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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
37/83

審査準備

審査準備


「あれ?みんな着いてくるの?」

 冒険者ギルドを出てバルラ商会へと向かうつもりで足を向けた後着いてくるメンバーに気づき声をかけた。

「この後特に予定もないですし、黒い豆が緑色になったと言うのも気になりますので」

「何となく?」

「フミトさんが何かやってくれるんじゃないかって期待してます」

「私も気になるので」

 ノンナ以外は興味本位か……。まあ、いいものだった時の荷物持ちにはなるだろう。特にノンナが。

「わかったよ。俺が役に立つか立たないかは現物見てみないと全くわかんないからね」

 しかし、黒い豆を買ったつもりが緑って何のことだろう?この世界の新種か?それなら全く俺の知識にないから、どうすることも出来ない。ひょっとしたら色が違うだけでピーナッツだったら幾つも種類が作れるかもしれないが……。ともかく現物を見ないとなんとも言えない。


 あれこれ考えていると船と槌の紋章のバルラ商会が見えてくる。フェスティナ商会よりは小さく、船も確か1隻しか無いはずの商会だ。一つの取引で大損してしまうことは商会の命運にも関わってくるのだろう。その取引をしたであろう人が商会の入り口にある椅子に頭を抱えながら座り込んでいた。


「すいません、エミリアノさんですか?」

 その男性は気だるそうにゆっくりと頭を上げ、こちらに顔を向けてくれた。

「そうですが、貴方は?」

「申し遅れました、フェスティナ商会からの紹介で参りましたフミトと申します」

 こちらの自己紹介が終わる前からみるみる絶望的な表情から変わっていき、名前を言うと地獄で蜘蛛の糸でも見つけたのかの様に希望にみちた顔になった。

「貴方が商品復活請負人のフミトさんですか!?」

 何ですか?そのとても恥ずかしい通名は……。

「その頭についているのが何かわかりませんが、私がフミトです」

 前引き取った大豆がチリビーンズでそこそこ街で出回るようになったので、その時この恥ずかしい名前が付いたのかもしれない。後ろを見るとみんな他の方を向いており、体が少し震えているのがわかる。ノンナは口元を押さえてるようなのだが、プスーと音が漏れ出る。後で覚えてろよ?


「助かります!これで当商会は救われます!」

 いやいや……、そんなに期待されても怖いんですが……。

「救えるかは商品を見てみないとわかりません。私でもわからない事は多いです。ご期待に添えなくても悪く思わないでくださいね?」

「はい!フミトさんなら大丈夫です!」

 その自信は何処から来るのだろうか?当の本人には全く自身がないというのに……。

「ともかく、その商品を見せて頂けますか?」

「はい!一部部屋にありますので、是非ご覧になってください!」

 商会の一室、エミリアノさんの執務室だろうか?そこに案内される。

 綺麗に整頓された棚と帳簿であろうファイル。そしてソファーに絵画。会頭室かと思えるくらいであった。

「どうぞ、お座りください。こちらがその商品です」

 俺達を座らせると、部屋の隅にある麻の袋を持ってきた。

「開けてもよろしいですか?」

「はい!どうぞご覧になってください!」

 袋を切り開けると、中から白に近い緑色の小指の先より小さい楕円で半球状の豆が出てきた。更にはその豆の平たい方には一本の筋が入っていた。この特徴的な形は知っている。この世界ではまだ出会ったことが無かったので、無いものかと思っていた。

「少し質問があるのですが、よろしいですか?」

「はい!何なりと!」

「この取引先で何か飲みましたか?」

「ええ!苦いですが美味しかった飲み物を頂きました。それに惚れてこれを購入したのですが、黒い豆だったはずなのに、緑色の豆を買わされてしまって悩んでいたのです」

「わかりました。他には一緒に何か買いませんでしたか?」

「はい、取っ手のついたクルクル回す何か砕くものを買わされましたが、何に使うのかさっぱりです」

「わかりました。それで、袋はどのくらいの量で、どのくらいの金額で買いましたか?この一緒に買った物も合わせてお願いします」

「一袋小金貨1枚と銀貨1枚で100袋買っています。この砕くための物は小金貨3枚で買っています」

 一袋約60kgくらいだろうか、それならいい値段だろう。

「わかりました。全部その金額で買いましょう」

「本当ですか!?」

 他のメンバーも流石に驚いている。いきなり豆を見て少しの質問だけで決めてしまったのだ。金貨12枚と小銀貨5枚の取引をこんなに簡単に決めて良いのだろうか?というのもあるのだろう。輸送コストを考えると完全に赤字ではあるが、捨てる他無かったものを買い取ってくれるというのだ。渡りに船ということだろう。こちらもその足元を見ているので安く買い取れている。いやらしいかもしれないが、お金はフェスティナ商会が支払うのだ、少しでも安くしないと後で何を言われるか……。

