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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
55/83

東区

東区

 

「敵襲!グラスリザード!4匹です」

「リーア!あいつらは足が速いから気をつけて!ティア、ナイア、仕留める必要はない、できるだけ機動力を削げるように傷を与えてくれ。もちろん仕留めても構わないよ。レンティ、一匹でいい、スパイダーアンカーを、ノンナはシザーリオで馬車中心に護衛を!来るぞ!」

 

 俺達は翌日人類未到達地域東区へと足を向けた。東区と言うのはわかりやすく言えばアピやレーニア方面に向かうということになる。こちらを選んだというのはまだ優しい方だと言うこともあるが、もう一つ別の理由もある。

「フミトさん、あの山ってひょっとして例の山ですか?」

 野営地点から出発してすぐ左手側に見えてくる岩肌がちらほら見えている山が遠くに見える。背の少し高い木と浅い草が殆どの土地で何も生えていない岩肌の地点はかなり目立つ。その山を眺めながらリーアが質問してくる。リーアが質問できるのは、普段より馬車が少ないので、結構自由な隊列でもナイアとティアが目を光らせているから何とかなるからだ。

「そうだね、あそこの近くだね」

「あの辺りはもう魔獣は戻ってきているんですか?」

「ごく一部の土地を除けば戻ってきてるみたいだね。ドラゴン種も見かけるらしいよ」

「え?ドラゴンですか?」

「俺が戦ったグランドドラゴンと同種タイプだけど、もっと小型のね」

「放置してて大丈夫なんですか?」

「意外と深追いしない魔獣みたいで引いていく相手には追撃しなてこないらしいんだ」

「ずいぶんと変わった魔獣ですね」

「あともう一つ特徴があって、武器が壊れた相手は見向きもしないって」

「かなり知能が高そうな魔獣ですね」

「そうだね、だから放置しても問題ないって事で討伐隊も組織されなくなったんだ。結局あの空白地帯には行けなくなったのには変わりないんだけど、その範囲が狭くなった程度だから容認されているみたいだね」

  「私達で倒せそうですか?」

「そういう考えはあまりしない方が良いよ」

「どうしてです?」

「とりあえず、リザード系に遭遇したら納得できるよ」

「?」

 俺の答えが具体的では無いので頭をかしげている。まあ、いずれ遭遇できるんだから、簡単に答えを教えなくても良いよね。

 

 まったりとおしゃべりしながら人類未到達地域東区を進む。昼を過ぎても全然遭遇しないので、ふたりはそろそろ緊張が解けてきたようだ。まあ、こんなタイミングで魔獣が来ないかな?と思っていたところにナイアから襲撃が伝えられる。

「リーア、レンティ、ちょっと気を抜いていただろ?」

「はい……」

「レンティは攻撃を受けないように避けて。リーアは覚悟しなよ」

「え?」

「グラスリザード来ます!」

 グラスリザードはダチョウを爬虫類にしたような魔獣だ。2メートルを超え、幅も大きめのダチョウよりすこしたくましい。イメージしやすい動物は、架空の生物でしか無いが、尻尾が長く前足は短めな、後ろ足2本で立つ恐竜がかなり似ている。羽は生えて無く、大きめの鱗がハッキリと見える。普通の鱗では無く、山型にすこし盛り上がっている。ワニガメほど尖ってはいないが、イメージはそんな形の鱗だ。

「気をつけろよ、リーア」

「はい!」

 この注意勧告は別の意味で言ったのだが、すぐにはリーアはその意味を理解するだろう。

 レンティがスパイダーアンカーできっちり1匹を絡め動けなくする。ナイアとティアは精霊魔法を使わずに二人で1匹の頭を打ち抜く。予想以上の成果ですこし予定と違うことになる。まあ、1匹はリーアに頑張ってもらおうか。

「リーア、1匹任せた。ノンナ、危ないときだけ手助けして」

「はーい」

「残りはどうしますか?」

「俺が引き受ける。レンティ、魔法で倒してみな。しばらくは自由にやって」

「はい!」

 ノンナと対照的な返事が返ってくる。ノンナも気を抜いているわけでは無いのはわかっているんだけどね。

「絡めた1匹はどうしますか?」

「そうだね、倒しちゃって良いよ」

「はい」

 ナイアとのんびりとした会話を続けてるように思えるが、既に接敵して噛みつかれるのをカタナであしらってる最中だ。リーアの方も初めての魔獣で前知識は何も教えてない。よく観察して、どういった行動を取るのか覚えてもらいたいからだ。後は、ウィークポイントを見つける目を養ってほしい点もある。

