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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
41/83

新たな冒険

新たな冒険


 前回の冒険から3週間後、また新しい依頼が冒険者ギルドより依頼があった。

「おやじさん、ランチお願いねー。それと、エイル姉さん、エールと、食後にコーヒーお願いねー」

「おい!昼から飲むのか!俺はエール代は出さんぞ?」

 ギルドの職員であるフェリシアと塩銀亭で何故かおごることになり、食べに来たのだが突然エールまで頼み始めたので釘を差した。

 コーヒーはシルヴィアさんがエイル姉さんに頼み、塩銀亭から広げることになった。他にも今2軒依頼している所がある。まだ3軒しか無いのはコーヒーミルの生産が追いついていないためだ。このコーヒーミルを作るのはフェスティナ商会お抱えのゲーニアなのだが、鎧の修繕やサイズ調整等あったために、殆ど作れていなかったのだ。

 サイズ調整や鎧の修繕が終わり、手が空く様になったので今度はコーヒーミルということだ。このコーヒーミルが上手く出来次第、大豆をすり潰す機械を作ってもらおうと考えていた矢先に依頼が舞い込んできたので、まだ話すことさえ出来ていない。

 リーアの鎧は意外と大変だった様で、幾度かゲーニアから呼び出しがあったようだ。胸部装甲部分が上手くあわず、何度もやり直したらしい。嫉妬の炎が燃え上がったかどうかは気が付かなかったことにしておく。

 この3週間は俺は殆ど自分の商会の事で精一杯だった。現在商会で販売できそうなのがチリソース(タバスコ)なので、どのような容器に入れ販売するのが良いのか、それについての販売価格を出すために必要資料をまとめ、提出することをしていた。販売経路についてはフェスティナ商会一任なので、それに関して気にしなくて良いのはとても助かる。特にチリソースに関しては容器ができ次第即販売できるので、再優先で終わらせた。ミソやラー油、菜種油についてはまだ先があることだが資料をまとめ提出した。

 他には先日パーティーメンバーに試してもらった石鹸やリンスの資料もまとめ、シルヴィアさんに販売することを認めてもらった。香り付き1品、香りなし1品ということで、現状石鹸に関しては2品。リンスに関しては香り付き、香りなし2品。つまりは、一般流通向けと、富裕層向けの2品である。

 ただ、こちらも植物油の絶対量が少ないため、まだ少数生産で行くしか無い。現在残っている香りなしは他の街に輸出出来るほど量は出来ていないが、販売可能だ。富裕層向けに残っている植物油を利用し作り上げた。パッケージはフェスティナ商会にお願いしているので、取り敢えずは一息つくことが出来た。

 販売許可を貰ったので、出産祝いと、結婚祝いにこの石鹸を2品ずつ、新築した友人にはミソを小さな樽に移し送ることにした。使い方と祝いの言葉を合わせて。


 今までのことを終えてから冒険者ギルドからの依頼が来たのでタイミングとしては良かった。他のメンバーはフェスティナ商会で仕事をしたり、武器を使った訓練をしていたようだった。他には日帰りで終わらせる冒険、例えば農地開拓の護衛や、近隣にある森に向かい木を切り倒し街へ運ぶ護衛兼作業員という事などだ。森を切り尽くしてしまうと、遠くの森に行かなければならないというリスクが出てしまうため、この世界では植林が活発である。しかも、森を管理しているので、この地域の木は切って良い、成長中なので切ってはダメ等、植林中等区画で管理されている。一度騎士団に依頼し、森の中を一斉討伐したので冒険者を初めたばかりの者が護衛でもそこまで問題になることは無い。木こりを職としている者だと、下手すれば冒険者より強かったりするのだが、数の暴力には抵抗出来ないので、新人でも居ないよりはマシだったりする。


