乱戦
乱戦
〜〜〜〜〜
「報告致します!敵騎兵約50本陣に向かい進行中!!」
「なんだと?それっぽっちか?」
「はい!」
「なら、特に指示しなくても追い返せるだろう」
「はっ!了解しました!」
伝令が天幕から出ていくのを見計らってオットーは独り言を口にする。
「その程度、報告する必要があるのか?本陣は500の歩兵がいるんだ。10分の1の騎兵程度で私の所まで来れるわけがなかろう」
椅子に座り、ゆっくりとした体制になる。もう既に勝ったかのように。実際少しの小競り合いをした後、敵軍には死者が出ているが、こちらには一人も出なかった。怪我人は数人いたが、戦線復帰出来ないもの等一人も居なかった。その状況だけ考えれば、数で押し込もうとしている相手では、1対多数の訓練を積んでいるこちらにかなり有利な状況である。下手な奇策程度なら何も考えずに正面から粉砕すれば良い。
事前情報で、相手も将が一人だと言う事がわかっている。慌てることはない。確実に敵陣の敵将を打てばいいだけのこと。ある程度の手は打ってある。
なんとなく不安になり、天幕から表に出る。敵軍の方向を見ると、右翼部隊、中央部隊は確かにかなり押し込み、敵本陣近くまで進んでいた。左翼部隊は近いまでは言わないが、当初の敵衝突予定地よりこちらの本陣に近い位置まで押し込まれていた。
「ふむ。あれか」
左翼部隊と中央部隊との開き、開いた地点を4列縦隊で進行してくる騎馬の一団が居た。
「なんだ?あの格好は?」
「申し訳ございません、私には分かり兼ねます」
「まあ、気にするな。弓で追い返せ」
「はっ!」
オットーが訝しむのも無理はない。敵騎兵の背中に膨らんだ袋を付けているのだ。しかも全騎。更にはその袋の色が真っ赤であるのも怪しむ要因の一つだ。
騎馬隊がそのまま進行してくる。弓の射程内に入り、斉射すると矢の圧力からか、右翼方向に反れ、そのまま奥に進行していった。
「なんだあの赤いのは?」
「さあ……」
何がしたいのかさっぱりわからなかった。そして数も少ないし何も出来ないと判断したオットーは天幕に戻ってしまった。
〜〜〜〜〜
「行ってくるねー」
少し離れた辺りで集合していた騎馬隊の中にいるノンナからのんきな声がかかる。
馬上のノンナは、いつもの装備に加えて、膝辺りを守るための鎧を追加し、普段嫌がって付けないヘルムも付け、動きにくそうになっていた。シザーリオも、普段の馬装に加え、鼻の上、喉元、胸部、前両足を防ぐための鎧を付け、重装備の騎兵に仕立て上げられていた。普段からおとなしい性格のシザーリオではあるが、ここまでの重装備、嫌がるかもしれないと思ったが、この様な訓練をしていたのか凛々しい姿をしていた。まあ、ノンナというイメージが凛々しい姿を崩しているのは間違いないのだが。
しかし、ノンナの背中についている袋状のもの、母衣が全体的に凛々しくかっこ良く仕上げている。だが、西洋甲冑に母衣というのもちょっと自分の中のイメージとズレがあるのだが、マントがひるがえっていると思えばカッコイイと感じるだろうか。
ただ、整列した騎馬隊のカッコイイ一団からのんきな声が俺達にかかるので、他の冒険者から奇異な目で見られたのは言うまでもない。俺も、ノンナも。
全部で41騎の赤母衣の騎馬隊が4列縦隊で進む。
揃った鎧で、足の歩法は若干ちぐはぐだが、定期的な音を奏でる。槍やランスを持った騎馬隊は正面からではかなり威圧感を与えるだろう。
だが、その相手が約500という数の歩兵でなければその威圧感だけで相手を降参させることが出来るだろう。10倍の兵力差。いくら歩兵に有利な騎兵だとはいえ、この兵力差はどうすることも出来ない。下手に突撃しても敵将に届くまでに勢いを殺され、敵陣の中で孤立し、全滅してしまうだろう。
