精霊
精霊
「フミトさん」
「ん?ナイアか?」
「はい」
「もう置きて大丈夫なのか?」
「はい。もう大丈夫です。かなりすっきりしていますので」
「そうか、それは良かった」
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
「いや、良いよ。これで普通に冒険が出来るな」
「そうだと良いのですけれど」
「え?」
「私が回復したということなのですが」
「どういうことだ?回復してないのか?」
「どうなんでしょうね」
「おい、ふざけないでくれよ。治ったんだよな?」
「どうなんでしょうね」
「どうしたナイア?」
「フミトさん」
「なんだよ、その反応おかしいだろう?」
「フミトさん、フミトさん、フミトさん、フミトさん」
「おい!ナイア!どうしたんだ?!」
妖艶に笑うナイアが何度も俺の名前を呼び始める。何を言っても俺の名前を連呼するだけだ。
「ナイア?ふざけないでくれ、俺は心配してたんだぞ?」
「フフフ……」
「まさか、精霊との契約が失敗したとでも言うのか?」
精霊のことは殆どわからない。魔法として少しは使えるが、精神を蝕む精霊がいるとは聞いたことがある。ただ、今回は風の精霊と契約したという話だから、その様な精霊が入り込むとは思えなかった。いたずらな精霊レプラコーンというのが居るとも聞いているが、そんなものが関与するとも考えにくい。
「フミトさん……」
ナイアが両手を差し出し、ゆっくりと体を近づけ俺に寄りかかってくる。
「ちょっ!待て待て!ナイア!」
「フフフ……私を受け入れて下さる?」
いい加減おかしいと感じてきた所でハッキリとナイアの俺の呼ぶ声が聞こえた。
「フミトさん?フミトさん?」
「ナイア?!」
「どうしたんですか?フミトさん。私の名前を何度も呼んでくださるのは嬉しいんですが、そんなに切なそうに言ってくださっても少し悲しい気持ちになります」
「え?あれ?ひょっとして今のは夢?」
俺の寝ているテントの中にナイアが入ってきていた。少し心配した顔をしつつ俺の顔を覗き込んでいる。
「どのような夢を見ていたのですか?」
「いや、ナイアがね……、ってあれ?ナイア体調は?」
「はい、お騒がせしました。もう大丈夫です」
ナイアの顔を見ると先日までの不調が嘘だったかのようにすっきりとした顔になっていた。
綺麗な顔がより神秘的な綺麗さを表し、思わず見とれてしまう。
「フミトさん、そんなに見つめられると少し恥ずかしいです」
「え??ああ、ごめん。なんか綺麗だなって……」
「え?」
「いやいや!何でもない!」
思わず口に出た言葉がかなり恥ずかしい言葉なのを漏れでた後気づいて慌てて誤魔化す。多分誤魔化すことが出来ていないだろうが、そんなの無かったこととして押し通す。
「ティアの体調を見に行かなければな。後レンティも」
「ティアさんはもう少し休養が必要かもしれませ。レンティさんは問題無いと本人から」
なんて恐ろしい娘だ。逃げようと思った先をことごとく潰してくれるなんて。
「そうか。それなら朝食の準備にかからなくてはな」
「もう殆ど終わらせました」
誰か、この恥ずかしい空間から助けだしてくれ!だが、そう願ってもある意味空気を読まないノンナ辺りが悪化させに来ることだろうから、自分で何とか切り抜けるしか無いと考えた。
「ナイア、風の精霊と契約したそうだけど、成功したのか?」
「はい!ご迷惑をお掛けしました。本日から隊列に戻れます」
「そうか、良かったよ。心配してたんだよ」
「毎日看病して頂いてありがとうございました。とても嬉しく思いますわ」
頬を赤らめながら伝えてくるナイア。誤魔化していた慌てた気持ちが再度復活し始める。
「うん……。まあ……そうね。うん」
言葉が上手くつながらなかった。何か話題を変えなくては。
「精霊と契約して何か特別な事はあったのか?」
「そうですね、常に風の精霊が見えるようになりましたね。ほらここに居ますよ」
そう言って手のひらをこちらに差し出してくると軽い風が頬を撫でるように通り過ぎていった。
「見えなかったが感じることは出来たみたいだな。頬を風が撫でていったよ」
「そうですね。少しいたずらっ子なので、もうちょっと困らせてしまうかと思ったのですけど、そこまでしなかったみたいですね」
今テントの中に居るのだが、そこで突発的に風が吹くということはいくら入口が開いていてもナイアを通りすぎて俺に直接風が吹くと言うのは考えづらい。回りこんでくるというのならわかるが、その時はナイアの髪も俺の顔に当たるなどするだろう。ナイアの髪がなびかないのに俺の顔にだけ風があたったと言うのはやはり本当の精霊のいたずらだろう。
「仲良くなれたんだな」
「はい」
とてもいい笑顔で返事をする。やはり神秘的な綺麗さが増したおかげでまた見とれてしまう。慌てて顔をそらすが、ナイアは嬉しそうな顔に変わっていた。
「ティアも4精霊と契約してるんだったよな。全ての精霊が見えるんだろうか?」
「ティアさんは多分見えていると思います」
「ごちゃごちゃしないのかな?」
「私も見えてから理解できたのですが、さほど気にならない様ですね。私はまだ契約したばかりなのではっきりと意識下に精霊が居付いているのがわかっていますが、そのうち慣れると思います」
「ふーん。そんなもんなんだな」
やはり魔法と精霊は大きな違いがあるようだ。しかし、何とか誤魔化せたな。うん。多分誤魔化せた。まあ、ただ単に知的好奇心を満たしただけとも言えるが。
「ナイアー、フミトさん起きたー?」
突然のノンナの来襲。まだ声からして遠くにいるのは分かったが、やはり神頼みしていたら空気読まない娘がやってきた可能性が高かった。あぶねー!
