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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
49/83

積荷

積荷


 ジャイアントベアだった物を馬車に乗せ再出発する。

 ゲームとかで荷物の数量制限や重量制限のあったゲームよりは融通が利くが、すべてのアイテムを持ち続けることが出き、パーティーメンバー全員共通で即扱える道具袋が本当にほしくなる。

 ゲームじゃなくても青い猫っぽいロボットのポケットでも良い。

 まあ、生前より科学技術がほとんど発達していない世界に来たのだ。少なくとも俺が生きている間に実現することは、生前の世界より遙かに確率は低いだろう。まあ、夢だよな。

「どうしたんですか?」

 隣を歩いているレンティから声がかかる。

「いや、荷物が共有できたり、何でも入る袋なんてないかなって思っただけだよ」

「そんな物があると確かに便利ですね。あてはあるのですか?」

「レンティ、俺は何でも屋じゃ無いんだよ?」

 コーヒーの一件からどうも期待してくる。たまたま運良く知っている物だっただけなのに。期待の目に答えられないことが怖くなってきているので、少しずつ無理な事もあるよって伝えるためにつぶやいたのだ。まだ実感できる所までは行かないが、やりすぎるとおかしな人になってしまうので、さじ加減が難しい。

「期待して居ますよ」

「何を?!」

 いじられたのか、本当に期待されたのか一瞬迷ったが、ニヤッと笑ってるのでいじられたと気づく。


 結局この日は野営地まで何も遭遇しなかったので、比較的日が高い時間で到着してしまった。

 そこで久しぶりにリーアと手合わせしてみることにした。

「リーア、久しぶりに手合わせしよう」

「はい、お願いします」

 リーアとの手合わせはほとんどしたことがない。俺がレンティと魔法の訓練をしている事が多いのと、リーアは対複数での訓練を優先しがちだったからだ。いろいろな人に指導を受け、技術も大分成長してきたはずなので、少し気にはなっていた。

 お互いに刃引きした訓練用の武器に持ち替え、訓練を始める。


 まずは攻撃をいなす事ができるかを試すことにし、リーアの左手に持ってる盾に向かい、真横に剣を振る。

 ジルフ爺さん相手にしてるかのような、盾で防ぐしか方法が無いと思われる位の速度で斬りつけた。だが、上手く下げた右足に重心を移動し、比較的軽く動かせるようになった左半身を柔軟に使い、盾で剣の当たる衝撃を上手く反対側に逃がす事を簡単にやってのけた。

 続いて流されるまま武器を動かし、無理のない軌道で剣を返し踏み込んで腹を狙う。

 正面まで来ていた盾で防ぐと思っていたが、俺の力が剣に乗る前に、右手で持っていた剣を押し当て、威力を封じ込め、攻撃を無効化させる。一瞬の膠着が起きた直後、リーアの左腕からシールドバッシュが俺の顔に向かい放たれる。全身のバネを使ったシールドバッシュでは無いので、威力は大したことない。仕切り直すために放った攻撃だろう。うまい具合に盾の先で俺の顔を裂く様な軌道を描いていた。

 だが、仕切り直すためだけかと思っていたシールドバッシュに合わせて、右腕から突きが放たれる。

 盾で上手く死角を作ったつもりだったのだろう。だが、攻撃に意識を向きすぎていたので、リーアの体の開き方で次の行動が読めてしまった。俺は武器の切っ先を使い軽く突きの軌道を体の左側に逸らす。そのままリーアの開ききった体に突きを放った。寸止めして俺の一本という所だ。

「決着を急いだのかな?最後の突きはあまり良い方法じゃ無いと思うけど?」

「ノンナさんはビックリさせられたんですけどね……」

 ノンナに有効だった物が俺に有効とは限らない。身長の視点の違いもあるが見たり感じたりするポイントが大分違うからである。俺の戦い方としては、ノンナよりはナイアに近いと思う。ナイアに有効だった攻撃だったら危なかったかもしれない。