騎馬隊に突進命令が出、駆け足で敵陣に進む。
敵部隊も弓の射程圏に入り、矢を放ち始める。
盾や槍で矢を防ぎ、突進を進めるが、次第に左に反れ、味方左翼側、敵本陣右後方にある森へと消えていった。
敵兵は背中を向けた騎馬隊にも容赦なく矢を放ち攻撃する。しかし、41騎の騎馬隊は、一人も欠けること無く森へと進んでいった。
「どうやらアルドは覚えていたようだな。それに上手く行ったな」
「上手く行ったって何?」
直ぐ後ろに居たティアから俺のつぶやきに対し質問が来る。
「ああ、あのやたら派手な背中のマントみたいな奴、すごくおかしかっただろう?」
「風がないのにひらひらしてたね。カッコ良かったと思うけど?」
どうやら、カッコイイと思ってた俺の感性は間違っていなかったようだ。少しだけホッとする。
「そうか。それで、あれは母衣って言って、矢を防ぐための布なんだ」
「布?そんな程度で矢を防げるの?」
「ああ、ひらひらした布って意外と矢だと打ち抜きにくいんだ。布が矢の勢いを吸収しちゃうからね」
「あー、なんとなくわかった」
さすがに弓矢の名手、その様な体験があるのだろう。
「全面は鎧や武器で守れるけど、背中って鎧を厚くするしか無いでしょ。でも、厚くすると重くなって動けなくなる。馬でも重さで速度が出ないってなると意味がないからね。それで、背中を矢から守るためにあの布で作られた母衣を使ったんだ」
「アルドさんはそれを自分で開発したの?」
「いんや、昔俺が教えた。前世の世界では人間対人間の戦いが非常に多くてね、その中で発展していった一つだよ」
「なるほどねー」
まあ、俺のいた時代では母衣なんて何?って人が多いだろうが。それに、鉄砲の玉に布はほとんど効果無いしな。
「冒険者のみんなにもつけたらどう?」
「あー、あれは馬の速力で布が舞うから矢を絡めとることが出来るんだ。風がない状況だったらほとんど意味ないよ」
「なーんだ。残念」
騎馬隊が完全に森の中に消えてしまい、周りの冒険者から落胆の声が上がる。何しに来たんだ?逃げた?腰抜け等多くの不安要素を掻き立てる言葉が行き交う。
「冒険者達よ!!時は来た!!」
ダグラスが大声で冒険者達に伝える。不安になっている冒険者達はとりあえずダグラスの発する言葉を待つことにした。
「彼ら、騎馬隊は陽動部隊としてまず敵軍の矢の損耗を増やすためにあえてあの様な行動をしてもらっている」
この言葉に感心する奴もいれば、その様な行動に意味があるのだろうかと表情に出しているものも居た。だが、実際に少なくない量の矢を騎馬隊は打ち込まれていたため、結果を見ているのでとりあえず納得するというものが多かった。
「約300対敵兵500の戦いとなる!人数差はあるが、一人ひとりの力量では我ら冒険者は毎日命をかけて戦い、命をかけて守っている。その様な俺達に、負けがあるはずがない!!」
「おおおーーー!!」
少々納得できない様な言葉のあとではあるが、冒険者の心をくすぐる様な言葉を出すと、冒険者達はその言葉に応じ大声を上げはじめる。
「全員、出撃体制を取れ!」
「おおーー!!」
「出 「あのー」 ……?」
ダグラスの言葉を遮る少し間抜けな声。ダグラスの近くに入る冒険者からだった。
「なんか、敵部隊別れていきますよ?」
「お?」
ダグラスからも間抜けな声が漏れ出る。だが、敵本陣を見てみると、少なくとも100人以上、200人近くが離れていく。敵右翼、しかも森の方に。
「ひょっとして、さっきの騎馬隊を倒すために出ていったんじゃないっすか?」