「フミトさん」
ナイアは俺の名前を呼ぶと両手を差し出し、俺に寄りかかってきた。そして耳元でこう囁く。
「心配していただいて本当に嬉しく思います。貴方が倒れられた時にはこの私が必ず看病いたしますわ」
そう言ってテントから出て行った。
「夢……じゃ、無いんだよな……?」
頭が混乱している。夢であったようなことが現実であったので気が動転しているのもあるが、ナイアがこの様な行動をしたことにも混乱してしまっていた。
混乱と動転した気持ちを収めるのに少し時間がかかり、ようやくテントを出た時には既に日が出始めていた。
朝食を食べに向かうと、もう皆はそろっていた。
「おはよう。遅れてすまない」
「おはようございます」
「レンティ、体は大丈夫か?」
「はい。もう問題ありません。昨日はありがとうございました」
「いや、あの後テント前運んでくれたのはリーアだよ。リーアにお礼言わなきゃね」
「傷を直してくださったのはフミトさんです」
「リーアなら治せた傷だったでしょ」
「傷跡が残らないような治し方はまだ私には無理です」
そう言いながらリーアが話に入ってきた。
「フミトさん、レンティの怪我を治してくれてありがとうございました。商家で商談目的の社交会もあります。その時肌を出した時に傷跡があるとあまり良い思いをされないことがあるそうなので、フミトさんの治療は非情にありがたいことだと思います」
「そうなのか。でも、それなら冒険者なんかやって大丈夫なのか?」
「はい。私は傷跡に関しては本当は気にしていません。ドレスでも傷跡を隠すようなデザインにすればいいだけですし、逆にその傷で覚えてもらえるかもしれません。その時の状況で停滞せず、何かを考えて進めば結果につながりますので」
「そうか。でも、できるだけレンティが傷つかないようにするよ。今回は間に合わなくてすまなかったね」
「いえ、良い経験でした。いつも守られていたんだと気づけましたし、私も皆を守れるようにならないと、と思うことが出来ましたので」
「わかった。まあ、できるだけ二人以上で対処してほしいな。どちらかを呼び止めることが出来ただろうからね」
「はい。今度からはそうします」
「まあ、ナイアも回復したし、そうそう一人になることは無いだろうけどね」
「私もレンティを一人にさせません」
「リーア、私は大丈夫ですよ?」
そう言いながらリーアはレンティに抱きつく。レンティが守り切った事が嬉しいのか、怪我させて申し訳ないのか気持ちはわからないが、うまく表現出来ないのだろう。
「フミトさん。食事をティアさんにお持ち頂けますか?」
ナイアがティアの食事を持ち俺に近づいてきた。
「ん?ティア起きてきてないの?」
「心労と体の疲労で少しでも寝ていただこうと思い、起こしていません」
「それなら俺が入っていいものなのか?それこそナイアがやるべきじゃないか?」
「いえ、この役目はフミトさんにお願いします」
「そうか……?」
イマイチ納得出来ないが、ティアの為だ。体調も気になるし持っていくことにするか。
「ティア、起きてるか?」
テントの外から声をかける。流石に何も言わずに乗り込むのは気がひけるのと、どんな滑降しているかわからないのでワンクッション置く。覗きたい気持ちを鉄の意志で押し込んでいるわけでも無いからね?ほんとだよ?
「……フミト?」
「ああ、おはよう。食事を持ってきたよ。今入っても大丈夫か?」
「……少し待って。今見せられないから」
……見せられないって何を?どういうこと?まさか?
