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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
50/83

森の街道

森の街道


「あぐっ!」

「リーア!大丈夫か?!」

「はい!鎧が防いでくれました!」

「この魔獣はとにかく攻撃後の離脱が早い、隙を見せないし、察知能力も高いから罠にもはまらない。技と力押ししか対処出来ない魔獣だ。だが、毛皮が高く売れる!仕留めるぞ!」


 3日目の昼過ぎ、森の街道を進んでいる所にナイアから緊急対応の警告が発せられた。

「敵襲!ワータイガー!すぐ来ます!」

 森の住人であるナイアでさえ見落とす様な魔獣。擬態能力というわけではなく、気配を消す能力や、体の模様で思ったより見えなくなると言う、忍者のようなやつだ。いや、忍者に会ったことはないんだけど、イメージでね?

 隊列の最後尾にいる俺とレンティは駆けつけ、陣形に慌てて入り込む。慌てて入りこんだ時には、既にリーアが1撃を盾で受け損なっていた。

「高く売れるってそんなに高いんですか?」

 攻撃を受けたはずなのに余裕があるな。そんなリーアからの質問だった。

「貴族の間で意外と人気高い素材なんだよ。後は倒すのが面倒なのと、思ったより出会えないので希少価値が上がっててね」

 そう言うとレンティの目が光り始める。

「是非仕留めましょう!」

 ここの所レンティの言動がどうも金銭に傾きつつあるのだが、これは不安に思ったほうが良いのか、商売人としていい方向に進んでいると判断すれば良いのか悩んできている。

 まあ、仕留めるのには非情に同意できる事なのだが。

 ワータイガーが再度攻撃を仕掛けてくる。こちらが隊列を組み、何時でも対応できるような状況になってしまっても逃げずに向かってきてくれるのはありがたい。ただ、下手に傷をつけて逃げてしまうのも怖い。ただ、リーアはまだその速度に馴染んでいないのか、盾で防ぐことがまだ精一杯のようだ。

「リーア、下手に傷つけないで。逃げることもあるから、動きを止めることを優先して。傷つけるなら足で」

「はい!」

 リーアの防御はハパロバが訓練を買って出るくらいだ、悪くはないと言うより、俺も先日体験したが、かなり良い仕上がりになってきている。だが、防御面を重視しすぎてまだ攻撃の方がイマイチな仕上がりになっている。死なないことを重視している俺のパーティーとしては合格点ではあるのだが、この魔獣に対しては高火力というか、瞬間的な高火力が必要になる。リーアはその域には達していないし、パーティーメンバーと息を合わせて一気に攻撃するような合わせ攻撃もま だ発展途上だ。先日のベアを一緒に倒したタイミングなんかは個人プレイの総合した結果でしかない。切った後相手がリーアだったと気づくくらいだ。こんなものは偶然でしかありえない。息を吸う様にこの様な攻撃ができると良いのだが、その域に達するには早くても最低数年はかかるだろう。俺の前のパーティでもその様な領域にたどり着いたのはグランドドラゴンを倒す直前辺りだ。現状ワータイガーを倒すことが出来るのは、俺の採算無視した魔法か、運良くリーアが足を動けないくらいに傷つけられることだ。

 ハパロバならいけるだろうが、あいつが現われた瞬間、ワータイガーは逃げてしまうかもしれない。

 そうこう考えてる間にリーアは4度目くらいの攻撃をさばいていた。タイミングはつかめてきたようで、武器を当てるイメージを軽く素振りで試している。

 さあ、次!と思った所、ワータイガーは不意に体の向きを変え逃げ出してしまった。

「あ……」

 残念そうな顔をするリーアとレンティ。

「まあ、しかたがないよ。リーアも誰にも負けない逃げ足を持っていて、4回連続で攻撃を躱されたら逃げることも頭にいれるでしょ?」

「そうですね……、でも、もう大丈夫です。次はいけます!タイミング掴みました!」

 次があれば良いんだけどね、とは口には出さなかった。生前の棒ゲームのメタリックなスライムさんみたいな扱いだからな。

「ああ、次は頼むよ」


 だが、幸運の前渡しとでも言うのか、良いことがあると不安になったりする。この後何か悪いことが起こるのかと。

「敵襲!ワータイガーです!多分、先ほどの魔獣です」

 希少価値な魔獣に1日に2回も遭遇するなんてそうそうあり得ない。同じ魔獣だとしたら、俺たちくらいなら何とかなるとも思われてるのかと思うと少し腹が立つ。もしくは、一人くらい餌になるとでも思ったのだろうか。餌なら邪魔なジャイアントボアの肉を渡しても良いのだが、人間の臭いが付いた肉は、万が一気に入ってしまっても困る。より人間を襲うようになってしまっては大問題だ。

