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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
45/83

精霊魔法

精霊魔法


 ティアはナイアが回復した日の昼過ぎにはもう隊列に戻っていた。やはり精霊との契約が失敗したかもしれないという心労が一番の原因だったようだ。それも完全に払拭でき、体力だけ回復できればというところだったのだろう。馬車で眠っていたのを少し見えたが、完全に熟睡していたようだった。朝食も残さず食べたし、食べて寝ることが出来れば若い間はすぐ回復できるとジルフ爺さんが言っていたのを思い出す。

「フミトと一緒に最後尾が良かったのにー」

 先頭がリーアとナイア、最後尾に俺とレンティ。結局間が空いていたのは中衛だけだったので、そこに入ることになった。まあ、ナイアが見落とすことは無いと思うが、最後尾よりは発見が早いだろうから、俺の中ではティアが中衛なのはありがたかった。もし、前からでも後ろからでも急襲された時、弓で中・遠距離攻撃が出来るティアはいち早く駆けつけることが出来る。ノンナも早いかもしれないが、小回りがきかないのが難点なので臨機応変に動ける人物が自由に動ける中衛に居るのは理にかなっていると思っている。

「わがまま言わないでくれ。多分このパーティーだとこの体制が一番良いと思うんだ。前はリーアの盾とレンジャーのナイア、裏は俺が盾代わりでレンティはアタッカー、中衛二人が自由に動けると言うのはすぐに駆け付けられるって事だからね」

「私がアタッカーでも良いじゃない」

「真ん中でナイアの見落としを拾って欲しいんだ」

「ナイアなら見落とさないでしょ」

「うーん……そうかもしれないけど……」

「まあ、言いたいことはわかったわ。真ん中に居てあげるわ」

「ありがとう。さすがティアだ」

 それでもティアは不満そうに中衛の位置に戻っていく。まあ、こうなっても仕事はキッチリする性格なので心配しなくて良さそうだ。


 その日の夕刻近く、野営地に近い所で魔獣との遭遇があった。

「敵襲!野営地付近、グラスクーガー1」

「それじゃ、リーア先頭で、ナイアと俺が2列目、ティアとレンティが3列目、ノンナはテキトーに」

「テキトーって酷い!」

 ノンナが馬上からプンスカ怒ってくる。シザーリオは何にも動じてなく、背中にいるノンナを諌めるかのようにじっとノンナを見ているが、全くノンナは気づいていなかった。

「騎馬の動きってよくわからないからな、しかも1匹だから騎乗からの攻撃もしにくいだろうし、いつも通りに行って来いって出来るような相手でも無いし、そうなるとテキトーってならない?」

「うーん。そうかも?」

「だろ?」

 おし、何とか説得できたようだ。

「フミトさん、それなら私達でグラスクーガーを抑えておくから、隙を見てランスアタックを仕掛けるというのでも良いのではないですか?」

 ナイアから至極ごもっともな意見が飛び出る。いや、考えるのを放棄したんじゃないんだよ?

「フミト、ここは私にやらせて」

「ん?ティア、良いのか?」

「当たり前よ。グラスクーガーくらい余裕なんだから」

「そうか。わかった。隊列組むか?」

「ん~、多分いらない」

「わかった。いつでも駆けつけるように準備はしておくからな」

「ありがと」

 そいういうとすぐティアは歩き出す。自信はあるのだろう。足取りが普段と変わらない。

「ノンナ、一応すぐ駆け付けられるように準備しておいて、問題ないと思うけどね」

「はーい」


 グラスクーガーにとっては餌がノコノコ一人で食べやすい位置に歩いてきた程度にしか思っていないのだろう。鎧を着ているとはいえ、見た目では男性より柔らかそうな肉が各所に見える。食べる量は少ないだろうが柔らかく食べやすい肉と言うのは魔獣でも好むところなのだろう。グラスクーガーは隠れていた草むらからあっさりと顔を出してしまった。

「あら、出てきちゃったの?ずいぶんと警戒心薄いのね。これじゃあっさりと倒してしまいそう」

 そうつぶやくとティアは精霊を集めお願いをしていく。

「火の精霊・水の精霊お願いね」

 そう言うとグラスクーガーの右正面辺りで爆発と共に少し大きめの炎が立ち上がった。

 グラスクーガーは慌ててその場から逃げるために飛び退く。だが、飛び退いた先には今までにはなかった沼状の水たまりがあり、そこで後ろ足が取られ、動きが鈍くなる。

「風の精霊・土の精霊お願いね」

 強い突発的な風がグラスクーガーの上から振り下ろされ、一気にグラスクーガーの体と頭が下がる。その直後かなりの勢いでグラスクーガーの顎の下から硬い岩が隆起する。

 いわゆるアッパーカットの状態になり、グラスクーガーは頭部を強打されたためよろめき始めた。その隙を見逃さずティアは走りだし、俺が渡した脇差しですり抜けざまに喉を切り裂いた。


