告白
告白
「あー美味しかった!それに懐かしい!日本人は味噌醤油に梅干しって言った友達がいたけど、今ほんとにそう感じるよ!」
結局五条桜という人物に一番食べ慣れている俺の夕食を渡し、彼女の携帯食料を俺が食べることになった。味的には割に合わないものだったが……。
「そうかい。それは良かった」
どうやら満足してくれたようですこし胸をなで下ろす。
30年前のしかも前世での記憶の味覚と3年前まで日常的に食べていた味覚との差が無いことについてかなりホッとしていた。三つ子の魂百までもというが、俺の魂にも刻まれているのだろうかと思う。これで今まで勧めてきた事柄が問題ない可能性が非情に高くなったので俺にとってはこの不味い携帯食料を食べることになったが、経験者に食べてもらえると言うのはとてもありがたいことだった。
「これ、どこで手に入れたの?味噌とか。私もほしい」
「ああ、これは俺が作ったんだよ。まだ量産体制にはほど遠いけどね」
「あなたが作ったの?凄いわ!すこし分けてもらうことは出来ないかな?」
「試作中と言うのと、パーティーメンバーの栄養価を考慮してるから、つまむ程度でよければ」
「ありがとう!これ私にも作れるかな?」
「五条さんが大豆と麹を手に入れら出るかが問題だな」
「桜でいいわよ。そっか。両方とも私の国じゃ難しそうだなー」
米麹じゃなく、麦麹でも作れるので、米に関しては言わないでも大丈夫だろう。
しきりに俺に彼女は話してくるので、ティアの不機嫌な顔が目に入る。不機嫌なのも仕方が無いだろう。肉の味付けはティアがやったのだ。知らない人にほいほいあげちゃうのも嫌がるだろう。
「なんか、貴方は話しやすいね。なんでなのかな?」
「そう言われても俺に思い当たる節なんか全く無いのだが?今日が初対面だろう?」
「それもそうね。何故かな?」
「たまたま馬が合っただけじゃ無いか?」
「そうなのかな?」
最初は馴染まない敬語を使っていたのが今ではもう普通に話している。確かに馬が合ったのかもしれない。
「話は変わるけど、そのあなたの武器、ひょっとして日本刀?」
その言葉で今更になって思い出す。俺はパーティーメンバーだけではなく、全ての知人に一つ秘密にしていることを。俺がこの世界の人間ではない。正しくはこの世界の両親から生を受けたので、この世界の人間ではある。だが、魂はこの世界のものでは無い。その様な妄言とも言えるような真実を信じる人はまず居ないだろう。軽く話した所で信じてもらえるわけでもなく、重い話にしては冗談が過ぎると思うだろう。今の俺を信頼してくれている今のパーティーや、フェスティナ商会の面々、昔の仲間等にそれが知られることによりみんなの心が離れてしまうのではないかという恐怖がある。離れるだけならまだいい。拒絶されてしまうことが何より怖かった。過去の妄言を知っているものは村でも俺の両親や親しい友人だけだろう。あの妄言は小さい頃特有の夢見がちな少年と言うことで落ち着いているから持ち出してくる人も居なかった。だが、ここで日本刀という別称を知っている日本人に出会うとは全くの想定外だった。たぶんここで濁したことを伝えても彼女は突っ込んでくるだろう。もし、納得したとしても、パーティーメンバーが納得することが無いだろう。どうするべきか……。
「どうしたの?聞いちゃいけないことだった?」
すこし気まずそうな顔をして彼女は俺の顔を覗き込む。
周りを見ると、ティアとナイアが俺が答えないことに何か違和感を感じているようだ。パーティーメンバーにはカタナと名称を伝えている。だが、彼女は日本刀とさも当然その名前が当たり前の様に質問してきたのだ。しかも、その名称を否定すること無く聞いてはいけないことと気を使っている。
俺は、もうこれ以上は誤魔化すことは出来ないだろうと思い、意を決して告白することにした。
「そうだよ。これは日本刀だよ」
「やっぱり!ひょっとしてこれもあなたが?」
「再現はしたけど、作ったのは鍛冶屋だよ」
「そっかー。私も持ってみたいかも?」
「1本金貨20枚だよ」
「何でそんなに高いのよ!」
