嫉妬
嫉妬
~~~~~
「そろそろ結婚したかな?」
「ん?イオタ、突然だけど誰のこと言ってるの?」
「クルノール、何言ってるんだよ。そらもう、おいら達の師匠だよ」
「師匠って……あ、わかった。レヴァイトどう思う?」
「まだじゃない?ラーヴァイトは?」
「いや、してるだろう?ボルカどう思う?」
「僕はしててほしいな。オリヴェル?」
「意外とハーレム作ってるのではないかと思うのだが?シリノよ」
「それはナイナイ。エイト?」
「どうだろう?でも、不思議と人気あるんだよね。へリンクもそう思うよね?」
「そうだね。なんでだろ?バルボはわかる?」
「よくわからないね。似たようなイオタなら分かるんじゃないのか?」
「おいらだってわからないよ」
師匠から別れて6年。全員が何とか街級に上がることが出来、中級冒険者として少しは名前が売れ始めた僕達。前回アタックした時は武器や防具がボロボロになり、一攫千金どころか、借金を作ることになった最前線アタック。僕を含め何人かは結婚している。身を固め、そして何かにチャレンジしていく為にはまだまだ資金が必要だということで、安定的な護衛任務を一時的に終わらせ、2度めのケイトウアタックをすることになった。あの時と比べ、僕たちは成長したと思う。各々の突出した強さはないが、連携だけは負けないと思えるようになってきた。レンジャーも、魔法使いも、専門的な治癒魔法が使えるメンバーもいない。だが、皆が剣、弓、槍を使うことが出来るので、オールレンジで戦うことが出来る。10人という人数なので、ケイトウ付近の大量に遭遇する大量の魔獣達にもそんなに苦痛はない。今度こそは成功させたい所だ。
「所でなんでその話を出したの?僕は懐かしい人の話だから良いけど」
「衛兵が言ってたんだよ。この街に入ったって」
「それじゃ、久しぶりに会えるかな?」
「どうだろうね」
「あって何話すの?」
「やっぱり結婚したか?」
「いや、してないでしょ。だからおいら達の何人かは結婚したって自慢してやろーぜ!」
「あ」
「あって何?あって何??」
突然僕を含めた9人がそろって固まる。イオタの後ろに立っていた人物が、力を込めたであろう拳をイオタの頭に振り下ろされるのを見ていた。
「お前ら、人の事を色々と言ってくれちゃって、ぶん殴るぞ?」
「フミトさん!」
どうやら僕たちは懐かしい恩人に会うことが出来たようだ。
~~~~~
「フミトさん?」
「ちょっと殴ってくる」
「え?」
ナイアの呆けた顔はこれで2度目か。また珍しい物を見れたものだ。まあ、それより俺のことを続けざまに侮辱してくれているバカどもを殴らなくてはな。
「あだっ!」
一番騒がしく喚いているイオタの後頭部を殴りつける。少しスッキリした。
「久しぶりだな!お前ら!」
「お久しぶりです!フミトさん!」
「いきなり殴るなんて酷いじゃないっすか!」
「殴られるようなことを言ってるから悪いんだよ!特にイオタ!」
「と言うことは、まだ結婚できてないんですね?」
「うるせー!妙に察するのが早いのが昔からキライだよ!オリヴェル!」
「ほんと、お久しぶりです。6年経ってもたいして変わらないんだね」
「やっぱり結婚してないから?」
「お前ら双子はどうしていつも口が悪いのかな?レヴァイト、ラーヴァイト?」
「口が悪いのは生まれつきっすよね」
「バルボ、お前も大概だよな」
「フミトさんは良い商材見つけました?」
「マイペースだなへリンク。お前こそ売れそうにないもの集めやめたのか?」
「失敬な!あれは買い手がつかないだけです!」
「それを売れないものって言うんじゃないのかな」
「俺もそう思うな。クルノール」
「極稀に良い物見つけてくるんですよ。でも、変な物を集めて資金不足なので売れるほど買えないんです」
「シリノはよくわかってるよな。と言うか、こんな状況でも相変わらずだな、エイト。おしぼりで鳥なんて作ってるんじゃねーよ」
「はい」
「俺が貰ってどーする!」
「こっちは貰ってもいいですよね?」
「お?エールか。やっぱり気が利くよな。さすがリーダーのボルカだ」
「自慢のリーダーっすから」
「それじゃ、久しぶりにおいら達の師匠フミトさんと会えたことを祝して!カンパーイ!」
「カンパーイ!」
思わず流れで乾杯してしまう。本当ならリーアとレンティの為に乾杯はとっておきたかったんだがな。まあ、それはこの後か、明日以降で良いか。
「そうそう!フミトさん。おいら達の中で結婚したの何人居ると思います?」
「なに!?もう結婚してるのか?!というか、結婚して冒険者続けてるのかよ!」
衝撃的な告白をされ、何とか顔の面だけは動揺し過ぎない様に取り繕う。心と頭の中?もう台風で停泊中の船舶並に揺れてるよ!
