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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
65/83

緊急

緊急


 パーティーメンバー全員での冒険者活動は、リーアが手紙を読んで精神的に不安定になっていることを考慮し、1ヶ月は冒険者活動を止め、休息する事を宣言していた。まあ、回復して問題がない場合は別だが、とりあえず資金にも余裕があるのでゆっくりしようという事に。


 おかげで、自分の商会のことに専念でき、年間予定、生産目標、販売目標、輸入増加依頼、増産用樽手配、増産用器具作成手配等、本来であれば、既に作り上げていなければならないような計画等を今更ながらに作っていた。おかげで、とても忙しくなる事が判明してしまったのだが。

 他の時期で、他の農家などで使われず、売られずに余っている乾燥唐辛子を粉末にし、ラー油を作る為の下ごしらえをすることと、7月辺りから収穫できる唐辛子をチリソースにするために、みじん切りにし、樽に入れ、熟成させる指示。これに関しては従業員のエレイメイとラパンの二人は理解しているだろう。まあ、この時期はそんな手間でもない。ただ、しばらく顔や敏感な粘膜等を触ることが禁止される程度だ。一応手配した器具はミートチョッパーみたいな物なので、ゴリゴリ回していれば多分問題ないだろうと思う。これに関してはミソづくりでも利用できるので、複数作成依頼している。

 それ以外には酒米を精米し、米ぬか以外の米粉を利用し、せんべいの露天でも行うことにした。横20x縦15cmほどの鉄の網と言っても、1cmほどの鉄の板を格子状に編んだものだが、これを作ってもらい、米粉で練り上げた乾燥せんべいを目の前で焼き上げ、ミソをセイシュで溶いた液を薄く塗り、再度焼き上げる。この匂いでふらふらと寄って来た子供をメインに広めてもらうことにした。

 実際、シルヴィアさんに許可をもらい、出店料を売上の10%支払う事にし、1日だけ、しかも昼過ぎに1刻だけ、材料完売次第終了と言う事で開いてみたのだが、焼きあげると次々に売れてしまい、約1刻半程で400枚完売した。この日は予想外に大人が買い求めていくことが多かった。商会が軌道に乗った場合は、精米時に出た米粉だけではなく、その米自体をすべてせんべいにすることを考えても良いかもしれないと思えるようになった。

 今の所、清酒もミソも、このせんべいも作り方はうちの従業員二人、そしてフェスティナ商会ではシルヴィアさんとエステファンだけが知っている。まあ、清酒とミソに関しては、作り方がわかっても、麹カビが見つかることはかなり難しいことだと思うので、簡単には真似ることが出来ないだろう。せんべいに関してはフェスティナ商会が米を仕入れた港と同じ港を利用している商会があるので、そこからたどり着くことがあるかもしれない。まあ、ミソとセイシュの液を作ることは出来ないので、塩せんべいくらいしか出来ないだろうが、こちらはその塩せんべいは作ることはしない。従業員や知人の間だけで行うこととしてある。その理由は、せんべいの独占販売したい為である。他の味で作れるかもしれないと言うヒントを簡単に与えるのは経営としては良い方向ではないよね?

 金額はせんべい1枚で銅貨1枚、いわゆる1枚百円相当で販売した。やはり子供からブームを作るためには安い金額ではならないと思ったためだ。子供のお小遣い程度で買えなければ子供から火が着くことはない。銅貨1枚でも高いと思っていたが、こちらの人件費や材料費、出店料を考えるとこのくらいは必要になるだろうと考えた為だ。実際競合店が増えてきた場合は値下げを考えなければならないが、これでもそこそこ厳しい金額となる。食事の代わりにはならないので、早朝売れることは無い。昼近く、小腹がすいた時間になら売れるだろう。あわせて昼過ぎ、夕食の少し前くらいの時間なら売れると思う。ピークタイムは2回と想定し、その間に売れるせんべいの量は約600枚程度だろう。熱々の焼きたてせんべいだけを想定すればだが。そうなると、約1日小金貨3枚。このくらいだと人件費で1日4人で小金貨1枚、材料費(米代、蒸し・練り・型抜き・乾燥、工程人件費)を考えると小金貨1枚、出店料で銀貨1枚と小銀貨1枚となると、炭代や火種代を考えると小銀貨1枚程度はかかるので、純利益は小銀貨3枚程となる。専門に行えば、材料費はもう少し抑えることは出来るだろうが、現状はこれでも精一杯だと考え、この金額にした。