色々と妄想が膨らみ始める。だが、あわてて頭から振り払う。仲間のために体を張り頑張った上で弱った彼女に対して失礼だ。
「良いよ。入って」
ティアの声でテントに入りティアの様子を見る。顔色はあまり良くない。精神的に追い詰められている人がなるような顔だ。
「体調はどうだ?」
「大丈夫よ」
「無理するな。顔見るだけでわかるよ」
「そう。流石にちょっと疲れたわ」
「そうか。しっかり食べてくれ。それといい話がある」
「何?」
「ナイアが回復したよ」
「ホントに?!」
「ここで嘘ついてどうする。かなり調子良さそうだよ。風の精霊が見えるとも言っていた」
「そう……良かった。心配してたんだから……」
ティアの陰った顔から血色が良くなっていく。余程心配していたのだろう。だがもうその心配は無くなったので、疲労を回復するだけになるだろう。
「一つ聞きたいんだが良いか?」
「何?」
「ひょっとして、精霊との契約の儀式って今回が初めてなのか?」
ここまで心が疲弊することがどうもおかしく思い、ふと疑問になったことを聞いてみる。
「よくわかったね。私はほかの人への儀式をやるのは初めてだったのよ。ホントは母さんにお願いしたんだけど、仲間になるのなら自分でやりなさいって……。私が呼び出した精霊に変な精霊が混ざっていて失敗したのかとホントに心配したんだから……」
4精霊と契約しているので、付属として多くの精霊とも繋がりを持っているティアだから起きることなのかもしれない。もしくは、未熟な精霊使いが起こすことなのかもしれない。その点は秘密になっていることなのだろう。こちらから詮索することはやめておく。
「今日は頑張れそうか?それとも休むか?」
そう言いながらおでこに手を当て熱を測る。多少熱い。ホッとしたので血流が良くなったと思いたいが、多分体の心労と体の疲労から発熱してしまっているのだろう。
「頑張れるわ」
「いや、少し休む方がいいな」
「え?」
「ナイアが回復したから、現状大丈夫だよ」
「私はいらないの?」
「そういうことじゃないよ。心配しているからこそ休んで欲しいんだ。それに現実的なことを言えば、このまま疲れたまま戦うと怪我をすることがある。そっちの方がパーティー全体に影響を与える。そっちが問題なんだ」
「後の言葉は疲れている女の子に言う言葉じゃないよね?」
「ごめん。でも、ここまで言わないと休んでもらえないと思ってね」
「わかったわ。今日は休ませてもらうわ」
「ありがとう。回復したらまた隊列に戻ってほしい」
そう伝えると食事するために戻る。皆にティアが今日は戦列に加わらないことを伝え、ティアが居たところにナイアが入り出発する。
昼過ぎに魔獣と遭遇する。
「敵襲、グラスボア1、接敵7分です」
「ノンナ、任せていいか?」
「フミトさん、ここは私に任せていただいていいですか?」
ノンナに頼もうと思ったところ、ナイアから突然提案が来る。
「大丈夫か?ずっと寝ていたからまだ体が動きづらいんじゃないのか?」
「それに関しては大丈夫です。少し風の精霊と契約できた力をお見せしたいのです」
「そうか。わかった。お願いするよ」
「ありがとうございます」
そう言うとすぐ準備にかかる。まだ800mほどある距離だから弓もそうそう当たらないだろう。と思っていたらもう構え始めた。
「ナイア?この距離で?」
「はい。大丈夫です。風の精霊よ。私に力を」
そう言うと弓を放ってしまった。本来長距離での矢の軌道は大きな放物線を描き矢は飛んで行く。矢は、遠くに飛ばすと羽に当たる風の影響で綺麗な放物線にならない事も多い。思った位置に落ちない事や、勢いが衰え、威力が無くなることもある。そういった事を考え、長距離射撃は高いところから落ちる位置エネルギーを利用して矢の威力を稼ぐ。だが、今回は多少の放物線は描いているが、普段の位置よりかなり低い軌道を描いている。本来なら遙か手前で落ちる軌道なのだが、ぐんぐん矢が進んでいく。ついにはその低空軌道のままグラスボアの脳天を撃ちぬいてしまった。
「ナイア、すごいよ!」
驚きのため、他に言葉が出なかった。
「ありがとうございます。少しはお役に立てそうですか?」
「今まででも十分力になっていたさ!」
弓の命中させる能力や、その時の当てる場所の判断等本当に優秀な冒険者になっていたナイアなのだが、更に凄い成長を遂げた。
「本当にすごいよ……」
しばらく感動してしまい、グラスボアの処理をし忘れ、慌てて血抜きに向かうことになった。
体力が回復しきらない状態で少しづつ書いていましたが、結局書き終えたのが日曜の日付が変わる頃。もっと文章を細かくしたい部分とか、表現が足りない所が多くありそうです。誤字脱字も多くありそうなのが怖いところです。
無理やりでっち上げた感じになっていますので、多少文章が乱暴になっているかもしれません。ご容赦いただけると助かります。




