表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
42/83

病勢

病勢


「ナイア!どうしたんだ?!」

 冒険出発当日の朝、リーアとノンナに両脇から抱えられながら現われたナイアに驚き、思わず声を上げてしまった。ナイアは足元が覚束ない状況であり、顔をみると赤くなっていて、どうやら発熱でもしているようだった。

「フミト、大丈夫」

 ティアが、俺の驚いた声に気づき、声をかけてくる。

「なにが大丈夫なんだ?病気なのか?体調崩したのか?怪我でもして化膿でもしたのか?抗生物質なんて無いだろうからなにが良いんだ?漢方は無いし、薬と言っても特効薬なんて無いし、そもそもなにが原因なのかわからないし……」

 この時代、病気になっても大した事が出来ない。医者と言っても、内科の問題であれば、たいてい自己治癒しか期待出来ないので、栄養のあるものを食べ、静養するしか無いのだ。

 傷などであれば、酒を蒸留したアルコール殺菌等ができるので、この街に居る限りはなんとかすることが出来そうだ。だが、見たところ外傷もなさそうだし、何が原因でこうなってしまっているのかさっぱりわからない。

「フミト!良いから!大丈夫だから!」

 ティアは、うろたえている俺の頭を両手でしっかりと掴み、自分の顔に向けた。

「落ち着きなさい、ナイアは大丈夫。今は調子悪いけど、すぐ良くなるから」

 ティアの顔を見ながら少しは落ち着いてきた。だが、その言葉だけではどうにも納得出来ない。ティアがゆっくりと俺の顔から手を放す。

「ティアは何が起きたのかわかってるんだな?理由を教えてもらえないかな?」

「わかったわ。詳細を伝えることは出来ないけどね」

「なんでだ?」

「エルフと、ダークエルフの秘密があるから」

「わかった。簡単でいいから説明してくれ」

「ナイアは今新しい力、風の精霊と契約するため体が不自由な状況なのよ」

「それで、発熱と体が動かないことに何の関係が?」

「精霊と契約するのに、時間がかかるだけなのよ。本来は体が動きづらいだけだと思ったんだけどね、発熱は予想外よ」

「それ以上は秘密に当たるんだな?」

「そう、理解が早くて助かるわ」

 取り敢えず状況はわかった。ティアがここまで言うのなら、酷いことになっているわけではないのだろう。それを信じて受け止めるまでだ。

 当面の問題はこの現状でどう編成するかだ。今回の護衛対象は同じく馬車ではあるのだが、前回より台数が増え、6台になる。その分隊列が長くなるのだから、奇襲を受けた際の対応がより難しくなる。

「みんな、聞いてくれ。隊列を変更する」

 ナイアを簡易的な椅子を並べて寝かせているメンバーに声をかける。

「前衛はリーアとティア。ティアはナイアの代わりに入ってくれ。中衛にノンナ。前後の奇襲にシザーリオに乗りつつ備えてくれ。最後尾に俺とレンティ。この体制で行く」

「私はフミトと一緒が良いんだけど」

「ティアはダメだ。現状唯一のレンジャーだからな。レンジャーというより精霊使いなのはわかっているが、経験しているのとその特性で俺達が監視するよりは遥かに有能だからな。頼むよ?」

「はーい」

 声に不満の思いが籠もって居るのがわかるが、どうにもならないのでわかってもらうしか無い。

「ナイアが回復次第、元の隊列に戻すけど、現状はこれが最適だと思う。理解してほしい」

 まあ、文句を言ってるのはティアだけだから、問題ないんだろうけどね。


 馬車が着き、最後尾の食料やテント等を載せている馬車にナイアを寝かせる。

「フミトさん、すいません」

「気にしないで、ゆっくりと休んでくれ。元気になった時にしっかりと働いてもらうからね?」

 頭を撫でつつそのついでに熱を測る。火照っているように見えたのは間違いなかったようで、かなり発熱していた。おでこに湿らせた布を置き、少しだけ温度を下げる魔法をかける。