「もう少し高くしても良かったかなー……」

「そうですね、子供より大人が群がるとは想定外でした」

 エレイメイからも誤算という言葉が漏れでた。まあ、予想外でも良い方向への予想外だから結果オーライと。

 しかし、生前、大学で経済学の他に経営学をまともに学んでいればよかったと今更後悔する。経済学も適当にしか学んでないのだが。まあ、なるようにしかならないのと、いざとなったらシルヴィアさんという大きな後ろ盾があるので本心からそう思わなかったが、居なかったら厳しい戦いになったであろうと少し背筋に冷や汗をかく。


 フライを振舞った数日後の午後、気分が戻ったリーアと戦闘の訓練にする。ノンナも参加してきて、2対1、リーアが元立ちで俺とノンナが攻撃と言う形をとった。ハパロバに相当しごかれていたので、意外と簡単には攻撃を当てさせてくれなくなった。急成長具合が非常に頼もしい。ただ、ノンナの変則的な攻撃と、俺のカタナの起動、これが非常に厄介だとは後々聞いたらぼやかれたのだが。

 レンティやナイアは、基本フェスティナ商会のデスクワークをしていた。冒険者活動は単独ではしていなく、自分を活かせる仕事を選んでいるようだ。まあ、レンティに関しては今後自分の商会を持つ、そして後を継いだ時に役に立つだろうから今は勉強の時なのかもしれない。

 ティアは両親の店でいつものとおりに看板娘(仮)をしている。やはり、母親の人気には勝ててないようで、この前愚痴を言われた。


 そんな穏やかな日常がとある日の朝、冒険者ギルド職員の緊張した声を持って崩されていく。

「レーニアに居る全冒険者に告げる!本日昼過ぎ、冒険者ギルド近くの広場に集合されたし! 繰り返す、本日昼過ぎ、冒険者ギルド近くの広場に集合されたし!」

 冒険者ギルドがこの様な緊急を要する要請をすることはほぼ無い。あるとしてもここまで大々的に募集はせず、職員の知っている冒険者や、冒険者が多い酒場等に向かい、募集することが多い。俺が知る限りは前回のグリフォン事件以来の事だ。

 滅多に無い状況なので、街の住人は不安な言葉が次々と口々から出てくる。更には、集める理由がわからないために、憶測が憶測を呼び、より混沌とした議論へと変わっていく。冒険者側も、住人と同じように混沌とした議論へと陥ってしまっていた。


「フミトさん、あの冒険者ギルドの招集、なんのことだかわかりますか?」

 昼食時、少し早めに取ろうと店に入った所、ナイアが親父さんの見えるカウンターに座っていた。その隣に俺も座ろうとしたが、他の女性客から白い目で見られ、ティアも早い昼食を取り、招集に向かうことになっていたので、テーブル席で一緒に食事することになった。

