果て
果て
「レンティはアイスレインの準備、ノンナは馬車を守って。手が空くようなら攻撃を。ナイアは弓で1匹でも多く倒して、ティアは俺とレンティの魔法の後、足元をぬかるみに。リーアは出来るだけ引きつけて、倒さなくても良いから」
各々準備を始める。レンティとリーアがまだしっかりと覚醒していないのがすこし不安だ。
「おかげで休めました。ありがとうございます」
「もう魔法は使えそう?」
「先ほどみたいに無茶しなければ大丈夫です」
「わかった。リーアはどう?」
「問題ないです!」
頼もしい二人だ。無理してるようにも見えない。休息も上手く取れるようになってきたのかもしれないな。
「アイスレイン!」
レンティからグラスリザードの集団に向かって魔法が放たれる。魔法の熟練度の差か、予想通り10匹全部は効果範囲に入らなかった。しかも、部分的に濃くそれ以外は広く薄くと言うような形で広がり、魔法の効果的な使い方が出来ているようには見えなかった。
「アイスレイン」
重ね掛けとも違い、グラスリザードの集団よりすこし手前に魔法を放つ。冷気はすぐ消えるわけでも無く、雲のように漂うので直接当てなくても効果は期待できる。しかも、期待する効果は相手を凍らせるというわけではなく、相手の体を冷やすということなので、この魔法の使い方でも問題なく効果は発揮する。レンティの掛けた魔法も効果がなかったわけではなく、部分的にはしっかりとかかっているため、俺の掛けた魔法と相乗効果が発揮され、魔獣の行動速度の差を出すことが出来、結果的にはより良い結果を得ることが出来た。
そして、ティアの精霊魔法でグラスリザード達の足元がぬかるみ状態になり、より時間に余裕を持たせることに成功していた。。
魔獣は魔法の効果の薄い左翼側から突撃してくる。
リーアは出来るだけ引きつけるために2歩ほど前に出る。その行動だけで短絡的な魔獣は、3匹がリーアに向かった。少し多いかもしれないが、本来この位は傷無く耐えてほしいところだ。
リーアは剣と盾で殴りつけ、相手の足を止める。だが、残りの1匹は足が止まらず、リーアの体をかすめる。鎧とマントのおかげで傷は無いようだが、尖った針でも持つ魔獣ならかなりの傷になったかもしれない。敵の位置を見定めながら攻撃する位置を決める事がまだ甘いようだ。リーアをかすめた魔獣はそのまま急制動し、リーアに向かう。3方向からリーアは囲まれる形になってしまった。だが、そんなことをさせないのがナイアだ。ナイアに向かっていた1匹を風の精霊にお願いし、矢の1撃で脳天を貫く。即座に弓からカタナに持ち替え、リーアをかすめた魔獣に向かっていった。
残りの2匹だが、俺に向かってくる。だが、幾度も相対した魔獣だ。弱点もわかっている。ここで簡単に倒してしまうとリーアに答えを教えてしまいそうでなんとなく攻撃をためらったが、ナイアが1撃で倒しているのを見れば答えはすぐわかってしまうだろうからさっさと倒すことにした。
この魔獣の物理的弱点は目の辺りになる。眉間と眼球を繋ぐラインを一閃する。
あっさりとグラスリザードの目から上部が体から離れる。
この辺りは進化途中なのかそれとも目の動きの妨げになるから鱗が進化し無かったのか、あまり堅い方では無い。このグラスリザードの脳が頭以外の場所であったならばあまり効果的な攻撃では無かったかもしれない。
だが、今の所脳が別の場所にある魔獣は殆ど遭遇していないのが救いだ。
そんなことを考えていると2匹目も俺に攻撃を仕掛けてくる。速度差があると、とても余裕を持って行動できるので安心感がある。
本来首を筋肉とバランスで固定して走るグラスリザードなのだが、俺に向かっている個体はなぜか頭を上下させている。こうなると先ほどみたいに綺麗に切るのは難しくなるので本来の倒し方である突きを眉間の辺りに打ち込む。少しずれて堅い触感があったが、剣の腹で感じたため、グラスリザードを安定的に屠る深さは確保していた。
遅れた4匹が迫って来ているのでリーアに向かっている1匹を横からカタナを振り頭を飛ばす。その様子を見ていたリーアは弱点に気づいていなかったようで、目をまん丸くしていた。まだまだ観察眼を磨く必要があるようだ。
俺の真似をし、グラスリザードの眉間辺りを何とか付く。1撃で屠る事は出来なかったが大量の出血をさせることに成功し、相手の視覚も奪っていた。ナイアが3匹目を相手し、既に倒しているので、ゆっくりと構え直し、今度は確実に屠るための突きを撃ち込む。
ほっと一息つこうとしたところで2匹がリーアの前にのろまな足で走ってくる。どうやらレンティの魔法が一番かかった個体のようだ。
