表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
34/83

赤面

赤面


 乾杯し、空きっ腹にアルコールを流しこむ。ここのエールは他の店より少しだけ冷えている。その理由は日本酒醸造する時に使っている生活魔法をここでも使っているからだ。

 生前はキンキンに冷えた生ビールが好きであったが、こういう少しだけ冷えているエールと言うのも馴染むと美味しく感じるものだ。

 2杯めのエールを頼んだ所に、料理が出される。ありあわせの食材と言っていたのだが、そうは思えなかった。

 鶏肉の香草焼き、この所親父さんがハマっているチリビーンズ、ひき肉と炒め野菜を小麦粉で作ったシートで包んだ、ピタみたいな物、そしてこれも最近覚えたプリンを出してきた。

 ここの香草焼きは数種の香草をたっぷりと使い、溢れでた肉汁や油をかけながら焼くので、味が濃厚なのだ。チリビーンズは大豆が輸入されたが、使い道がないと悩んでいた商会にフェスティナ商会を通して全部購入し、親父さんにある程度の作り方を教えた所、辛さがたまらないということで、親父さんがハマってしまった料理である。ピタみたいな食べ物は元々食べられていた物であり、プリンは似たようなものがあったが、少し改良してよりおいしくなっていた。


「こんなにふんだんに香辛料使って、料金は大丈夫なのでしょうか……?」

 リーアが美味しいので笑顔になったり、金額で不安な表情になったりして聞いてきた。

「笑うか悩むかどっちかにしたら?それと、金額は気にしないでいいよ。俺が持つから。それと、この料理もそこまでしないよ。昼に出したら銅貨5枚から小銅貨1枚くらいにしかならないから」

「そんなに安いのですか??」

「香辛料が他の地域に比べて格安で手に入るからね。しかも、フェスティナ商会ともかなり付き合いが深いし」

「はあ……。それじゃ遠慮しないで良いですね?おかわりお願いします!」

「私も、ピタお願いします」

「わたしもー!」

「私はエールをもう一杯お願いします」

 各々おごりとわかった瞬間一斉に注文し始めた。くそう……言わなきゃ良かった。


「なに凹んでるのよ、売上しっかりと貢献しなさいよ」

 パシっと俺の頭を叩きながらティアが話しかけてきた。

「これだけでも十分量があると思うんだがなぁ……?」

「それじゃ、お酒で貢献しなさい」

「この後蔵に行くから、これ以上は飲めないんだ」

「あら、それじゃしょうがないね。また明日以降しっかりとお金落としていきなさいよ?」

「あいよ。そうそう、これ渡しておくよ」

 そう言うと、腰に指していた脇差しをティアに手渡す。

「なにこれ?短刀?」

「そんなもんかな。前からあの鉄に興味持ってたでしょ。それで、プレゼントする前に1回使っちゃったけど、許してね?」

「なにに使ったのよ?」

「グラスクーガーに噛まれた時にね……」

「フミトまた噛まれたの?!」

「うん……」

「ばっかじゃないの?」

「そう言わないでくれ……」

 過去に1度噛まれた時も、ティアには色々と面倒見てもらったので、正直頭が上がらない。前回血が抜けて寒かった時は、リオネラにアンカみたいなものを作ってもらい、抱きながら寝た。それでも寒かったのだが、途中から寒さが和らいだ感じがしてぐっすりと眠ることが出来た。翌日気づいたのだが、ティアが寝ずに看病してくれていたのだ。過去にティア家族を助けた事があるとはいえ、そこまでしてもらうのも気が引けてしまうのだが、ここの家族とは持ちつ持たれるというような関係が続いている。

「その時に倒すのに使ったのね?なら仕方がないわね。そういえば、その鎧着れるようになったんだね」

「まあ、今回の一件で力不足感じたし、着てて迷惑かかるかもしれないけど、対魔獣では迷惑をかけることは無くなるからね」

「そうね。私も着てくれる方が安心できるよ」

 前のパーティーも塩銀亭には入り浸っていた。その為同じ鎧を着ていたのも知っているし、作った理由や素材も知っている。別れた理由も知ってはいるが、正直円満的な別れ方なので、特別な理由があるわけでもない。