「まあ、色々なパターンを身につけ、そして一度崩してから再度組み立てられれば自分の戦術になるよ」

「はい!」

「それじゃ、もう一度「フミト!私にその子とやらせろ!」………」

 ハパロバがさっさと御者の仕事を終えたのか、それともシャンティに任せたのかわからないが、自分の太い2本の剣をウキウキ顔で待っていた。

「わかったよ。リーア、胸を貸してもらいな、ハパロバはかなり強いよ」

「はい!お願いします!」

 かなり呆れながら役割を譲る。ただ、今のリーアならハパロバ相手でも良い経験を積むことが出切るだろう。ハパロバの武器は訓練用ではないが、技量の差もあり、問題ないと判断する。

 ハパロバは本来両手剣を振り回す事があっている体格だ。体幹が尋常じゃなくしっかりしている上に、両腕の筋力もしっかりとし、しかもしなやかなものが備わっている。以前両手剣を持ったことがあるそうだ。いくつもの大型魔獣を一撃で倒していたそうなのだが、楽しくないから結局2刀に戻ったと言っていた。重戦士と言うべき体格で、剣士の様な技術で翻弄する。何気に一撃が重いので、訓練でも気が抜けない相手だ。ジルフ爺さんも剣術のみという制約で訓練した事があるが、勝つ事は勝ったが、次はやりたくないと言ったそうだ。

「よろしくお願いします!」

「それじゃ、いくよ!」

 好戦的なハパロバが先手を打つ。俺と同じように右からの攻撃だ。リーアは同じように攻撃を流すが威力の違いだろう。完全に流しきれずに少し体勢を崩す。ハパロバから左腕の軽めの突きが盾に向かい放たれる。突きに反応できたリーアは自分の体の左側に剣を滑らす様にながす。だが、重戦士とも言えるハパロバだ。滑らされた剣をそのままに一歩踏み込み左腕一本でリーアを吹き飛ばす。

「ひゃぁっ!」

 軽く体が浮き、1メートルには届かないが、思ったより飛んでしまい、着地できずに転んでしまう。ハパロバは当たり前の様に一足で追いつき寸止めで終わらせる。

「最初の一撃で飛ばすつもりだったんだけどね?」

 初見でハパロバの剣を受け流すと言うことは結構すごいことだと思う。優秀な戦士は少撃ち込むだけで相手の力量がわかると言われている。俺はまだその領域には達していないと思う。その一撃でリーアの能力を測ったのだろう。

「ほら!続けるよ!」

「は……はい!!」

 どうやら俺はお払い箱のようだ。ハパロバがリーアの事を気に入ったらしい。

 離れたところでは、ナイアとレンティが激しさは無いが途中こうきたらこう返すみたいなやり取りを交えながら訓練していた。

「フミト、夕食作ろっ」

 いつの間にか隣に立っていたティアが提案してくる。ノンナはシザーリオの毛づくろいしているし、他に手合わせするような相手も居ない。

「作るか」

「うん!」

 満面の笑みで返事をするティア。うれしそうな軽い足取りで前を歩き出す。

 ティアは大きく振り向いて、こらえきれない笑顔で提案してくる。

「ねえ!またあのスープ作ろうよ!ミソ使ったヤツ!」

「以外と気に入ったみたいだな」

「私が作ればもっとおいしくなるわよ?」

「なにー?」

「愛情タップリだもんね!」

 そう言うと鼻歌を歌いながら先に行ってしまった。

 この世界は歌の文化の発達がほとんど無い。戦いの世界なので楽しむ歌と言うのは一般的にも歌われているが、洗練されているとは到底思えない。一応12音階と言うことで同じ作りにはなっているのだが、音程が外れていたり、スケールが違っていたりと。まあ、自由ではあるので、そこまで気にせずみんなで歌い合ったりしているのだが。

