うさみみ
うさみみ
アマーリアさんを連れ、冒険者ギルドに着いたのはまだ明るい時間だった。受付嬢にギルドカードを渡し、依頼の説明をするとギルド長が顔を出してきた。
「やあ、フミト君だね?私がアピ冒険者ギルドの長、アーバンだ。よろしく頼むよ」
ギルド長としっかりと握手をする。しかし、この世界に来て見慣れたとは言え、流石に自分の中の常識がこの人の存在に違和感を感じる。だが、この世界では常識であり、何もおかしいことは無い。人間で言うと50歳前後で、オールバックの髪、渋い口ひげを生やしたダンディーな男性。だが、一つ特殊なアイテムいや、特殊な身体的特徴を持っている。うさみみである。このギルド長は獣人族で、その獣人族の種類は兎獣なのだ。バーテンダー風のギルド衣装がよりその兎の耳を際立てる。幾度か見かけていなかったら普通の表情で相対することは出来なかったであろう。
「フミトです。よろしくお願いします」
「そして、その女性が盗賊の住処にいたアマーリアさんだね?」
「アマーリアです。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をしながら挨拶をするアマーリア。第一印象で今後の調査の方法が変わってしまう事を考えてか、かなり丁寧な挨拶をする。
「丁寧にありがとう。貴方は当ギルドで預からせてもらう事になる。そして調査しての後、盗賊との関係がないということがわかれば、開放するということになるだろう」
「はい。それに関してはフミトさんから話を伺っております」
「よろしい」
近くの女性職員にアマーリアさんを連れていくことを支持する。
「フミトさん、助けていただいてありがとうございました。この恩は決して忘れません」
「アマーリアさんも早く元気になってくださいね」
「はい。もう絶望はありませんので大丈夫です、それとこのマントはお返しします。ありがとうございました」
アマーリアさんはお辞儀をすると女性ギルド職員と共に奥へ歩いて行った。
「それで、盗賊の住処はやはりユーベルので間違いなかったのかね?」
「はい。彼女の言葉でしか確認は取れませんでしたが、間違いないと思われます」
「そうか、話を聞いた位置だと魔獣が多くいた気がするのだが」
「すいません。多分その魔獣減らしたの私です」
「ん?どういうことだね?」
「あそこには、そこそこの数のホーンドカペラがいたんですよ。一時期乱獲してしまいまして……」
「ホーンドカペラか。あれに近づく魔獣は少なかったはずだな。強いし乱暴だったからな。なるほど、それがいなくなり、魔獣の空白地域が出来てしまったということか」
「はい、狩り尽くしてはいなかったはずなので、多分ユーベル達が狩り尽くしてしまったのかと」
「ふむ。肉はまずいし筋が酷く硬い、角は多少売れるが、なんといっても毛皮の処理が難しいから誰も手を出さなかった魔獣だからな。その毛皮も7日ほどで色が変わり脆い素材になるというから、倒しても彼らには売ることも出来なかったのであろう」
「そうですね、あの毛皮も結局バロックの爺さん達と私が悪巧みして出来上がったものですし、他の人にあの毛皮を上手く扱えるとも思えないので」
「なんだ、あの毛皮は君だったのか」
ギルド長が驚いた顔でこちらを見る。それもそうだろう。乱暴で強くて有名な魔獣であったホーンドカペラを狩る冒険者などほとんどいなかった上に、毛並みは良いがすぐ崩れる物であったのだ、誰が手を出すのかということだ。しかも、あれだけ高級な商品に化けた毛皮だと言うことも驚きの内容の一つだろう。
「はい。そうなるとあの毛皮は、もう手に入らないと思います」
「どうしてだね?」
「他でホーンドカペラの個体を確認したのはダウラギリ山の高い所で、麓から登るのに3~4日かかる位置にしかいないのです」
「そうなると、麓の町で処理すれば良いのではないかね?」
「一番近い街は河川の街リスィです。麓に行くまでに3日はかかります」
「ギリギリ間に合わないのかね?」
「爺さん達ほど熟練したものがいれば間に合うと思いますが、多分無理でしょう」
「あの方達をこの街から手放すのは惜しい。その前にあの方達は毛皮だけの為に動くことはないだろうな」
「はい。なので、もう手に入らないと」
「なるほどな……。麓に街が作られればいけるかもしれないが、まず特産が無ければ無理だろう」
「毛皮を特産にしても、安定供給出来ないと思いますし、あの爺さん達がタダで技術を教えるとは思えませんので……」
「そうか。妻に買ってあげたいと思ったが、諦めるしか無いだろうな」
「爺さん達の所に処理した毛皮が残っていれば作れるかもしれませんが、期待薄でしょう」
「そうか。他の手を考えることにするよ。それで話を戻すが、他に気づいたことはないかね?」
「宝石を数個と普通のダガー、そして変な言葉の書かれた羊皮紙が1枚くらいでした」
宝石とダガー、羊皮紙を机の上に置く。宝石とダガーをまず鑑定し始めるギルド長だが、
「あまり良い宝石ではないな。透き通ってないし、形も悪い。ダガーは何も特別なことは無いだろう。買い取っても小銀貨1枚程度だろうな」
「それでよろしければお願いできますか」
「わかった。買い取らせてもらおう、それとこの羊皮紙に書かれた文字なのだが『3後末オ』この意味はわかるかね?」