「支払いは後日フェスティナ商会からとなりますが、それでもよろしければ、契約書をお願いしたいのですが」

「はい!今すぐ作成します!少々お待ち下さい!」

 飛ぶように自分の机に戻り、羊皮紙を取り出し契約書を書き始める。

 横長の羊皮紙に右側、左側と同じ文面の内容、豆を100袋金貨12枚と小金貨5枚で販売します。という文面だ。真ん中にお互いにサインをし、サインの真ん中辺りで切り取る。勘合貿易で使われていた割符みたいなものだ。お互いに契約したという形が残るので、後から無かったことには出来ないのだ。

「これで契約は成立しました。ありがとうございました」

「こちらこそ!ありがとうございました!でもよろしいのですか?」

「間違いないと思っております。そこで、火を使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんが、部屋を出て奥に台所があります。そこでなら問題ありません」

「わかりました。一緒の味になるかはわかりませんが、多分貴方が飲んだであろう飲み物を準備します」

「え!あれが作れるのですか?」

「はい、この豆から作れるはずです。少し時間はかかりますが」

「是非私にも見せてください!」

「はい。わかりました。では台所をお借りしますね」

 台所で火をおこし、フライパンでその豆を煎り始めた。少し経つと俺にとっては馴染みのある香りが漂ってくる。間違いなかった。この豆はコーヒー豆だった。砕く機械はコーヒーミルで間違いないだろう。四半刻くらい煎っただろうか、炭っぽい茶色という感じに仕上がってきた。香りも申し分ない。

「ナイア、お湯を沸かしてもらえないか?それとエミリアノさん、砂糖はありますか?それと清潔な布があればお願いします」

「砂糖と清潔な布ですね?すぐ準備します」

「レンティ、魔法の勉強だ。風と水の魔法でこの豆を冷やしてくれるか?直接豆には当てないようにしてね?」

 生活魔法ではあるが、複合魔法な為、使える人が少ない魔法だ。例のセイシュを冷やしたり塩銀亭のエールが少し冷えているのはこの魔法があるからだ。

 正式名称は『アイスブロア』魔導学院で変態的な教授が編み出した魔法である。普段の変態行為が悪さしたのと、魔獣に対しては効果が低い魔法であったため、あまり注目されなかった。それより強力な『アイスストーム』が見つかっているのだ、見向きもされないのはしょうがないだろう。だが、魔力効率は非情に良いので、細かい温度調節が可能な人にとっては食品業界に引っ張りだこになるだろう。まだあまり気づかれていないのが俺にとっては幸いだが。

 水を気化させて温度を奪う魔法。直接当てなければ煎った豆にも問題ない。レンティも一発で成功させてしまい、ちょっと師匠としては嬉しい。師匠の役割をしたことがあるのかといえば、これが初めてなのだが……。

 十分に冷ました豆を今度はミルで砕き始める。とても良い香りが一帯に漂う。戻ってきたエミリアノさんもその香りで立ち止まってしまう。

「やはり良い香りです!」

 エミリアノさんが感動している間に、カップを準備してもらい、砕いた豆を布の上に置き、お湯を通していく。しっかりとしたフィルターではないので、多少味が薄くなるかもしれないが、それについては諦めてもらおう。人数分揃ってからみなで一斉に飲み始める。

「この味です!少し私が飲んだ時より薄いですが、この香り、この苦味!私が惚れたのはこの味です!あの豆で間違っていなかったんですね!!」

「はい、あの豆を煎れば問題なかったのです」

「ありがとうございました!一つ勉強になりました!また買いに行きます!」

 非情に感動してくれるエミリアノさん。その反対では……。

「個性的な味ですね……。でも、そんなに嫌じゃないです」

「にがーい……」

「うーん……私も苦いです……」

「これはこれで飲めます」

 あまり前向きではない意見が……。苦いと言っていたノンナとリーアのカップに砂糖を一杯入れ、再度進めてみる。

「あ!これなら飲める!」

「はい!これはおいしくなりました!」

 どうやら、苦味が強くて飲みづらかっただけのようだ。これならシルヴィアさんにも進められそうだ。


 開けた袋を俺が持ち、笑っていたノンナにもう一袋持たせバルラ商会を後にする。文句を言ってきたがそのまま気にせず持たせる。フェスティナ商会まで持ってきた後、俺だけ報告に戻ることにした。金貨12枚とかなりの高額取引となったが、満足してもらえるはずという言葉と、翌日の夜までに準備するので、時間をほしいと告げて空いている袋を持ち帰り、蔵の隣にある研究室の様な所に向かう。

