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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
32/83

帰参

帰参


「ところで、ロック鳥は何処の部位を持ち帰りますか?」

 リーアから当然の質問が飛ぶ。

「基本全部持ち帰っていいと思うよ。肉は普通の鶏肉と同じような味だから、そんなに高くは売れないだろうけどね」

「高く売れない強者に負けるのは悔しいでしょうね」

「まあ、そう言うな」

「だって、ドラゴン等でしたら、勝った時には相当な報酬が保証されます!これだけ強いのに、何故?!」

 リーアの先ほどまでの感情が再度爆発する。やり切れない思い、理不尽に対する怒り、だが、それを納得できる自分に対しての色々な感情が渦巻いているのだろう。

「食材としては、鶏と同じ。量だけで100羽超える程度だ。骨には使いみちが無い。爪は絶対量が少ないが、利用価値も少ない。唯一使い道があるのが羽だけだからかな」

「羽ですか?」

「ロック鳥の生息域はダウラギリ山の中腹と言ったでしょ?活動地域はもっと高いところまで行くことが多いんだ。だから、寒い地域の防寒具や、防寒寝具に非情に向いているものになるんだ。この国は冬でも雪が少ししか振らないでしょ?だから、輸出素材としては結構使い道があるんだ」

「それだけですか……」

「それだけでも、この国では安くても、必要な国に持っていけばかなりの値になるよ。フェスティナ商会のシルヴィアさんにこの掛け布団をエステファンと一緒にプレゼントしたことがある。一度体感してみな。軽くて温かいその布団を体感してみるとその気持が和らぐと思うよ?」

「はい……。機会があったら試してみます……」

 シルヴィアさんにプレゼントと言うのは正直言うと語弊がある。シルヴィアさんに輸出商材として認めてもらうために、羽毛の掛け布団を造り、試してもらったのだ。ここだけの例を見てもエステファンは尻に敷かれているな……。だが、あのシルヴィアさんが認めた商品となったのだ。実際はかなり高値で売れ、次は何時手に入るのか?と最速が着たくらいだ。だが、そうそう出会える魔獣ではないので、狩れたら売るよという曖昧な契約を結んでいるらしい。相手はそれでも良いというのだから、余程その国にとってはいいものなのだろう。

 しかし、それだけの商品となるものでも、どうやらあまり納得してもらえなかったようだ。

 両手でリーアの両頬を軽く音が鳴る程度、痛くないくらいの勢いで叩き、そのまま頬をムニムニいじり始める。

「にゃにをするんでしゅか!」

「リーアは優しいよな。あの冒険者達の名誉を守ろうとしてるんだもんな。でも、冒険者になるのは自分達で決めたことだ。それは誰にも曲げることが出来ない。志半ばで果てるのも、達成し、老衰するまで生きるのも各々が決めた道だ。だから、リーアが責任を感じる必要は無いんだよ」

 相手を思いやる心、それを実行する勇気。そして、純真であり、醜悪な感情に対して無知な所。レンティが着いて行きたくなる理由がわかった気がした。

 しばらくムニムニしてると、ようやく頬のこわばりが取れてきて、つり上がった眉も下がってきた。観念したのか、呆れたのか、それとも自分の気持で落ち着く所を見つけられたのかわからない。呆れた可能性の方が高そうだが……。

「もう大丈夫だな」

「はい、ありがとうございます」

「もう少しで血抜きが終わると思う。ジルフ爺さんの荷馬車に載せてくれるかい?」

「はい、わかりました」


 会話を終え、リーアが俺から離れると今度はレンティが近寄ってきた。

「ありがとうございます」

「ん?特に何もしてないよ?」

「リーアが戻ってきました」

「戻ったって、そこにいるでしょ」

 レンティがなにか言いたげでな表情、特に眉間辺りにシワを造りこちらを睨む。

「そういえば、少しリーア変わった?」

 ノンナやギルン達とまだ少しぎこちない笑顔で笑っているリーアを見ながらふと思った感想をレンティに向かって伝える。

「やはりそう思いますか?」

「確信があるわけじゃないけど、先日良い子で無ければならなかったってレンティが言ってたから、それと比べるとなんか違うかな?って程度だけど」

 先日のレンティとの会話を思い出し、そして今までの行動と、ここ数日の行動の差を考えると、やはり違和感を感じていた。

「あれが本当のリーアです」

「本当?」

「小さい時は、あのように好奇心と若干のわがままを普段から出していました。まだ話せませんが、ある一つのきっかけで自分の感情を押し殺してきました。それから開放された様なのです」

「なるほど、だからありがとうね」

 何時かはリーアから直接話を聞けるのだろう。無理して聞いて関係が悪化するのも良くない。彼女が話したくなった時に聞くのが良いだろう。意外と大した事無いかもしれないが、本人にとっては非情に大切なことと言う事もある。期待しないで待っていよう。