「ティア、すごいじゃないか!」

 ティアの戦闘をまともに見るのはこれが初めてだったりする。駆け出し冒険者が店で暴れ始め、木の棒で立ち会いあしらっている所は見たことがあった。だが、対魔獣に対しての戦闘は初めて目にし、精霊魔法が連続してうまく作用するとここまで簡単にことが運ぶものかと感心した。

「今回は上手く行っただけよ。何の警戒なしに出てくるんだもん。こうもあっさり決まっちゃうのも私の冒険者としての感を取り戻すのにはあまり役に立ってくれなかったわ」

 ティアは初日からずっと先頭に参加していないので、感覚を取り戻すのが優先なのだろう。こちらとしては疲労していたのでレンジャーとしての活動に専念して欲しかったのだが、その点はティアにとって不満があったのかもしれない。

「個体差があったとはいえ、グラスクーガーを楽々とはね。精霊魔法が無くてもグラスクーガーならいけるか?」

「今回使わなかった弓を使えばいけるわ。まあ、風の精霊以外は使えないということは無いと思うけどね」

「風の精霊だけ使えないことってあるのか?」

「極端に精霊の力が弱いところだとその力の弱い精霊の魔法が使えないことがあるけど、風の精霊は私よりナイアさんのこと気に入っているみたいだからね、一緒に使おうとすると大半はナイアさんの方に行っちゃうからあまり効果出ないと思うの」

 使役するというわけでは無く、お願いするという形だからだろうか、力の分散ということが起きうるのだろう。

「ティアのほうが精霊魔法使いとしての力は強いんじゃないの?」

「強いかもしれないわ。でも、好きな相手に使う力って違うと思わない?」

「そんなにナイアは好かれているのか?」

「ええ、母さんにも見せてあげたいくらいよ。私が知るかぎり、風の精霊だけは彼女が一番好かれていると思うわ」

 エイル姉さんに聞く限り、ティアの力はそこそこの精霊魔法使いが太刀打ち出来ない力量はあると聞いていた。そのティアがお手上げ状態と言うのはとんでもないことなのだろう。

「すごいんだな……ナイアは……」

 ナイアの方を振り向いて眺める。野営地から見える位置での戦闘だったため、既に他のメンバーは野営地へと向かっていた。その思わず振り向いた所なのにナイアと目があってしまう。

「負けてられないわ」

「ん?なに?」

「なんでもないわ。ほら、土掘ってくれない?」

「ああ、わかった。少し待っててくれ」

 そう言うと俺はいつもの通りに血抜き用の穴を掘り始めた。


 夕食時、ティアは皆から賞賛されていた。ノンナやナイアなら幾度も経験してるが簡単に倒せたことがない相手、リーアやレンティに取っては現在の経験上ロック鳥を除き最強の相手に対して上手くハマったとはいえあそこまで簡単に倒してしまった事に驚きを隠せなかったようだ。まあ、元々素直な感想を言う方なので、隠すことは無いだろうが。

「すごいすごい!ティアちゃん!」

「ほんとにすごいです!私なんてまだ1対1では倒せるかわからないです」

「精霊の使い方勉強になりました。あのような使い方もあるのですね」

「精霊魔法の使い方、魔法にも応用できそうです。非情に勉強になりました」

「ありがと!ほめてくれて嬉しい!」

 ティアはお店でお客さんに使っている笑い方ではなく、両親や俺など近しい人に使う屈託の無い笑顔で喜んでいた。

 その笑顔で今更になって気づく、ナイアのことが心配でティアが初めて入ったパーティーだというのに何も気遣ってあげられてなかったということに。ティアが疲労を蓄積させていったのは俺にも一端があった事に気づき、非情に申し訳ない気持ちになる。

「ティア、すまない。面倒かけたね」

「何のこと?私はしらないわ」

「そう言ってくれるのか。ありがとう」

 言いたいことをすぐ察知してくれたのか、素知らぬ顔をしてくれた。この場で話すことでも無いので、後に回しただけかもしれないが。

 しかし、レンティさん……すいません。全然教えることができてなくて……。至らない師匠で申し訳ない。


 翌日からはとても順調だった。

 ティアの強さもメンバーが認めてくれたのもあるが、ナイアも今まで以上に索敵がしっかりし、早く見つけられるようになったのもある。ただそれだけではなかった。リーアが盾としての成長が著しかったのだ。アグリーバック6匹と遭遇したのだが、戦闘隊列を確認しながら戦えそうな敵なので、全員でコンビネーション等を確認しながら戦ってみようということになった時、今まで1匹以上は上手くさばくことが出来ていなかった。だが、魔獣が弱いというのもあるだろうが、3匹まとめて相手にできていたのだ。ノンナやナイアが訓練で対峙していたからその成果が発揮されたのだろう。ともかく複数相手でも不安にならない立ち回りをするようになったのだ。簡単な例で言えば、盾で1匹を弾き飛ばした後、もう一匹の足元を剣でけん制し、行動を制限する。立つ位置でもう一匹の攻撃行動範囲を狭め、同士討ちに近い状態にさせ、最後の一匹が上手く攻撃できなくなっている等だ。コンビネーションの練習のつもりだったのだが、思わぬ副産物を発見でき、とても喜ばしいことであった。