「いや、全く心当たり無いよ。なんだろうね?」

「この前、レーニアに帰ってくる時に通り過ぎたあれ、緊急伝令隊じゃない?そう思わないフミト」

 ティアから言われ、そんな事もあったなと思い出す。

「確かにそうかも。でも、内容まではわからないな。人数少なかったし、装備も俺の知っている装備よりかなり少なかった」

「それだけ緊急だったと言う事なのでしょうか?」

「それはあり得る。3人だったというのはそれだけ緊急事態だったという事かもしれない」

「つまり、何があったの?」

「なんだろう?大型魔獣に襲われたとか、魔獣の一団に襲われているとか、そのくらいしか想像できないけど」

 簡単にイメージ出来ることはこのくらいだろうか。正直、今まで生きてきた中ではこれ以上のことが無いので想像することが出来なかった。

「襲われたのは何処でしょうか?やはり、ケイトウですか?」

「グリフォン倒しちゃったから、そこまで脅威なのはそんなに居ないと思うけど、無いとは言い切れない地域だからね……」

 頭を捻らせながら考えるが、一番ケイトウが候補になりやすいのは間違いない。突然大型魔獣がやって来ることも大いにあり得るからだ。

「他には何処かな?王都近くのトリグラウで、魔獣の森から大量に魔獣がでてきたとか?」

「それならレーニア通過して行かないんじゃない?基本、最終目標は騎士団が居る王都かアイガーでしょ?」

 トリグラウの街から王都は南西、アイガーへは中央の山脈を南回りに東北東に向かえば良い。そうなるとレーニアに来る事がありえない。その為、トリグラウの街から出発した緊急伝令隊では無いことがわかる。

「そうよね、わかんないわ、全然」

 3人よれば文殊の知恵と言うことわざがあるが、情報が少なすぎて船頭多くして船山登るの方になってる気がする。まあ、広場に行ってみればわかるでしょ。


 親父さんのランチを食べ終え、広場に向かうともう結構な人だかりになっていた。冒険者だけではなく、騒ぎを聞きつけた人々が広場を囲み、憶測による噂話で騒がしいくらいに盛り上がっていた。

「フミトさーん! こっちー!」

 声のする方向を見てみると、広場中央付近でノンナが手を振っていた。その隣にはリーアとレンティも集まっていた。

「もう来てたんだ。なにか新しい情報はあるか?」

「なんにも無いよー。おっぱいお化けがあそこにいるから聞いてみたら?」

 おっぱいお化け?ノンナがなんのことを言っているのかと思いノンナが見ている方向に視線を向けると冒険者ギルドの職員、フェリシアが立っていた。

「やあ、フェリシア。何があったの?」

 フェリシアの所まで行き、声をかける。普段から仲が良いフェリシアだから、ひょっとしたら概要だけでも教えてくれるかもしれない。冒険者としては依頼内容を聞くためにフライングしているのだが、ただ事ではない様なので少しでも情報が欲しい。

「フミト、ごめん。まだ話すことは出来ないの。時間まで待ってて」

 いつもノンナみたいなのんびりとした喋り方なのに、真剣な顔してはっきりとした口調で答えてくる。

「わかった。おとなしくしてるよ」

 そう言うと俺はすぐ皆のところに戻ることにした。元冒険者であり、かなりの使い手だったはずのフェリシア。そんな彼女が真剣になるという事は相当な事が起きているに違いない。

 パーティーメンバーにそのことを伝えると全員が真剣な表情へと変わる。だが、周りの冒険者はその様なことに気づいていない。お祭り騒ぎになっている。何処かの商会は商魂逞しく露天まで出してきていた。俺も知っている冒険者から色々と茶化されたりしたが、乗り気になれず少々素っ気ない返事しか出来なかった。


「お集まりの冒険者の皆様、これからお集まり頂いた件についてご連絡いたしますので、ご静粛にお願い致します!」

 フェリシアから大きな、そしてよく通る声で静かにするよう要請が来る。元冒険者でもあるので、声量は問題ない。中心から徐々に声が静まっていき、離れたところの鎧がこすれた音が聞こえるくらいまで静かになる。

「それでは、これからレーニア冒険者ギルド、ギルドマスターのフィデル=ラスコン子爵よりお話させて頂きます!」

 そう言うとフェリシアは一礼をし中央から少し下がる。そのあいた中央に白髪混じりの男性が進み出て話し始める。

「冒険者の方々、火急の要件につき、この様な形で集まってもらったこと、詫び、そして感謝する。私はフィデル=ラスコン。このレーニアの冒険者ギルド、ギルドマスターをしておる」