残りの2匹はと言うと、1匹はシザーリオに乗っているだけで暇だったノンナが既に倒しており、次の1匹に向かっていた。
「リーア、のこり2匹よろしくー」
「はい!わかりました!」
だが、体の冷えた爬虫類型魔獣だ。ハパロバとの訓練で慣れたリーアにはもう敵では無かった。
気合いを入れたものの、大して大変なことにならなかった。まあ、レンティと俺の魔法とティアの精霊魔法が大きいのだろう。各個撃破できるのは本当に戦闘が有利になる。まだ、1対1でも余裕な魔獣なのもあるが、これが複数人対1であればもっと楽に倒せるだろう。
だが、そんな大人数で更には弱体化魔法等をかけられる魔法使いも多くは無い。レンティも始めはそうだったが、攻撃魔法を使うことを優先しがちだからだ。覚えていても戦闘中に思い浮かばなければ使うことは出来ないだろう。
そう考えると結構バランスの良いパーティーになってきたと思う。まあ、ノンナがあまり気味ではあるが、元々突貫しがちな性格だ。中衛アタッカーで少し裏からの方が良いこともあるだろう。
全て倒し終え、血抜きが終わり、必要な部位を取り、土に埋めようとしたところで警告が飛ぶ。
「フミトさん!気をつけてください!ジャイアントワームです!」
「うげぇ……」
慌てて埋めている手を止め、必要な物をかき集めて馬車に走る。
少し離れたところに居たリーアは戦闘態勢を取っている。
「リーア、倒せるけど、めんどくさいから逃げるよ!」
「え??」
パーティーを組んでから初めての逃走だ。リーアは理解できないと言った表情で着いてくる。
「倒さない理由?それはね、非常に気持ち悪いからだよ!」
そう答えた瞬間後ろから土が巻き上がる音が聞こえる。十分に離れることが出来たので、リーアに見せるために足を止める。
振り向く前にレンティの顔が見えたが、口に手を当て、顔が青くなっていた。
そんなレンティをなだめること無く振り向くと、赤黒くて体の長い太さ1メートルほどの魔獣が見えた。体の後ろ側はまだ地中に埋まっていて、円形の太い胴体の先端には剥き出しの人間に近い歯が見える。
「な……んです……あれは……」
リーアも見えた物がお気に召さないらしく、その表現の難しい嫌悪感と、吐き気と闘っているようだ。
「ジャイアントワーム、腐肉を好む魔獣だよ。まあ、未到達地域の掃除屋ってトコだな」
「あんな魔獣が居たのですか……」
リーアがそのような感想を言う間、ジャイアントワームは俺達がはぎ捨てた部位をその口でかぶり付き飲み込んでいた。
「なんで倒さないのですか?」
吐き気に耐えているリーアから当然のような質問が来る。だが、その言葉とは逆に、リーアの顔は闘わないでほしいと懇願しているようにも思える。
「倒すことは余裕だよ。行動パターンも単純で遅いし、体も柔らかい。ただね、切るとあふれ出る体液で剣が溶けるんだよ」
「え??溶けちゃうんですか??」
「切ってすぐ溶ける訳じゃ無いんだけど、洗わないで放置すると切っ先が丸くなってることがあるんだ。それに、倒しても売れる部位が無い。これが致命的だね」
「それは……最悪ですね……」
「水分が多い魔獣だから、体の水分を蒸発させれば良いかと思って、魔法でカラッカラにしたことがあったけど、酷いもんだったよ」
「どう酷かったんですか?」
「その蒸発させた付近に人も魔獣もしばらく近づけないくらいに臭くなった」
「臭い??」
「酷い臭いだったよ。肉の腐った臭いをさらに濃厚にして、ウルフとかの獣臭も濃縮した臭いかな。実際はもっと酷いと思う。上手く言葉に出来ないよ。実験だったから吐きながらも続けたけど、二度とやりたくは無いね」
「イメージわかないです……」
「わかない方が良いよ……」
臭いを思い出し、吐き気が沸き上がってきたが、気力で押さえ込み、さっさとこの場から逃げることにした。
「案外素直に逃がしてもらえるのですね」
レンティも青ざめていた一人だったので、気にはなっていたようだ。
「肉があればそっちを優先するからね。突然遭遇したときは肉の塊を置いて逃げれば問題ないよ」
「そうなのですね。しかし、地中から出てくるとは不思議な魔獣ですね」
「まあ、ミミズのでっかい版だからねえ。と言っても、地中を移動するために生えている体全体にびっしりとある毛のような足は受け入れがたいけどね」
「あれはもう見たくありません……」
「未到達地域では稀に遭遇するから、覚悟しなよ?」
そう言うとレンティは耐えがたい表情をしながら、
「遭遇しないことを祈ります……」
また吐き気との戦いに戻っていった。
翌日、翌々日と何も魔獣と遭遇せず肩すかしな冒険が進む。
そこで、またこの出来事か、と言う呆れたような響きの声が聞こえる。