手柄を求め、部隊から離脱する。後方部隊であるがために、戦うことが出来ず、手柄が無い。確かにその様に考えられる。だが、俺達の事をおびき出してから横槍を入れに来る。そういうことも考えられる。
「これは好機だ!! だがお前ら!! まだ出るんじゃないぞ!!」
「何時出るんっすか?」
「そう簡単に戻れない位置、森の中に消えてから俺達は突撃する!! 先走るんじゃねえぞお前ら!!」
「おおおーーー!!」
「我慢しろよー!!」
「おおーー!!」
ダグラスはどうやら敵が離脱すると言う考えに至ったようだ。俺でもそうする。いや、そうする他に手はない。何故なら、俺達の部隊が多数であろうが少数であろうが、敵司令官を倒すことが絶対条件になっているからだ。
兵の対人としての練度の差、上り坂と言う地形の不利、司令官が一人と言う大国にあるまじき不利。これらを抱えて勝利しなければならない。しかも、勝利は最低条件であること。ユーベルが関わっていること、アルドがいる、ダグラスがいる。この条件が無ければ俺だって逃げ出したいくらいだ。だが、逃げられない。天幕に入った時気づいた事がある。あいつと副官の二人しか居ない。本来なら副司令官やら幕僚やら補佐やら色々な人物の紹介を受けると思っていた。しかも、レンティを欲していた。まあ、話し相手程度かもしれないが。つまりは、それだけ人材不足だと言う事がわかった。
しかも、負けたら責任を取らされ、多分死ぬだろうという事も。基本バカだが、あいつは俺の友人だ。かけがえのない友人。背中を預けられる友人。そんな奴が命をかけた戦いをしているのだ。俺もあいつを助けるために命をかけるつもりだ。最初は適当に終わらせ、ユーベルだけ上手く倒せればいいや、みたいな気持ちだったが、こんな状況ではとても中途半端な気持ちではいられない。まあ、大きな貸しを作ると思えばいいかと思ったりはするが。
寄せ集めの集団である冒険者部隊に全てを頼まなくてはならないのにはやはり戦闘経験の差だろう。ダグラスも言っていたが、毎日死と隣合わせの生活をしている冒険者には、一般兵士と比べて生存本能と言うべきか、戦闘本能と言うべきか、ともかく熟練冒険者であればあるほど死の匂いを嗅ぎ分ける力が強い。特に大量の魔獣と戦っている時に発揮しやすい。その様な状況で相手を倒し生き残る事が出来る冒険者なので、対人戦闘経験の少ないこの国の中でも一番の精鋭と言えるだろう。
ともかく、俺達は死力を尽くして敵司令官まで届かなくてはならない。だが、少なくともここにいる3人は生きて帰らせたい。それを心に留め、ダグラスの命令を待つことにした。
「そろそろ敵離脱部隊が森の中に入りきります」
ダグラスに対し、監視からその様に報告がくる。
「お前ら!!準備しろ!!」
「おおーーー!!」
「俺達でこの戦いを終わらせるぞ!!」
「おおーーーー!!」
「行くぞ!!前進!!」
「おおおおーーーーー!!」
5列縦隊で騎馬部隊と同じように敵中央部隊と敵左翼部隊の隙間から敵本隊に向かい進軍する。
足音は不揃い。武器や防具も不揃い。だが、全てが規則的な音に威圧されていた中、完全に自由な音を鳴らすこの部隊は異色だ。
右翼部隊に抑えこまれている敵左翼部隊から畏怖の目で見られているのに気づく。だが、全員その様な目を気にせず、敵本隊を目指す。
敵弓兵射程圏内まで後少しと言う所でティアとナイアから声がかかる。
「フミト、リーア。悪いんだけど私達のこと歩きながら支えてくれる?」
「わかった。どうすれば良い?」
「これから二人で精霊魔法を使うわ。だけど、歩きながら使うのが難しいのよ。だから、支えてもらおうと思ってね」
「ああ、わかった」