 ここは俺の商会みたいな物の事務所兼研究室兼調理室となっている。会社名は特につけてない。取引先はフェスティナ商会のみだからと言うこともあるが、100%出資子商会であるのと、人頭税の為、商会により税が変わるとか言うのも無いので、特に必要性を感じていないのもある。

「フミトさん、なんですか?それは」

 セイシュ他色々と管理してもらっているラパスが出迎えてくれる。大酒飲みのドワーフであり、鍛冶よりほかのものを作る方に見出した職人気質な人だ。

「フミトさん。もうこれを切るのもう嫌です……。勘弁して下さい」

 お出迎えよろ不満を言い出すのはもう一人の従業員であるエレイメイだ。盗賊落ち寸前だった魔法使いだったのを雇い入れたのも、魔法の能力はさほど高くないのだが、持続性魔法や魔法の細かい調節が得意なので、セイシュの醸造等にとても助かっている為だ。

「ごめんな。でも、それがあれば多分シルヴィアさんを驚かせられるよ」

「ホントですか?もう手が痛いんですが……」

「手袋つけてやらなかったの?」

「つけてても染みてくるんです……」

「2~3枚買って渡さなかったっけ?」

 そうなるだろうと思って予備を買っていたのを思い出し、聞いてみるが、指先が真っ赤になった手袋を3枚持ち出し不満を述べる。

「全部使いきりました……」

「あら……ごめん……次からはもう少しいい方法がないか考えるよ……」

「次はもう嫌です!」

「ほんとごめん……何とかする……」

 非情に申し訳ない気分になる。流石にこれは酷いか……。コーヒーミルを元にしてゲーニアに作ってもらう事を検討しなければ駄目かもしれないな。

「その袋はなんです?」

 ドワーフのラパンから声が掛かる。

「新しい輸入食材だよ。明日これもシルヴィアさんにお披露目する」

「1日で仕込み時間足りますか?既に9品くらい考えているじゃないですか」

「大丈夫。今日だけで3品仕上げることができるし、2品は樽から移し替えるだけ。それ以外は明日塩銀亭の親父さんに厨房借りてやるつもり。問題ないよ」

「そうですか。契約農家のエンデンさんから例のものも届いています。もう準備始めますか?」

「それもだけど、セイシュ一樽準備できる?」

「まだ早すぎませんか?まだ全然まとまった味になってないはずですし、美味しいとハッキリと言える状態じゃ無いと思います」

「まあ、それでも明日のお披露目に酒が無いというのもね。中取り辺りであれば、雑味も少ないからいけるんじゃないかな?」

「フミトさんがそう言うならそうしますけど。本来なら反対ですよ?」

「わかってる。俺だって本来なら美味しいものを飲んでもらいたい。だけど、明日はちょっと酒の勢いでも借りないと全部通せるかわからない。酒で判断を間違えるような人でも無いのはわかってるが、少しでも良い作用になればと思ってね」

 最高の状態で飲んでもらいたい気持ちはお互いにある。だが、明日の相手は商会の上司。しかも商人泣かせのシルヴィアさんだ。藁にもすがる思いがあっても誰も否定的なことを言わないだろう。

「わかりました。すぐ取り掛かります。一樽ですのですぐ終わりますが、その後はどうしますか?」

「その3品とこの袋の豆を仕込む。そっちが終わったら手伝ってくれ。エレイメイ、火をおこしてくれないか?俺はその間に仕込む材料をまとめてくる」

「はい。紅い悪魔から開放されるのなら何でもやりますよ」

「ほんとごめん……」


 セイシュ以来の大きな商談となる。一つひとつでは魅力に欠けると判断した為、一気にまとめてとなってしまった。戦闘とは違うが、商談戦闘とでも言うべきだろうか。当商会の大勝負のために3人で気合を入れなおした。






1週間ぶりです。思ったより進み具合が悪く、悩んでいます。週1が危ぶまれる状態ですが、何とかしていきたいと思います。万が一間に合わないようでしたら、活動報告にて報告させて頂きます。


2016/01/04 三点リーダ修正

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