家族
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〜〜〜〜〜
「おはようございます、リリィさん」
「おはようございます、アントンさん、いつも毎朝ありがとうございます」
リリィと呼ばれた女性は、30代に入ったばかりと言ったところだろうか、愛嬌があり、10数年前は美少女で通っていたであろう女性が笑顔で丁寧にお辞儀をしてお礼を言う。そして、その姿はエプロンをかけ、手には切花を持っていた。
「いつもうちから仕入れてもらってるんで、こっちこそ毎度有り難うございますですよ」
この男性はまだ20代頭くらいか、こちらも愛嬌ある笑顔で笑い返す。
「お花はこちらにお願いできますか?」
「いつものところですね。任せてください」
アントンは力こぶを見せ、笑顔で返す。花の入った木箱を何往復もしながら花屋の小さなスペースに置いていく。リリィは置かれた端から花の状態をチェックし、手に持っているハサミで剪定していく。茎の下の方の葉をとったり、余計な枝を切ったり、花を飾るには邪魔な部分を手際よく切り落とし、桶に入れていく。
「いつもながら手際が良いですね、感心しちゃいます」
「あら、このくらいは出来なくては花屋は名乗れませんよ。それに、このひと手間をすることで、お花の命も伸びますからね」
切花の茎は切った後と言う事で、水を吸い上げる力が弱い場合がある。良い角度に切ってあげると吸い上げる力が多少回復するので、ひと手間かけるだけで花も、葉もいきいきとしてくる。
「そう言えば、以前そう教わりましたね。まだまだ勉強不足です」
「アントンさんは他のお仕事がありますからね。花にかかりっきりではお仕事出来なくなっちゃいますよ」
「なんか、売上がどんどん伸びちゃってるんですよね。俺の手には余るくらいに」
「あら、何言ってらっしゃるの?全然余裕でしょう」
「いやいや、俺はこうやってお客様と話す時間が大切だと思っていますよ。だから、忙しすぎるのは逆に困っちゃうんです」
「贅沢な悩みですね」
「すいません。でも、リリィさんもようやくお店が軌道に乗って、先日から貴族様のお屋敷に週2で納品しているんですよね?」
「はい、私にも過ぎた役目だと思っていますけれど、息子のためにも頑張らなくてはいけませんね」
「もったいないなー、子供が大切というのもわかりますけど、女ざかりのリリィさんが商売だけになっちゃうのは。今夜とかどうです?俺と」
「あら?そんなこと言って良いんですか?奥様に伝えちゃいますよ?」
「おおっと、それは無しにしてください」
「ふふっ」
「はははは」
お互いに笑い合う仲、関係は良好である。実際、アントンに人生のパートナーが居なければリリィが隣にいても周りは不思議に思わなかっただろう。
「あー!またお前来てる!あっちいけ!」
まだ5歳くらいであろうか、部屋の奥から少年がアントンに駆け寄り、すねを蹴り上げる。
「いってー!」
「こら!ダメですよ!ユリス!」
ユリスと呼ばれた少年は、怒った顔でアントンを見ていた。リリィも怒った言葉ではあったが、毎日のことなので、正直真剣に怒っておらず、どうしたものかと困惑と、この日常が温かいと感じて笑みが半々で入り交ざった表情でいた。
「それじゃ、また明日来ますね。もしくは、お昼暇があれば顔を出しますよ」
「はい。明日もよろしくお願いしますね」
「もう来んな!」
困惑した顔でまたユリスを見るリリィ。この子がここに居るという事は、朝食も終えたという事だろうか。そろそろ、お店を開ける時間と判断し、木戸を開けていく。
表通りはもう少しずつ人々が歩いていく様が見え、冒険者達が走っていく様も見えていた。
「さあ、今日もがんばりますか」
伸びをしながらリリィはそうつぶやく。この河川の街リスィで唯一の花屋、リリィの花屋、開店である。
「ユリス、今日もお手伝いお願いね」
「うん!悪者来たらやっつけるよ!」
「そうじゃないでしょ、お店に来る人は基本お客様なのよ?」
「でも、そうじゃない奴も居るもん!お母さんは僕が守る!」