 一言ひとこと、わかりやすく区切り、出来るだけ聴きやすく話す。大衆の前で話慣れている人の話し方だ。いつもはフェリシアと同じようにのんびりしている貴族様と言うイメージなのにやはり、それだけのことが起きているのだろう。

「20日ほど前、国境の街オルティガーラが、ユーベルを名乗る者と碧玉の軍隊に占領された。現在オルティガーラは略奪、強姦、虐殺……あらゆる非道がまかり通っている状況と聞く。冒険者ギルドは本来、内政不干渉を貫いている。だが、今回の非道に対し、特例として、兵を正規軍に送ることを決定した!今日はその派兵に対し、冒険者の参加を要請するために集まってもらった!」


 オルティガーラが占領されたと言う話を聞くと、冒険者や野次馬達皆がざわつき始めた。静かであった広場がかなりの騒ぎになり、近くに居る人の声も聞きづらい状況になっていた。

「静まれ!!!!」

 ギルド長の隣で大きな声で叫ぶ人物が居た。なんか聞き覚えがあると思い、その方向に視線を向ける。

「ダグラス様!?」

 リーアが命令を出した人物の名前を声に出す。しかも大きな声で。

「何?!ダグラスってあの英雄ダグラスか?!」

「おおっ!本当だ!英雄ダグラスだ!」

「ほんと?ダグラス様?!」

 静まりつつあった広場がリーアのおかげでより大きな騒ぎになってしまった。大声を出してしまった張本人は恥ずかしいと言う顔と、とんでもない失態を犯してしまったという表情が交互に現れ、あたふたしている。

「静まれ!!大事である!!静かに出来ない者はこの場から立ち去れ!!」

 ダグラスから場を鎮めるための声が再度響き渡る。強めの命令であった為、たちまち広場は静かになった。

「ラスコン子爵、続きをお願い致します」

 頭を下げつつダグラスは下がっていく。

「ありがとう。現在、グランサッソでは冒険者約150名参加し、この街に到着している。南周りでも募集しているが、こちらの北周りの方が冒険者の数は多い。騎士団を含む兵士は約4000名の予定だ。敵兵の数は現状わかっていない。緊急伝令隊によれば3000程だと思われる。50年前の襲撃もそのくらいであった。更には国力を考えるとこの数で限界だろう。君たちの参加で多くの兵士が死ぬこと無く帰還することが出来るだろう!そして、冒険者諸君には大切なこと、報酬についてだが、参加するものには事前に金貨1枚を渡す。働きによっては追加報酬も考慮している。この国の一大事である!我こそはと思う勇者たちよ!明朝この場に集まれ!編成が済み次第出発する!」

「以上です。これで説明を終わります!解散!」


 フェリシアの号令を持ってこの説明は終わった。冒険者は次々に広場から離れていく。野次馬は不安な表情で現状、これからの状況を話していく。

「ユーベルがオルティガーラを占領したのか……」

「そう言ってましたね、フミトさん、どうしますか?」

 ナイアが少し不安な表情で俺に質問をしてくる。だが、俺の答えはもう決まっている。

「即決して悪いが、俺は参加する。アイツを捕まえたのは俺だ。手を離れたとはいえ、俺にも責任の一端がある」

「それなら私達もですね」

 俺の答えに対してリーアも直ぐに反応してくれる。

「リーア、無理しなくて良い。レンティ、ノンナ、ナイア、ティアもだ。これは冒険ではなく、戦争だ。人と人との殺し合いになる。先日の盗賊との戦いとはかけ離れたものになるぞ」

「大丈夫です。それに、彼らを生かして捕らえた事が問題になるのでしたら、私達にも関係があります。私は行きますよ」

 ナイアの顔を見ると、大丈夫と言う意味だろうか、軽く頷いてくれる。

「私は付いて行くよ!フミト!」

「私とレンティはついていきます!フミトさん!」

「私もいくよー!」

 ティア、リーアとレンティ、ノンナの顔を次々と見ていく。全員俺と見合わせた時に頷いてくれた。もう覚悟を決めているのだろう。ありがたい。だが、最終確認をしなければならない。

