冒険の合間
冒険の合間
「さて、報酬の話だが……」
今回盗賊がいないので、そこまで高額報酬にはならない。だが、そこそこ数を狩れたはずなので、悪い金額にはならないだろう。
魔獣
・グラスボア4匹(内1匹破損)
・ウルフ(皮)18匹
・ワーウルフ(爪・皮)3匹
・アグリーバック11匹
・グラスクーガー3匹
・突然変異種グラスクーガー(黒)1匹
・ロック鳥1匹
以上で金貨2枚、銀貨1枚、小銀貨3枚となった。行きの時から考えると約4倍もの報酬になっている。やはり、グラスクーガーが高い値となったのだろう。ロック鳥は被害を考えれば高くはないが、そこそこ高額になったようだ。フェスティナ商会に販売先があるというのも高い値がついた理由の一つであろう。
「ちょっと少ないねー?」
「なにを言ってるの?ノンナ。これは魔獣のみの報酬で、盗賊はいないのよ?」
「あれ?そうだっけ?」
「前回は小金貨5枚位だったですよ?それにシザーリオ買えたのは、ルブリン商会からの報酬で買うことが出来たのですよ?」
「あ、そっか」
都合のいいところだけ覚えている。こういう気楽な所は見習いたいと思う。だが、覚えて置かなければならない所を忘れるのはダメだと思うが。
「その半額を分配だから、小金貨2枚と銅貨8枚が報酬になるね。結構良い報酬だと思うけどな?」
往復合わせて魔獣のみの報酬で小金貨3枚以上となる。日本円に戻してみると約6万だ。これ以外に護衛報酬が往復で金貨1枚と小金貨4枚となる。相当美味しい仕事になるのだ。他の商会では護衛報酬の日当は銀貨3枚行けば良いほうだ。そう考えれば銀貨4枚相当の小金貨1枚であるのは相当高い分類だろう。ただ、扱っているものが香辛料が多いので、盗賊や魔獣などで失った時がとても痛手になるので、しかたがないのだろう。香辛料の値段が下がらない理由もこういう所があるのも否定出来ないが。
シルヴィアさんが秘書を呼び、報酬を各々に配るよう指示する。普段は俺に一括で支払い、後で分配という形であったので、少々違和感を覚えるが、面倒が減るので気にしないでおくことにした。
「そういえばフミトさん、今日手伝いに行ったのがバルラ商会という所だったんですが、取引担当者がすごく頭抱えていたんですよ。それが私も荷降ろししたやつだったんですが、中身が違っていたようなのです」
「なんだっけ?黒い豆だったはずが、緑っぽい豆になっただっけ?」
「そう言ってましたね。黒い豆を買ったはずなのに、持ち帰ってみると緑色だったと言ってました。倉庫に入れたんですが、量が多くてどうすれば良いのか頭を悩ませていたみたいなんです」
リーアとノンナが荷降ろしした船での出来事を話しだす。他のメンバーにはもう話してあるのか、大した反応が無かった。
「リーアから話は聞いたけど、バルラ商会のエミリアノは堅実な取引をすると聞いているの。そこで、これはある意味商売のチャンスではないかと思ってね。フミトに意見を聞こうと思って話してもらったのよ」
シルヴィアさんは期待しながら話す。以前乾燥大豆を輸入したが、意外と売れ行きが悪くて悩んでいた商会を一気に買い取り、利用して売りさばく料理を作った俺に期待しているのだろう。だが、毎度毎度俺に期待してもらっても、出来るものと出来ないものがある。全く知らないものだったら手の出しようもない。今まではたまたま前世での知識で何とかなった程度なのだ。発想力よりうっすら記憶があった物を何とか形にした程度なので、期待に答えられないのが怖くなってくる。だが、話は聞いてみないと答えようもないのでとりあえず聞いてみることにする。
「現物を見てみないとなんとも言えないね……」
「そうだろうね。だから話は通してあるわ。後で行ってみてくれないかい?うまく行きそうなら全部引き取ってもらっても構わないわ。費用はとりあえずうちが出すわ」
ずいぶんと太っ腹なことを言い出すエステファン。お前も俺に期待しすぎだ……。
「わかった。ギルドに顔出した後、バルラ商会に寄ってみるよ」
「頼むわね」
黒い豆を買ったはずが緑の豆?全く意味がわかない。新種だったり、こちらの世界でしか無い植物だったとしたら俺にはどうすることも出来ない。まあ、そろそろ期待しすぎないで貰えるように失敗するのもありかもしれない。
「そうそうフミト、明日の夜空けておいてくれと言ったが、予定は入れてないだろうね?」
シルヴィアさんとの話が終わり、エステファンから話しかけられる。
「ん?予定はあいてるよ。何するのかわからんが」
「まあ、ご飯でも食べようと思ってな。」
「そんなの当日でも良いだろう。俺とお前の仲なんだから、冒険者として依頼中じゃなければすぐ行くよ」