ナイアの補助をリーアが、ティアは俺がすることになった。元々、リーアのサポートをナイアにお願いしていた。ティアは俺の後ろを着いて来てくれと頼んでいた。単純に直ぐ後ろにいるからそのまま補助にと言う事だ。
「ナイア、行くよ」
「はい!」
そう言うと二人は歩きながら目を閉じ瞑想する。俺とリーアは二人を抱えながら歩き続ける。少しすると瞑想が終わり、二人は目を開ける。手を離して良いのか確認するために顔を見た所、目を開いているが目の前を見ていないと言ったらわかるだろうか、それともトランス状態とでも言おうか。このまま手を離せば良くないことが起こりそうでそのまま抱えたままにする。
「我らが友よ」
「我らが同胞よ」
二人は両腕を空に向け広げ、次々と言葉を紡いでいく。
「火の友よ」
「水の友よ」
「土の友よ」
「そして、風の友よ」
「過去、現在」
「そして未来へと紡がれていく我らが家族よ」
「私が」
「私達が」
「愛するもの願いを」
「そして祈りを聞き入れ賜え」
その言葉が終わると共に二人から力が抜け倒れそうになるが、なんとか踏みとどまる。だが、歩みを止めることが出来ないので少し引きずりながら進む。リーアの方も何とか体を支えていたが、倒れそうになっている所を隣の女性冒険者から助けが入りナイアを二人で抱える形で歩んでいた。
精霊への願いを何かしたのだろうと言う事はわかる。だが、すぐ敵弓兵の射程圏内に入ってしまう。早く起こしたいが、こうなった時の精霊使いに対し、どういった対処が良いのか全くわからない。
敵兵の隙間から弓隊が構えているのが見える。狙いはもちろん俺達の部隊に対してだ。何故この様なタイミングで精霊へコンタクトを取ったのか、何をしたかったのかさっぱりわからない。ひょっとしたらダグラスからのお願いというやつかもしれない。だが、彼女たちは聞いても教えてくれなかった。
苛立つ。教えてくれなかったことにも苛立ちがあるが、それ以上にこのままだと彼女たちを守ることが出来ない。いや、自分を盾にすれば守ることが出来るかもしれない。最終手段としてはそれを行うつもりだが、それを行うと敵部隊を突破し、敵司令官を倒すことが出来るのかわからない。
魔法、万能かと思われる魔法。この冒険者部隊にも幾人か魔法使いがいる。それも、攻撃特化している魔法使いばかりだ。だが、防御に特化した魔法使いがいようが、物理攻撃を無効化出来るような魔法など無い。盾を強化して盾を貫かせない程度ならできるが、今の俺には盾が無い上に一人抱えたままだ。
何も出来ない。この無力感が今非常に苛立っている。
しかも、ダグラスはこの状況を改善させるための命令を何もしてこない。だが、少し後方にいるダグラスの顔が一瞬見えたが、笑っていた。だが、俺はその笑いを知っている。不安、恐怖、もしくは痛みに耐えている時、あいつがする笑いだ。それが理解できた時、俺は色々なピースがはまったようにストンと心が落ち着くことが出来た。
敵弓兵の射程圏内に入り、ダグラスの位置まで弓が届く所まで進軍した。敵兵からの号令が聞こえ、視界の上部に次々と細長い影が飛び出してくる様子が見える。その内の幾つかが俺の頭や体を貫く軌道を取っているのがわかった。避けることは出来ない。もし避ければティアの体に突き刺さるだろう。恐怖は無いと言えば嘘になる。だが、既に覚悟を決めた。このまま歩き続ける。
だが、矢があと数メートルと言う位置で次々と軌道が左右にわかれていく。工場のラインに沿って商品が進むかのように矢がそれていく。風切り音と矢が地面に突き刺さる音が次々と鳴り続ける。
周りの冒険者は何が起こったのか不思議な顔をしている。盾を構えていた者も雨が上がったかのように空を恐るおそる見上げていた。
「冒険者たちよ!!我らは今、風の精霊の加護を受けている!!」