「それで、今回の依頼は何するんだい?」

 一気にエールを飲み干しているフェリシアに呆れつつ質問する。

「またフェスティナ商会からだよ。今度はケイトウ往復の護衛任務だよ」

「あれ?船入ってきてたっけ?」

「うん、着てたよー。私より濃い付き合いしてるのになんでフミト知らないの?」

「そら、この前食べた料理や作ってるヤツの資料を作ってたからね。それだけで精一杯だったんだよ」

「なになに?あのフライってヤツ食べれるようになるの?!」

 フェリシアはその事を聞くとガッツリ喰い付いてきた。相当気に入ったみたいで、顔合わせる度にまだかまだかと急かされている。

「前も言っただろ?全然生産が追いつかないんだって。石鹸みたいに長期保存してある油でも問題ないわけじゃないんだ。魚みたいに鮮度が命というわけじゃないが、食べても平気な期間があるから、早くて来年になるだろうって言っただろう」

「何とかして!」

「無理」

「お願い!」

「無理だって」

「つきあってあげるから!」

「何いってんの!?」

「けちー」

 そんなやり取りしていると、料理が運ばれてきた。俺が作った肉のミソ生姜焼きである。親父さんが作ったからより美味しくなっていて、適度にラー油も混ぜ込んであり、辛味が引き立ち、そしてわざと適度に焦がしているので香りもより漂ってくる。

「今日もこれ食べに来ました!親父さん愛してるー!」

「やっぱり俺が作るより美味しく出来てるんだもんな。さすがは親父さんだ」

 親父さんの店にミソを一樽予想流通価格くらいで販売し、使用感やお客さんの反応を見てもらっている。親父さんの腕が良いのかもしれないが、評価は上々で、他の商会から入手経路を聞かれたりもしているそうだ。フェスティナ商会と俺の名前を出すとすぐ納得してくれ、俺の存在が羨ましがられている。

「それで、ケイトウに行ってからすぐ戻るの?」

 脱線した話を元に戻す。脱線し続けて本来の話題が何だったかわからなくなると面倒なので早めに戻しておく。

「ケイトウ着いてから少し時間がかかるかもしれないってことだから、一応1週間は時間空けてるって」

「なるほどね。久しぶりにあそこの魔獣でも狩りに行くかな。今のパーティーメンバーの育成にも少し強いかもしれないけど良さそうだしね」

 ケイトウは最前線の街と名前がつくくらい、人類未到達地域に近い。人類未到達地域は冒険者が少しは行き来しているが、強い魔獣が居る、街を作るに適した地域が見つからない等の理由で散策がしっかり出来ていない地域なのだ。以前グランドドラゴンを討伐したが、その程度では移住可能な地域が増えるわけではない。一般的には人間族の一生に一つの街が増えれば良いほうだということらしい。数百年生きたエルフから聞いた話なので本当だろう。

「また大物期待してるよ?」

「そうそう大物に出会うこと無いから。そんな嫌なこと言わないでくれよ」

「この時のフミトはまだ知らなかった。こんな大物に出会うなんて」

「なんてこと言うんだよ。もうフェリシアには新作できても教えてあげないから」

「ごめん!嘘!ホント嘘だから!」

 嘘だかホントだかわからない言い回しだが、なかったコトにしてほしい気持ちだけは届いた。ケイトウでは稀に大物に出会うことがある。ドラゴンやグリフォンなどの大物や、ワータイガーや、ビッグボア、森の地帯ではジャイアントスネークや、ジャイアントラット、アピであったより大型のジャイアントベア等も遭遇する。それだけではなく、今まで出会ったグラスクーガーもいれば、ウルフも居る、アグリーバック等はかなり多く居るので下手に遭遇するとかなり大変なことになる。その為、冒険者がよく集まり、一攫千金を狙う事が多い。

 一人精霊魔法使いが増えたので、安定して戦える可能性があるので、行く価値はあるだろう。盾が一人というのが少し不安ではあるが、最悪ノンナにも盾に戻ってもらうことも視野に入れ、戦えば大丈夫だろう。