「多分、リーアはフミトさんのことを兄みたいに思っているのでしょう」

「兄???恋人ではなくて?」

「それはありえないです」

「……そう……」

「ありえないです」

「2度言わなくていいから……。と言うか言われ続けたら本気で泣きそうだからやめて」

「そうですか?残念です」

「レンティ酷いね!」

「ナイアさんの真似してみました」

「ナイアよりキツイよ!」

「そうですか。観察不足でした」

「勘弁してくれ」

 強烈な言葉をいただく。いじられキャラになりつつある俺。豆腐メンタルで煽り耐性無いんだよ?やめておくれ……。

「私もフミトさんのことを兄みたいに思っていますよ」

「そうか、まだいじめるのか……」

「フミトお兄さん」

「おうふっ!ちょっと違った破壊力があったな……」

「続けますか?」

「いや、やめておいてくれ。何か色々と誤解を生みそうだ」

「残念です」


 精神面のゲージが赤く点滅しているのを感じている。リーアの説得、レンティからの告白、もうこれ以上起きないでくれ、と願うばかりだ。


 どうやらフラグというものは100%立つものでは無いらしい。最後のトドメにナイアから何かアクションか、ノンナから空気読まない発言が出るかと思っていたが、何事もなかった。

 食事の時もノンナとナイアは二人で話をしていたので、こちらをいじる事が出来なかっただけだろう。心理的ダメージリーダーであったリーアなんかは、もうすっきりした顔でご飯を食べていたのが、なんとも言えない気持ちにさせてくれた。


 翌朝、夜間歩哨を任せていたアンドゥハル商会の面々と合同で護衛隊を組み、出発をする。

 昨夜は魔獣は1匹も現れていないようだ。少し眠そうなデイルからそう聞くことができた。今この護衛隊でアンドゥハル商会護衛パーティーと、俺は役に立たない。その為、先頭にリーアとナイア、最後尾にノンナとレンティ、それ以外が真ん中という隊列になっている。俺は言わずもがな、途中で拾えるため、アンドゥハル商会については、哨戒網が狭いというのもあるが、彼らが自信を喪失してしまっているのが原因である。昨日のロック鳥で完全に心が折れてしまったようで、ここから回復する事ができる人もいるが、大抵は冒険者をやめ、街の住人になることが多い。心情的には彼らを救ってあげたい、守ってやりたいと思うが、実際には不可能だ。心の問題は彼ら自信でしか解決できない上に、金銭的には俺個人の収入では2~3人程度しか養うことが出来ない。冒険者収入は正直あてにならない。それ以外で2~3人養えると言うのはすごいことかもしれないが、既に雇ってしまっている。一人は大酒飲みドワーフのラパス。酒造り以外にも色々とお願いしている。もう一人は魔法使いを雇っている。

 俺が直接魔法をかければ良いと思われがちだが、冒険中に魔法をかけに戻ることは不可能な為、酒造り等において必須事項となっていた。これ以上の雇用は、現状の収益では無理な為、フェスティナ商会に支払いをお願いし無くてはならない。それに関してはシルヴィアさんは厳しい人だ。新商品でも、既存の商品の製造量拡大にしても、量と質、収益等をある程度見込みの数値を提出し、新商品ならテスト品の提出が必須になる。今の所、商品作成プランは幾つもあるが、それが何人も増やせるほど売り上げにつながるものかは正直わからない。厳しいことを言うようだが、こちらも現状限界なのだ。

 冒険者ギルドや港、畑等にはまだまだ人手が必要なので、そちらで雇い入れることは可能だろう。彼らが盗賊落ちセず、そのような受け皿に上手く乗れることを祈るばかりだ。


 ふと道中の天気を思い出す。珍しいことにすべてが晴れもしくは曇り程度であった。雨に振られると体温を奪われ、足元がぬかるみ、馬車が思うように進まず、体力や気力をそがれる場合がある。そのような事にならなかったのはいいことなのか、それともリーアやレンティにとって楽な依頼で経験しておくべきことだったのか悩む。だが、それだけではなく、現状生産をお願いしているフェスティナ商会懇意の農家の状況も不安になる。農作物生産に関しては、雨は必須である。川から引いた水を撒くには労力と時間がかかり、かなりの重労働になってしまう。雨はその分簡単にしかも大きな地域に水を行き渡らせることができるため、とても助かるものである。そろそろ収穫の時期になるので、違う意味でも不安があった。


 色々な心配事や悩み事をしながら一行は進んでいく。結局この日は特に魔獣に遭遇することもせず、俺やアンドゥハル商会のメンバーが脱落することもせず、平凡な一日が進んだ。