「嫁ができてるもんでね」
「殴っていいか?」
「スンマセンっす!」
「そう言うイオタが結婚一番手か?」
「いや、ボルカっすよ」
「え?ボルカが?」
素直に驚いてしまう。一番物静かで9人に引っ張られていたような感じのあるボルカだ。だが、何かしっかり決めなければならないことがあると9人はいつもボルカに相談するのは知っていた。だからリーダーになっているとも。
「お恥ずかしいです。彼女の一途な気持ちにほだされまして」
「聞いてくださいよフミトさん!ボルカはすごいんっすよ!金貯めて全員でグランサッソの高級娼館に行ったんっすよ。その時のNo.2にあたっちゃったんっすよ!」
「それはすごいな!いやまて。イオタ。それが何に繋がるんだよ?」
おかしくなったか?いや、普段からこんなもんだったなと軽く思い出して自己完結したが、何の脈絡のない繋がりに困惑を覚える。
「そのNo.2が今のボルカの嫁っすよ!」
「はぁぁぁああ?!」
「すいません。それは本当の事です」
その種類の職業についている人は仕事で出会った人には相当なことが無いとなびかないと聞いたことがあるし、その職業の人から直接聞いたこともある。何か突拍子もない事やるやつだと思っていたが、こういうこととは……。
「ボルカは1回で惚れられちゃって、次の日にはデートしてたっすよ!それで、結婚しようって告白されて断ったんっすけど……なんだっけ?」
「僕は、その仕事をしている限りは結婚は出来ませんと言わせていただいたんです。本当は、うれしかったし、僕なんかにありがたかったです。職業のことは全然気にしていなかったですし、その地位を維持するための努力もすごい大変なのは噂でも知っていましたから友人や、彼女としてお付き合いすること自体は問題なかったのです。でも、結婚した後に自分の大切な人が他の人に抱かれているのは僕の心は耐えられる自信が無かったので。それと、彼女はとても頭もよく、綺麗でしたので僕なんかは吊り合わないと言うのもありまして、生活基盤である仕事をやめることを取引条件にすれば諦めてくれると思ったのです」
「それが、その次の日にやめちゃったんっすよ!」
「ホントかっ!?」
「はい。貯めていたお金を使い、契約期間内で契約を打ち切る時の賠償金を支払ってまで辞めてきました。そして1週間後再度会う事になったんですが、その1週間の間に食事処の給仕係の仕事につきまして、あっという間に看板娘になり、新しい生活基盤を作り上げてしまったのです」
「へリンクより圧倒的に商才ありそうな才女だな」
「失敬な!」
「ボルカの何にそんなに惚れたんだ?」
「それは決まってるっすよ!下半身ッスよ!」
飲みかけてたエールを思わず吹き出す。何とかイオタに向ける事に成功する。
「汚いっすよ!」
「お前がそんなこと言うからだ」
「そんなことないっすよ!ボルカ」
「最初は本当にその比率も高かったみたいです……。1ヶ月ほど一緒に住んでわかったのですが、そこ以外にも魅力を感じてくれているようです」
「まじか……。どこに惚れたんだ?」
「お店に来る客や呼ぶ客は結構無理を言うそうなんですね。金を払ったから何でもすると思い込んでしまってるようなのです」
「おいらもその話聞くまで似たような気持ち持ってたッス」
「それを、まあ……綺麗な女性だったので、どぎまぎしながら丁寧に接したんですよ。そのような仕事をしているのも気にしてないので、普通の綺麗な女性と接する感じだったと思います」
「それはもう先入観の差もあるんだろうな」
「そうかもしれませんね。まあ、どんな仕事をしていても女性は女性ですから。こんなことを言うと、ハパロバさんに投げ飛ばされそうですが」
これは人徳に惚れたと言うようなことなのだろうか。まあ、無茶はしないし、先を見る目もある。考える時は色々と情報を集めてから考え、行動する。堅物と思える位な言動が多いが、回数こそ少ないが突拍子もないが良い決断を出すのはボルカだったりする。
「確かにな。ハパロバは一緒にここに来たから、もう少しでここ来るぞ。話すタイミングは良かったみたいだな」
「それは危なかったですね」
「ハパロバさん来るんですか?!また夜に誘わねば!」
「オリヴェル、五体満足で居られることを喜びなよ?」
オリヴェルはかなりの変態紳士だ。純粋培養のリーアやレンティにはまだ合わせられない位にやばい奴だ。以前もハパロバを誘って肋骨1本折られている。女性を誘わないのは紳士ではないと常日頃言っていた。まあ、そう言っておきながら初体験は人見知りのイケメン、エイトに先を越されたんだがな。
「うさぎ」
「エイト、あえてうれしいのはわかったから、おしぼり渡さないで良いよ」
「フミト!来たぞー!私におごれー!」
「あーもう、うるさいの来た」