「それで、何時出発なの?」

「明後日」

「ずいぶん早いなというか、伝えるの遅いな……」

「昨日言おうと思ったけど、忘れてた。ゆるして?」

「あのなあ……。他のメンバーに聞いてないだろう。間に合うかわからんぞ?」

「それなら大丈夫。一昨日全員に聞いてあるから」

「俺が最後かよ!しかも一昨日かよ!」

「みんな行くって言ってたよ?」

「はいはい……。わかったよ。しかし、なんで俺には前もって知らせてくれないんだ?依頼が入るタイミングも何かあるんだろう?」

「理由はフミトがいつも暇な人だから」

「ヒマじゃないよ?明日から暇になるけど、今まで暇じゃなかったからね?」

「依頼のタイミングは船が沖で一度停泊するから、その時かな?そこから4・5日くらい後で出発が一般的かなー」

「そんな前にわかるの?なんで俺にはそんなに遅く知らせてくるの?」

「フミトは何時でも大丈夫だろうって思ってるから」

「そこで暇人につながってくるのか。納得できたが、納得したくないな」


 取り敢えず、詳細は聞いておいたので、当日までラパスとエレイメイに色々とお願いしなければならないなと考える。現状そこまで色々とやることは無いが、今後の方針はミソの量産、セイシュの安定化、従業員の増員、借金の返済、天ぷらの公開と拡大、チリソースやマヨネーズ等の調味料の需要増加等だ。まあ、冒険の間はミソ大量生産の為の大豆をすり潰す機械を作ってもらうことと、すぐ作れた場合のテストだろうな。ゲーニアに後でお願いしに行かなくちゃな。

