でも黒胡椒はブラックダイヤとも呼ばれた物で、一粒でもそこそこ値が張っていた時に船の積載量満載で寄港できれば後はどれだけ良い販路を確保できるかで儲けが大きく変わるだろう。

 この黒胡椒を取り付けたのがシルヴィアさん。エステファンの頭が上がらない理由の一つになっている。と言うか自ら尻に敷かれているのは気のせいか?


「了解。しかし黒胡椒は盗賊に襲われそうだが、アピまでなら大丈夫か。盗賊が待ち伏せできないもんな」

 レーニア ~ アピ 間は草原がメインでアピに近くなると山地になる。森とかそのような隠れるような所が無いのと、草原地帯では足の早い魔獣が多く出るため、盗賊などが待ち伏せもしづらいらしい。

 最前線が2つ先の街ということで、強い魔獣が多いのかと思われるが、ここの地域はこの国で数少ない港があるため、一度騎士団と冒険者ギルドが組み、強い魔獣を一掃してしまった過去があるそうだ。


「ところで、ギルドには行ったの?」


「銀塩亭でフェリシアから依頼受けたから行ってないよ。もちろん報酬もわかんない」


 冒険者なのになんてことを言うんだろうと思うよね。


「まぁ、いつも通りだよ。新人教育の報酬はわからないけどね」


 冒険者ギルドに依頼していることなので、直接金額は聞くことは無いよ。

 教えてくれるとは思うけど、ギルドと商会の信用のために聞かないでおく。


「新人の報酬高いといいなー……なんてことはないよね」


 紙より薄い希望を持つ。


「何度もやってるからわかってるでしょ。安いんじゃないの?」


 ニッコリと微笑む。


「知ってるだろ、苦労の割に安いって教えたからね」


 よく愚痴ってるからね。


「まぁ、モノになるかわからない新人を教育するのはギルドとしても費用をあまり掛けたくないんだろうね。面倒見の良い冒険者って珍しいし、頼みやすいんだろうね。後は異性だったとしても安全だからだろうね」


 前向きな意見をありがとう。それと失礼な意見もありがとう。


「さて、準備しに戻るよ。それじゃ2日後に」


「よろしくねー」


 どんな新人が顔を見せるのか不安と期待があるけど、長く続けてもらえると良いな。


 せっかくの冒険者仲間だしね。


基本2話余裕ができてから投稿することにしています。

理由は前後の辻褄を合わせるためです。他には、後ろの話数で思いつきで書いたことが今なら反映できるかも知れないということですね。書いていくうちにすべての辻褄を合わせてしまう人は尊敬できます。


10/25 句読点の修正

2016/01/04 三点リーダ修正

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