可愛い盛りの男の子。このくらいの年代は少しおませになり始める子もいるし、わんぱく盛りになる子も居る。その微妙なバランスが可愛らしいのだが、お客様に怪我をさせてはいけないので、リリィは何度も言い聞かせ、啓す。
「ありがとう。でも、お母さんが助けてって言ったら助けてね?それ以外の人は絶対に暴力を振るっちゃダメ。わかった?」
「うん……」
ユリスはまだ完全にその意味を理解しているわけでは無いのだろう。母親がダメと言ったからダメと思っているだけだと思う。だが、それでも暴力を振るわなくなれば良いなと思いつつ、リリィは何度もこの言葉を伝えるのだった。
「暴力だけでは解決しないわ。ちゃんと話し合って、お互いに近寄らなければね。それに私のお店は人々に笑顔を届けたいと言う気持ちから始めたお店よ。このお店に来て怪我しちゃったら笑顔になれないわ」
「うん……」
「そう、良い子ね」
軽くユリスを抱きしめるリリィ。ひょっとしたらこの子は寂しいだけかもしれない。日中は仕事でほとんどかまってあげる事ができていない。だが、生活と両立させるには少しおろそかになってしまうのは仕方がないのかもしれない。だけど、できるだけこの子には愛を注いであげたいという気持ちは強い。いつもその葛藤に苛まれていた。
この街は冒険者に費やさなければならない費用がさほど多くない。その為、一般の商家や、普通の民家でも、花を買う余裕がたまに出来たりする。花屋自体は王都以外ではほとんど流行ることがないと思われていた商売であったため、軌道に乗るまでは多少時間がかかったが、リリィの店に行けば買える、リリィの店ならば良い花が買えると言う事が広まってきたことにより、お昼時やお店の閉まる夕刻以外では人足が無くなることがほどんどなかった。
だが、この世界で花の値段は手数料を入れてもさほど高くすることが出来ない。未だ、余裕がなければ買えないものというのもあるが、その辺に咲いている野草の花でいいやと思ってしまう人も多いからである。だが、その様な人ほど、リリィのお店で手を加え、花の形や葉、色のバランスを考えられた花束を購入した時の衝撃は大きい。
その衝撃を受けた人が色々なところで噂し、その噂が花のプレゼントを考えている人に届き、リリィの店に足を運ぶ。良いサイクルが出来上がっているので、お店としては非常に良いことであるが、ユリスへ愛情を注ぐことを考えると、アントンの話ではないが、ゆっくりする時間が欲しいとも考えてしまう。だが、この店もハイドレンジア商会、友人の旦那さんから借り受けている場所である。友人特価というのもあったが、それと、将来への蓄えを考えるとまだまだ頑張らなければならない。
その頑張る1日があと少しで終わるというところで、あまり招きたくは無い客が来店する。タイミング良くか、悪くか、他のお客様はお店にはもう居なかった。ひょっとしたらこの時間を狙っての来店かもしれない。
「リリィ、元気か?」
「ええ、私は元気よ、オルド=ハイネマン」
「フルネームとは他人行儀だな。もう店閉めな」
「ここは花屋です。花以外はお売りするものはございませんので、閉めるとしたら退店願いますでしょうか」
「そんな事言うんじゃねーよ、俺とお前の仲だろうが」
「お客様とは特別な仲では無いと思うのですが」
「そんなことはねーだろ、何度か種を仕込んだじゃねーかよ、今日もよろしくしに来たよ」
「下卑た言い方をしますね。私はお願いしたことは一度もございません」
「いつも強気だよなお前は。それが堪らないんだがな」
「下衆な人」
「うるせえ!」
その言葉で、強引にリリィを奥に連れていき、無理やり押し倒し、力任せに服をはだけさせる。ビリビリと布の切れる音がし、リリィの大きな胸があらわになる。
「相変わらず良い体してるな。今からいれてやるよ。欲しいんだろ?これが」
「いりません。帰ってください」
「そんな事言うなよ。俺は楽しいんだからよ」
下品な笑いをしながらリリィにむしゃぶりつく。
「やめてください!」
「ジタバタすんじゃねーよ、すぐ入れてやっから」
「嫌っ!」