「それだけ手間がかかるって事」
「むー」
「ちょとまって!フミト!それはカタナだって言ったよね?ニホントウって何?」
ティアから当然の質問が来る。大丈夫。もう腹はくくった。
「この剣は彼女の居た世界の約400年近く前の武器を模倣した物なんだ」
「え?」
全員が俺が何を言っているのかすぐには理解できなかった。五条桜もなぜこの世界の住人に過ぎない俺がそこまで知っているのかが理解できずに固まっていた。
「え?ひょっとしてあなた日本人なの?」
「そうだよ。1984年生まれの元日本人だよ」
「元って何?」
「ちょと!フミト!どういうこと!?」
ティアから叫ぶような声で質問する。
「みんな、よく聞いてくれ。これから言うことは夢物語のように聞こえるかもしれないが、俺の今まで誰にも言ってなかった真実を話すことにする。いいね?」
落ち着いた声でゆっくりと諭すように言ったので全員が無言でゆっくりとうなづく。
「俺はこの世界の住人ではない」
「はぁ!?」
「ちょっと待てって。両親もいるし、この世界で生を受けたのは間違いない。そういう点ではこの世界の住人なのは間違いないんだが、魂とでも言うんだろうか、前世での記憶が完全にあるんだよ」
「前世?ってフミトって死んじゃったの?!」
「その前提を取り敢えず頭に入れておいてもらえるかな。そうすればこれから説明することが何となくでもわかると思うから」
「わかった」
「俺は五条桜が居た世界で普通の大学生だった。この世界で言うのなら魔法学院の研究生ってところかな。大学3年になったあたりで自動車、鉄で出来た動く馬車に引かれて死んだんだ」
俺が死んだと伝えたところ、哀しげな表情になるのだが、あまり納得というか理解が追いつかないのでどういう表情をして良いのかわからないのだろう。
「ロック鳥に飛ばされた時より飛ばされたと思う」
「鎧は無かったのですか?」
ナイアが何とか言葉にする。完全に世界観の違いがこのような質問になったのだと思う。
「俺と五条桜の居た世界はかなり平和な世界なんだ。しかも、その中でも飛び抜けて平和な国で過ごしていたんだ。鎧を着ていたら変人扱いされていたよ」
「と、言うことは……」
「ほぼ即死だっただろうな。最後の飛ばされた瞬間は覚えているんだけどね」
五条桜が色々と聞いてくるかと思いきや、意外と大人しいのですこし意外に思った。
「それで、どうやってこの世界に……?」
「これは俺も未だに信じられないのだが、真っ白な部屋で女神に会ったんだ」
一番信じてもらえないような所を何事も無いように自分の精神が揺れることを何とか抑え込み話す。
だが、ここで思いも寄らない方から声が上がる。
「あ!それ私も会った!というか、連れてきたのたぶんその女神様!」
意外なことで今度は俺が面を喰らった。ひょっとしたら、と言うことが頭の中で色々と巡る。考えている最中だが五条桜は続けて質問をする。
「その女神様って、系統は違うけど、ナイアさんだっけ?みたいに綺麗な人だよね?」
そういう見方ができるのか……。俺としてはよくわからない世界に放りだした元凶という認識なので、綺麗という単語に直結しなかった。
「今思い出せば、確かに綺麗な人だったかもな」
「なーに?その女神様に惚れちゃったとか?」
桜のその言葉にかなり呆れながら答える。
「同意もなしに勝手に突き飛ばしてこの世界に突き落とした女神をどうやったら惚れることが出来るんだ?」
「あ……あらー?同意なしだったのね……」
「そういう桜はどうなんだ?」
「私は頭を下げてお願いされたわ。丁寧な口調でどうかよろしくお願いしますって」
「俺とはぜんぜん違うな。本当に同じ女神か?」
「白い背中の空いた服で、背中まで髪を伸ばした女性よね?」
「その特徴だけで言うのなら一緒だな」
「そんなに女神様っていっぱいいるのかな?」
「ギリシア神話とか、北欧系の神話には山ほど出てくるぞ?」
「そっちよくわかんない」
「興味なきゃ調べないよな。と言うか俺もよくわからん」
「えっと……、フミトさん。それで、どうなったんですか?」