ダグラスから全冒険者に対し、現在起こっている現象に対しての説明があった。俺は多分その様なことだろうとピースがつながった時に気づくことが出来た。
「敵兵の矢の斉射が終わり次第、突撃をかける!! 総員、突撃準備!!」
「おおーーー!!!」
掛け声が耳に入ったのか、ティアとナイアが目を覚ます。だが、まだ足元が覚束ない様なのでまだしっかりと支えておく。
「大丈夫か二人共?」
「うん。大丈夫」
「はい。ご迷惑をお掛けしました」
顔色は良い様だ。ただ、少し疲労したような感じが受けるが、戦場で休ませることは出来ない。
「いや、二人こそありがとう。精霊にお願いしてもらったんだよね?」
「うん。ナイアが居なければちょっと危なかったけどね」
「いえ、ティアさんが居なければ危なかったです」
「危なかった?」
二人が揃って危ないと言う単語を使う。少し不安になって思わずオウムのように反復してしまった。
「ちょっと持っていかれそうになってね」
「持って行かれる?」
「精霊達の濁流とでも言いましょうか、その中に身を投じていたので」
「ほー……、流されるとどうなるの?」
「多分死んじゃう」
「え?」
「肉体は生きていたかもしれませんが、精神は戻らなかったでしょうね」
つまりは植物人間とういことか……。それほど危険なことをさせていたとは知らず、少しダグラスに対し苛立ちが出てくる。
「すまない、二人にそんなに危ないことさせていたなんて」
「ううん、ここまで凄いことになるとは思ってなかったんだ。もうちょっと楽にいけるかなって」
「そうですね、私も少し楽観的に考えてました。ですが、どうやら二人の気持ちが強すぎたようで……」
「本当なら緩やかに矢がそれていくはずだったんだけど」
「こんなに急に曲がるなんて……」
「ちょっと頑張りすぎた?」
ここまで会話してようやく足取りが戻ってきて手を放すことが出来た。二人には本当に危険なことをさせてしまったようだ。申し訳なく思う。それと、ダグラス、後で一発殴るからな。
「散会突撃!!」
ダグラスから号令がかかる。
走りつつ二人に体の様子を聞くが、特に問題ないと言っていた。突撃命令が出た後だ。もう彼女達を信じるほかない。
突撃の命令が出た後、敵本隊からも突撃命令がでる。敵部隊との違いはこちらは散会しての突撃なのと、敵部隊は集結したままの突撃だという事だ。こちらが散会している理由は軍事行動対軍事行動であれば、圧倒的に不利であるからだ。各々勝手に動く冒険者たちをそう簡単に規律に当てはめ動かせることなど出来ない。それならば、パーティー単位で自由に行動させ、行動方針だけ守らせれば良いという事になった。
「おらぁーー!!」
「殺せーー!!」
まるで野盗の様な掛け声な冒険者部隊。どっちが悪者だと少し呆れながら聞いているが、敵兵は正規の戦いを想定していたのか、突撃の足取りが揃っていない。規則正しくない音が何をしでかすかわからない音と判断されているのだろう。おかげで最前列に出た俺の対峙するだろう敵兵の足取りが他より遅く鈍い。
敵兵に接触する前、リーチの長いカタナを横にし、敵兵士の目を貫くつもりで突きを放つ。本来ならこのくらいの長い武器の突きはこちらの武器が折れてしまう可能性があるからやらないほうがいい。実際本当の日本刀は刃の長さが60cmほどだ。確かなことはわからないが、それ以上長くならなかったのは取り回し以外にも突きを多用する日本刀では、長いと折れてしまうからだろうと思う。その様なリスクを追いつつ突きを放つには意味がある。
敵兵士の目を貫くつもりの突きなので、相手は遅い足取りに加え、ブレーキがかかる。そこに合わせて走った勢いで敵兵の懐に踏み込み背中で吹き飛ばす。