「本当にいいんだな?これから行く場所は達成しても報酬がほとんど出ない。武器や防具等を確保し、売ることも出来ない。国力差から言って負けることはないだろう。だが、俺達は先遣隊として先鋒辺りで戦うことになるだろう。俺達が負けて、後続部隊で倒す、こういう事もある。金貨1枚で命を捨てることになるんだ。それに、俺が前に経験したケイトウ壊滅寸前まで行ったグリフォンの襲撃、これ以上の惨劇が人同士で起こるだろう。それでもいいんだな?」

 伝えたいことを伝え、皆を見渡す。有難いことに全員が頷いてくれた。

「わかった。みんなで行こう。そして、生き残ろう!」

「はいっ!!」

 とても嬉しく思う。だが、彼女たちに嫌な思いをさせたくないと言う気持ちもある。矛盾した気持ちを抱えてはいるが、今は嬉しいという気持ちのほうが強かった。


「良い仲間だな」

 俺の後ろから男の声が聞こえる。

「ああ、お前らより良い仲間だよ」

 そのままの姿勢でそう答えると、俺の背中に蹴りが入った。

「そんな事言うと、メルトヒルデが泣くぞ?」

 振り向きながら左手に拳を作り、相手の腹をめがけて放つ。

「いてーよ。なんでメルトヒルデが出てくるんだ?」

 何を言っているんだこいつ?と言う顔をしながらダグラスがそこに立っていた。拳のダメージは鎧で全く通ってない。逆にこちらが少し痛いくらいだ。

「久しぶりだな、フミト」

「ああ、5年ぶりくらいか?グロリアはどうした?一緒じゃないのか?」

「あいつはアイガーに置いてきた」

「どうしてだ?ブランクあってもそこそこのレンジャーには負けないくらいの能力はあるだろう?斥候も潜入も得意だろうに」

 目はエルフ達には負けるが、ぼーっとしていても見落とすことがなく、剣の能力はハパロバでも片手だと手こずる。レンジャーと言うより前世で言うならアサシンに近いと思えるくらいの能力だった。クノイチと言いたいところだが、忍者刀も無かったし、投擲武器が苦手なので、一応アサシンに。当時のメンバーの中では一番の常識人で、彼女が居なければ宿のとり方さえ最初はわからなかったくらいだ。もし今回オルティガーラに潜入する場合、彼女一人で施設1箇所は制圧出来ると思っていたのだが。

「あー……その……な……、あいつの腹に……な……」

 ん??なんのことだ?腹が痛いくらいでダグラスから離れるような性格はしてなかったと思うんだが?

 少し意味がわからず頭を捻らせていると、突然の英雄出現に固まっていたメンバーの内、ナイアがこっそり声をかけてきた。

「あの、赤ちゃんじゃ無いでしょうか?」

「あー!!」

 ぴこーんと頭の上に何かが光ったような気がした。手もポンッと叩いてしまうくらいに自然と動き、全然思いつかない回答だったが、非常に納得できたものだった。

「お前は感が良いのか悪いのか、良くわからんよな」

「うるせー!」

 ダグラスは呆れて頭を抱えてしまった。気づかないもんは気づかないの!