 そんな生前の記憶を持つ俺がティアの鼻歌に思わず聴き入ってしまった。

 すべての楽曲を聞いたとは全く言えない記憶でしか無いが、どこか懐かしくそして綺麗なフレーズだった。

「どうしたのー?」

 鼻歌が途切れると同時にそんな声がかかる。

「良い歌だな。続けてくれるか?」

 その鼻歌は料理中も続けてくれ、心地よい時間を過ごすことが出来た。


「それにしても、ジャイアントって付く魔獣は本当に大きいんですね」

 翌日出発直後にジャイアントボアに遭遇した。単純にボアを大きくしただけのそんなに強くなはい魔獣だ。

 この魔獣相手には、リーアが軽く飛ばされた以外は特に何も被害は無かった。

 リーア以外はうまく突進を避け、2回目の突進で両側から両前脚を切り裂き、行動不能にした。

 リーア自体も飛ばされたとは言え、昨日のハパロバよりは飛ばされず、着地もでき、被害は全くなかった。

「この地域だとハズレ扱いになってるけどね」

「これでハズレなんですか?」

「ベアの毛皮はソコソコ値が付くけど、ボアは大きいだけだからね、レーニア-アピ間で狩れるから、そっち往復している方が楽に稼げるって事なんだよ」

「他の魔獣だともっと値が付くからですか?」

「そうだね、肉は美味しいけど、普通のボアと差が無いし、量も2倍から2.5倍程度だからね、それだけなら他の魔獣を狩った方が良いでしょ?」

 荷室の事を考えると、全部の魔獣を乗せられるわけでは無い。今回は特にもうジャイアントベアを狩っている。部位は厳選しているとはいえ、そこそこの割合を占めている。毎日ジャイアント系を狩り続けるとなると途中でほとんど乗せられなくなってしまう。まあ、その分食事に回せるので、どんどん食べても気にならないのだが。


 ジャイアントベアほどはかからなかったが、半刻近くは解体するのにかかり、日が高くなった所でようやく出発できた。

 昼食の最中にナイアから声が掛かる。

「敵襲!アグリーバック!多数!」

「とうとう来ちゃったか」

 うんざりしながら俺がそう呟くのにリーアとレンティが反応するのと合わせて、ティア、ノンナの二人もうんざりした顔をしていた。

「どうしたんですか?3人共?」

 流石に3人がうんざりした顔をしだしたので、二人は不安になっているようだ。

「アグリーバックは戦ったよね?」

「はい、あの草食獣みたいなのに凶暴な魔獣ですよね?」

「あれがね、大量に押し寄せてくるんだよ」

「え?」

 この地域は魔獣が強いために、元々群れをなして行動するアグリーバックが対抗するためにより大きな群れになっている所に遭遇することがある。少ないと数匹程度の遭遇で、他の魔獣に襲われた後という感じで楽できたりするのだが、多いと40匹ほどの集団で襲われることがある。1匹が弱いとはいえ、数で押されると怪我をするメンバーも出てくる。元の世界の軍隊アリほどでは無いが、群れの行動というのは非情に怖い事だ。現在はまだレンティが2対を何とか相手にでき、勝てないが怪我しない程度ということなので少し不安ではある。だが、ただ単に面倒なだけなのだ。倒すのも、剥ぐのも、血抜き等も……。

 弱いのに好戦的な魔獣なので、索敵範囲内に入ったということはこちらに向かってくるだろう。遭遇するのが少し早いと思ったが、面倒な相手なので、うんざりしながら準備をすすめる。

「ナイア、数はどのくらいだ?」

「数は20。こちらに進行中です」

「そこそこの数は居るな。いくつ辿り着く前に倒せる?」

「私は3行けそうです。」

「私も弓使えるから1か2いけるよ」

 ティアもナイアほどじゃないが弓も使えるので少しでも減らしてもらおう。

「レンティは何匹止められそう?」

「まとまっていれば5は行けると思います」

「わかった。ノンナ、シザーリオはシャンニーに任せて盾と剣もってリーアの隣に」

「はーい。って事は、ガッツリやりあうの?」

「ああ、弱いという意味ではないが、レンティをあの集団で戦うのは正直不安がある。怪我程度で済めばいいが、数で来られればそれ以上のこともありうる。だから、二人は後ろに通すな。レンティとティアをフリーにして攻撃をさせるんだ」

「はい!」

「ナイアは俺と一緒に左右から回りこんでくるヤツをことごとく排除。本当は突進を逸らすことをしたいが、避けきれない場合、怪我では済まないことがある。怪我程度なら俺が治してやる、意地でも通すな」