その時、近くの知り合いの民家に配達していたユリスが戻って来てしまう。不幸なことに母親がその男に何か嫌な事をされていると言うのがわかってしまった。
「お母さんに何するんだ!あっちいけー!」
オルドに対して走りより、横腹を蹴り上げようとした。が、大人と子供の体格差である、オルドが腕を大きく振るうと簡単に吹き飛ばされてしまった。
「子供には手を挙げないで!!」
「知るかよ!勝手にこっち来たんだ」
「お願いだから」
「こっち来なきゃな。それより楽しませろよ」
「お母さんから離れろ!」
ユリスは痛みからか弱々しい声になっている。さらに、恐怖からか、その場から動くことが出来なかった。
「ユリス、お母さんは大丈夫。だから、いつもの商会に行ってらっしゃい」
「やだ!」
ユリスは自分の母親がただ事ではないと言う状況はわかっていた。だから、ここを離れたくはなかった。
「大丈夫。お母さんを困らせないで、お願いだから」
リリィはユリスに心配をかけまいと努めて普段の顔で、声色で話す。だが、嫌悪感から来る顔の歪みはどうすることも出来ない。
「おら!腰動かせよ!」
「子供の前よ!やめてちょうだい!」
「知るか!」
オルドはこの状況に関係なく動き続ける。このままではユリスに嫌な記憶を植えつけてしまう。そう考えたリリィは少し強くユリスに言う事にした。
「ユリス、お願い!」
この切実な声でお願いをされたユリスは、母親のお願いを聞くべきか、ここに残って母を守るべきか顔を歪めながら葛藤していた。だが、小さな声で「お願い」と再度聞こえた時ユリスは叫び声を上げながら走り始めた。
「うわあぁぁあぁ!!!!」
「ふははは、お前のナイト様は走っていったよ」
愛する我が子だけでも逃すことが出来た。この状況を長く目撃させることが無くなったと言う事に対して安堵するも、抗う術が無いと言う絶望がその安堵を一瞬のものに変えてしまう。そして、走り去ってしまったわが子に向け聞こえないとわかりつつもリリィは呟いてしまう。
「お母さんは大丈夫だから……」
ユリスは走る。店を出る前に母親の悲鳴が聞こえる。だが、今の彼にはどうすることも出来ない。
「いつもの商会に行って来なさい」
この言葉をもう一度思い出す。いつもの商会とは母親の友達が居るハイドレンジア商会。体の小さな彼が急いで向かっても四半刻はかかってしまう。
「急がなきゃ!急がなきゃ!」
いつもより早く走っているつもりだが、足がもつれて転んでしまう。何度も。それによって、早く行かなきゃお母さんが!と言う焦る気持ちがどんどん膨らんでいく。
だが、その不安が大きく膨らみつつあるが、一歩いっぽ、苦しみに耐えながら前に進む。間に合うと信じながら。
ようやくハイドレンジア商会にたどり着いた時にはもう日が暮れ、商会の扉は閉じてしまっていた。
「お願い!扉を開けて!お願いだから!ルシールおばちゃん!開けてよ!」
そう叫びながら扉をドンドンと叩き続ける。少しの間ドアを叩き、叫び続けていたら扉の鍵が開く音が聞こえた。
「ユリス?どうしたんだい?」
「ハンネスおじちゃん!助けて!お母さんが!お母さんがぁぁぁ!!!」
まだ40手前だろうか、中々に衣服に使っている布等が豪華な人が顔を出す。そして、外に居る知己の少年が今にも泣き出しそうな顔で懇願している様子を見てすぐに悟った。
「ルシール!冒険者を呼べ!多分あいつだ!」
「わかったわ!あなた!」
そう言うと店内にいたルシールは走り、冒険者ギルドの方へと向かっていった。
「ユリス、ゆっくりでいい、何があったか教えてくれないか?」
軽くユリスを抱きしめながら、大丈夫、大丈夫、とゆっくりと耳元で言いながら、背中をトントンと叩き、安心させる。
「お母さんが変な男に、変な男に……!!」
混乱しているユリスにはこれ以上のことは言えなかったし、その行為の知識もなかった。
「わかった、もう大丈夫だ。大丈夫だよ」
それだけでハンネスは理解し、以前もその言葉を別の女の子から聞かされた時を思い出す。冒険者ギルドはすぐ近くにあり、ルシールはたまたまそこにいた冒険者二人を引き連れ、走り戻ってきた。