「では、誘ってきます!」
「死ぬなよー」
何だろう。凄い疲れるけど以外と落ち着く。今のパーティーメンバーと居ても、落ち着いているのだが、種類が違うのだろうか。最初のパーティーメンバーとも違う。男だけというのも気楽で良いのかもしれないな。
~~~~~
突拍子もないことを言われかなり驚いてしまった。
普段は乱暴なことをしないので、私の思考は麻痺してしまったようだ。
止めに行くこと等考えることも出来ず、彼の姿を追って行く事だけが今の私に出来たことだった。
振り上げた拳が頭に振り下ろされる。止めなくては行けないと思うことさえ出来なかった。
そして、攻撃された彼の顔を見てもまだ呪縛は解けなかった。
再会を懐かしむ会話が聞こえ、その意味をゆっくりと氷が溶けていくかのような速度で理解が進んだ時に、凍らされて固まったかの様な私の体は動けるようになっていた。
「あれ?ボルカ達じゃないの」
「ティアさんお知り合いですか?」
ティアさんとリーアさんとの会話が進む。私も気になり耳を傾ける。
「フミトの育てたパーティーなのと、うちの常連客だよ」
「そうだったんですか」
ティアさんの言葉とフミトさんの笑い声が頭の中でくっつき理解できたのか、ようやく呪縛から解放された。
だが、しばらくすると何か居心地が悪いというか、何か小さな事でも目に付くようになって来た。例えば食器が重なり鳴らす音や、入口のドアが乱暴に開けられる音。その様な音を聞くたび、心にモヤが掛かるようになる。
食事中なので、おなかがすいた時の感覚ではない。だが、それに近い感じに思える。
人に当たり散らす人が居るが、今ならその人の気持ちがわかるかもしれない。
だが、そんな性格でもないので、実行に移すことは何かはばかられる。
なんでこんな気持ちになっているのか、なんでこんなに落ち着かないのか。考えても答えが出ない。答えが出ないと言うより、思考が空回りするかのようにまとまらない。
疲れているのだろうか……。明日は半日は休息日となっている。レンティさんには悪いけど、休ませてもらいますか。
「なんでフミトはあっちに行ったままなのよ!」
「少しは説明して欲しいですね」
「でも楽しそー」
「そうですね。あんなフミトさんはまだ短い付き合いしかないけど、見たことなかったですね」
私も初めて見る。そのように笑い合うフミトさんを。
「なんか久しぶりに見るな。あんなフミト」
「ティアさんは長い付き合いなんだから見たことあるんですね」
「あるよー。前は普段からあんな感じだったよ」
「前ってどのくらい前なんです?」
「うーん、やっぱり前のパーティー組んでいた時なのかな。パーティーを解散したのが8年前だったかな?」
8年前。私が初めてフミトさんと出会った時は7年前なので、その1年後。そう思うとフミトさんにはつらい時期に出会っていたのだと思う。でも、そんな素振りはあまり見えなかったと記憶している。
「あの時はすごく無気力でね、新人冒険者を育ててる時だけがマシな状態だったのよ」
そんな時に私は色々と教わった。パーティーの中では優等生だったので、あまり接してもらえることはなかった。だけど、仲間を思いやり、助け、生き残る道を一生懸命に解き、そして実行してきた背中を私は見てきた。
私達のパーティーは2ヶ月程度でお世話になることを終え、巣立っていった。まだまだ教わりたかったことはたくさんあったが、当時のリーダーの意見を皆で相談し、反対意見が無かったので自立を選んだのだ。
別れてから気づいた喪失感。たまにレーニアに行くときになった時の高揚感。そして新たに新人を育てる為に街にいなかった時の残念感。王都の通りで遠くから少しだけ見ることが出来た時の心が踊り、そしてうろたえる感覚。そして、レーニアで再会出来た時の幸福感と緊張感。アピでフミトさんがグランサッソでの娼婦と何かあったのかもしれないという事を知った時の焦燥感。表にこそハッキリとは見えないみたいだが、多くの感情に揺さぶられながら私は生きてきた。
「それにしてもフミト!早く戻って来なさいよ!ちょっとイライラしてきた!」
そう。私はようやく嫉妬という感情を理解することが出来た。
今週は珍しく木曜日にほとんど書き終えていました。4~5回読みなおして居いるので誤字脱字はかなり減っていると思います。ただ、読みなおす度に足らない気がして追加しまくっていたので、とある部分がちょっと膨らみすぎました。ですが、書きたいことは書けたので、取り敢えずこのままに。
ようやくフミトの他の育成パーティーを出すことが出来ました。
バカな会話はすごく書きやすかったので今週は早く仕上げられたのかと思います。ですが、バカな会話なので、読むのも早いかもしれません。その点はご了承くださいませ。