生前の学生時代、とあるポリゴンだらけの格闘ゲームがあった。そのとあるキャラクターの技に同じようなものがあった。それを友人と真似し、背中同士をぶつけて遊んでいたのだが、ふと体の運用を変えてみた所、自分より大きな友人が軽く吹き飛んでしまった。力をそんなに強く込めてないのに。
今までは魔獣相手であったため、使うことが無かったが、今は問題なく対人技を使うことが出来る。
吹き飛ばした敵兵はそのまま後続の敵兵士に踏まれ、見えなくなった。そのまま次に向かってきた敵兵を同じように目に付きを放ち速度を落とさせる。突いたカタナをそのまま首筋に巻くようにして近寄り、空いている左手で相手の右腕を掴み、大外刈りをかける。普通の大外刈りと違うのは襟を掴むのではなく首を切ると言う動作になる。足をかけられ倒れずに耐えたとしても首を傷つけられる。首の傷を負わないようにしても倒される。敵兵は鎧の首ガードでカタナを防ごうとしていたようだが、上手く角度を変え押し切る。派手に血が吹き出ると、信じられないという顔をしながら敵兵の力が抜ける。それに合わせて後ろに倒す蹴りを入れるとそのまま倒れていく。
左右に目を向けると、リーアは上手く盾と剣を利用し、二人を相手にナイアまで手を出せないようにしていた。リーアは上手く体を開け、その隙にナイアが弓で敵兵士の目を穿つ。もう一人はリーアによって敵兵の利き腕の小手と鎧の隙間に剣で差し込み、武器を落とすことに成功していた。
そのよそ見の間に敵兵が俺に剣を振りあげて来たが、ティアがその隙を見逃すはず無く、開いた口に矢を打ち込み絶命させていた。
おかげで隊列に隙間が出来、裏で待機している弓隊への道が開けた。
その道を慌てて右から塞ごうと敵兵が出てくるが、カタナを両手で構え、上段から大きく振り下ろして敵兵の利き腕を狙う。
敵兵は慌てて剣で防ごうと剣を傾けるが、重量と勢いがこちらのカタナが勝り、剣を押しこみ、更にはカタナの切っ先が敵兵の腕にめり込んでいた。
戦意を喪失した敵兵を蹴ってどけ、弓兵に斬りつける為に体を押し込む。
「おらぁ!お前らどうした!!剣を持った魔法使いに手柄取られるぞ!!気合入れろーー!!」
「おおーー!!」
ダグラスが敵兵を斬りつけつつ、他の冒険者へ気合を入れる激が飛ぶ。
俺のことを魔法使いと知っている者も、知らない者も、かなり気合が入ったようで、鉄のぶつかり合う音が一段と激しくなる。そして、俺のいた中央付近は、より混沌とした隊列など無い戦い、乱戦へと移行していく。
〜〜〜〜〜
「ひぃぃぃ!!」
「うわぁぁぁ!!」
フミトさんが単独で敵部隊内に行ってしまった後、ちらほら聞こえていた悲鳴が自分の近くで聞こえるようになった。ティアさんは時折遠くに矢を放っているので、多分フミトさんの位置をわかっているのだろう。ただ、たまに敵兵が攻撃してくるのでカタナに持ち替えて対峙していることが増えたのが少し不安要因だ。リーアさんに余裕がある時は私が助けを出し、今の所怪我はしていない。リーアさんは、さすがハパロバさんに鍛えられただけあってか、かすり傷一つ無い。全て盾や剣、あるいは鎧で防ぎ、相手が3人までなら圧倒することはなくとも、一人で防ぎ、戦い続けることが出来ていた。
初めのうちはこちらにも余裕がなく、相手にも戦意が高かった為、一撃で致命傷もしくは、死に至る攻撃をしなければならなかった。次第に余裕が出来、利き腕や、足等を傷つけ、戦意を喪失させ、撤退させることが出来、約10人くらい撤退させた辺りで、3人にはあまり近づいてこず、遠巻きで見ているだけになってきた。