「ありがとうございます。すぐに回復しますので少しだけ時間をください」

「ああ。その間は任せてくれ。おやすみ」

「お願いします。そして、おやすみなさい」

 そう言うとナイアはすぐ寝てしまった。信頼して任せてもらい、その安心感から眠ってしまったのなら嬉しい事なのだが、多分体力の限界で寝てしまったのだろう。


「さて、改めて自己紹介だ。私はハパロバ。一応このキャラバンのリーダーだよ。フミト久しぶり」

「ああ、久しぶり。よろしく頼むよ」

 このすごく体格のいい女性はハパロバ。元冒険者で今はフェスティナ商会の御者をやっている。冒険者の時は剣士をやっていたが、ジルフ爺さんとは違い、肉厚の剣を両手に持ち、重戦車のように戦っていた。ただ、かなり食道楽で、食事で借金を作るかなり稀な人だ。

「借金は返せたのかい?」

「フミトのおかげで増えたよ」

「まさか、セイシュ一樽買ったのって……」

「おう!私だよ!」

「ハパロバ、アホだろ?」

「美味しいもの作るフミトが悪いのさ」

「いや、それは自重しなよ……」

「それより、私達がいない時になんで新しい料理お披露目したのさ!食べられなかったじゃない!」

「そういやいなかったな……。でも、時期を決めたのは俺じゃないよ?」

「日程を変える事は出来ただろう?酷いやつだよ。こんなに友達がいの無いヤツだとは思わなかったよ」

「俺、友達だったっけ?」

「いいじゃんよ!美味いもの作れる人はみんな友達なんだよ!」

 ヘッドロックされながらそう言って来た。女性にヘッドロックされると言うのは嬉しいはずなのだが、しなやかだががっしりした筋肉の塊にされているので、柔らかい部分がほぼ感じることが出来なかった。まあ、皮鎧も着ているから感じるわけが無いんだがな……。

「ハパロバ、そろそろやめなさいな。すいませんねフミトさん。私はシャンニー、よろしくね」

 この女性はハパロバの冒険者仲間で、商売の世界でハパロバが失敗しないように心配でついてきた人だ。

「シャンニー、君がいたのになんでセイシュ買うの止められなかったの?」

「フミトさんもわかってて言ってるでしょ?この子は暴走する前触れなんて無く、走ってる所を見て暴走してるんだってわかる厄介な娘だって」

「まあね……」

 戦闘では暴走してるように見えて意外と巧妙に相手を追い詰めるので、そちらでは信頼できるのだが、食に関しては何が引き金で暴走するのかさっぱりわからないので相手をするのも苦労するだろう。

「私はロゼマです。フミトさん、お久しぶりです。よろしくお願いしますね」

 黒髪ポニーテールの細身の女性はフェスティナ商会で、経営を学ぶために働いている。まず現場を知らなければ、改良しなければならない点と言うのは見えてこないというシルヴィアさんの方針で、御者を経験している最中の人だ。

「カルメニアよ。久しぶり、フミト」

「やあ、カルメニア。資金は溜まったかい?」

「まだまだよ。船を買うなんて相当先の事になりそうよ」

「シルヴィアさんが融資してくれるんでしょ?」

「それでもある程度は貯めておかないと船の運用費用だけで無くなっちゃうからね」

「それもそうだね。応援してるよ」

「それなら資金的にお願いできる?」

「言葉だけで勘弁して」

 安い中型船1隻でも金貨は50枚ほど必要になる。一般人には夢のまた夢なのだろうが、その夢を実現させるために頑張ってるのはすごいと思う。

「あと二人は初対面だね。こっちはアンナアリーナ。首都アルプフーベルにある小さい商家の一人娘よ」

「アンナアリーナです。商会を継ぎたいと思って勉強させてもらっています。よろしくお願いします」

 深くお辞儀をして自己紹介をする。

「もう一人はレギーナ。ちょっと訳ありの娘でね」

「レギーナです。男性とのトラブルでシルヴィアさんに助けていただきました。往復よろしくお願いします」

 簡単に自己紹介を終え、出発する。


 初日は特に問題はなかった。魔獣さえも出現しなかったので、初日と言うのと、久しぶりの冒険者活動、更には慣れないレンジャー活動というのが影響をしたのか、ティアがかなり疲れ果てていた。