「レーニアが見えてきました」

 ナイアから声が掛かる。ようやくひとつの依頼が終わろうとしている。他の同行メンバーの顔を見てみると、大半が安堵の表情をしていた。ノンナやナイアに関しては特に代わることが無かったが、アンドゥハル商会のメンバーにとってはかなり辛いことだったのだろう。憔悴した顔であるが、少し笑みが含まれていた。リーアやレンティを見てみると、こちらもホッとした表情に変わっていた。お家につくまでが遠足です。というわけではないが、街につき、荷物を渡してようやく依頼達成だ。まあ、街の近くで魔獣の襲撃は少ない上に、ナイアが見ているのだ。奇襲に関しては問題無いだろう。それに、街中で冒険者に喧嘩を売る者などほぼいない。単純に、魔獣に勝てない街の住人が、魔獣を屠る相手に喧嘩を仕掛けることがありえないということである。


「1日だけだが、同行助かった。正直俺達だけでは難しかったかもしれない」

 街に入り、入口付近の広場にて向こうのリーダーであるデイルから声が掛かる。

「夜間歩哨をしていただきましたし、お互い様です」

「そう言ってもらえると助かる。だが、正直言うともう冒険者は難しいかもしれん。アンドゥハル商会にでも雇ってもらうかな」

「そうですか。冒険者が引退するというのは寂しいことです。元気でいてください」

「お前らも頑張れよ。俺達は街級で挫折するが、お前らなら都市級、ひょっとしたら地方級にも慣れるかもしれないな」

「精進します」

「名声が届くことを楽しみにしてるよ」


 お互いに別れ、哨戒の店舗に向けて進む。ギルドカードは見せていないので、この様な会話になった。俺だけは都市級になっているが、他2名は街級、2名は白級という状態である。そのメンバーが街級で固められたパーティーを壊滅させた魔獣を意図も簡単に屠ったと言う事実を告げることがいかに残酷なのかわかっていたためだ。幸せになる嘘と言うのも語弊があるかもしれないが、お互い傷つかない嘘は良いのではないかと思う。


 港近くの一角にある商業区域、フェスティナ商会へと向かう。約3週間ぶりとは言え、少し懐かしい気持ちになる。そこに前触れでもあったのか、見知った人影が見えた。

「フミト、お帰り」

「ただいま、エステファン。シルヴィアさんを怒らせてないかい?」

「それはいつも愛しているから問題ないさっ」

「内容を聞いたらとばっちり受けるな。言うなよ?」

「そんなに聞きたいかい?」

「本気でやめてくれ」

 このバカなやり取り、少し懐かしく感じるのは何故だろうか。ただ、その懐かしく感じている事は出来ず、周りから生暖かい目で見られているのがわかったので、話を変えることにした。

「所でよくわかったな。到着時間までは読めないだろう?」

「ああ、街の入口に用事のある子飼いが教えてくれたよ」

「タイミングの良いことで」

「ほんとだよ?」

 余程のことがない限り、到着する時間はそこまで前後しない。早ければ今日みたいに日の落ちる2刻前くらいには着くことがあるが、大抵が日の落ちる1刻前くらいに到着するのが一般的だ。

 だが、到着前後に合わせて入り口を監視させるような事しそうなのがこの人達である。悪い気はしないが、過保護と言えなくもない。俺の親じゃ無いのにな。

「所でフミト。鎧はどうしたんだい?暑いから脱いだというわけでは無いのだろう?」

 少し気まずい質問をされる。あの鎧はシルヴィアさんとエステファンからプレゼントしてもらった鎧である。そう簡単に壊れる鎧ではないので、ごまかしはきかない。

「グラスクーガーにやられてね、壊れてしまった。また縫い直せば使えるだろうから、持ち帰ってあるよ」

「そうか。大丈夫なのかい?」

「体は大丈夫。血は抜けたけどね」

「そう「フミト!!」・・かい……」

 エステファンの後ろから張りのある、そして怒りをはらんだ声が聞こえた。とうとう、心配していた事が起きてしまった。激怒するシルヴィアさんである……。

 フェスティナ商会の入り口戸に右手には見覚えある木箱があり、こちらを睨んだまま立っていた。

「シルヴィアさん、ただい「こっち来な!」……ま……」

 顎で室内に来ることを要求する。こうなったシルヴィアさんにはもう逆らえない。パーティーメンバーに依頼達成の労いの言葉を掛ける前に呼び出され、メンバーや通行客、従業員の視線が集まる中、刑場に向かうような気持ちで足を動かした。





ゲームで苦労して倒したモンスターが、がっかりドロップだったり10G程度だったりした時の気持ちを込めてみました。


帰村という言葉のイメージにしたかったのですが、帰街と言う言葉がなく、帰住と言うには他のメンバーが住んでいないので結局帰参という少しイメージの離れた表題に……。ボキャブラリーの無さに苦労しています。


2016/01/04 三点リーダ修正

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