「そうかい?ありがとう」
「あ、その時例の物出すか。お店の主に断っておいてくれないか?自前で少し食べ物持って行くって」
「わかった。新作だな?楽しみにしておくよ」
「舌に合えばいいんだがなー」
今日はできなさそうだが、明日は色々と作らなければ。出来上がった2種と、農家に協力してもらっていた物を1つ、それを使った料理を数品……。明日だけで出来るのかイマイチ不安だが、ハイルさんに手伝ってもらえばなんとかなるだろう。
お昼は全員で塩銀亭で食べることにした。4人が武器を持ってきていたので、元々そのつもりだったのだろう。お店に入った時に気づいたのだが、シルヴィアさんに一時的に返してもらえば一緒に見てもらえたと。今更なので言うことはやめたが。ティアはそのままお店の手伝いに入ることになり、2階にある自室に一旦戻っていった。
「あら、いらっしゃい。みんな揃って珍しいわね」
パーティーメンバー以外にもシルヴィアさんとエステファンが着ているので、珍しいと言えば珍しい。ただ、この二人も元々常連客ではあるので、来ること自体は珍しいわけではない。
「フミト達がここで食べるって言うからね。寄らせてもらったわ」
「ありがとうね。メニューはどうするの?」
「私はアグリーバックのステーキお願い。付け合せはお任せするわ」
「そうだね、グラスボアはいけるのかな?いけるならそれで。駄目ならお任せするよ」
夫婦はさっさと決める。この店に食材を降ろしているのはフェスティナ商会も入っているので、何を卸したのか覚えているのだろう。今日の朝卸したばかりの食材を選ぶ。
「俺は鳥でお任せ」
「私も鳥でお願いします」
「グラスボアー!おまかせでー!」
「アグリーバックでお任せします」
「鳥で付け合せはお任せします」
各々注文していく。昼時とはいえ、少し早い時間なので、もっと細かい注文でもいけるかもしれないが、そんなことしなくても味が落ちることもないし、忙しくさせるのが申し訳ないのでお任せすることが多い。
「なに飲むんだい?エールかい?」
「昼間からは飲まないよ。みんなお茶で良いよね?」
全員同意する。ノンナは飲みたそうだったが、諦めてお茶という様な表情をしていた。
お茶が用意され、料理を待っている間にエイル姉さんが武器を見てくれることになった。
「そういえば、商会にも持ってきてたけど、この武器は何なの?」
シルヴィアさんが質問をする。それも当然だろう。街の中では基本的に武器は持ち歩かない。事務仕事をするのに槍が必要かということだ。街の住民への配慮と言うこともあり、持ち歩かない冒険者が多いので、疑問になるのはあたりまえだろう。
「フミトちゃんのハーレムに渡される武器よ?」
エイル姉さんが意味不明なことを言い始める。
「ちょっと!なに言い出すんですか!」
「あら?違うの?フミトちゃんのパーティーみんな女の子で、みんなフミトちゃんの武器持ってるじゃないの」
痛いところを突かれる。意図しないで女性が増えただけなのにこの言われよう。男性メンバー募集!と言っても、今なら女性目当てで入りたがる人がいそうなので、下手に募集ができない。なんとも苦しい状況だ。昔の教育した男しかいなかったパーティーを思い出す。すごく気楽だったな……と……。
「いやいや、女性だらけになったのはたまたまです!武器を渡したのは自分が迷惑かけてしまったから、そのお詫びです!」
「ふーん。そういうことにしておいてあげる。いやらしい」
シルヴィアさんの辛辣な意見が最後に入る。
「あら?5人位囲えなくて?そのくらいの甲斐性はあるでしょう?」
エイル姉さんの違った意味で辛辣な意見が入る。
「それもそうね、事業でもそこそこ成功しそうだし、そのくらいの甲斐性は持っていてもいいわよね?」
シルヴィアさんが意見を変え始めた。どうすればいいの?俺……。
「ほら!母さん!武器見るんじゃなかったの?」
ティアから声が掛かる。助かった。この二人には頭が上がらないので、この助け舟は命が助かった気分になる。
「そういえばそうね。お客さん増える前に見ておかなきゃ迷惑よね」
話が本筋に戻ってほっとする。
「まずは大物から見ていこうかね。ノンナちゃんの見せて」
ノンナが壁に立てかけていた自分の槍を手渡す。ハードレザーで作られたカバーを取り外し、穂先を確認する。
「これも属性付いてるわね。4属性しっかりと」
槍をノンナに返し、続いてレンティの短槍に移る。
「これも4属性付いてるわね」
レンティに短槍を返し、ナイアのカタナに移る。
「やっぱり綺麗ね、このカタナという武器は。4属性しっかりと付いてるわ」