「ルシール!戻ったか!二人には説明したか?」
「ええ、相手は貴族と言う事も了承してもらったわ。その分上乗せしているともね」
「わかった、ユリス!行くぞ!」
4人は走り始めた。ハンネスはユリスを背負い、ルシールは先導、冒険者二人はそのまま後ろに付いて行く。
大人の足なので、10分少々でリリィの花屋にたどり着く。夕闇、そして街の灯火が煌々としている中、既に閉店しているはずのお店の扉がまだ開いてる。ユリスはハンネスの背中から飛び降り、家の中に駆け出そうとしたが、肩を捕まれ、止められてしまった。
「どうして!?」
「冒険者が先だ。頼む」
「わかりました、行くぞ!」
ハンネスは叫ぶユリスを無理に止め、冒険者を先に行かせた。二人が先に入り、ハンネスが続き、ルシールとユリスが最後からついて行く。店の中は、荒らされており、いつもの綺麗に整頓されていた風景からかけ離れている。その状況に怯えつつユリスは母が居たはずの場所が気になっていた。
「要人確保!」
「リリィ!大丈夫か!」
冒険者の声とハンネスの声が聞こえた。店の中にまだいたユリスはルシールの手を振り払って声の上がった方向にかけていく。
そこには、ハンネスのハーフマントをかけられた母親が居た。
「お母さん!お母さん!!」
「あ……、ユリス……?」
「うん!僕だよ!ユリスだよ!」
放心していたリリィは少し意識を取り戻し、ユリスの顔を手で触れる。
「良い子ね、ユリス。ちゃんとルシールのところに行ってくれたんだね」
「うん!一生懸命走ったよ!」
「そう、良い子ね。ユリスは良い子ね……」
「リリィ、またあいつか?」
「はい……」
それだけ聞くと、ハンネスとルシールは黙ってしまった。リリィの状況を見れば自分たちの予想通りのことが起きてしまったことがわかったからだ。
「どうすればいいのかな……、この子を守るにはどうすればいいのかな……」
「気をしっかり持て!私とルシールが何とかする!」
「ありがとう……」
力のない声で礼を言うと、リリィはユリスを抱きしめたまま力無く泣きだしてしまった。
〜〜〜〜〜
リーアと先日の手紙の件から合うことができていない。
既に3日も宿から出てきていないようだ。食事は酒場や露天からレンティが買い、持ち運んで居るようだから、生きていることは間違いない。だが、手紙一つでここまでと言う事は相当まずいことが起きたのか、それとも、誰かが亡くなったのか……。
レンティにその事を聞いてもリーアから言わない限り、言う事は出来ないし、無理に聞かないでほしいと言われている。その為、何が起きているのか、どのような状況なのかも全くわからなくてやきもきしている。
仲間が苦しんでいる状況で、手を差し伸べることが出来ないというのは、中々に苦しいことだ。しかも、その原因を苦しんでいる仲間は理解してる。解決策はわかっているのか、わかっていて実行できていないのか、それともまだ解決策さえ作ることができていないのか。悩むところだ。
下手に手を出して余計関係がこじれるのも怖い。それに、無理に聞き出して仲間との関係悪化も問題だ。俺としては少しでもリラックスできるように手配するしか今の所考えることが出来なかった。
「親父さん、今度また厨房借りて良い?」
「おう、フミトなんに使うんだ?」
「ハパロバにフライを奢ることになっちゃってね、また借りたいんだ」
「それは構わんが、いつになるんだ?」
「すいません、まだそれがわかんないんです」
「ん?ハパロバどっか行ってるのか?」
「ハパロバはレーニアに居るんですけど、うちの一人を元気づけたくって」
「あー、リーアちゃんか」
「そうです」
「わかった。今日の今日はダメだが、今日の明日ならいいぞ。今回限りだからな」
「ありがとうございます」
とりあえず、いつでも借りることが出来る許可を貰った。普通に聞いたら明日だけと思われがちの会話だが、振る舞う当日になって今日貸してって言うのはダメって意味だ。
その日の夕刻、また塩銀亭に食べに来た俺に、レンティから声がかかった。
「フミトさん、すいませんでした」
「ん?冒険中でもないし、特に気にすることはないよ」