 鼻先を軽く切ったりして怯ませていると、リーアから軽い金属音と悲鳴が上がる。

「痛っ……跳ね返された!?」

 たぶん今までのように何も考えずに打ち込んだのだろう。硬いところと、まだマシなところある。ぱっと見分かりやすいのだが、柔らかい魔獣ばかり戦っているとそういう点を忘れてしまいがちだ。多分、ダグラスの事だから、養成所で対人では鎧の隙間を狙うようにという教育はしているだろう。だが、そうそう対人なんかはやることが無い。

 そう言った点を思い出してもらうため、後は、初対面の魔獣でも予備知識無くても倒し、生き残れるようになってほしいから一人で相手にさせている。

 レンティも、ロックストライクや今までほとんど用の無かったファイアボルト等使っていたが、大して効果が無い事を感じていたようだ。だが、リーアの声で当てる部位を意識し始め、ロックストライクの形状を円錐形に変えたり、それでもうまく行かないと慣れない中級魔法のウィンドカッターを使ったりもしていた。

 攻撃に専念できる分レンティの方が傷つけられているが、魔力消費という費用対効果に関してはあまり誉められた物では無い。いろいろな魔法をこれだけの回数唱えることが出来る事自体、すごく有能なのは間違いないのだが、魔法を使うことだけに専念しすぎている。

 そのせいか、既に肩で息をし始めている。効果的にどういうものが効くのか試すことは非情に良いことだが、実行した結果をあまり観測できていないようだ。

「レンティ。この魔獣がどのような骨格、肉質、表面、性質を持っているかを考え、攻撃した後の結果をしっかりと観測してみな。土に刃を立てた時にすべきこと、そして起こることは何か、それを観測し、理解しなければ効果的に魔法を選ぶことは出来ないよ」

「はい!」

 今の言い方で理解できたとは思わない。だが、むやみに魔法を使うことはしなくなった。初級魔法を使い、魔力消費を抑えながら攻撃を仕掛けている。

 だが、肩で息をしているだけで無く、額に汗をかき始めていた。多分もうそろそろ限界になるのだろう。その様なときにリーアの方から声が上がる。

「わかった!ここだ!」

 バレバレな弱点を見つけるのにおもったより時間がかかった。だが、相手も敏捷性の高い魔獣だ。簡単に当てることは出来ないだろう。

 そう思ったのだが、意外とあっさり鱗の隙間に剣を突き刺し、手傷を負わせ、グラスリザードを倒すことに成功していた。

 競争をしていたわけではないのだが、先を越されたレンティは少し悔しそうな顔をしていた。

「レンティ。競争じゃないよ。それでどうして効果がなかったのか分かったかい?」

「たぶんですが、うまく鱗の隙間に当てられていなかったのではないですか?」

「そうだね、どうして当てられなかったのか分かる?」

「相手の動きが早いからです」

「足止めしていればうまく行ったんじゃない?」

「そうですが、スパイダーアンカーはフミトさんを巻き込んでしまいますし、ピットフォールは掛かる気がしません。それに嫌なことを思い出してしまいますし」

 ピットフォール、落とし穴を使ったのは一緒にいる間では1回だけだ。俺がグラスクーガーに噛みつかれた時。どうやらトラウマに近い心の傷を負ってしまったようだ。

「まあ、動きを止めなくても、遅くする方法はあるよね。こいつは毛皮を着ていないし」

「あ!」

 ここまで言ってようやくわかったようだ。生前の知識のある俺はこの様な魔獣の弱点は比較的すぐに解った。この世界ではその様な教育をしているわけではないので、教わるか自分で気づくしか無い。

「アイスレイン!」

 レンティがケイトウに付く前に教えていた魔法を唱えた。アイスランスが使えるのなら凍らせる魔法は使えるはずだ。ただ、この魔法は殆ど対人間に使っても毛皮のある魔獣に使っても意味が無い。せいぜい大型冷蔵庫に入れられた気分になる程度だ。だが、この魔獣、表皮が鱗と皮でできている爬虫類とかなり似通った生物には一気に体温を下げる効果が見込める。レンティもそれに気づいたようでこの魔法を使ったのだろう。