ナイアにカタナを返し、最後にリーアの長剣に移る。
「これもついてるわ。バロックのお爺さん、頑張りすぎてるわね。フミトちゃん無理させちゃったんじゃないの?」
リーアに長剣を返しながらそう言ってくる。
「いや、調子に乗ったとは言ってたけど、無理したとは思えなかったんだけどな……」
当時を思い出すが、バロックの爺さん達はつらそうな顔はしていなかった。カタナに関してはそれ以前に作っていたのでわからないが、槍の穂先や長剣に関しては、披露しているようには見えなかった。
「そう?けっこう大変だったと思うんだけどねえ?」
これで見てもらうまで確定することはないが、俺のカタナも4属性付きになりそうだ。
「ありがとうございました。後日俺の剣持ってきますので、お願いします」
「はいよ。何時でも良いからね」
「それと、親父さんにお願いがあるので伝言お願いできますか?」
「はいよ。何を伝えるんだい?」
食事を終え、そのままの足で冒険者ギルドへと向かう。
「フミトおかえりー」
いきなり気の抜けた声で挨拶をしてくるのはフェリシアだ。こんなに気が抜ける声でも元剣士で腕が良かったというのが信じられない。
「ただいま。報酬貰いに来たんだが今大丈夫か?」
「大丈夫だよー。他のみんなも居るのね?それじゃまとめて払っちゃいましょうかね」
基本ギルドへの報告は2種ある。魔獣討伐等の場合は冒険者が行うことになるが、それ以外の狩猟依頼や採取依頼、護衛依頼等は依頼者が報告することになっている。今回はフェスティナ商会から冒険者ギルドへ依頼成功の報告が入り、冒険者ギルドから冒険者へ報酬が支払われる事になっている。フェリシアは金貨1枚と小金貨4枚入った袋を各々に手渡してくる。
「はい、お疲れ様でした。そういえばフミト、聞いたよ?また噛まれたんだって?」
「俺ってそんな人気者だっけか?」
「いじりやすいからね」
「ちょっとまて……。それはどういう意味だよ」
「気にしない、気にしない」
「気になるわ!」
クスクス笑いながら俺をからかってくる。この軽い性格が心地よくて一度告白したが、見事に振られた。だが、振った後も変わらず対応してくれる。ありがたいことだ。
「また左肩噛まれてフラフラになったって聞いて、シルヴィアさん呆れてたよ?」
「もうしっかりと説教頂いたよ。それ以上言わないでくれ」
「ガブガブ」
「お願い。やめて」
「シャー!」
「怒るよ?」
わざわざ立ち上がり、両手で口や牙を表現し、肩を噛んでくる。いつもこんなことやってくるので、本気で怒ることはないが、少しやめてもらいたかったりする。
「ごめんごめん、次の依頼はどうするの?」
「次は3週間後位になると思う。その頃には鎧もできているだろうし、他のこともうまく軌道に乗ればお願いできると思うしね。って、勝手に決めちゃったけど、そのくらいで大丈夫だよね?」
スケジュールを話し合ってないのに決めてしまって慌てて他のメンバーに確認を取る。
「問題ないと思いますよ?近場の討伐依頼くらいでしたら私達だけで何とかなりますし、レンティさんの訓練や商会でのお仕事も結構ありますので、意図的に暇にしないかぎりやることは多そうです」
「わかった。ありがとう」
代表でナイアが答えてくれ、勝手に決めたことへの謝罪をする。それを聞いていたフェリシアが話を続ける。
「ちょっと間を開けるのね、わかった。それで、鎧はわかるけど、他のことって何?」
「セイシュ以外にも色々とやっててね。その審査が明日の夜出来そうなんだよ。今日と明日で色々と作らなきゃならない」
「審査員はシルヴィアさんだよね?きつそうだね……」
ノーテンキなフェリシアの顔でさえ、少し渋い顔をする。フェリシアもシルヴィアさんの商売に関して厳しいことを知っているのでそのような顔に鳴るのだろう。
「でも、あの人が売れると思った物を作れて、安定供給出来れば食いっぱぐれないだろ?」
「冒険者があるじゃないの」
「こんなに簡単に噛まれてるようじゃ、先は長くないよ。死んじゃったら意味ないしね」
「嫁もまだだしね?」
「うるせー!今に見つけて驚かせてやるからな!」
「はいはい」
どこぞのやられ役の様な捨て台詞を吐きながら冒険者ギルドを後にする。目的はバルラ商会だ。良いものであれば良いのだが。
これでストックが終わりになります。次からはどのくらいのペースで投稿できるかわかりませんが、週1を目指して頑張ります。予定では毎週月曜日を考えています。楽しみにしていた方には非情に申し訳ないのですが、ご理解の程よろしくお願い致します。
2016/01/04 三点リーダ修正