恐るおそるリーアが俺達の会話に割り込んでくる。
気難しい雰囲気だったはずなのに、女神の事になり、かなりの脱線をしてしまったのでいい加減話を戻さなくては……。
「今さっきさらっと言ってしまったけど、俺は自分の意思ではなく、女神に突き飛ばされてこの世界に落とされたんだ」
説得するには良い雰囲気だったのに誰かさんのおかげで緩くなっちゃったよ……。
「そこで俺はこの世界の両親から生をうけ、成長して今に至るって事」
なんか、腰砕けになったので大分省略しちゃったけど、言いたいことは言えたし良いかなと自分勝手に納得する。
「そうだったんですね。フミトさんは女神に何かお願い事をされているのでしょうか?」
リーアからそう質問が来る。
「俺は何も言われてないよ。強制的に来ただけだからね」
簡単に答える。あの女神に対しては思うところがあるから言ってやりたいこともある。
「あの……フミトさん……」
鎧の質問以降ずっと黙っていたナイアが手を上げ質問の許可を取る。
「……フミトさんは……元の世界に戻りたいと思うのですか?」
始めは消え去りそうな声で、次第に大きくなり、最後はかなり大きくなっていた。
「そういえば、帰れるかもしれないんだよね?」
「うん。私はそう聞いてるよ」
五条桜のこの言葉は俺にも重い。なんせ今まで元の世界に帰ることをみじんも思っていなかったのだ。7才までは前世での自我が無く、完全に融合できたのは魔法学院卒業近くだ。10年以上もこの世界で過ごしていたら望郷の念なんてかなり薄れてしまうだろう。しかも、今ではこの世界で過ごしている方が長いのだ。飛ばされた直後で成体であり、自我もハッキリとしてなければ望郷の念なんて出てこないだろうと思う。
だが、あの世界に行けるという魅力は非常に強い。だが、もう望郷の念より、好奇心という方だろう。
「桜、ひとつ聞きたい」
「なーに?」
「日曜日朝の魔法少女は今何代目?」
「は?……確か私が呼ばれた時は13代目だったかな?なんでそんなこと聞くの?」
「そうか。そうなるとおよそこっちで2年経つと元の世界で1年経ってる計算になるな」
「え?そうなの?」
「あれって多分1年に1回変わるだろ?そうなると最低13年経ってる。こっちでは俺はもう30だ。桜がこっちに来てから3年と言うことは大体15年近く立ってる計算になるよな」
「なるほど!私は戻ってもまだ17歳なんだ!」
「その都合のいい計算は何だ?と言うか、高校生だったのかよ」
「そうよ。こっちに来た時は16歳だったのよ」
「俺の約半分かよ……」
「よろしく、おじさん」
「うるせー!お前もそのうちおばさんだよ!」
「あーら。まだピチピチだもんね」
「それ言うならリーアやレンティもピチピチだよ」
「そうなのよね、ナイアさんとティアさんだっけ?ものすっごく肌キレイなの。なんでなの?私結構今の肌維持するの苦労してるのに」
「え?」
「おい桜、話の展開早すぎて誰も着いてきてないぞ」
俺達の会話がコロコロと変わるものだからついてこれないようだ。ただでさえショックかもしれない告白を聞いたのだ。ゆっくりと整理する時間か質問する時間が必要かもしれないな。
「結論から言おう。戻る気は無いよ。第一元の世界に戻っても、あの世界で死んだはずの俺の体はあるのか?戸籍はどうなる?それに15年経った世界だ。俺が順応出来ないだろうな」
俺がか戻ることを考えなかった理由はそういう所にもあるのだろう。改めて口にしてみて理解できた。
「生まれ変わるんじゃ無いの?こっちに来たみたいに」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。正直あの女神は信用してないんだよ。だから、戻るつもりは無いよ」
「そっか」
2回目の戻らないという言葉を聞いたメンバーはそろって安堵の表情を見せる。なんか、その顔を見るだけで凄くうれしい気持ちになった。告白することが出来て良かったと言えるだろう。
「フミトが帰っちゃっても心配しないんだから!」
突然ティアが顔を真っ赤にしながらそう言ってくる。