「いえ、全く検討もつきません」
「そうかね。これも頂いて構わないかね?先方に報告しなければならないのでな」
「はい。お願い致します」
そして小金貨10枚とベア分の小金貨1枚を貰いギルドを出る。どうやらこれで依頼完了となった。1日しかやっていないのだが、元々2日分渡しても良いということだったそうだ。ルブリン商会のビルド支店長のしたり顔が目に浮かぶ。明日にでも一度顔を出しておこうか。
各々に小金貨2枚と小銀貨4枚を渡し、宿に戻る。
食事前、ジルフ爺さんの4連敗じゃ!と言う声が聞こえたのはとりあえず無視しておく。
翌日、レーニアに戻る前日、アマーリアさんを開放したナイアを連れ、ルブリン商会へと向かう。
「フミト君、おはよう。そちらの女性はフミト君のパートナーかね?」
「おはようございます、ビルド支店長。彼女は冒険者仲間のナイアです」
一瞬ナイアがびっくりし、顔が赤くなるが、フミトの言葉で呆れた顔になり、自己紹介をするために表情を戻す。
「初めまして、ビルド支店長。冒険者のナイアです。お分かりの通り、ダークエルフでレンジャーを任されています。この度は私達冒険者の支援をして頂き、誠にありがとうございます」
深く一礼するナイア。
「これは丁寧にありがとう。でも、そこまでかしこまらなくても構わないよ。これから長い付き合いになると思うのでね。堅苦しいのはやめにしよう」
「わかりました。できるだけ意識してみます」
「そうかね、よろしく頼むよ」
ビルド支店長とナイアも握手を交わす。ダンディと美女。絵になるなと思ったりしてると話を振られる。
「それで、昨日の件だね?フミト君」
「はい。ユーベル達の住処らしき場所は発見しました。そこで一人の女声を保護し、冒険者ギルドに預けています」
「そう聞いている。彼女の言っていることは本当だと思うかね?」
「情況証拠でしかありませんが、彼女の置かれていた状況を鑑みると、本当だと思われます」
「ナイア君はどう思うかね?」
「私も同意権です。ベッドにロープで足と腕を繋がれ、数日間放置するというのは流石に仲間内では難しいのではないかと思います」
「彼女への罰ということは考えられんかね?」
「それはあるかもしれませんが、オルティガーラで行方不明や無くなった人の調査をすれば一目瞭然になると思います」
「それだけでは説得力に足らんな。オルティガーラの件は彼女が手引したのかもしれないということだよ」
ナイアが黙ってしまうので、俺からも意見を出す。
「情況証拠と彼女からの証言でしかないので、信じるほかありませんが、彼女はオルティガーラから攫われ、荷馬車の奥で外を見れずに連れてこられ、あの住処で現在どこに居るのかもわからず住んでいたようです。そして、一人でぬけ出すにしても土地勘がなく、更には魔獣に対する力も有していないので、生き残ることを考えれば彼らに頼るほか無かったのでしょう。それにトラップが仕掛けられた部屋の中に一人残されるのは罰としてはおかしいと思います」
「女性が居る所でこのようなことを言うのは申し訳ないが、ユーベルに身体を許していたのだろう?それで彼女が既にユーベルに陥落しているということはありえんのかね?」
「ユーベル以外には体を許さなかったと言うより、ユーベルが他の男性からの行為を許さなかったので、その点に関しては難しいと思います。ですが、体を許したという告白と、彼女の真剣な目と、私に対しての告白後、メンバーに体を預け眠ってしまったことを考えると、惚れてしまった事は無いと思われます」
「商売をしている女性なら全く問題ないのではないかね?」
「商売をしている女性なら、より陥落はありえないでしょう。彼女らと話す機会がありましたが、決して心までは許すことは無いと実感できました」
「そうかもな……。わかった。彼女のことは前向きに考えて見ることにしよう。関係がわからない以上処罰はとりあえず現状禁固1周間といったところになっている。ギルドの上級牢で無料宿泊といった所だな。その後どうするかは冒険者ギルドと話してみることにするよ」
「わかりました。彼女が一味では無いのにひどい処罰であれば、私達も少し気が重くなってしまうところでした」
「まあ、彼らには相応の恨みがあるからな。八つ当たりしたようですまなかった」
「いえ、お気持ちは分かりますし、私も助けた側でなければ同じようにしたと思います」
ルブリン商会を後にし、アマーリアさんの動向が悪くない方向に進んでいることになり、胸をなでおろす。これから彼女は一人で生きていかなければならない事を考えると、それだけでも辛いはずなのに、これ以上罰を受けることは忍びない。だが、頭の良い女性だ。たくましく生きていくことができるだろう。盗賊団が攫っていく程なのだから、心身共に健康になれば綺麗な容姿になるだろうと思える。過去に何があろうと問題ないという男性も結構居る。そうなれば引く手あまたになるだろう。と考えている所、隣を歩いているナイアが妙に不機嫌になっている。
「ナイア、どうした?先ほどの条件が不服だったのか?」
「いえ、あれ以上の好条件は多分現状無理だと思います。これ以上何か加えると逆に罰が重くなってしまうかもしれないので、ちょうど良いと思っています」
アマーリアさんの罰に対して、好評化な事を口にする。なら何故不機嫌になっているのだろうか?