「ありがとうございます」
「リーアは大丈夫?」
「もう大丈夫だと思います。明日くらいから食事は外で取れそうです」
「何があったかは聞かないよ。でも、力になって欲しいのなら出来るだけ力になるからね」
「ありがとうございます。リーアにも伝えておきますね」
その会話があってから2日後、タイミングよくハパロバ達との暇が重なり、フライを振る舞うことになった。
ハパロバだけではなく、なんとかパーティーメンバーまで行けそうなので、全員で12人という事に。
「フミト!これうめーな!もっとくれ!」
「ハパロバ!数は皿に乗せただけしか無いんだからな!おかわりは無いぞ!」
「けちー!」
「元々無いって言っただろ!」
予想通りのハパロバのおかわり要求。実際もう油も少なくなり、そしてかなり淀んできている。食材を揚げている間にジャガイモ等を揚げ、汚れを吸着させていたりしたのだが、それでももう限界が来ている。これ以上使っても、酸化した油の香りがフライについてしまい、食べても臭く感じてしまうだろう。冒険中でもし食材を揚げるのであれば、この油でも何とか行けるかもしれないが、単純に量が足りないのである。少ない油で揚げるコートレット、わかりやすく言えばカツレツなんかもあるが、たっぷりの油で揚げる食材を最初に提供してしまったので、薄く、しかも揚げ焼きになっている物を今の彼女たちが満足できるかどうかもわからない。後は、飲んでしまったのでもう面倒くさい。これが一番の要因だったりする。
「リーア、美味しかったかい?」
エール片手にお店の外に出てみると店の階段でリーアが空を眺めつつ座っていた。
「あ、フミトさん。美味しかったです。それと、誘ってくれてありがとうございます」
まだいつもの笑顔に戻っていない。少しぎこちない。初めて一緒に冒険し始めた時とは違った硬い表情だった。
「イオタ相手に熱弁していただろう?それを思い出してね。美味しい物を食べれば元気になるんじゃないかとも思ってね」
「ありがとうございます」
その御礼の言葉から、しばらく沈黙が続く。別に嫌な沈黙ではなかったし、星を見たかったのと、酔い覚ましと言ってもエールを片手にだから本気の酔い覚ましではないのだが、そんなつもりで呆けていたらリーアから質問が来た。
「フミトさん、私、どうしたらいいですかね……」
「ん?よくわかんないけど、とりあえず突っ走ってみたら?」
「プッ!……あはははははは!!なんです!?そのいい加減な答えは!あはははは!」
星を眺めながら質問を聞き、何も考えずに答えてしまったので、リーアの表情を見れていなかった。ひょっとしたら声色から考えると結構深刻な質問だったのかもしれない。ちょっと適当すぎた答えが何となくリーアのツボにハマったようで、しばらく笑い続けていた。
「あー、笑っちゃいました。お腹が痛いですよ。フミトさん」
「俺のせい?って俺のせいだよな」
「そうですよ。フミトさんのせいです」
リーアの声色がなんか普段通りに戻ってきたような気がするので、リーアの方を向いてみると真っ直ぐな目で俺の顔を見ていた。
「なんか、吹っ切れたみたいだね」
「はい。ありがとうございます」
「俺、なんにもしてないよ?」
「はい。でも、ありがとうございます」
軽く笑顔で答えるリーア。だが、また笑い出してしまう。先ほどの思い出し笑いなのだろうか。
「それじゃ、俺は戻るよ」
「はい」
まだ笑っている。まあ、元気が出たなら良いかな。
〜〜〜〜〜
フミトさんがリーアの方に向かってからしばらくするとリーアの笑い声が聞こえてきた。
いつものおかしい時に笑う声。悲しい時に無理して笑う声、カラ元気の時に無理に出す笑い声、愛想笑いの声等ではなく、本心から笑っている声だ。
なにかリーアの心に沁みることを言ってもらえたのかもしれない。フミトさんが戻ってきたらリーアのところに行ってみようかなと考える。
また笑い声が聞こえる。何がそんなにおかしいのかすごく気になってきている。でも、今はまだフミトさんの番だ。と思ったらもう戻ってきた。何か頭をかきながら苦笑いしているけど、嫌な笑い方では無いみたい。行ってみるかな。