そうなると周りを見る余裕が出来、近くの冒険者達が不利になっている状況を改善すべく弓に持ち替え、次々と矢を放ち援護する。
左翼側を2人致命傷にならない位置に矢を打ち込み、撤退させた所でまた情けない悲鳴が聞こえる。
「わあぁぁぁあ!!」
「うひぃぃいぃ!!」
敵兵士が発している声にしては、目の前で死んだ兵士や撤退した兵士と違いすぎて理解に苦しむ。そうなると、自分たちの冒険者部隊にいるのかと思い、視線を悲鳴の方向に向けるとへっぴり腰で逃げ回っている冒険者の姿が。
目の前の敵兵をリーアさんに任せ、その冒険者の様子を見ると、二人いることがわかった。それも、先日レーニアで大言壮語を言いふらしていた確か、アスドバルとアネトンとか名乗っていた二人だ。
だが、ただへっぴり腰で戦っているのならまだいいのだが、敵兵から逃げ回っている。今の所周りの冒険者への被害が出ていることは無い様だが、このままではいつかは被害が出てしまうだろう。
「何あれ?」
「何でしょうね……」
ティアさんからも妙な二人に気づいて声が出る。私にも呆れる状況だったので、投げやりな答えになってしまった。
「熟練冒険者みたいな事を言ってた記憶あるけど、やっぱりなんにも知らない冒険者だったね」
「冒険者でも無いかもしれませんね」
「どういうこと?」
「街で住民に対して高圧的な乱暴者っているじゃないですか。本当の冒険者に対しては見つからないようにしている小さな人」
「あー……、それっぽいね……」
そう言うとティアさんは興味を失くしたようにフミトさんがいるはずの方向に向かい矢を放っていた。
私は残り少ない矢を使い、こちらに逃げてくる二人の足元に矢を打ち込むと、二人は簡単に転んでしまった。
「うわぁっ!」
「えっ、何っ?」
後ろを気にしつつ逃げていた足の側面に矢が突き刺さったので横倒し状態になる。
慌てて起き上がろうとする二人に構え直した矢を二人に向ける。
「ひぃぃぃぃ!!殺さないでくれ!!」
「うわぁぁ!!死にたくない!!」
武器も捨て、両手で顔をかばう二人。この行動を見て呆れ果ててしまった。魔獣に対してもこの言葉を言うつもりなのだろうか?
「黙りなさい」
「ひぃぃいぃ!!」
「助けてくれぇぇ!!」
「黙りなさい!!」
ようやく静かになった二人。なんでこんな二人がこの場所、しかも戦場にいるのだろうか……。
「二人はアスドバル、アネトンと言いましたね?」
「は……はい……」
「何故ここにいるのですか?」
「え……?」
二人は恐怖の表情から変わることがなかったが、怯えてこちらをまだまともに見れていなかった。だが、この質問で少しこちらに視線を向けることが出来たようだ。
「何故ここにいるのですかと聞いています」
「は……はい!僕達二人は冒険者として今回の横暴を見過ごすことが出来ず……」
「嘘ですね」
二人で決めていたような嘘をつく。そしてその嘘がわかった以上、その言葉を続けさせるにはこちらの暇と忍耐の余剰分は無い。
「う……嘘じゃ……」
「黙りなさい。これ以上余計な嘘をつくのであれば、私達冒険者部隊に反する者として排除します」
そう言うと恐怖の上に強張った表情へと変化していく。装備で言えば、私がフミトさんと再会した時より良い装備をしている。そんな者達が私達の中をかき乱す。いくら周りの状況を把握することが得意、乱戦が得意な冒険者部隊とはいえ、意図しない混乱を招く存在と言うのは存在しないほうがいい。味方殺しと今後呼ばれてしまうかもしれないが、勝つため、他の冒険者を生かすためには仕方がないだろう。
