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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
47/83

ふたり

ふたり


「ホントに少なかったねー」

 ノンナがフェスティナ商会から出てすぐぼやく。

「仕方がないだろう。こればっかりは遭遇するかしないかが問題だからな」

「それでも、もうちょっと来ても良かったよねー」

 そう、何が少なかったというと、魔獣の報酬だ。

 結局一人小金貨1枚にも届かず、銀貨3枚、小銀貨1枚、銅貨7枚、小銅貨7枚だった。昨日飲み喰いした額より少ないとは予想外と言うより、昨日の出費が予想外なのだが、ここまで遭遇しなかったのも想定外ではある。

「だけど、ティアとナイアが調子悪い時にそんなに回数と数が来なかったから助かったよ。少人数なりのやり方と言うのもあることはあるが、他のメンバーを守りながらやれるもんでもないからなあ。時間もかかるし」

 数が多い場合は背水の陣で更には防御に徹して少しずつ魔獣を削っていくというスタイルなので、自分たちだけが生き残るのが前提という護衛任務にはもっての ほかな戦術くらいしか無い。一人ひとりがハパロバ並の戦士であれば、そんなことやら無くてもいい。ハパロバは能力だけなら都市級な為、そんなのが多くいる パーティーなんて滅多にいるものでもない。まあ、レンティが居るので、魔獣の種類によっては足止めして各個撃破も可能ではあるが。

「もう回復したので、任せてください」

「私も居るのよ、多少多くても問題無いわ」

「頼もしいね。頼らせてもらうよ」

 社交辞令の様な言葉だが、頼っているのは本当だ。軽い言葉になってしまったがこれは俺の本心だったりする。ナイアは一緒に冒険していく間に昔より遥かに成 長していたし、ティアはムラはあるように思えるが、ここぞという時の底力には驚かされた。二人とも精霊魔法との相性は抜群で、ひょっとしたらこのパー ティーで1vs1をやった場合、決勝は二人でやることになるかもしれないだろう。そう思わせてくれるほど頼りにしている。

「私も頼りにしてよー」

「ノンナは抜ける所がなければなー」

「あ、ひどーい!パーティー組んでからはちゃんとしてるよ!」

 プンプン怒りながらノンナはバロックに向かい歩く。

「意外とシザーリオがしっかりしてるから抜けてる所が見えないだけじゃない?」

「あ!そんなこと言うんだ!でもシザーリオは良い子だよねー」

 怒ってたかと思ったが、シザーリオを褒めたらトロケそうな顔でニヤけだした。

 まあ、戦闘では抜けているところは見せてないからね。でも、普段は何もかもが抜けてるように見えるんだけどね。


「爺さんいるー?」

 バロックに着くと不機嫌な顔の爺さん達が居た。

「なんじゃ、フミトかい。何しに来たんじゃよ」

「どうしたの?女の子がいれば機嫌良くなるんじゃなかったっけか?」

「そういう使われ方はあまり好みではありませんが」

「お爺さん、久しぶりー」

「おお、ナイアちゃんにティアちゃん。ってティアちゃんどうしたんじゃい?」

 エイブラムス爺さんの顔はすごい不機嫌なままだが、声だけは少し機嫌が良くなった様に聞こえる。

「フミトのパーティーに入ることになったの。これからもよろしくね!」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。その鎧はエイルちゃんのか?」

「そうよ。良いでしょー」

「その鎧はブラムドも一目を置いていた鎧なんじゃよ。デザイン的にすごい綺麗じゃからな。よく似合っとるの」

 その上、シルヴィアさんの女性的センスも混ざり、更に綺麗に仕上がっている。

 だけど、エルフのエイル姉さんと、エイブラムス爺さんのどっちが年上かというとエイル姉さんなんだがな……。よくちゃん付けできるな。

「ありがとう。ほめてくれて嬉しいわ」

 ティアが少し照れながら礼を言う。お店では褒められても社交辞令だろうというのと、エイル姉さんにばかり注目が行くので、あまり褒められ慣れてない。ちょっとかわいく思ってしまった。