 ティアは、お客さんに迷惑かけない様にカウンターの中に入って行き、そして、ゆっくりと脇差しを鞘から取り出す。

「なに……?これ……?」

「どうしたの?」

 ティアが驚きの表情を浮かべ、じっくりと刀身全体を眺めている。こちらの質問に答えてくれたのは全体を眺め尽くした後であった。

「フミトの剣に興味があったのはね、精霊が宿りそうな剣だなって思ってたのよ」

「あの剣にそんな事ができたんだ」

「母さんなら何かつけられたかもしれないわね」

「知らなかった」

「私も言わなかったしね。その鉄で作って欲しかった理由は、自分で精霊を宿してみたかったのよ」

「出来るのか?」

「やってみないとわからないけど、多分出来るんじゃないかな?」

「ほー、すごいもんだな」

 感心しながらティアを見るが、ティアの方はまだ刀身を熱心に見ていた。

「それで、この短刀はね、もう精霊が宿ってるのよ」

「え?精霊が宿ってる??」

「母さんなら何の精霊が宿っているのかわかるかも知れないわね。母さん、ちょっとこれ見て」

 ティアが店内の喧騒に負けないくらいの大声をだし、バーカウンターに居たエイル姉さんを呼ぶ。話し相手が居なくなるのを阻害しようとするお客さんをあしらいつつこちらに向かってきた」

「何?ティア」

「母さん、この剣見てくれる?」

 鞘に戻した脇差しを、鞘を持ち柄を向けて手渡す。エイル姉さんは受け取るとゆっくりと抜き、刀身をしばらく眺めていた。

「へえ……。すごいじゃないこれ。どうしたの?」

「フミトがくれたの。これ精霊が宿ってるよね?」

「そうね、火・水・風・土の4属性が宿ってるわね」

「4種も?間違いないの?」

「ええ。間違いないわね。どいういう経緯でなったのかわからないけど、宿ってるわね。フミトちゃんはなにか知ってるの?」

 刀身を眺めていたが、質問があるのでこちらに顔を向けて話してくる。

「いや、全くわからないよ。バロックの爺さん達が何したのかさっぱり。それとちゃんはやめてください」

「あのお爺さん達なのね。あの人達なら出来るかもしれないわね。無意識かもしれないけど」

「張り切りすぎたと言っていたからか?それと、材料も砂鉄だし、製造方法も木炭と灰、泥と水だからかな?」

「そうねえ、砂鉄には土と水の精霊が宿りやすいわね。木には土と風の精霊、木炭にすると火の精霊も宿るから、上手く合わさったのかもしれないわね」

「前同じように作った剣にはそういうこと無かったんだけどな?」

「あの剣?私が少し手を加えたら精霊宿ること出来たと思うわよ?」

「そうなの?」

「たぶんね」


 カタナの鋭く研がなくて良くなった理由が何となくわかった。爺さん達が普通に作ったら精霊は宿らない可能性があるので、多分流通させることは出来るだろう。普通に作ると言うのが一番難しいのかもしれないが。

 精霊を宿すと言っても、火の精霊が宿ったから火の剣になるとか言うわけでは無い。ただ、武器の重さ以上に威力が上がるとか、土の精霊だと固くなる、水の精霊だと粘り強くなる、風の精霊だと切れ味が上がる等正直その程度のものだ。それ以外にも各属性で違う効果が付く場合もあるが、突出した効果は魔法剣のほうが強い傾向にある。さらに、魔法剣より鑑定することが難しく、精霊使いでもある一定以上の人でない限り、鑑定することが出来ない。しかも、その鑑定する精霊魔法を使えるのがエルフやダークエルフだけなので、自然と精霊属性付与に関する関心が減り、流通する絶対量も減ることになる。

 ただ、今回の3本のカタナに関しては、多分3本とも4属性付いていることだろう。精霊魔法使いでも、1属性と契約出来ることが精一杯な人が多いため、4属性付いていることはとても希少な物になっている。カタナの流通が多くなり、さほど注目を集めなくなるまで、パーティーは組んでおくほうが良さそうだ。