ティアさんが見ているとはいえ、フミトさんが見えていない状況と言うのは不安がある。この戦場の最終局面となるであろうこの一手。こんなモノに割いている時間はない。そう思い弦を引き始める。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「僕達はただ冒険者になりたかったんです!!有名になりたかったんです!!」
泣きながら告白する二人を見ると力が抜けてしまった。
「あなた達、冒険者とはどういうものかわかっていますか?」
この質問に二人は若干泣き止みながら答える。
「冒険をする人?」
「魔獣と戦う人?」
未成人でももっとまともな答えを出すだろう。精神的に圧迫され泣いている状況とはいえ、酷い答えだ。
「仲間を助ける者ですよ。あなた達は冒険者にはなれません。さっさと逃げるか、死になさい」
冷徹、そして不寛容な一言が出る。二人を啓すことや、教えること等、今の状況を考えれば、出来るわけがない。その言葉も致し方ないだろう。
「嫌だ!!死にたくない!!」
「冒険者になりたいよ!!」
まだこんな事を言うのか。この二人は……。
矢も残り少ない。この二人に使うのにはもったいない気がしてきた。
「わかりました。殺すことはやめましょう。それと、冒険者になりたいのなら、足掻きなさい。味方に迷惑をかけてもいい。生き恥を晒してもいい。敵に向かって足掻き続けなさい。足掻き切った後でダメだった時は潔く死になさい。死にきれなかったら私が殺してあげます。わかりましたか?」
「はいっ!!姉さん!!」
「わかりやした!!姉さん!!」
そう言うと二人は剣を握り直し我武者羅に敵兵へと向かっていった。
「本当に怖かったみたいだね、ナイアの事。しかも姉さんだって。しばらく付きまとわれそうだね」
そうティアさんから言われて気づく。彼らが座り込んでいた場所に水を吸ったシミが2つ出来ていることに。
「なんで戦場に来てこんな事に頭悩ませなきゃならないのでしょうか……」
フミトさんから聞いた言葉が浮かぶ。「袖振り合うも他生の縁」フミトさんの前世での言葉だそうだ。意味は大体、人は何かに関わっている、袖がふれあうのも運命みたいなものだと言っていた。
「こんな運命は遠慮しておきたいですね……」
〜〜〜〜〜
「さっさとあの雑多な者達を排除せんか!!」
伝令からの報告を聞きつけ、慌てて天幕の外に出て確認する。本陣目の前にいるはずの兵士達が少し前進した辺りで武器や防具、人種までも不揃いな者達と乱戦になっている。
陣形を持ってなんとかこちらの兵と均衡していたはずの敵軍。乱戦という事は、個々の能力が高くないとこの様な戦術は取れない。戦況を観察してみるとこちらの隊列は真ん中は完全に崩され、楔を打たれたような形で敵兵がなだれ込んでいた。
「左翼の部隊が近いだろう!そこから連れてこい!」
「敵左翼が上手く展開して、右翼部隊を半包囲、更には左翼左側にある森に押し付けられています!」
「なんだと!それなら、右翼でも中央部隊でもいい!どうにかならんのか!」
「本陣から離れすぎています。更に、両部隊とも半包囲され、難しい状況です!」
「なんて約立たず共だ!絶対に死守しろ!!」
「はっ!!了解しました!!」
「それと、例の部隊はどうなっている?」
「伝令は届いておりませんが、順調のはずです」
「クソッ、思ったより抵抗しよる。早くついて皆殺しにすれば良い物を……」
オットーは苛立ちを隠すこと無く伝令に対しぶつけていた。
無理やり詰め込んだ感じになりました。急いで書いているので、誤字脱字等がありましたらご連絡いただければと思います。
オリンピックも最終日になり、学生の夏休みもほぼ最終週となって来ましたね。宿題の追い込みはそろそろ始めたほうがいいと思いますよ。
私もいつもこの時期から初めて苦労しました。