 だが、このやりとりで他のメンバーも氷解したようで会話に混ざり始める。

「お久しぶりです!ダグラス様!」

「おおっ!リーアか!久しぶりだな!こいつの毒牙……はねーか、良くしてもらってるか?」

「はい!お久しぶりです!それと、とてもよくしてもらっています!」

「なんか失礼な一言混ざってねーか?」

「気のせいだ気のせい。良い顔になってきたな、リーア。それに、立ち姿からわかる。良い戦士になってきたみたいだな」

「本当ですか?!ありがとうございます!」

 褒められたのが嬉しくて顔がにやけている。しかもそれだけじゃなく、何度もピョンピョン飛び跳ねて体でうれしさを表現しているようだ。

「あー、リーアはハパロバにしごかれてたんだよ。俺が教えるより遥かに成長しちゃってね」

「なるほどな。それなら俺も手抜きはできそうにないな」

「え?手抜きですか?」

「ああ、行軍中暇になるだろう?その時手合わせしよう」

「はい!よろしくおねがいします!」

「なんか、リーアは俺よりダグラスの方を尊敬してるよな」

「当たり前だろう?師匠だぞ?俺は」

「へいへい」

 お前だってジルフ爺さんの弟子じゃないか。まあ、あのエロジジイを尊敬するのは中々難しいかもしれないが……。

「そうだフミト、この後フェスティナ商会行くけど、一緒に行くか?久しぶりにシルヴィアさんとエステファンさんに顔見せておきたくてね」

「そうだな、俺も顔出しておくか。しばらく街を空けることになるから、商会頼んでおかなくちゃならないしね」


「久しぶり、ダグラス。グロリアはどうしたの?一緒じゃないの?」

 フェスティナ商会に着くと、すぐ会頭室に通され、お茶をごちそうになる。全員分の椅子が無かったため、ノンナとリーアが立つ事になってしまったが。

「お久しぶりです。シルヴィアさんもフミトと同じ質問しないでくださいよ。彼女は今アイガーでお留守番です」

「え??何?振ったの?それとも新手のプレイ?」

「シルヴィアさん、俺でも怒りますよ?」

「あら、ごめんね。でも、いつも隣に居るイメージなのよ。それでどうしたの?顔赤いけど」

「あの……彼女のお腹に……子供が……」

「まあ!おめでとう!そう、ようやく出来たのね!」

「ようやく?」

「手紙で色々と聞いているわよ?」

 ブフッとダグラスと俺まで飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

「ダグラスが誘ったのに理解してくれないとか、もう少し上手くなって欲しいとか、気持ちが通じあった瞬間は最高だとか……」

「も……もう結構です!お願いします!やめてください!」

 ありえないくらいに真っ赤になっているダグラス。まあ、親姉妹等に目の前で秘蔵のお気に入りのエロ本を朗読されるような感じだろうか、ともかく消え去りたい気分だろう……。

「感が悪いのはお前も一緒のようだな」

「もう何も言うまい……」

 シルヴィアさんのいつも何処から仕入れているのだろうかと思う情報の多さ。今回は直接だったが本当にびっくりさせられる。

「そう言えば、ハパロバさんは居ないんですね。彼女の戦力もあてにしていたんですけど」

 ダグラスは無理やり会話を変える。これ以上は同じ男として死を選ぶしか無いかもしれないだろうから同情するが。

「彼女はお仕事中よ。今度、監視の街トリグラウに支店増やす予定なのよ。その手配と物資輸送にね」

「タイミング悪いですね。まあ、仕方がないか」

「私としては最高のタイミングだったと思うわよ?」

「え?なぜですか?」

 俺を除く一同がポカンとした顔でその理由を待つ。さすがにあの戦力を外すと言うのが理解できないだろう。

「彼女を戦争等に参加させたくないと言う人からの依頼が前々からあってね、御者にしたのはうちへの借金もあるけど、その依頼を達成させるためなのよ」

 いまいちわかっていないダグラスだったが、俺には誰からその依頼が来たのかわかってしまった。

「シルヴィアさん、彼と知り合いだったんですね?」

「ええ、よく手紙をやり取りしてるわ、ハパロバの彼氏、バーレント王子とね」

 ブフゥッと色々な所からお茶を吹き出す音が聞こえる。俺はあえて個人名を伏せて彼と言ってたのに、ずっと隠していた真実がポロッと出てしまったことに頭を抱えた。ダメでしょ、教えちゃ……。

「ハパロバさんって第3王子と恋仲だったんですか?!!!!」

 この件に関してはダグラスより早くリーアが質問してしまった。近々で言えば、彼女が一番近い存在だから仕方がないのかもしれないが。表情を見てみると目をまん丸く、口が半開きになり、とても間抜けな顔になっていた。だが、それだけ衝撃的だったのだろう。