「リーア!きたぞ!」

「はいっ!やってやります!」

 やっておしまい!って言いたくなったが、この世界では言葉の意味なら通じるだろうが、3人の旅慣れた男性か、女性一人に男性ふたりのトリオがイメージ出来ないと面白くも何ともないのでその言葉は飲み込むことにした。


 リーアの意気込みは若干空回りした感じではあったが、ワータイガーの方が俺たちを侮っているようで、既に3回の打ち込みをリーアに対して行っていた。いずれも盾でいなしてかすり傷さえ無い状態だ。次は大丈夫と言った一言は防御面ではこの所信頼できる一言になりつつある。まあ、稀にポカするが。

「次で仕留めるぞ」

 号令と共にメンバー全員が構え始める。

 ワータイガーが打って出た瞬間にティアが水の精霊でワータイガーの立っていた一帯をぬかるみに変える。レンティは左側にスパイダーアンカーを広域に放つ。ノンナと位置を変えたナイアが風の精霊を使い右側風の壁を作る。そう、簡易的な袋小路を作ることにした。ワータイガーが逃げるとしたら、ぬかるみを無理に突破するか、スパイダーアンカーの網目を上手く避け走り去るか、俺達を倒すかに限られた状況に追い込んだのだ。

 ワータイガーの攻撃はリーアが簡単に盾を使い避ける。逃げられないと悟ったのか、少しワータイガーがそわそわし始めた。さて、反撃の時間だ。

「いくぞ」

 その声と同時にリーアとノンナと俺の3人がワータイガーに対して同時攻撃を仕掛ける。万が一を考え、ナイアとティアは弓を構え、レンティは風の魔法を唱える準備を始める。

 だが、逃げ場を失くした上での3人の一斉攻撃に戸惑ったのか、ワータイガーはあっさりと俺とノンナの突きで胸を貫かれる。

 血を吐き、恨めしそうな顔をするが、容赦なくとどめの一撃で頸動脈を切る。

 一気に出血が激しくなり、数分後には動かなくなった。


「いくらで売れるのでしょうか?」

 腹から皮を剥ぎ、綺麗な1枚になるように慎重に剥がし終えた所でこらえきれなかったのだろうか、レンティからそんな言葉が漏れ出る。

「安くても小金貨3枚前後かな」

 あの程度の苦境で慌てるだけあって、まだ成熟した魔獣とはいえなかったようだった。だが、まだ成熟していない革の柔らかい間の特殊な時期のワータイガーの様なので、値はもっと上がる可能性がある。

 ワータイガーの値段は基本的には皮の面積で決まるのだが、革が柔らかい時期だと、女性の貴族に特に人気が高いものとなっている。その時期のワータイガーは発色も明るめなので、より 女性らしい色使いもしやすいとのことらしい。狩った後でこの事に気づく理由は、戦闘中にそこまで観察できないというのもあるが、毛皮と言うものは洗わないと発色が分かることはあまり無い。皮を剥いでいる最中に以前触った成体より革が柔らかいという判断のもとそう思っているだけだ。実際は違うかもしれないので期待させることは言わないでおく。

 ワータイガーの肉はそこまで美味しくない。肉系の雑食で、グラスクーガーの様に香草を好んで食べることもなく、肉であれば何でも食べてしまうのでウルフよりは癖がないが、ボアやアグリーバックが大量に取れる地域なので、肉に関してはほとんど買い取ってもらうことが出来ない。爪や牙はワーウルフ並で買い取ってもらえるが、現状毛皮がある状態なら雀の涙程度の扱いだ。あってもなくても大差無いので、一般的には手間を掛けずに持って行かないことが多い。その為、この地域にしては珍しく解体時間が短いのだ。まあ、他の毛皮だけの魔獣よりは慎重に剥くため時間がかかるのはしかたがないのだが。