 だが、コンビネーション自体はそこまで試すことが出来なかった。結局相手が弱すぎたという所なのだが、大本の原因は別にあった。レンティやティア、ナイアは火力の弱い魔法や精霊魔法で武器の代用や遠距離攻撃をしていたのだが、恥ずかしいことに俺とノンナがアグリーバックを1撃で倒してしまい、コンビネーション等の実験が殆ど出来なかったのだ。

「ホントにごめん……」

「ごめんなさい」

 二人して謝る。まあ、実験してみようと言い始めた俺が失敗してどうするという所だ。

「リーアさんが上手く誘導して私の方にアグリーバックの横を晒すようにしてくれたので、完全に失敗ではないと思いますよ」

「そうよ。私も上手く動きを止めてくれてたから狙いやすかったわ」

 ティアやナイアから擁護の言葉が出る。少なくとも大失敗では無かったようだから、よしとするかな。

「失敗してやんの、フミトのバーカ」

「うるせえ!ハパロバ!」

 わざわざ馬車を他のメンバーに預けて言いに来ることじゃないだろうに……。


 6日目もウルフ4とグラスボアに遭遇する程度で簡単に進むことが出来た。

 7日目アピ到着最終日も、ベア1匹と、グラスボア1匹程度の遭遇しか無かったので、魔獣での報酬はこのパーティーでは一番報酬の少ない片道となった。


「それじゃ、フミトまた後でな。宿で飲もうぜ!」

「ハパロバだけ代金別ならいいさ」

「そんなケチな事言わないでくれよな。よろしく頼むよ」

「何を頼まれるんだよ」

「そんなこと女の口から言わせる気かい?」

「食費だろ?」

「わかってるじゃないの!頼むよ」

「やだね」

 そんな呆れるようなやり取りを終え、俺達パーティーは以前と同じ『ドワーフの湯宿』へとたどり着く。

「フェスティナ商会で予約取ってると思うんですが」

「いらっしゃいませ、フェスティナ商会様ですね、いつもご愛好ありがとうございます。今回は男性お一人様で、女性が11名様でよろしいですね?」

 改めて男女比の差を思い知る。宿だと俺一人になるってことにも今更になって気づく。

「はい。6名は後から来ますので」

「かしこまりました。それでは女性は私が、男性はこちらの係員が案内させて頂きます」

「フミトさん、お風呂先で良いですよね?」

「ああ、その後で夕食だな」

「はい。わかりました」

 そう伝えると俺は一人寂しく6人部屋へと向かう。しかも最奥の一番寂しい所だった。

 女性陣は入口近くで明るめに作られた12人入ることのできる部屋へと案内されていた。

 ちなみにこの宿は、1軒で作られているわけではなく、12人部屋の建物と、10人部屋の建物2棟、6人部屋の建物と、高級タイプな14人部屋の建物、お風呂専用の建物と、入り口・従業員・食堂を入れた建物の屋根を繋いでいる形である。建物と建物の間は塞いであるので、見た目はおきな一つの建物の様に見える。その為、敷地面積はかなり広いので12人部屋と俺の6人部屋は一般的な家が3軒分は離れてしまっているのだ。しかも俺の部屋の隣は修練場、色気もへったくれもない所だった。かろうじてベランダに出て月が見れるのが唯一の救いだろう。曇りや雨だったら泣くところだった。

 ハパロバにはああ言ったけど、食事の時支払ってもいいから長い時間飲んでいたい気持ちになっているのが複雑な心境にさせていた。

「本当に支払っちゃおうかな……」

 俺はこの後、寂しさは人の判断を誤らせる事もあるのだという事を学ぶことになった。





今週も全然進みませんでした。先週とは違い土曜出勤が無かったにも関わらず進まないのはどうなんでしょうね。日曜日に4000文字書き上げ、またもや無理やりでっち上げた状態に…。毎日少しづつ書いていても前後がおかしいことになり結局ほとんど削除して今日4000文字ということなので、思考の連続性がいかに大切であり大変かということが少しだけわかった気がします。ですので、誤字脱字、前後がおかしい所がありましたらご連絡頂きたいと思います。

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