「リーア、もう大丈夫?」
「あ、レンティ。うん、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「ところで、フミトさんにいい話とかしてもらったの?」
「ううん?ぜんっぜん!」
「え?」
「真面目にどうしたらいいの?ってすっごく悩みながら聞いたのに、星を見て、そしてお酒を飲みながら突っ走ってみたらだって」
「は?」
「もう、私とのギャップがすごすぎて、笑っちゃった」
「あー……そう……」
「今冒険者をやめるわけにも行かないし、お母さんとユリスを別の町に連れていくわけにもいかない。私があの男に負けないくらいに力を持てば良いの。大変だけど、単純な所に気づかせてもらったの」
なるほど、あの苦笑いはこういう事だったんですね。啓すわけでもなく、教えるわけでもない。ふとした一言でリーアを立ち直らせちゃった。多分、フミトさんもなんでリーアが立ち直ったかわかってないかも。
「そういうことで、まだまだ突っ走るよ」
「わかった。やっぱり、フミトさんに付いて行けば近道だって言ったのは間違い無かったかもね」
「そうだね。普通の冒険者なら出会えない魔獣、ロック鳥やグリフォン、カッカは別かもしれないけど、そんな魔獣も倒すことができたし。それに、英雄って言われちゃったよ?私なんかが」
「フミトさんってトラブル惹きつけちゃうのかな?」
「どうなんだろうね?可能性あるかも?」
お互いに顔を見合わせながら小さく笑い始める。小さい頃からいつもやる仕草だ。
「漁夫の利と言えなくもないけど、利用できる所は利用していかなきゃ」
「フミトさん怒るかな?」
「怒らないと思うよ。この件を話ししたら、何処までも付き合ってくれそうだよね」
「でも、これは私の事。迷惑はかけられない」
「私達でしょ?」
「レンティ、ありがとう」
私を見る目が優しくなってきている。手紙を読んだ後は絶望で、殺意で、その他の感情で濁った目になっていた。時間が経って良くなってきたけど、今日一日で元に戻ったみたい。
「手紙は弟さんから?」
「うん、まだ覚えたての字で、お母さんを助けてって書いてあったよ」
「そっか。でも、それだけで何があったかわかったんだ」
「私も同じ経験してるからね」
「そうだったね……。私の手紙に詳細書いてあるけど、読む?」
「うん。読ませて」
「ちょっと待ってね」
手紙を取り出し、火種の魔法を何も書かれていない用紙の後ろから炙っていく。そうすると文字が少しずつ浮かび上がってきた。
「レンティ、よくこれが読めたね?」
「慣れてるから」
しばらくリーアは手紙を読み込んでいく。2枚ほどに渡って今回の事の顛末が書かれていた。
「そっか、お母さんはとりあえず大丈夫で、ユリスは怪我しなかったんだ」
「アントンさんが見てくれてたはずなんだけどね……」
「やっぱり。アントンさんはハイドレンジア商会の人だったんだ」
「うん。小規模の卸売業をして、余った時間で監視する予定だったんだけど、忙しくなって今では朝と昼くらいしか見れなくなってたって」
「商才ある人に監視は無理でしょ……」
「ある意味人選成功で、ある意味人選失敗だね……」
「プッ」
「フフフっ」
「あははははは」
もう、リーアは大丈夫。2度とオルドをリリィさんに近づけさせたくはないけど、万が一次があってもフミトさんと居る限りは立ち直れると思う。この子の笑顔をもう絶やしたくない、家族を守りたい。地道な努力と運、そしてとても高い目標だけど、必ず達成させる。
笑いながら心の中ではより強く決意を固めた。
更新予定時刻が昼の11時でこの様な気分のよろしくない文章。お昼時に読まれる方が多いと思われますが、気分を害されませんでしたでしょうか?気分を害された場合は大変申し訳無いのですが、癒す物はこちらでは準備できておりませんので、各々で手配をお願い致します。
来週も申し訳ないのですが、まだ気分がよろしくない事になる予定です。今週とは違った方向になる予定ですが、ご理解の程よろしくお願いします。




