リモの村
リモの村
生まれてから10歳まではこの街で過ごした。
リモの村は農業と酪農と畜産が主体になっている。国内では比較的古い村であり、近隣の強い魔獣はほぼ狩り尽くされてしまっている。たまに突然変異体が出現することもあるが、数年に1回程度の確率なので、国内では安全な居住環境である。
生まれてすぐに前世の記憶や知識・意識が覚醒したかというと、記憶から覚醒していき、知識を思い出し、最後に意識が覚醒した。
2~3歳の頃に一部の記憶が覚醒し、「お尻がね、ダメだったからね、ここに来たんだよ。」と意味不明な言葉を発していた。
5歳辺りで知識が覚醒し始め、「ピカピカ光る街があるんだよ。鉄の箱がすごい速さで動くんだよ。灰色の塔が何本もすごい高さで作られてるんだよ。」等、現代日本の一部を表面的なものだけ話していた。
7歳になり、村の祭りで記念に屠った牧畜の肉をウマウマと食べている最中に最後の意識が覚醒。当時俺を見た友人は「ものすごいびっくりした顔してるけど、そんなに肉が美味しかったの?」と言っていた。
意識が覚醒し、今までどのような過ごし方をしたか振り返るとかなりひどかったようだ。
3歳から近所の女の子を追いかけ回し、「ぼくのことすき?」と聞きまくるおかげで「しつこいからキライ」と言葉を頂戴していた。
妙齢の女性に対しても似たようなことをしていたため、近所では危ない子と思われていたようだ。
5歳からはもう少ししっかりした告白するようになるのだが、一緒にお風呂に入ったりしてる時にやらしい目で見ていたのがばれていて当たり前のように撃沈していた。
人格形成期に前世の一番濃い記憶を最初に思い出したのだ。女性に対して積極的になるのはしかたがないのかもしれない。が、やり過ぎだろう?俺……。
7歳になってからは、無差別に告白はしていないが、過去の実績のおかげでめでたく(?)撃沈回数を増やしていった。
意識が覚醒してから、村の立て札などが気になり始め、文字を習い始めた。前世では語学は苦手な分野ではあったのだが、この体はどうやら吸収が良いのか、回転が早いのか、あまり苦労せずに半年ほどで専門用語以外は苦にならなくなった。
親も、喋り始めるのが多少早いのと、人格が変わったように思えたようで、これ幸いとまともな人間になってもらうようにと、通うことを許可してくれた。
女の子には実績が物を言い、不人気大爆発だったが、意外と成人以降の女性には普通に接してもらえた。文字を半年で使いこなしたり、急に性格が変わったように思われたのと、このくらいの年齢の男の子は大なり小なり似たようなことをするということで、温かい目で見られるようになった。
一方、男性陣には意外と人気が高く、成人以前には飲ませては貰えないが飲みの席に混ざっていたり、代筆などをしていたため、意外と重宝され、可愛がられた。
同年代には、村長の娘『エイダ』がかなりの傍若無人な性格であり、畏れられていた存在だったのだが、エイダの苦手な男の子として俺が挙げられていたため、お守りというわけではないと思うが、仲間はずれになることは無かった。
8歳の時、村はずれにある森にある通称「お化け屋敷」に男女ともに肝試しにいくことになった。多少男女間のわだかまりがあったが、音頭を取った2名の男女が男女ともに人気があり、更に二人共とても仲が良いので周りもなし崩し的に行くことになった。
お化け屋敷に着いて見ると、実際は単なる猟師小屋と木こり小屋を兼ねた物であり、特別なことは何もなかったのだが、子供たちにとっては大変な冒険に思えただろう。
小屋の中にあった斧やナイフ等で騎士ごっこ、冒険者ごっこ等が始まったが、こればかりは男の子としては責められない。本当ならちょっと男子ーって声が聴こえるはずなんだが、うちの村の女の子は皆男勝り、率先してやっていたりする。
お化け屋敷の場所はリーダーしかわからず、任せるままに皆後ろから着いて行った。俺は念の為に通ったルートの木に傷をつけていくことにしたのが幸いだったのだが、不幸の始まりでもあった。
幸いと言うのはリーダーに任せて進んでいたのだが、お化け屋敷から帰る時に迷子になり、傷の付いている木を見つけ帰り道がわかるようになった。
半泣きだったエイダが俺の服の裾をつまみながらついてきたのは苦手な子とはいえ意外と萌えた。