「ティア、突然ツンデレのお手本みたいな言葉はどうした?」
「え?つん……でれ……?」
そう言えばこの世界にツンデレって事は無かったな。と、ティアが目を丸くしている理由を思い出す。
「ツンデレ!あはははは!確かにそれっぽい!」
「桜、笑いすぎ」
「ごめん、普通に生活してた時はそう言うのに出会えた事なんてなかったからね!」
笑われたティアはみるみる不機嫌になっていくのがわかる。ああ、後でご機嫌を取らなきゃな。
「私は心配しますよ。折角の良い商売相手が居なくなってしまうのは面倒です」
「レンティ……俺の存在意義って……」
「金づる?」
「ひどいっ」
「あはははは!おなか痛いからやめて!!」
リーアもノンナも笑顔が戻る。ティアはまだ怒っていたが、ナイアもすこし笑い始めた。これはレンティに感謝だな。
そう笑い合っているところに足音が聞こえ、そして声がかかる。
「勇者様、こちらにいらしたのですか」
初老という域に入ろうかという男性が桜相手に声をかける。
「ああ、ごめんね。すっかり話し込んじゃったわ」
「桜、こちらの方は?」
「私が今居るパーティーのリーダー、ダリアンよ」
立ち上がり挨拶をする。
「このパーティーのリーダーであるフミトです」
「これはご丁寧にありがとうございます」
「フミト、ご飯ありがとう。これほど美味しいのは難しいけど、今度は私から奢らせてもらうわ」
「おう、楽しみにしてるよ」
「みんなもありがとう、楽しかった!またね!」
そういって歩こうとする桜をすこし止め話す。
「俺が異世界人って事は秘密で」
「ん?なんで?」
「面倒ごとは嫌いなんだよ。味噌すこし多めに渡すからそれでよろしく」
「わかった!味噌で買収されましょー。美味しかったしね」
「助かる」
「みんなごめんな、秘密を隠してて」
「ちょっと信じられないけど、ミソやコーヒー、セイシュが無ければ笑い飛ばしてた所だったわ」
ティアからは否定的な意見は出てこなかった。この一言だけでも、告白することが出来たのは良かったと思うことが出来た。
「そうですね、ニホントウと言うのも今なら納得できます」
「ジドウシャってヤツ乗ってみたい!」
「フミトさんを死なせちゃった物なんですよ?」
「でも、便利そうだよね?」
ナイアとノンナからも否定的な言葉も無く、口調も普段通りだったので胸をなでおろす。
「そうですね。概要もよくわかりませんが、フミトさんの世界の物なら面白そうです。作れませんか?」
「あのね!あれはムリ!作れたとしても、俺の知識じゃかなり時間かかるよ!」
「かなりってどれくらいかかるんですか?半年くらい?それとも1年位ですか?」
「生きてる間に作れるかな……?」
「そんなに!?」
「ぱっと思いつくだけで、幾つも今の技術じゃ作れないものがあるからね」
「残念です」
リーアとレンティからも、方向的にはおかしいかもしれないが、否定的な意見は無かった。むしろ、レンティはこれをきっかけにして何か商売になるような情報を引き出そうという魂胆が少し見えているような気がする。
「フミトさんの居た世界のこと教えてもらえませんか?」
「ああ、まずはどんなことが聞きたい?」
「そうですね……」
前向きに俺を受け入れてくれたということに嬉しく思う。だが、それには少し落とし穴があった。
夜間の歩哨をしなくて済むと言うのはこうも時間が経つものなのだろうか。結局2刻近くもそこで話し込んでしまい、慌てて皆寝ることになった。
嬉しい時はその時間が永遠に続けばいいのにと言う感覚、前世でもこれかと思っていた時はあったが、ようやくその本物に出会えたようだ。
先週は予約更新のつもりで投稿したら日付を間違っていたようです。次の日に気づいてかなり驚いていました。
勇者はようやく出すことが出来ました。もっとサラッと出すつもりだったんですが、意外とガッツリと書いてしまいました。うまくかき分けしてるつもりなのですが、まだまだハッキリと区別がつかないようなのは自分の力量不足です。読んでくださっている方に依存してしまうのは心苦しいのですが、もっと精進しますので、温かく見守っていてください。