お披露目
お披露目
「フミトさん!美味しかったです!料理もお酒も!」
「ナイア、ありがとう。美味しいと言ってくれるとすごく嬉しいよ」
興奮しながら駆け寄ってくるナイア。この感想だけでも作った甲斐があったと言える。周りからも肯定的な言葉が多く聞こえていたので、直接聞けるとより安堵できた。ただ、辛すぎるという声も多数聞こえたが、これに関しては説明不足だったかもと思う点もあるが、そこまで細かく説明するほど余裕はなかった。諦めてもらおう。そんな所に少し怒った声が混ざる。
「フミト!料理するのなら手伝ったのに、なんで言わないのよ」
「ティアなら昼食時に居ると思ったんだよ。少しあてにしてたのにいなかったのはそっちだろ」
ティアなら料理もそこそこできるので、親父さんの邪魔にならないように早めに仕上げられると思っていたところ、当てにしていたティアがいなくて、結局親父さんが見かねて手伝ってもらったので、申し訳ない気持ちがあった。
「先に言っておきなさいよ。まあ、しょうがないわね。それと、料理は美味しかったわ。油につけるやつ?あれだけ油にまみれてたのに思ったよりさっぱり食べられたわ。どうしてなの?」
「植物油だからだろうね。今までは動物性の油しかみんな使ったこと無いから、さっぱりと感じたのかもしれないね」
「そういうの、何時やっていたのですか?私と冒険出ていた間は出来なかったと思うのですが?」
やや食い込み気味にナイアから質問が来る。落ち着いて話すナイアにしては少々珍しいことだ。
「今回の依頼の前までに、仲良くしていた農家にお願いしていたのと、従業員、あの真ん中で切り盛りしている二人にお願いして進めてもらっていたんだよ」
真ん中で食事をしながらたまに手を止めながら今回の料理の説明をしている二人を見る。本来食べるだけになるはずだったのが、パーティーになってしまったので自然と働くことに。後で労ってあげなければいけないな。
「フミトは冒険者だけじゃないからね。冒険の前から色々とやってるもんね」
今度はティアから食い込み気味に言葉が挟まれる。
「一応メインは冒険者なんだけどね……」
「それでもすごいです!セイシュもそうですし、今回もいっぱいいろいろな美味しいもの作っていますし。そういえば、護衛依頼中ではほとんど料理しなかったのですが、何故です?」
「元々料理は上手じゃないんだ。今回のは誰も知らない調理方法と、試行錯誤で出来た物だから口頭で説明するだけじゃ難しくてね。親父さんなら出来たかもしれないけど。と言うより、ここでパーティーやるって知らなかったから、お願いできなかったんだよ」
実際に味噌汁で具が足りず後から足した物を指摘されたりしている。一度茹でてから入れれば多少ごまかせたのにそんなことまで頭が回ってなかった。
「え?フミト、パーティーやるって知らなかったの?」
「ああ。今日料理を並べに来た時にシルヴィアさんを見て、初めて俺もパーティー参加するんだってわかったよ。まあ、シルヴィアさんに合格もらえなかったらパーティーどころじゃ無かっただろうけどね」
エステファンも特に何も言わなかった。俺も聞かなかったけど、一言欲しかったかな。
「先程の料理は合格もらえたのですか?」
「ああ、間に合わせで作ったやつ以外は全部合格貰ったよ。親父さんの助けもあったけどね」
「おめでとう!フミト!」
「おめでとうございます!フミトさん!」
「ありがとう」
作っているものが認められ、流通させることが出来るのはとても嬉しいことだ。更に、どんどん消費してもらえるのがより嬉しい物になるだろう。早く作りたくなってくる。
しかし、なんだかこの二人の食いつきがすごい。遠くでシルヴィアさんとエイル姉さんがニヤニヤしているのが見える。リーアとレンティは少し真剣な目でこっちを見ている。何か企んでいるのか?少し警戒しておくか?