「フミト、そんなの貰っちゃって良いの?」

「元々そのカタナはティアにあげるつもりで作ったんだし良いよ」

「そう?ありがとっ!」

 いい笑顔でお礼を言われる。かなり嬉しいようで、鼻歌歌いながら仕事そっちのけで親父さんに見せに行った。

「フミトちゃん、ありがとうね」

「いえ、いつものお礼も含めてです」

「特になにもしてないわよ?」

「宿の部屋が机以外綺麗になってましたよ?掃除してくれたんですよね?」

「あれはティアがやったことよ。私は何もしてないわ」

「それに、今日食べた肉だって多分取っておいてくれたんですよね?」

「それはハイルがやったことよ。私じゃないわ」

「ほんと素直じゃ無いですね」

「何のこと?」

 常にすっとぼけた顔で受け流すエイル姉さん。ティアが掃除するようになったのはエイル姉さんが言い出した事なのは、リオネラとの会話でボロを出したのでわかっている。親父さんは材料あるだけ使っちゃうことがあるので、その調整はエイル姉さんがやっているのだろう。ただ、それを誉められるのが恥ずかしいだけなのだろう。


「フミトさん、私のカタナも4属性宿っているのでしょうか?」

「うーん、多分宿っていると思うけど、明日見てもらったほうが良いのかもね。レンティやノンナ、リーアのやつも全部ね」

「そうですね。診てもらうべきですね」

「ということで、エイル姉さんお願いできるかな?」

「そうねえ、フミトちゃんは何かしてくれる?」

「え……っと……セイシュ一樽でどうですか?」

「あら、そんなに出してもらえるのね?」

「これ以上は言わないでくださいね?」

「もっと出してくれても良いのよ?」

「これで勘弁して下さい……」

 ただより高いものはないという言葉があるように、エイル姉さんにタダでやってもらうのはちょっとリスクあるので、対価を支払っておくほうが安心できるのだ。

「わかったわよ。明日まとめて持ってきてこらえるかな?」

「あ、俺のだけシルヴィアさんに貸し出しちゃってます。後では駄目ですか?」

「そうねえ、フミトちゃんなら良いかな」

「ありがとうございます。シルヴィアさんから戻ってきたら確認おねがいしますね」

「はいよ」


「さて、食べ終わったし、蔵を見に行くかな。みんなはまだ食べていいよ。支払いは済ませておくから。追加注文も大丈夫だよ。と言うことで姉さん、銀貨2枚渡しておくね、余ったら飲んじゃって」