「あれ?フミトから聞いてなかったの?」

「ずっとひた隠しにしてましたよ……」

「あっちゃー……、内緒にしてね?そうしないと、私じゃなくて、ハパロバからしつこく追い回されることになるよ?」

 勝手に暴露して、勝手に秘密にしろと。そうしないとある意味死ぬことになるよと言っているようなもんだ。ひどすぎる。

「どうやって、知り合ったんですか?!そして、どうやって付き合ったんですか?!」

 他人の恋は蜜の味というのか、女性にとってはこの手の話はやはり好物なのか、ティアが乗り気で質問する。他のメンバーも前のめりで話を聞こうとし始めた。

「バーレント王子がお忍びでレーニアまで来ていた時に酔った冒険者にからまれてね、それをハパロバが助けたんだよ。カッコ良かったよーハパロバ」

「どうかっこよかったんですか?」

「王子の従者と言っても、第3王子で昔は今よりももっと体が弱かったから王位継承権は弟達にも抜かれて第5継承者になってるのは知ってるわよね。その為か身の回りの世話しか出来ない従者ばかりでね。夕食時に酔った冒険者に顔とか身なりが良いのがこんな酒場に来てるのはからかってるのかってケチつけられたの。その冒険者も乱暴者で有名なやつで、他の冒険者も見てみぬふりしてたんだ。そこにハパロバが現れてあっという間に蹴散らしちゃったの。しかもその冒険者は剣を抜いたけど、ハパロバは壊れた椅子の足であしらっちゃってね。見てたけど良い酒の肴になったわー」

 見てたのなら助けろよ!って言いたくなったが、結果オーライと言う事でそこは流しておく。

「それからどうなったんですか?」

 目をキラキラさせつつワクワクしている感情が顔にしっかりと現れている女性陣。早く早く!!と言う言葉が聞こえてきそうだ。

「そこからが傑作でね、その日に二人は一晩共にしちゃったのよ!」

「えー!?!?」

 さすがに俺も驚いて声を出してしまった。隣に座っているダグラスもさすがに声が出ていた。だが、ハパロバがバーレント王子を襲うなんて、不敬罪と言われても仕方が無いんじゃないだろうか?大丈夫か?あいつ。

「ちょっとかすり傷を負ったハパロバに治療すると言う事でバーレント王子の部屋に連れて行ったんだって。そこでハパロバが襲われちゃったのよ」

「きゃーっ!!」

「は?!」

 まてマテ待てmate!!あいつが襲われた?何を言っているんだ?女性陣はそのまま盛り上がっているが、俺とダグラスは物理的に無理が無いか?の様な顔になりお互い顔を見合わせてしまった。

「お互い初めてだったみたいで、責任は取ります!ってバーレント王子が言ってきてね。それをハパロバもしどろもどろになりながら受けちゃったのよ。受けちゃったからには将来ハパロバは王族の仲間入りね。でも、バーレント王子も第5継承者とはいえ、簡単には結婚できない。後ろ盾が無いし、力もない。だから、バーレント王子が基盤を固めることができてからという事になったのよ」

 付き合っている理由はわかった。それと、王子が将来の嫁候補を戦争参加拒否させているというのも。だが、襲われたハパロバがイメージ出来ず、その一点だけ混乱していた……。

「実はお互いに一目惚れだったというのもちょっとロマンチックよね」


 もうこれ以上俺の混乱させる情報を入れることを避け、とりあえずシルヴィアさんにお願いすべき事、自分の商会の事や、今年の生産計画が作られているので、エレイメイと相談して欲しいと言う事、ゲーニアに依頼した機器の事等伝え、自分の商会に向かう。他のメンバーとダグラスはまだ残ることにしたようで、翌朝集合と言う事に。