 剥いだ毛皮の裏を灰で洗浄し終えると興味津々なレンティが話しかけてきた。

「触ってみてもいいですか?」

「ああ、でもあまり綺麗じゃないよ?」

「獣の油が付いているのは承知していますよ」

 灰まみれというような意味でとられると思ったが、さすがに察してくれたか。商売上の目で見てみたいということだと、本来は完全に洗浄したものを見るべきだと思う。だが、革の質という点で言えば、汚れていてもさほど問題はないだろう。

「少し柔らかくありませんか?」

「あら?レンティはワータイガーの毛皮触ったことあるの?」

「はい。たまにですが、うちでも扱っていた商品なので」

 なるほど、眼の色が変わったのはそれが理由か。

「レンティもこの毛皮は柔らかく感じるかい?」

「そうですね、確実なことは言えませんが、柔らかいような気がします」

 レンティも柔らかく感じるか。少し期待しても良いのかもしれないな。

 あまり期待させることは言わず、そのまま荷室の奥にしまい出発する。


 森の街道から離れ1刻が過ぎ、野営地にたどり着く。

 リーアはまたしてもハパロバに取られ、レンティもナイアが。この依頼の間は固定しそうな気がしてきた。

 まあ、またティアの鼻歌を聴くことが出来たので良しとしよう。

 配膳を始めた所に空気を読まない来訪者が現れる。

「敵襲です。ワーウルフ。数は6です」

 ご飯時に来ちゃうのも魔獣。ただ、一人の逆鱗に触れたことだけは間違いない。

「フミト!行くぞ!」

 完全にブチ切れたハパロバが怒気をまき散らしながら武器を用意する。

 こうなったハパロバはほとんどの者が止めることが出来ない。一度止めたことがあるが、一本武器を折られ、しかも塩銀亭で3回奢る事でなんとか止めることが出来た。戦闘力で止めることは出来るだろうが、かなりリスクが高いので安全な方法をとったのだが、違った出血を伴うことになった。

「はいはい。あ、みんなはいいよ。ふたりで行って来る」

「フミト、ハパロバをよろしくね」

「わかったよ、シャンティ」

 一部を除き、惚けた顔で送り出す。ナイアでさえ「え?」という顔をしていた。


 先に歩いていたハパロバに軽く走って追いつく。怒りのためか早歩きになっているからだ。

「ハパロバ、背中は任せろ」

「おう」

 短い一言が怒りの度合いを示している。さあ、蹂躙の始まりだ。


 ワーウルフはハパロバの怒気に怯え、隊列が完全に崩れていた。そうなると餌食である。

 一匹が我慢しきれずに飛び込んでくる。決死の覚悟とでも言うかのようにかなり素早い攻撃だった。だが、怒り心頭のハパロバは右からの一撃で飛び込んできたワーウルフの攻撃してきた腕を肩口から切り落とす。

 その様子を見ていた1匹が飛び込んでくる。だが、今度は恐る恐る飛び込んできたので、ハパロバは簡単に首をはねる。その様子を見て更に怯え始めたワーウルフに対してハパロバは威嚇をする。

「かかってきやがれ!」

 何とか体制を整え、4匹で半円陣を組み俺とハパロバを囲む。

 4匹で一斉攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。

 ワーウルフは予想通り、一斉攻撃を仕掛けてくる。2匹づつかと思ったが、少しは知恵を使ったようだ。だが遅すぎた。ハパロバに対して4匹まとめて突撃するのに俺がなにもしないわけがない。だが、それ以上にハパロバを3匹程度で仕留められると思っているのが浅はかな所だ。

 一斉に突っ込んできた1匹を俺が押さえる。ハパロバは右腕の武器で右側に居るワーウルフを一気に左に向かい振りぬく。右側のワーウルフの体に武器がめり込む。だがここからハパロバの怖い所だ。重戦士の様な体型のハパロバだ。大人より少し軽い程度のワーウルフは簡単に体ごと持って行かれ、真ん中のワーウルフに向けて叩きつける。左側から攻撃してきたワーウルフに対しては顔も向けずに2連突きを放ち、相手の左肩と喉元を貫いていた。