「車輪の下、何か挟まったみたい。確認して」
今日の御者はティアだ。ティアの操作が下手というわけでは無く、草が絡まったり、岩に阻まれたりと人が普段通らない場所というのは大抵この言うな事が起こる。魔獣との戦いよりは遙かに楽な事ではあるが、何度も起きるとさすがにうんざりしてくる。
「草が絡まっています。除去するまでちょっと待ってくださいね」
リーアの声が馬車の下から聞こえる。整備されていなくても人通りのある道というのは進みやすい物だ。街道と呼べるようになり、更には整備されると進みやすさは段違いとなる。
日本のアスファルト道路網はこの時ばかりは恨めしく思う。夏は熱を反射しやすく、工業地帯の排熱と合わせてヒートアイランド現象なる物が発生し、夜間は冷房器具が無いと寝づらことも多かったが、移動という点についてはとてもすばらしい物とだと思う。
ファンタジーの世界に来たのだから、グリフォンに乗れたり、空飛ぶ乗り物等があるとワクワクしていたのだが、物理法則が元の世界と殆ど変わらない様なので、現在はあきらめている。魔獣に関しては、飼い慣らせるほどバカだが賢い魔獣はいないようだ。飼い慣らされていることに気づかないくらいバカで、飼い主を覚えることが出来る位に賢くないと無いと魔獣に関しては無理らしい。種族が違うので力で押さえることも出来ない。余裕が出来たら空飛ぶ魔法の研究もありかとこの頃考えるが、実現できるのはいつのことやら……。
「フミトさん!」
浅い川を渡り、半刻ほど進んだところでナイアから声がかかる。
「海です!!」
「え?海??」
俺以外のメンバー全員から何故海が見えるのか不思議に思う声が聞こえてくる。
「ああ、方向は間違っていなかったな」
「どうして海がみえるんです??」
ナイアから質問が来る。ティアもノンナも、もちろん初心者のふたりも一斉にその質問が飛んだ後俺を見てくる。それもそうだろう、街道で半月以上西に向かった場所から、3日程度東に向かっただけで海にたどり着くのだ。
「ここは湖ではなく、海で間違いないよ。レーニアより北の土地はそのまま東側に広がらず、ある一点から一気に海岸線が西側に移るんだ。そこから更に大きな入り江としてここがあるみたいでね。その入り江の最奥がここだよ」
その話を聞くとノンナがシザーリオで海岸に向かって駆けて行ってしまった。それにあわせて御者のティアを除く全員が走り出す。
ティアも馬を少し急がせるようにする。まったく、馬車の護衛が居なくなってどうするんだよと文句を言いたくなる。が、ここは俺のお気に入りの場所の一つ。走りたくなる気持ちもわかる。
白い砂浜に青い海、周りの緑も柔らかく手入れがされているように全体的に整っており、雑然としていない。元の世界でこのようなところがあれば、確実にデートスポットと化していたであろうかなり綺麗な場所だ。日が昇る東側なのがイメージとは違う所だとは言え、この美しいパノラマ風景での告白は女性にとってはあこがれるところかもしれない。まあ、今回はみんなに見せたかった以外の理由は特にないんだけどね。
「どうだい?東側を選んだ理由は理解してもらえたかな?」
だが、この問いかけにだれも答えてくれなかった。
一瞬無視されたのかと思ったが、感動して声が出ないようで、リーアやナイアは小さくうなずいていた。ノンナが返事してないのは目の前の砂浜をシザーリオで笑いながら走っているからなのは見ればわかることだったが……。
順調とは言え、昼を終えてから数刻経過してからこの場にたどり着いている。皆も景色にしばらく目を奪われた後、水際で戯れている。
だが、そろそろ危険な時間になってくる。
「みんな!聞いてくれ!そろそろ先ほどの川まで戻らないと大変なことになる!」
危険を知らせる言葉が含まれていたので、一斉に俺の近くまで全員が集まる。
「フミト!何があるのよ!?」
「その危険はね、ナイアかティアの犠牲が伴う危険だよ」
「え……?」
俺を除く全員が俺の答えを聞き、固まったように体を強張らせていた。
大変お待たせ致しました。先週先々週は本当に脳が動かず、書くことが全く出来ていませんでした。ムリに書いた文面を、頭がすっきりしてきた辺りで再度見なおしたのですが、支離滅裂で、かなり意味不明な文面になっていました。無理矢理に書いて更新していたら、読んだ方全員が困惑するような内容になっていたと思われます。人間その気に成ればパルプ○テを唱えることが出来るのかもしれないとも思えました。
完全復帰と言えるかどうかは正直なんともいえませんが、お楽しみ頂けるように尽力しました。また読んで頂けたら幸いです。