「はいよ。また明日ね」

「はい。みんなも飲むのは程々にね。明日は午前中フェスティナ商会で素材報酬分配と、午後にギルドに顔を出すから、覚えておいてね?」

「わかりました。それとごちそうさまです」

「ごちっす!」

「ありがとうございます!」

「ごちそうさまです」


 3週間任せっきりだった蔵の様子を見に行く。酒以外にも何個か試しているので、かなり気になっている。そのうち2個はもう仕上がっている頃なはずなので、かなり楽しみだ。



 ~~~~~~~



「さて、フミトちゃんも行っちゃったことだし、ちょっと言っておこうかねえ」

 4人が首を傾げる。二人は初対面だし、私やノンナにとっても特別付き合いが長いわけでも無い。4人にとって、ちょっと意外なことだった。


「あら、言わなきゃならないのは、うちの娘と、あなただけよ、ナイアさん」

 私に向かってそう告げる。

「ティア、こっちにいらっしゃい」

 厨房でまだ喜んで刀身を父親に見せていたティアさんがこちらに向かってくる。

「ティアとナイアさん、あなた達二人に言うことがあるの。聞いてくれる?」

 エイルさんが何を言い出すのか正直二人にもよくわからないので、私もティアさんも少しぎこちなく頷く。

「エルフの常識を、人間に当てはめちゃ駄目よ?」

「うん……?」

「はい……?」

 私達二人はまだ何が言いたいのかよくわからない。返事もしっかりと出来ず相槌だけになっている。

「ティアは12年、ナイアさんは7年かな?エルフにとっては短いよね」

 エイルさんのいう言葉がいまいち掴めず、私達二人はまだ困惑の表情を浮かべる。

「これを言ってもまだわからないのね?」

 さっぱりわかっていない二人はそのまま頷くことしか出来なかった。エイル姉は少し呆れた顔になってこう続ける。

「人間の寿命は短いのよ?」

 ここでティアさんは言いたいことがわかったようで、急いでカウンターを出る。

「ママ!ちょっとギルドまで行ってくる!」

「はいよ。行ってらっしゃい」

 ティアは、そのまま走って店を飛び出てしまった。残されたナイアはまだ何を行っているのかわからず、何故ティアがギルドまで走っていったのかもわからなかった。

「ママだって。慌てると昔の呼び方に戻っちゃうのはまだ治らないのねえ」

 飛び出たティアの事を微笑みながら見ていたエイル姉さんは続けて私に話す。

「貴方はまだわからないのね?まあ仕方がないわね。あの娘にはこの様な話し方普段からしているものね」

 私は少しムッとしたが、長い時間話している方と、あまり話さない方とでは理解の深さの差があるのはしかたがないのを理解し、すぐ収めた。

「それじゃ、ちゃんと説明しようかねえ」


「あの娘はね、冒険者をやっていたのよ。2年間ほどね。でも、合わないからってやめて戻ってきたの。その理由はね、フミトちゃんとのすれ違いが多くて会うことができなくなったからなのよ」

 とても衝撃的な告白を受けた。それもそうだろう。娘の好きな人の告白を母親がするのだから。

「それとね、私とハイルの場合はね、80年幼なじみして、5年冒険者として、そして20年連れ添ってから一緒になったの。人間が25年連れ添ったらどうなる?」

 ようやく言いたいことの輪郭が理解できた。だが、どうしてそのようなことを言うのかさっぱりなので、目で訴えることにした。

「貴方もフミトちゃん好きでしょ?椅子も隣にすぐ座ったし、私が入った時に聞いた質問で、フミトちゃんが仲間ですって言った時、一人だけ少し顔をしかめていたもの」

 私の顔が羞恥心で真っ赤になる。多分耳まで真っ赤になっているだろう。恥ずかしすぎてうつむいてしまうが、エイルさんはそのまま続ける。

「正直ね、うちの娘でも、ナイアさんでもどっちでも良いのよ。フミトちゃんはいつも告白するけど、どこか女性を怖がってるの。失敗して悔しがってるけど、どこかホッとしてるのよ。何が原因かさっぱりわからないんだけどね。だから、二人が競争でもすればうまくいくんじゃないかと思ってね」

 エイルさんがフミトさんの事を考えての色々と言っているのはわかった。ティアさんもフミトさんのことを考えていたとは気付かなかった。

「フミトちゃんもいい加減、地方級に昇格すればいいのにね。そうなれば、名誉貴族になれるのにね」

「名誉貴族ですか?それはどういったものなのでしょうか?」

 まだ恥ずかしくて顔が暑いが、また意図がわからないので、顔を上げて質問する。

「1代限りの貴族だったと思うわ」

「そういうものなのですか」

 また意味深な言葉を発するエイルさん。地方級はこの国にも数人居るとは聞いているが、魔法の実績や、学問等で実績を上げた人達が多くなっている。冒険者がなれない理由はそれまでに亡くなってしまっているか、リタイアしてしまう事が多いためだ。

「そうそう、ティアが何しにいったのかはね、冒険者ギルドに復帰手続きしに行ったのよ。そうすればフミトちゃんに着いていけるからね」

 まだ私達のパーティーは5人だ。フミトさんはティアさんがパーティーに入りたいと言ったら拒むことはないだろう。優秀な精霊使いの様なので、私も拒む理由はない。ただ、恋敵としては辛いところではある。

「がんばりなさいな」

 悩み始めた所で、エイルさんが他のお客さんの所に行ってしまった。そこで、隣りに座っていたリーアさんとレンティさんが話してきた。

「アピの温泉での告白が無ければ、私達はわからなかったのに、エイルさんはすぐわかってしまってたんですね」

 私はアピの温泉で、リーアさんとレンティさんの簡単な誘導尋問に引っかかり、暴露してしまった。

「私はナイアさんを応援します!」

 リーアさんはこちらに向かい、両手を力いっぱい握りしめながら宣言してくれた。

「私は二人を応援します」

 レンティさんは関与しないのか、二人を応援すると言ってくれた。

「リーアさんありがとう。レンティさんもありがとう。でも、私も人間種にどう接すれば良いのかわからないの。また相談の乗ってくださる?」

 二人は快く了承してくれた。

 ふと、会話に入ってこない一番端に座ったノンナを見ると、まだ食事のおかわりとエールのおかわりを頼んでいた。





ようやくプロローグに繋げられる文面を入れることが出来ました。もう少しすんなりとここまで書けると思っていたのですが、あれもこれも入れていくとどんどん膨らんでいってしまってます。無駄に多くて読んでいる人が飽きてしまわないか心配になってたりしてますが。


2016/01/04 三点リーダ修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