 魔法が発動し、すぐに効果が現れ始めた。俺に対する攻撃の回数が激減したのだ。もうこうなるとレンティも観察する時間も、狙いを定める時間も作れる。

 ロックストライクの形状を時間をかけて円錐状にし、発動させる。

 動きが遅いので狙った位置に上手く突き刺さる。

 続けて刺さったロックストライクに普通に唱えたロックストライクを叩き込む。

 鱗と肉が避け、グラスリザードの心臓まで届いたようだ。

「レンティ、お疲れさま」

「はい、ありがとうございます」

「結構時間かかったけど、良い経験になったでしょ」

「はい。相手をよく見て魔法を選ぶ。意外と難しいですね。フミトさんならどうしました?」

「でっかいロックストライクを頭に一発で終わりかな?」

「そういう結果もありなのですね……」

「正解なんて無いよ。それにこの方法だととれる部位が減るかもしれないからね。リーアはどうだった?」

 レンティの様子を見に来ていたリーアに声をかける。

「行動をイメージするのに手惑いました」

「思ったより単純じゃなかった?敏捷性は高いけど」

「長い首で戦う魔獣は初めてでしたし、後はハパロバさんの影響で深読みしすぎました」

「なるほど、想定より時間かかったのはそれが要因か。でも程度にも寄るけど良い癖だよ」

「ありがとうございます」

「弱点見つけた直後はすぐ倒してビックリしたけどね。あまり攻撃得意じゃ無かったじゃない?」

「ハパロバさんの動きよりは当てやすかったので」

 悪影響とでも言いたくなるくらいに良い方向に吸収してくれていた。天ぷら増やしてあげようかな。

「良い勉強になったね。ハパロバとの訓練は」

「そうですね、かなり厳しい訓練でしたけど、学ぶところは多かったと思います」

 身内だと厳しく出来ないと言うのがあったのだろうか、俺ではまだ甘いところがあったのだろう。

「帰りもハパロバにお願いしてみるかい?」

「ハパロバさんが良ければ是非」

 こんな事聞いたらハパロバ喜んじゃうだろうな。それに、ハパロバのストレス発散にもなるし、良いことづくめかもしれないな。

「フミトー!馬車回してー!」

 遠くでティアから俺を呼ぶ声が聞こえる。

「それじゃ、レンティとリーアはこの魔獣の血抜きしておいて。血抜きが終わったら何処の部位を持っていくか説明するから。それとリーアは武器を確認。欠けている可能性もあるからね」

「はい」

 本来はここで武器の1本や2本折る予定だった。まあ、精霊の宿った武器なので破損することは無いかもしれないとは思っていたが、念の為に馬車にはリーアが使っているようなそこそこの値段がする片手剣を2本ほど持ってきているんだけどね。

 埋める場所は1箇所の方が穴を掘る手間が省けるため、魔獣を1箇所に集め解体するつもりだ。馬車をティアとナイアが頭を穿ったグラスリザードと、レンティが絡めたグラスリザードとの間に留め、馬車に乗せる事を手伝う。2匹乗せている間にノンナはシザーリオの蔵に紐を通し、レンティの倒したグラスリザード近くにに引っ張っり、血抜きをしていた。

 硬いウロコだが、かなり大きめなのと、加工がしにくいのと、かなり重く不格好になるということで、実は殆ど鱗は売れない。結局皮を剥ぎ、四肢を切り落として身だけにし、部位ごとに切り分けてから馬車に吊るす。肉の味は多少臭みがあるが、甘味は強いのとどういう理屈かわからないが傷みにくいので長期保存、長期探索用として意外と重宝されている。その為、より長く持つように干しておくほうが少し高く買い取ってくれるのでこのように手間を掛けて解体する。もちろんそのままでも売れることは売れるが、一手間かけることにより少し値が上がるのなら急いでない場合は大抵干していく。

 いらない部位を捨て、埋めた後出発する。

「リーア、レンティは馬車で良いよ。疲れたでしょ?」

「ありがとうございます。素直に馬車に乗らせていただきます」

「リーアもだけど、レンティは特に魔法使い過ぎた様だから、眠っていいよ」

「いえ、少しでも監視しておきます」

「寝ておきなさい」

「……はい……」

 二人はそう言うとナイアの隣で目をつぶる。少しすると寝息が聞こえてきた。思ったより消耗してしまっていたようだ。まあ、緊急事態でもすぐ起きるだろうし、最悪予算度外視で魔法を使えばここらの魔獣は何とかなる。例のサンダーウェイブは相当多くの種類の魔獣を倒すことが出来る。だが、最高級羊皮紙が必要になるので1回の冒険で1回が限度位だろう。ケイトウでは補充できず、残りは3枚なのであまり連続で来てもらっても困るといえば困るのだが。


 日が少し傾き始めた所でリーアとレンティが目を覚ます。

 だが、しっかりと覚醒する時間は取れなかった。

「敵襲!グラスリザード10です!」

 さて、ちょっと真面目に戦闘しなければならないようだ。


ここの所疲れていて頭がぼんやりとして良い文章ではなかったと思います。GWで少しでも回復してより良い文章を書けるように頑張ります。

しかし、暖かくなってきましたね。もうそろそろ暑いという感情に埋め尽くされそうな時期にもなってしまいますが。スポーツする人はもう日焼け止めをおすすめします。今の時期が一番紫外線が強いらしいです。日の日差しが強い真夏より、紫外線の強さが強いのは別の時期というのもイマイチ納得しにくいですけどね。

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