「ティア、お疲れ様。久しぶりの冒険活動は疲れたかい?」

「あ、フミト。うん。疲れたよ。ちょっと休んだらすぐ夕食の準備に取り掛かるから」

「大丈夫。準備はこっちでやるから休んでてくれ。」

 そう言うと俺は夕食の準備にとりかかる。手持ちで持ってきたミソを使った味噌汁を振る舞うつもりだ。ミネラル補給とタンパク質補給を合わせて出来る食事はやはり使い勝手が良い。タンパク源で言うのなら、そこら辺にいる魔獣を食べれば良いのかもしれないが、疲労の局地でウルフの肉とかは逆に体力が減りそうなのでオススメ出来ない。

 寒くはないのだが、少し持ってきた粉末の赤胡椒を入れる。体が暖まれば、寝入りやすくなるだろうし、疲労回復も早くなるだろうからと考えてだ。

 このミソは、持ち運びや保存的観点の実験で持ってきたミソ。焼きミソにした物と小さな樽に移したものを両方共持ってきた。その焼きミソは他の疲労がきつそうなメンバーに優先して食べてもらうつもりで持っていている。一応味噌汁に出来るとは思うのだが、そのまま食べることのほうが良さそうだ。本来なら、ミソに生姜や大葉、ネギやごま等を混ぜ入れてから食べてたりするのが生前のレシピで見たことあるのだが、保存の観点から余計なものは入れないほうが良いだろうと思い、そのまま炭火で炙ってきただけだ。

「ナイアに持って行ってくれないか?」

 食事の準備を終え、ナイアの分を取り分けノンナにお願いする。体調が良くないとはいえ、食べなければ持たない。風邪では無いのだろうが、それでも体力は使うだろう。何かを食べることで助けることになるのなら少しは嬉しく思う。

 夜間の歩哨は、ティアとノンナ、俺一人、リーアとレンティという組み合わせで行くことになった。ティアを一番休ませてあげたいという理由でこの組み合わせになった。


 翌朝、まだナイアの体調は戻らず、5人体制で行くことになった。

「フミトさん、すいません。早く回復させますので……」

「大丈夫だよ。ゆっくりと休んでいてくれ」

 青い顔したナイアが謝ってくる。昨日の出発の時より顔色が悪い。不安はあるが、ティアの言葉を信じ、心配した表情は見せないようにする。

「ティア、本当に大丈夫か?今朝のナイアの顔色が良くないように感じるが」

「発熱までは予想できなかったのよ。多分、それが合わさってるから長引いているのかもしれないの」

 これ以上は不安を煽るだけになるだろうと思い、その言葉だけで終わらせる。

 結局その日はナイアの回復はなかった。魔獣からの襲撃はアグリーバックが4匹だけというとても楽な旅でもあった。だが、ティアにとってはやはり慣れないレンジャーと、まだ旅慣れない体の為疲労はより蓄積されていったようだ。