「フミト、守ってくれるのはありがたいけど、女の子に言う一言じゃないよ?」

「そうですよ!」

「いや、私は治してくれるのは嬉しいんですが……」

 士気をあげる為の一言が思いもよらない方向に進行し、困惑したが、全員の顔が締まったので良しとすることにした。

「ナイア、ティアは射程に入り次第順次攻撃、レンティはあまり離れすぎない位置で足止めを」

 そう言うとすぐナイアは弓を構えて矢を放ち始める。

 風の精霊のお願いはしていないので、高い軌道の矢を放つ。ティアにとってはまだ射程外なのか、弓に矢をつがえてかまえずまだ下げたままだ。

 高い軌道を描いた矢がアグリーバックの集団に向かってラインを描く。

 真ん中辺りの1匹に刺さり倒れる。続いて2射目をかまえ放つ。ティアもナイアが2射目を放った直後に構え始め、狙いをゆっくりとつけ放つ。

 ナイアの放った2射目がアグリーバックを屠った後、ティアの1射目もアグリーバックに当たり、倒すことが出来た。ナイアの3射目と、ティアの2射目が同時で放たれ、各々当たり倒す。ティアは弓をしまい、精霊を呼び始め、ナイアはそのまま4射目にかかる。

 ナイアの4射目は先頭にいる中心よりやや左を狙ったようだが、戦闘の中心にいるアグリーバックに体当たりをされ、よろめいた所に矢が通り過ぎる。ナイアの矢が見えたのか守る行動に出たようだ。稀にある行動だが5匹倒せたのだ。良しとしよう。

 レンティが近づいた所でスパイダーアンカーを放つ。密集していたにも関わらず、3匹しか止めることが出来なかった。

「12匹来るぞ!」

 構えるために号令を放つ。皆が身構えた所でティアが思わぬ魔法を放つ。

「水の精霊、相手の足元を浅くていいからぬかるみに変えて」

 広い地域の地面がぬかるみに変わる。しかもその場所がアグリーバックの進行方向に。アグリーバックの突進は止まることができず、そのままぬかるみに足を取られ、速度が激減する。

 深いぬかるみではないが、突進速度がかなり落ちるということはこちらとしてはとても対処がしやすくなる。ぬかるみの地域から抜け出て突進してくるのはかなり速度が落ちるだけでなく、土の地面になって速度が上がる物との差が激しいので、集団攻撃と言うより、短髪攻撃の連続という感じになってきた。

「ティア良いぞ!リーア!ノンナ!ナイア!後ろに漏らすな!」

「はい!」

 こうなると弱い魔獣との1対1に近い戦闘になる。重なったとしても俺達全員より多い数が来ることはなかった。前衛は武器で絶命させ、レンティやティアは風の精霊や魔法で首を裂いていた。


「お疲れ様」

 スパイダーアンカーにかかった3匹を屠り、ナイアとティアの倒した魔獣も血抜き場所に連れてきた後でねぎらいの言葉をかける。

「でも、この後が大変なんだよねー……」

 そう、20匹分全部解体作業しなければならないのだ。

 倒すことはそこまでキツイことではない。怪我は今回は無かったが、怪我で済む程度が多い。稀に集中攻撃され、冒険者の一人が引退に追い込まれることがある。そんな相手ではあるので、気は抜けないが、この後の作業を考えると逢いたくなくなる相手ではある。

 一人ノルマは3匹。手の早いものが4匹目に取り掛かるというような形になった。本来は処理が簡単な魔獣のアリーバックではあるが、数が多いと処理する部分が増える。角だけ取り外し、頭は首辺りから切り落とす。斧を持ってきて肉のほとんどついていない足の先を膝辺りから切り落とす。食事に適した体の辺り以外ほとんど埋めてしまう事になる。やはりその理由は馬車に乗らなくなることがあるからだ。内蔵をかき出し、灰で洗浄し、馬車に乗せる。この作業だけでたっぷりと1刻はかかってしまった。

「ポケット欲しくなるよなー……」

 虚しい事だとはわかっているが、思わず呟いてしまった。





20匹との戦いは本当は別の方法を考えてました。ですが、こっちの方が熱いかな?って思い、急遽変更。あと、キーボード変えました。前のキーボードは軽くて安いものというコンセプトで買ったもので、小説を書く前の物だったので、色々と誤字が増えていましたが、今回は途中から誤字減ってるんじゃないかと思います。いつもの誤字量と大差ねーよとなっていましたら、私のスキル不足ですのでご了承くださいませ。

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