「それはそうと、なんでそんなに不機嫌なんだい?」

「ああ、カタナが全く売れんのじゃ」

「なんでそれで不機嫌なんだよ」

「予想じゃ一本金貨20枚ほどで売れると思ったんじゃがな」

 呆れる売れない理由がきた。金貨1枚あればそこそこの良い武器が買えてしまうのに、20枚で、しかも誰も知らない武器な上、運用が難しいものだ。誰が好き好んで地雷武器を高値で買おうというのだろうか。

「そんなのがポンポン売れちゃダメだろ。だけど、そのカタナは売ること限定して欲しいんだ」

「何故じゃ?良い出来なのに」

「良すぎるんだよ。エイル姉さんとティアに言わせると4種の精霊が宿ってるそうだよ」

「ほ?なんでじゃ?精霊なんぞ付け方しらんぞい?」

「だろうね。それで、その武器が普通の高級武器より遙かに性能良いんだ。初使用でベアの首を一刀で落とすし、俺が手加減ミスるし……」

「ベア一刀はすごいの。おまえさんが手加減失敗とは?」

「アグリーバック相手に連携の訓練したかったんだが、あっさりと1体倒しちゃってね」

「そら自業自得じゃろう」

「まあ、そうなんだけど、切れ味良すぎて思ったより深く入っちゃうんだよ」

「ふむ。じゃが、売っちゃならん理由にならんぞい?」

「これは俺のわがままなんだけど、リーアがせめて街級に上がるくらいは待ってほしい」

「からまれるからか。しかし、こっちも商売じゃ。売れんと困る」

「貴族相手あたりならどうかい?」

「一般的冒険者が見る事はほとんど無いからじゃな?わかった」

「フェスティナ商会通して限定的に販売できるルート探してもらうかい?」

「そうじゃな。手配頼めるかい?」

「ああ、任された。それと、代案としてだけど、鉄を普通に売られているインゴットで作れば精霊は宿ること無いかもしれない。それなら流通させても良いと思うよ」

「あのゴミ見たいなインゴットか?フザケたこというんじゃな」

「爺さんの腕ならそれでも高級武器に入ると思うよ。武器の運用は相手に任すしか無いけどね」

「ふむ。大儲けは出来そうにないのか」

「既に俺から結構取ってるんじゃないのか?」

「そうかの?そんなにとったかの?」

「はいはい。でも良いプランだろ?」

「わかったよ。おまいさんの案に乗るとするかの。でもその出処は別じゃろ?」

「わかる?シルヴィアさんだよ」

「エステファンも良い嫁もらったのー」

「尻に惹かれてるけどね」

「あの男はそんな玉かい?」

「そう見せてるだけって言う気がするけど、9割ホントだと思うよ」

「違いない」

 豪快に笑い始める爺さん。機嫌は良くなってきたようだな。


 エイブラムス爺さんと別れ、再度フェスティナ商会に向かう途中に3人は声をかけられた。

「フミトさん!」

「お!ラファエル君!と、アマーリアさん?」

 振り返るとルブリン商会のラファエル君と、盗賊の一件で囚われていたアマーリアさん二人が立っていた。

「フミトさん、ナイアさん、お久しぶりです。先日は助けて頂き誠にありがとうございました」

 アマーリアさんが深々とお礼とともにお辞儀をする。

「いやいや、仕事でしたし、私達も襲われたのでそんなに関係ないわけでは無いですよ」

「それでも、アマーリアを助けていただいたのはとても感謝しています」

 ラファエル君も深いお辞儀をしながら礼を言う。

 頭を上げた二人を見ると、ラファエル君も心なしか生きいきとしていて、アマーリアさんは栄養状態がよくなったのか健康的になり、美しい外見が戻ってきたようだった。

「アマーリアさんも順調に回復してるようで何よりです」

「ラファエルが良くしてくれますので」

「なるほど。そういえば、インサニティ商会との繋がりがないと証明されたんですか?」

 二人は困った顔して見つめ合いながら答えた。

「結局、時間的拘束期限が来て放免となっただけなのです」

「なるほど。ギルド長のアーバンさんもその節を狙ったような事を言っていましたね。情況証拠でしか無いので難しいというのもあったのでしょう。それと、多分ですけどオルティガーラで攫われた人の話をどこか知っていたのではないですか?」