 後はケイトウについた時に数日は魔獣討伐でもやりに行くと思うので、その時のプランでも練っておくかな。


 ~~~~~


「着てくれたのね」

「貴方からの初めてのお誘いですから。それに特に断る必要もありませんでしたし」

 二人は倉庫の中で真剣な眼差しで向かい合っていた。

「正直、あの言い方では着てもらえないかと思ってたわ」

「そうですね、今夜この倉庫に一人できてとのことでしたし」

 険しい顔を二人ともまだ崩さない。

「なんで着てくれたの?」

「貴方の目が真剣でしたので。それに信用していますから」

「そうね、確かに真剣だわ。信用はフミトのことかしら?」

「いえ、貴方のことも信用していますよ。この街にいれば貴方の評判はすぐ聞こえます。それが嘘ではないこともすぐわかります。それと、貴女の性格は直線的ですので、陥れることはせず、直接キライと言ってくると思っていますので」

「陥れるって……、そんなこと考えてないわよ?」

 慌てて両手を振りつつ否定する。

「ええ、それについては来る前から自信を持っていますよ」

「そう。ありがとう」

「どういたしまして。それで、今日のこの時間にこんな場所で何をなさるのでしょうか?」

 ナイアがこの呼びだされた状況について、一向に話が進まないので進展させようと伝える。

「貴方の気持ちがハッキリとわかったのよ。ここ3週間で本当にフミトが好きなんだってね」

 最後は顔が赤くなりながらティアが答える。

「そうハッキリと言われますと、こちらも赤面してしまうのですが……」

 耳元まで真っ赤になったナイアがそう返答する。

「それで、貴方はフミトの役に立ちたい?」

「漠然とした言い回しですね。お役に立ちたいのは私にとっては当然の事です」

「そう。それなら貴方に一つ良いことを教えてあげるわ」

「良い事ですか?」

「良い事よ。ただ、それを実行するにはリスクがあるの。失敗すると何か体の機能の一部が失われるということがね」

「何かと言うと、何が失われるかやってみないとわからないということなのですね?」

「そう。でも、私と母さんの見立てでは、ほぼ確実に成功するわ。ただ、時間がかなり掛かるかもしれないということだけ」

「ほぼと言うと、失敗する可能性もあるということなのですね?」

「こればかりはやってみないとわからないということがあるからね」

 少しおどけたように手を広げ、お手上げのポーズを取る。絶対と言えれば良いのだろうが、このような事に、実行する前から分かる答えなど、そんなに多くないだろう。

「時間が掛かるというのはどのくらいなのですか?」

「早いと1日。でも、貴方の場合はおよそ4日は掛かると思うわ」

「その間、ずっとこの倉庫に居なくてはいけないのですか?」

「いえ、儀式自体は半刻で終わるわ。その後、貴方が受け入れ、そして受け入れられるかが問題なの」

「その期間が4日なのですね?」

「たぶんね。ひょっとしたらもっと掛かるかもしれない」

「その根拠は何でしょうか?」

「小さい時に儀式を行えれば、そんなに時間がかからないの。純粋だからね。それと、こう言うと身も蓋も無いけど、バカな方が時間が掛からないの」

 昔の知り合いを思い出したのか、呆れた顔をしつつティアが答える。

「片方は褒められていると取ってよろしいのでしょうね」

 その呆れた顔に多少微笑みつつナイアも答える。

「理屈っぽいという言い方も出来そうよ?」

「そうかもしれませんね」

 お互いに軽く見つめながら笑い合う。

「それで、時間が掛かるかもしれないということなのですね」

「うん。この時期になったのは、私が迷っていたからなの。母さんから大丈夫って言われたのは2週間前だったのに、ライバルである貴方に力をつけさせることになるのだから」

「そんなに強力なのですか?その良い事と言うのは」

「使い方次第なの、相性もあるけど。そのどちらも貴方はうまくいくと思うわ。これだけ相性のいい人そんなに居ないもの」

「最初の2週間、エイルさんに何かされてたと思っていましたが、その実験と言うか、判定をしていたのですね」

「隠していてごめんね。最初に気づいたのはフミトから貰った剣を持っていた時なの」

「あの時ですか?特に変わったことがあったようには記憶していませんでしたが」

「多分、母さんも気づいていたと思うわ。他の5人には特に何か起こってるとは見えなかったし、貴方だけその影響が濃かったのよ」

「そうなんですか。全く気づきませんでした」

「儀式をすれば見れるようになるわ」

「そうですか。それで話は戻りますが、儀式の後それを受け入れるまでは私はどのようになってしまうのでしょうか?」

「多分高熱でうなされるか、体が寒くなって動きづらくなるか、体が固くなって動きづらくなるか、痺れたように動きづらくなる」

「どれになるかわからないのですか?」

「多分痺れたようになるかもね。だから、冒険の行きの半分近くは何も出来ないかもしれないの」

「つまり足手まといということなのですね」

「最初はね。でも、成功すれば違うわ」

「その力はすぐ使えるのですか?」

「貴方なら多分」

「そうですか。それで、この場所でやる必要を教えて頂けますか?」

「この儀式は一部の人にしか見せてはいけないし、間違って行った場合、さっき言ったリスク、体の機能が失われるからなの」

「そうですか。それで、私の行う儀式は一帯どのような儀式なのでしょうか?」

「風の精霊と契約する儀式よ」

「私は風の精霊を使うこと出来ますが?」

「あれは本当の契約じゃ無いのよ。エルフの実力者や一部のダークエルフだけに伝わる本当の儀式をするの」

「私より強い精霊魔法を使っている方は皆その儀式を行ったのでしょうか?」

「そこそこ強力な人は多分儀式をやってるわね。ちょっと強い程度だったら本人の資質だけでいける人も居るわ」

「その様な人が儀式をやったらもっと強くなってしまいますね」

「そうならないこともあるわ。相性って言ったけど、強制的に無理に精霊を働かせて強い力を得てる人も居るの。貴方は今までお願いして精霊を使ってきてるでしょ?精霊は覚えているのよ。今までの行いや、貴方の性格をね」

「そうなのですね。でも、それでしたら早く私の体も動けるようになるのではないですか?」

「それが小さい子と、バカが早いって言った理由に繋がるの」

「どういったことでしょうか?」

「精霊側が受け入れてくれれば、後は自分が受け入れるだけなのね。無垢な子であれば、自分に入ってくる力をその通りに受け取りやすいの。でも、貴方は頭がいいし、年齢的にも成熟してきている。その今まで培った常識や知識がせめぎ合って時間がかかると思うのよ」

「なるほど、これは覚悟したほうがよろしいですね」

「頭がいいと言うのは否定しないのね?」

「頭が良いというのはなんとも思っていませんが、頭が硬いとは思っていますので」

「あら、そっちなのね」

「それで、儀式後、私はどうなるのでしょうか?」

「儀式の終わる頃にノンナを母さんからここに来てもらうよう手配してあるわ。今頃お店で飲んでるかもしれないわね」

「置いて行かれることは無いでしょうが、引きずったり落としたりされそうなので、ティアさん、よろしくお願いします」

「信用してるのかしてないのか……。わかったわ。宿まで一緒に行くわ」

「安心しました。それでは儀式の方をお願いします」




正月休みのストックがこれで切れました。

来週の更新が非情に怪しい状態です。

万が一更新できない場合は活動報告にて報告させて頂きます。

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