 翌朝、ティアが起こしてくれたが、その表情はあまり良くなかった。眠れたが、疲労が抜けきっていないのだろう。起こされてすぐナイアの様子も見に行った。

 同じテントのノンナが起きていたので、許可をもらって中を覗いてみるが、昨日より顔色が悪かった。

「お早うございます。フミトさん。すいません。今日もあまり良くないようです」

「無理しないでくれ。今日もゆっくりと休んで。治ったらしっかりと働いてもらうから」

 額に手を当て熱を測るが、初日より熱く感じた。ただ、食事はしっかりと取るのが少し不安を払拭させてくれた。


「ティアも無理しないでくれ。今日は戦闘に参加しなくて良いから、その間は休んでいてくれ」

 多分冒険の疲れだけではないだろう、ナイアの事が気になり、心労が溜まってきているのだろう。

「ありがとう。遠慮無く休ませてもらうわ」

 昼前にグラスボアが2匹、昼食後にウルフ5匹とワーウルフ2匹が出たが、ノンナとリーアが盾として、後はレンティの魔法で上手く切り抜けることが出来た。レンティは魔法だけではなく、槍術も少し上達しており、ウルフ2匹を相手に時間を稼ぐことができていた。体捌きも上達していたし、体力もついてきたのだろう。おかげで戦闘が楽に運ぶことが出来た。

 その日の夜は、ハパロバにお願いし、ティアを休ませ、ハパロバが保証をすることになった。

「フミト、大丈夫なのかい?あのお嬢ちゃんたちは。ちょっとヤワじゃないか?」

「本当はこんなことないと思うんだ。ナイアが回復すれば元に戻るさ」

「そんなもんかね?」

「今は索敵をティアに任せてる状態になってるからな。本来は精霊使いだからあまりなれない仕事でペース配分出来ていないんだろう」

「ふーん。まあ、いいさ。夜間に魔獣が出てきたら久しぶりに暴れられそうだしな」

「俺もちゃんと起こしてくれよ?」

 結局、夜襲はなく、ハパロバがふてくされたまま朝を迎えた。


「ティア、大丈夫かい?」

 起きてきたティアの表情が昨日より悪くなっていた。

「あ、フミト。大丈夫よ。私だって冒険者をやっていたんだから。すぐに慣れてみせるわ」

 強気な言動と表からでも分かる疲労の蓄積具合が無理をしてるのが手に取るように分かる。だが、ナイアが戻るまで何とか持ちこたえなければ進むペースが落ちてしまい、予定の日数でたどり着けなくなるかもしれない。ここは御者席にでも座ったりして休みながら策敵してもらうしか無いだろう。

「わかった。食事だけはしっかりと取れよ」

「うん。お父さんにもそれだけはしっかりと言われてるからね」

 ハイルさんらしい考え方だな。だが、動くためのエネルギーは植物じゃないので、口から入れるしか無い。気力だけで何とかなるような優しい世界ではないのだ。


「ナイア、おはよう。体調はどうだい?」

「あ……フミトさん……。おはようございます。体調はちょっと良くないですね……」

 どんどん顔色が悪くなっていくナイアを見て、かなり心配になってきてしまっている。だが、ここでナイアとティアを信じなければ、ナイアはともかく、ティアの精神は焼き切れてしまうだろう。熱も昨日と同じくらいある。だが、昨日と同じ良い点もある。食欲が変わらないのだ。普段と同じくらい食べてくれるので、顔色は悪くなっているが、峠を越えれば元に戻るのかもしれないという希望を持つことが出来た。


 昼過ぎ、食事を終え、1刻ほど時間が過ぎた後、俺の左側で策敵していたレンティから発せられる緊急の言葉があった。

「敵襲!」

 その言葉を発すると同時にレンティは走りだしていた。

 慌ててレンティを追いかけると俺の目に驚愕の光景が入ってきた。

 レンティがグラスクーガーから馬乗り状態で襲いかかられ、槍で噛まれるのを何とか防いでいる状態だった。


何とか書き終え、投稿することが出来ました。

確認が1回しか出来なかったので、誤字脱字が多いかもしれませんが、ご了承ください。

今回は何とか投稿することが出来ましたが、来週はかなりリアルが忙しくなる予定です。毎日少しづつ進めるつもりではありますが、来週に関してはお約束が出来ません。万が一投稿できない場合には活動報告にて報告させて頂きます。


2016.2.5 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