「エレイメイ、ラパン、ちょっと戦争行ってくる。だからミソ樽一つ持っていくね」

「え?」

「なにいっとるんじゃ?」

 さすがにこれだけじゃ説明にならなかった。一通り説明をし、俺にもこの戦争に参加する義務がある事、作成した年間スケジュールで動いて欲しい、そして万が一があった場合、いつもの通りにシルヴィアさんに指示を仰いでほしい。その事を伝え、出発の準備をするために奔走する。またかい、と言いたげな表情の二人だったが、二人でこの商会は回せてるようなので、非常に安心して任せられる。ただ、ミソ造りに関してはまだ俺の主導が必要っぽいのだが、なんとか頑張ってもらおう。

 そして、幾つもの知り合いの商会に顔を出し、塩銀亭のハイル親父さんやエイルさんにも伝える。翌朝には定宿のリオネラにも挨拶をし、広場に向かう。


「おはよう、よく寝れたか?」

「グランドドラゴンの時ほどまともに眠れないことは無いから大丈夫だ」

 広場に行くとダグラスから挨拶される。当時の恐ろしい思い出を共有している仲間なので、これだけで言いたい事はわかっただろう。

「おはようございます!」

「ああ、おはよう」

「それにしてもハパロバさんすごいですね、尊敬しちゃいますよ」

「すごかったねー!」

「リーアは特にそう思うだろうね、あれだけいっぱい訓練してたんだもんね」

「どのような所で縁があるかわからないものですね」

「少し羨ましいです」

 いつものメンバーは一人も欠けること無く合流した。死ぬかもしれないというのにお気楽なメンバー達。おかげで俺も彼女たちへの罪悪感が薄れる事が出来た。


「このアスドバル様とアネトン様が行くんだ、戦争なんてすぐにおわってしまうよ!」

「そう!我らは最高の冒険者。相手の兵士など、物の数分で倒してしまうだろう!」

 そんな言葉を出発前を見に来た野次馬の女性たちに言いふらしてるバカ二人が居た。このレーニアでは普段見たこと無い。まあ、そこそこ広い街だから、知らない奴がいてもおかしくないとは思うのだが、あんな大ホラ吹きは見たことも聞いたことも無い。装備だけはそこそこ良い物をつけているようだが、間抜けな顔をした二人だ。足手まといにならなきゃいいのだが。

 広場には昨日よりかなり少なく、全部で50人ほど集まっていた。昨日は野次馬なども居たため、この街にこんなに人が居たのかと思うくらい居たのだが、結局はこれだけの人数に。誰も死にたくはない。明確に殺しに来ているという点で言えば、魔獣と大差無いかもしれないが、知恵があり、同じような体格、同じような顔の同族を殺す。戦争でなければ、商売で輸送した商品を購入した者、笑いあった隣人かもしれない者、愛する人の配偶者になったかもしれない者、多くの可能性が考えられる。その様な同族との殺し合いだ。よくこれだけ集まったと思うべきかもしれない。人数が少ないために簡単に振り分けが終わった。

 一つの馬車に4〜5パーティーほど荷物を集約し、行軍する。アイガーで集めた人員は既に街の外で待機しており、最後尾につながる形で出発した。

 あのバカ二人とは馬車がわかれて良かったと思ったのは俺だけだろうか?





雨のおかげで少し涼しくなっていますね。でも、関東の水瓶にはさほど降っていないようで、取水制限が続くようです。

それと、自転車乗り(ロードバイク以外も)の敵、アメリカオニアザミがまた増えてきましたね。すごくトゲトゲした草花で、1度だけ足にザックリ刺さったことが。アスファルトの隙間等にも生えることがありますので、結構恐怖の対象だったりします。自転車を乗らない人、車しか乗らない人もこういう植物が道路の端、比較的自転車や歩行者が通る所に生えてたりすると言う事を、頭に入れていただければ幸いです。お互いに譲り合いながら道路を使っていけると良いですね。

切ったりしないの?と友人に言われたことがありますが、ロードバイクに乗りながら鎌を持っている人がいたら通報されますよね?

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