「それより、料理を食べさせてくれよ。まだ何も飲んでいないし、食べてもいないんだ」
そう言いながら中央テーブルを見てみると……。
「料理が無い……。親父さんのはわかるけど、俺のまで無いとは……」
親父さんの料理を合わせれば50人前は作っていた料理だ。さほど時間が経ってないのに全部無くなるとは思ってもいなかった。二人がニヤニヤしていたのはこれか?くそう、どうしたもんか……。
「フミトさん、良ければこれ食べますか?食べかけですが……。」
ナイアが自分のお皿に入っているものを差し出してくる。
「いや、それは悪いよ。ナイアが食べなよ。美味しかったって言ってくれたんだから、しっかり食べてほしい」
「でも、少し多く取り過ぎたみたいなので、少し食べてもらいたいです」
「そうか?なら少し頂くよ」
「フミト!私のも食べなさいよ!」
強引に皿を差し出してくるティア。だが、そのお皿の上には少ししか残っていなかった。
「ティア、あまり無いじゃないか。自分で食べたら?」
「あんたのために取っておいたのよ!食べなさい!」
「取っておいたっていう量じゃ無いよな……」
「なーに?!」
「わかったよ!食べるよ!」
二人から交互に無理やり食べさせられるはめになった。飲み込む前に口元に差し出されるので、少しフォアグラになるガチョウの気持ちがわかった気がした……。
「さて、ご歓談の皆様、ここでフミトの新しいパーティーメンバーのお披露目をさせて頂きたいと思います。さあ、こちらにいらっしゃい」
その言葉でようやくフォアグラから開放されることが出来た。シルヴィアさんのおかげだな。遠くで見ていたエミリアノがジンジャールを作って持ってきてくれた。口の中に残った食べ物を無理やり流しこむ。ようやく一息つけた所で表に5人が並ぶ。スポットライトなど無い。日が落ちて薄暗い中、ランプの灯りのみだが5人を少しでも見えるために集めてくる。
「左から、アイガー戦士養成所で培った前衛職でパーティーを守る盾、リーア!」
リーアがお辞儀をすると周りから喝采が湧く。指笛や歓声の中に混ざって胸でけー!とかいう声が聞こえた直後、何かに叩かれる音が聞こえたのは気にしないでおこう。
「パーティーの要、そしてみんなを守る盾になります!」
リーアが声を張り上げ、宣言をする。この言葉で火が点いたのか周りも大きく盛り上がる。
「その隣、マルビティン魔法学院卒で、商才もあり、パーティー唯一の魔法使い、レンティ!」
レンティがお辞儀をし、同じように喝采が湧く。女性から可愛いという声が多く聞こえ、あまり表情を変えないレンティの頬が赤く染まる。フミトは戦士だもんなという声が多く聞こえる。一応魔法使いですよ?
「魔法使いとしてはまだ未熟ですが、ダメージリーダーとなれるよう頑張っていきます」
元々大きな声が出ないので、多少喧騒にかき消されつつも宣言する。後ろの方でも宣言が終わると盛り上がる。聞こえていたのかわからないが。
「さてお次は、騎馬の民、アネトから来た猪突猛進の突貫娘、ノンナ!」
ノンナはお辞儀ではなく大きく両手を振った。幾人も知り合いが居るようで、そちらに向かって手を大きく振ったりしていた。明るい性格の為か、拍手や喝采は結構大きかった。
「シザーリオと一緒に頑張っていくよー!」
シザーリオって誰だ?って声が多少上がるが、ノリで盛り上がっているのでその声もかき消される。
「そして、黒肌のダークエルフ、レンジャーとしては一級品でスタイル抜群の美女、ナイア!」
ナイアがお辞儀をした瞬間、男性からの喝采や指笛が一層大きくなった。口に出せない様な言葉もいくつか聞こえ、その直後に鈍器で叩かれる音が幾つも聞こえ、その後であんた!何言ってんの!という言葉がいくつも聞こえる。その光景を見ながらナイアは苦笑いしていた。
「英雄たちとは比べる事自体おこがましいですが、その域に達することが出来るよう頑張っていきたいと思います」