「あれか?ベアを俺が一撃で倒してしまったからか?」
「それは問題ありません。多少もう少し試してみたかったのはありますが、気にするほどではありません」
何故だ?何が彼女を不機嫌にさせてるのか?
「ジルフ爺さんに何かされたのか?」
「お爺さんは何もしていませんよ?」
少しずつ更に不機嫌になっていくように思える。何故だ?何が問題なんだ?
「ノンナの馬の事か?」
「あれは別にいいと思っています。リーアさんの成長も見込めますし、本来一箇所で固まっている様な性格では無いので、攻撃職があっていると常日頃思っていました。問題ないと思っています。多少金銭では気になりましたが、フミトさんのおかげで気にならないくらいになりましたし」
理由がわからない。他に何があったのだろうか?ナイアに再開してからの今回の約1周間を思い出すのだが、問題になりそうな点は今くらいだと思う。ノンナに対して怒っているのは普段のことなので、今の不機嫌とは全く関係ないだろう。リーアやレンティに対して怒ることはまず無いと思う。彼女の性格だから、出口までの道を指し示し、諭す方を選ぶだろう。ジルフ爺さんに対してはあまり気にしてないのは本当だろう。触られ慣れたというほど触られたとは聞いていないし、爺さんも直接触る事はそういえばナイアに対してはしていない。
「すまない、ナイアが不機嫌になっている理由が思い当たらない……、教えてもらえないだろうか?」
この際素直に聞いてみることにした。少し考えた程度じゃ俺には気が付けないのだろう。素直に聞いてみて答えが分かり次第、対応することを考えナイアに質問する。
だが、ナイアは「何故わからないの?」と言いたげな表情で、固まっていた。
少しの沈黙の後、ナイアは口を開いてくれた。
「ほんとにわからないのですか?」
「ああ、済まないがわからないんだ」
呆れ返った表情から、また不機嫌な表情に戻り、返答してくれた。
「商売女とはどこで何をしたのですか?」
「へ?」
何を言っているんだろう?商売の女性?なんでそんな話が出てくる?
「だから、商売をしている女性と何をしたんですか?」
少し強めの口調に変わり、攻めてくる。
「いやいや、特になにもないよ?ただ話しただけだよ?」
何かあれば童貞を名乗れなくなる。いや、それは良い事なんだが、積算童貞歴50年。正直軽々しく捨てられない様な気にもなっている。多分、これだから童貞は、とでも言いたくなるような事を言われるかもしれないが、やはり初めてには夢を見てしまっているのだ。あの様な死に方で、女性に対して絶望を知る事になったのに、良く女性恐怖症になっていないなと自分でも思う。
「男性の常套句ですよ?その言葉は」
「いや、ほんとになにもないよ!」
うん。おっぱい触らせてもらっただけだもん。いや、触れちゃっただけだもん。完全に不可抗力だもん……。
「その顔は嘘をついていますね。何かあったんですね」
「いやいやいやいや!ナイナイナイ!」
「信じられませんね!」
そっぽ向いてしまうナイア。まずい!なんとかしないと!
商業と快楽の街グランサッソに居る娼婦数人をアイガーに居る貴族に送り届ける任務がなんでこれだけ苦しまなければならないのだ……。しかもその貴族は1人の男性貴族対複数の娼婦だったんだぞ?男の夢だぞ?ハーレムだぞ?羨ましいと思わないか?
理不尽な怒りが沸き起こるが、少なくとも後1周間ともに旅をする仲間だ、ここで関係が悪化するのは非情にまずい。
この後、お昼を少し高めの店でおごり、説得するのに1刻ほど必要とした。
説得続ける俺といつまでも不機嫌なナイア。
端から見たら痴情に縺れた男女と言う図柄だっただろう。
戦闘シーンとかはスラスラかけるのですが、対人の舌戦は上手くかけないものですね。悩ましいことです。辻褄があわない部分がありましたら、ご連絡いただけると幸いです。
2016/01/04 三点リーダ修正