だが、お化け屋敷に行くルートは最短距離ではなく、かなり大回りして進んでいたようで、途中から暗くなって来てしまった。森の奥は日が陰るだけで暗くなり、幼い子は泣き出し始め、それが闇という恐怖を伝染していった。
その時、ワーウルフの突然変異体が現われた。
突然の魔獣との遭遇に俺たちは凍りつき体が動かなくなる。
尿の臭いが漂い、カチカチと細かく歯が当たる音が聞こえる。ヒュー……ヒュー……と呼吸がうまく出来ない音がする。
殆どの子供が魔獣と遭遇すること自体初めてだが、大人からはよく聞かされていた。
突然変異体とわかったのは単純に色が違う部分があること、単独で行動する傾向があること等酒の席で聞いていたため判明した。
俺は冒険者ごっこで使っていたマチェットのようなものをうっかり持ったまま帰ってしまっていたのを思い出し、勇気を出してしんがりを務め、皆を逃がすことにした。
英雄願望もあり、生前に異世界転生物を読んでいた為、俺こそ勇者だと勘違いした為にこんな行動に出たのだ。
運の良いことに、ウルフなのに鼻が効かず、視力も弱いという悪い方への突然変異体であったため、俺が攻撃を仕掛けると他の皆には見向きもしなくなった。
後ほど判明するのだが、力は増加されていた。
だが、しんがりはかなりの確率で命を落とす役割、俺はそのことを失念していた。
しかも、先に逃げてもらった友人たちが援軍を呼んでくるとは限らない。もし、援軍が来たとしても、劣化突然変異だとしても相手は魔獣。基本子供などが時間を稼げるわけがない。
最初に2回ほどこちらから攻撃を仕掛けたが、簡単に弾かれ、こちらから撃って出られなくなり、膠着状態になる。
お互いに何もしない状態が続き、時間が経つにつれて不安と焦燥と後悔が大きくなる。
動悸が止まらない、汗もひどい、呼吸がうまくできなくなる。
披露により精神が極限に達した時、ワーウルフは右腕を大きく振りかぶり踏み込んできた。
なんとか左側に避けたのだが、獣の感覚か、バックブローを使われた。俺はそのたった一撃で大きく吹き飛ばされてしまった。
マチェットは飛ばされ木に刺さり、俺は頭をぶつけ意識がもうろうとし始めた。
ワーウルフがこちらに一歩一歩近寄ってくる足音が聞こえる。8歳で第2の人生終わりかと思った所、突然ワーウルフが炎に包まれた。毛が燃える臭いと肉が焼ける臭がし、ワーウルフはその場で倒れ動かなくなった。
助かったと思った瞬間、俺は意識を失った。
意識を取り戻した時、自分の部屋にいた。
知らない男性がそこで両親と会話をしていた。 その男性は冒険者で魔法使いのカイルと名乗った。
マルビティン魔法学院卒の冒険者で、たまたま母校に用事があって向かっている途中子供たちが泣きながら走ってくるのを確認し、駆けつけてくれたと言っていた。
マルビティン魔法学院はリモの隣りにある大きな都市だ。リモは酪農も畜産も行っているため、その皮を羊皮紙にし、マルビティンによく卸している。
お礼を言うと、あんなことは勇気ではないと怒られた。だが、皆を助けた行動はすばらしい事だと褒められた。
翌日カイルが去った後、俺は冒険者に、そして魔法使いになる事を親に宣言し、呆れた顔をされたが、こちらの熱意が伝わり、本気と理解してくれたようだ。
そこから1年半魔法学院に入学するために猛勉強をした。習慣であった女の子を追いかけることを一切やめ、村にいる先生や大人たちを質問攻めにしていった。
そろそろ入学試験という時期にふと周囲がおかしいことに気づく。同年代の男女がやたらと仲がいいのだ。カップルと思われる組み合わせも多数見られた。
勉強漬けであった俺に対して遊びに誘ってくる子は少なくなったので、たまたま来た奴に聞いてみたら、あの事件以降男女の壁が急に取り払われ、みんなで遊ぶようになったとのこと。
壁が取り払われた原因の一つ、エイダがおとなしくなったそうだ。 ただ、それ以上に妙に仲良くなったとも言っていた。
みんなで村長や他の大人に2時間近く説教されたからか?と言っていたが、前世の知識を借りて言葉にすると、吊り橋効果のようだな……。
そこで俺は絶望を知る。
突然変異体と対峙した時より絶望的な後悔をした。
あの時告白できていれば彼女ができたのではないかと……。
憔悴しきった俺だが、なんとか入学テストは合格できた。何時テストを受けたのか正直覚えてないのだが……。
10/9 誤字と改行を変更しました。
2016/01/04 三点リーダ修正