英雄とは大きく出たな!という声や、いずれ英雄になれるよ!等の声、胸は英雄級だなという声も混ざるが、当たり前のように何か物が当たる音が混ざる。
「最後に、塩銀亭の看板娘、レンジャーでは一歩劣るが、精霊魔法は一級品、ティア!」
ティアがお辞儀をするとより一層大きな拍手喝采が来た。まあ、近くに親父さんの目が光っているんだから、しかたがないのだろう。ただ、看板娘としてはエイル姉さんには負けているが、元々美形で人気は高かったのだから、親父さんの目がなくても大きかっただろう。
「久しぶりの冒険者です。足を引っ張らないよう頑張っていきます!」
お店で無くなるのは寂しくなるな!早く帰ってきてくれー!等の声がかかるが、親父さんの目が光った瞬間それらの声が消える。そうなると自然と頑張ってこい!という声が増えてくる。
「フミト!こっちに来て挨拶なさい!」
シルヴィアさんから声がかかり、リーアの隣に立ち話し始める。
「この様な場を設けていただき、感謝の言葉もありません。ありがとうございます」
お辞儀をすると、拍手喝采の他に、さっきまで知らなかっただろー!という声が聞こえる。図星なので苦笑いでかえしておく。
「以前の仲間に負けないように、いや、以前の仲間より頼もしくなってくれるよう、尽力します」
デタラメなメンバーであった前のパーティー。同じように攻撃に傾いているとはいえ、バランスの取れた今回のメンバー。どんな魔獣討伐や依頼を達成し、名声を残せるか。人間としては短く、エルフとしては長い時間の一時期をどれだけ濃く彩る事ができるか。楽しみでもあり、難しいことでもある。その様な色々な感情が入り交ざりながら礼をすると、拍手喝采が大きくなった。
最後に全員揃ってお辞儀をし、喝采や指笛が響く。関係者だけとはいえ、これだけ祝ってくれるのはとても嬉しく思う。普通根無し草な冒険者相手にこの様な催しをしてくれるわけがない。街の人に感謝しなくてはと思う。拍手喝采が少なくなり、終わりかと思った所で、シルヴィアさんが続けて話し始める。
「これからフミトと一緒に冒険をするメンバーに私達から贈り物をしたいと思います」
そう言うと、何処にいたのかゲーニアがシルヴィアさんの隣に立っていた。そこから見覚えある物がシルヴィアさんから各々に手渡される。
「ワイバーンの皮で作られたソフトレザーアーマーです。鎧やローブの下に着てもらい、少しでも傷を負わないようにと思い、作らせていただきました」
拍手喝采が大きくなる。しかし、こっそり飲んでいたジンジャエールを吹き出してしまう。ここで俺と一部の人はわかっただろう。一つ大きな嘘を付いているということが。それが、ワイバーンの皮ではなく、グランドドラゴンの皮だということに。
一言伝えようと思ったが、シルヴィアさんから睨まれたので、ワイバーンということにするしか無かった。
「そして、4人の防具も新調したいと思います。まず、リーアの鎧はこれです」
見覚えある鱗、形の鎧、俺のワイバーンスケイルメイルと同じである。だが1点だけ違うところがあった。
「これは赤い色の突然変異種で作られたワイバーンスケイルメイルです」
リーアの隣に人型の人形に飾られた鎧が置かれる。赤というより少しだけピンクに近い牡丹色とでも言おうか。この鱗は、そこそこの魔獣であれば、爪や牙は通さない物なので、新人冒険者としてはとても良い物を手に入れたことになる。拍手喝采が止まない中、一つの発言で爆笑の渦に変わってしまう。
「本当は、フミトの嫁にでもと思って作ったんだけど、まだ来ないから渡しちゃってもいいよね?」
ほっといてくれ!と言いたいところだが、隣りにいた親父さんが腹を抱えながらバンバン俺のことを叩いてくる。お願い、痛いからやめて、体も、心も……。
「続けて、レンティにはこれ。隣の国で取れるサンドリザードで作られたローブ」