「そうですね。結局1週間で開放されましたし、その後すぐビルド支店長が助けてくださったので、既に話が通っていたのではないかと思います」

 彼女も軽く思い出しながら伝えてくる。肉付きが良くなり、血色も髪艶も良くなっている。そんなに昔ではないのに軽く思い出すくらいになっているのだ、とても居心地が良いのだろう。

「そういえば、ユーベルは今、オルティガーラの牢獄に居ます」

 突然ラファエル君が機密情報を打ち明けてきた。

「え?!今こんな場所で言っちゃっていいの?」

 街中で、意外と人通りの多い場所なので、誰が聞いているのかわからない。

「大勢いる喧騒の中では意外と聞こえてないものですよ」

 大胆なのか、無謀なのかよくわからないが、インサニティ商会のメンバーに繋がるものが居なければ良い。まあ、元々大型の堅牢な牢獄はオルティガーラにしか無いので、少し歴史を知っている町民でさえ簡単に想像して簡単にたどり着くところではあるのだが。

 オルティガーラは、レーニア、アピ、これから行くケイトウよりはるか前に作られた街で、現在居る俺達の国「蒼玉の国」では最北端であった歴史が長い。魔獣との戦いもかなり長く続けていた街であったため、罪人を北の地に押しとどめておこうという考えもあったのだろう。かなり堅牢な牢獄を建てて罪人を収容してる。そんな歴史があるので、まあ、バレバレではあるのだが、他にも牢獄がないとは言い切れないので重要機密の様なものをこんな所でホイホイ言われるのも少し困ったことである。

 これ以上は問題になるかもしれないと思い、場を離れることにする。

「それでは、フェスティナ商会に用事がありますので、これで失礼しますね」

「そんな、まだお礼は全然出来ていませんのに……」

「今度街に寄った時にお願いしますね」

「はい。わかりました。それでは失礼します」

 お礼を受ける約束をし、フェスティナ商会に向かう。歩きながらふと振り返ったナイアから言葉が漏れる。

「良いですね……」

 二人から離れたのにまだ手を振っている二人が見えた。手を繋ぎながら。

 会話の途中でもお互いに目を合わすことがあったのでその様な関係でもあるのだろう。

 ナイアがどのような意味で漏らした言葉なのかわからないが、ユーベルに不幸にされた二人がゆっくりとでも立ち上がっている状況は俺としても好ましいことだ。


 フェスティナ商会でバロックの武器取引のお願いと、炭酸水増産のお願いを忘れていたので済ませ宿に戻る。明日からはリーアとレンティの二人にとっては初めての領域。早めに休み明日からの旅路の為、体を整える。


「出発!いくぞー!」

 パーティーリーダーのはずの俺の号令をハパロバにとられる。しかも全員それに何の疑問もなく出発する所が少し悲しい。

「?」

 レンティ、なんで歩かないの?って疑問の顔をしないでくれ。ホントに悲しくなるじゃないか。


 アピの反対側の道はレーニア方面と同じで森が続く。ゆったりとした下り坂で、さほど疲れずに進む。森の中の街道ということだが、森のエキスパートであるナイアとティアが居るため索敵に不安はない。半日ほど進行した所で魔獣と遭遇する。