 ぶつけた拍子でワーウルフの体が離れ、自由になった右側の武器でよろめいているワーウルフを切り伏せる。

「フミト!そいつをよこせ!」

 言われると思っていたので軽く相手をしていたワーウルフから大きく飛び退る。

 急に視界から俺が遠ざかるのでワーウルフは俺が何かしてくるのかと俺に向かい身構えてしまった。

 そこに大きく飛び込んできたハパロバから武器が振られ、何が起きたのかわからないうちに首を跳ねられる。


「あーすっきりした」

 ハパロバの戦闘ができないストレスはリーアによって軽減されていたはずだが、ハパロバにとってはとても大切な食事の時間を邪魔されたのだ。戦略的にはくたびれて休憩に入った瞬間を狙った事になるので、間違っては居ないと思う。だが、ここにはハパロバがいた。それが今回のワーウルフ達の敗因だろう。

 武器と一緒に持ってきていたスコップで穴を掘り、ワーウルフの血抜きにかかる。

 ハパロバも元冒険者だ、手伝ってくれる。

「こいつらの報酬はいらないよ。横取りしちゃったからね」

「わかった。しかし、何時も思うが、剣闘士になんでならなかったんだ?英雄にでもなれただろうに」

 王都には闘技場があり、戦うことが仕事の職業がある。優秀な冒険者や軍人等はいつでも必要なため、ルールは絶対に殺してはならないというものがつく。そこで人気者になれば、賞金額だけでも余生は問題ないくらいに稼げるだろう。

「あれはだめだ」

 中々に短く予想外の答えをもらう。

「何でだ?」

「あれは弱くなる」

 戦う職業なのに弱くなるとは?普通に理由がわからずに質問する。

「戦いに明け暮れるのに弱くなるのか?」

「だって、そうそう強い相手と戦えないし、さっきの1匹目みたいな強いヤツに出会えない。後は基本1対1の戦いになるからな。それではつまらん」

 食べることと強さが何よりも好きなハパロバ。弱くなるのには耐えられないのだろう。

 各所を巡り美味い物に出会える冒険者や御者と言うのは願ったりな職業だと思う。冒険者をやめたのは、パーティーメンバーの意見を取り入れることになると、数カ所でしか戦えなくなっていくのが食道楽には辛いのかもしれない。難儀な性格だ。


 戦闘を含め、10分ほどで終わらせ戻ってくる。

 もう料理は冷めてしまった頃だろう。まあ、冷めても不味くはないが、ミソ汁はやはり暖かいのを飲みたいと思っていた。

「フミト、ハパロバ、お疲れ様。料理温めなおしたよ」

 こちらの気持ちを察知してくれていたのか、とても嬉しい事をティアはしてくれていた。

「ティア!あり「ティア!ありがとー!」が…」

 俺が言いたかったお礼はハパロバに遮られ、声の大きさでもかき消されてしまった。その上、ハパロバはティアに抱きついてまで嬉しい気持ちを表現している。

「こんなに良い子なんて!よし、私の嫁にしてあげよう!」

「ぎゃー!ハパロバ!離れなさいよ!それに、あんたの嫁なんて嬉しくないわよ!」

 力の差は大人と子供並に歴然である。良いようにされている上、逃げ出そうとしても逃げ出せないティアはまだ諦めずに抵抗している。

「良いじゃないかー、私なら守ってやれるよ?何が不満なんだい?」

「あんたは同性でしょうが!私は男がいいの!」

 なんだろう、この言葉が乱暴な「良いではないか、良いではないか」というような状況。

 まあ、料理が冷める前には終わるだろうと思い、心のなかで料理を温めなおしてくれてありがとうという合掌と、ハパロバが飽きるまで耐えてくれという意味の合掌をし、更には頂きますの合掌をして食べ始めた。

 ティアにトラウマが植え付けられなきゃ良いけどな。





今週は月曜日が休みでしたので、進行が早く、土曜日の夜には書き終えてたのですが、ダラダラとしていたら結局いつもと同じ時間位に投稿することに…。

電車で帰宅中に書くことが増えたのですが、スマホだと後でわけのわからない所に半角スペースが勝手に入る仕様に。多分タップした時にスペースを入れる指示になってしまっているだけなのかもしれないけど、投稿前に見なおしていた時に、15箇所ほどそれがあり、テキストエディタの半角表現出来るソフトを思わず探してしまいました。電車で座ることが出来ればキーボード持ち歩きたいですが、立っている場合にはそれが不可能です。慣れるしか無いのでしょうかね?

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