女郎花色とでも言えば良いのか、黄色系の少しだけ薄い色の皮のローブが隣に立つ。身長より少し丈が長いので、後で仕立て直すのだろう。金髪で女郎花色だと同系色になってしまうのだが、胸や背に藍色の飾りや染めたところがあるので、単調にはならないだろう。
「ノンナにはプレートアーマー。今のブレストアーマーとそんなに変わらないように見えるかもしれないけど、鉄の質と、動きやすさがかなり考えられたものにしたわ」
馬上にいる場合だと完全鎧の方が良いだろう。多分、歩くことも考えてると思うので、部分的に取り外せるタイプのプレートアーマーになっているのかもしれない。ただ、ノンナがそのパーツをどっか置いて来てしまわないかそこが問題だ。
「ナイアにはドラゴンの革で作られたハードレザーアーマーを」
グラスクーガーよりは強く、グランドドラゴンより遙かに弱い人類未到達領域にいるドラゴンの皮で作られた薄い茶系の色である木蘭色っぽいレザーアーマーだ。表面にはグラスクーガーの毛皮だろうか、金属で縁取られたベルベット調の模様がある。しかも黒色なので、先日取れた物なのだろう。部分的にまだ取り付けが甘い所があるので、仮組みなのかもしれない。
「ティアには同じくドラゴンの革で作られたハードレザーアーマーを。これはエイルさんが昔使っていたハードレザーアーマーにグラスクーガーの毛皮で飾り付けてみました」
ナイアのものとは違い、しっかりと作りこまれてあったレザーアーマーが隣に立つ。ティアが再度冒険に行くということは既にわかっていたのだろう。若草色の毛皮と木蘭色の革を藍色に染められた革鎧はとても綺麗に見えた。
綺麗な色合いの鎧なので、それをティアが鎧を着た所を想像し、少し呆けていると、とんでもないことが聞こえてきた。
「ちなみに、はじめに渡したソフトレザーアーマーと、ティアの鎧以外は全部フミトの出世払いとなります。フミト、よろしくねー!」
4人から満面の笑顔で、ありがとうございますとの声が伝えられる。周りからそのくらいの甲斐性見せろ!とか5人も手籠めにしやがって!とか声があがる。だが、メデューサに睨まれた人間のように固まってしまった俺には届かなかった。届かなくても負債は確定なので、届こうが届くまいが関係ないのだが、聞こえないふりをしたくなったのは間違いない。
少し固まった後、ようやく自分を取り戻すことに成功したが、視界の隅に真っ青な顔をした二人を見ると、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
青い顔しているのはラパンとエミリアノの二人である。俺の借金は彼らに過酷な労働をお願いすることに繋がる可能性があるのだ。長期的に見れば3人の商会のトップしかも、色々なモノの発案者が生き残れる確率を増やすと言うのはいいことなのかもしれないが、短期的に見れば辛い未来が見えるだけだろう。さらに、ここ数年は俺の商会としての売上はさほど多くない。その売上だけで二人を雇えていたわけではなく、フェスティナ商会からお金を借りて雇っていた状態なのだ。それだけではなく、例えば今回の菜種油にかかった生産費・圧搾機等にかかった費用もフェスティナ商会で肩代わりしてもらっている。その分の借金を返済し、更に今回の防具が多数上乗せされる。俺の商会が作るものを独占販売出来るという特権があるので、金額は多少おまけしてくれるだろうが、少なくともセイシュ1年分以上の売上が必要になるだろう。お祭りのような騒ぎの中、3人だけが青い顔して静まっていた。
新年明けまして、おめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
書き溜めることが出来ず、来週からどうなることやら?と頭を悩ませています。
新年早々仕事が忙しくなるようなので、毎週更新はお約束出来るかわかりませんが、なるべく守れるよう頑張っていきます。
2016/01/04 三点リーダ修正