「ジャイアントベアです。数は1」

「おー、この近辺では珍しいな。ジャイアントベア」

 ジャイアントベアは本来ケイトウ付近の森で遭遇することが多い魔獣だ。ベアとジャイアントベアの違いはさほど無い。ただ単純にでかいだけだ。

「なんです?あの大きさ!」

 思わずリーアが驚きの声を上げる。まだ遠くにいるのに普通のベアと同じくらいの大きさに見えている。

「あー、あいつでかいんだよ」

「大きいって、限度がありませんか?!」

 まあ、およそ普通のベアの2倍位ある大きさである。垂直に立った時は多分2.5~3メートルはあるだろう。

「まあ、ジャイアントって着くくらいだからねえ。隊列はいつもの通りリーアを中心で右ナイア、左俺、3列目レンティとティア。ノンナは適当で良いか?」

「やっぱり扱い酷くないっすか?」

「まあ、取り敢えず盾持ってリーアの裏居てカバーして」

「はーい」


 のんびりと支度を始めゆっくりと行動する。

「何そんなにゆっくりしてるんですか?!」

 リーアから叱咤の声があがる。

「まあ、大丈夫だって」

 その理由も単純だったりする。大きすぎるために動きがわかりやすすぎて避けるのも簡単であり、ある意味カモ扱いされているのだ。ただ、一撃はベアの4~5倍は痛いため、当たりどころが悪いと即死することもあるので、注意は必要だ。大きくなれば単純に動きづらくて遅くなるわけでは無い。ドラゴン系等は大きくなる事に比例して強くなる傾向があるので、初遭遇でサイズが大きい物に対しては普通以上に警戒するのが当たり前だ。


 リーアやレンティに怒られながら隊列を整えジャイアントベアと対峙する。

 後立で大声を出し威嚇をはじめるジャイアントベアだが、その威嚇は殆ど効果はない。普通に接していればそんなに恐れる相手ではないのだ。

「ウグッ……」

「ほええ?」

 大きく振り回したジャイアントベアの右腕の攻撃がリーアに直撃した。盾で防いでいたのでダメージ自体は無いだろうが、大きく吹き飛ばされてしまった。吹き飛ばされるとは思っていなかったので、俺が指示した場所に居たノンナが巻き込まれ二人は倒れてしまう。

「ちょっ!リーア!ノンナ!?」

「だいじょーぶー……」

 とりあえずノンナからの声は聞こえるからリーアを任せることにした。

 左右から大きく振りかぶる攻撃を連続して繰り出してくるジャイアントベア。足が止まっているので簡単に攻撃を避けることが出来る。ただ、興奮しているのか連続して振り回している。そんな所にレンティから魔法が発動される。

「アイスランス!」

 昨日教えた魔法を発動させるレンティ。ぶっつけ本番でしっかりと発動させる所がすごいと思う。水魔法を基本として風魔法で温度を下げ氷の槍を作り対象を突き刺す魔法だ。

 ただ、まだ慣れていないから氷の槍を作る時間がかかってしまい、アグリーバックなら何とか当てられる程度だろう。ジャイアントベアなら足を固定しているので簡単に当てられるので、その練習も含めてだろう。魔法が射出されジャイアントベアの右腕に直撃し、動かなくさせた。

「水の精霊、お願い」

 続けてティアがジャイアントベアの足元をぬかるみに変え、体制を崩した所でナイアがジャイアントベアの左腕を深く傷つける。

 そのままとどめを刺すために走りだしたところ、反対側から同じように走りこみお互いにジャイアントベアの首を一閃し、切り落とした。


「リーア、大丈夫だったんだ」

 反対側を走り、俺に合わせて攻撃したのはリーアだった。失態を挽回するために慌てて駆けつけたのだろう。

「すいません。またご迷惑かけてしまいました」

「リーア、ひょっとしたら威嚇に驚いちゃった?」

「ハイ……」

「説明してなかったっけか、ジャイアントベアは動きが遅いだけで対処が簡単な魔獣だって」

「聞いてないです」

「そっか、ごめんよ。まあ、盾で受けてダメージ特に無いのはすごい事だよ」

 ノンナとシザーリオとの訓練が役に立ったのだろうか。怪我がなさそうで良かった。

 ケイトウまで5日の工程、強い魔獣との戦闘が予想される5日間。少し不安があるが、このまま何事もなければと思いジャイアントベアの解体へとかかることにした。





前回は艶っぽい文章を書くつもりでいたのですが、いざ書いてみるとここにはのせられないような文章になってしまい、結局全部削除してドタバタに。

今週は書くことが水曜日まで決まらず慌てて書き始めたので文章的におかしくなっているかもしれません。もし、おかしい文章や誤字脱字などがありましあらご連絡頂きたいと思います。

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