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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
22/83

奴隷婦

奴隷婦


 裏の井戸まで向かうと助けた女性の地面に座り込みゆっくりと固いパンをスープに浸して食べている姿が見えた。火を沸かし、温かいスープにしたのは洗って体が冷えてしまうというのもあるが、体内からの熱は気力の回復にも役立つからだ。

「このまま昼食にする。一応ノンナ、レンティの二人は歩哨をしてくれ。食事が終わり次第交代する」

「はい、わかりました」


 いつもの固いパンとスープ、スープの野菜はみじん切りになっており、彼女への配慮だろう。そして、干し肉の食事を手早く終え、二人と交代する。家の表側に『サーチ』魔法をかけ置いておく。家の外見を再度一周周り確認するが、窓は無く、ドアが2枚だけ。内部は土床であったため、地下室も無いだろう。天井もむき出しであったので、そこに隠れることはまず無理だ。以上のことで盗賊は10人もしくは残った盗賊は逃亡したと判断できる。後は協力者がこの場所に近づくことを警戒するだけかと思われる。


 四半刻後、リーアとナイアに彼女を任せ、再度建物の調査に向かうが、少ない部屋であり、ゴミに近い物ばかり散乱していたので、調べるものも特に無かった。結局アロートラップに使われていたクロスボウを一つ戦利品として見つけた以外何もなかった。


 調査を終え、ナイア達の様子を見に戻ると、女性の焦点がはっきりし、会話もできるくらいに回復したようだ。


「初めまして、私は冒険者のフミトです。お名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 かすれた声でその女性は返答する。

「私はアマーリアです。国境の町オルティガーラに住んでいました」

「アマーリアさんですね。貴方はここで何をしていたのでしょうか?」

 ただでさえ白く衰弱している顔が、青くなり答える。

「ユーベル様の夜のお世話をさせていただいていました」

 レンティとナイアが顔をしかめる。予想通り奴隷のような扱いであったようだ。

「申し訳ございませんでした。改めて紹介します。私は冒険者です。あの盗賊団とは関係ありませんので、ご安心ください。それと先程の質問は貴方の尊厳を犯してしまう質問でした。申し訳ございません」

 少し顔色が良くなり、彼女から力が抜けるのを感じる。

「そうですか。私は助かった、でよろしいのでしょうか?」

「そうですね、少し辛辣な言い方になりますが、貴方が盗賊団の一味で無いとしたらですが」

 まずあのような状況で盗賊団の一味である可能性はかなり低い。だが、念を入れて質問しなければならない。

「そうですね、ユーベルに様とつけてしまったのと、隠れ家に居るということで完全な信用は難しいというのはわかります。ですが、私は自己を証明しなければなりませんのであえて言います。私はユーベルに攫われ、ここに連れてこられ、性の処理をさせられていました」

 強くて頭の良い女性だ。辛い思いもたくさんあったであろう事を自分の口から言わなくてはならない。盗賊との関係を証明する術は自分の口や記憶しかない。それに気づき答える事ができるのは頭の良さと気の強さだろう。

「わかりました。質問を続けさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「私でわかることであれば何なりと」

 彼女の顔つきが変わり、真剣な表情になる。

「この住処にいた盗賊は全部で何人になりますか?」

「10人だと思います。私は基本ユーベル達がいた時は、あの部屋より出ることが出来なかったのですが、ユーベルが多分外部の人だと思いますけど、その人と打ち合わせする時だけ部屋から出ることが出来ました。その時は他の人の慰みものになっていました。下はユーベル専用となっていたようで、基本手での対応をしていました。その時数えたのが確か9人です」

 ひどい扱いを受けていたようだが、ユーベルの独占欲が強かったようで、身体の衰えはあるだろうが、傷が少なかった理由がわかった。もっとひどい状況を想像していたので、正直少し安堵している。

 こちらから盗賊団が10人だと言う情報は与えていないので、10人が全員であることは確定しても良さそうだ。だが、外部の人というのが気になる。インサニティ商会か?

「その外部の人と言うのはどのような人かわかりますか?」

「すいません。全身マントで隠してあり、フードも深くかぶっていたので特徴をつかめませんでした」

「そうですか。彼らは普通の盗賊でしょうか?」

「わかりません。ただ、普通の盗賊とは思えない点が幾つかあります」

「普通とは思えない?」

「はい、ユーベル達が旅から戻って来て、何日かするとすぐその外部の人が来て打ち合わせに入るのです」

「そうですか、他に気づいた点はありますか?」

「ユーベルの言葉遣いをその打ち合わせに入った時少しだけ聞こえたのですが、丁寧な言葉遣いをしていました。単なる盗賊では丁寧な言葉づかいはしないと思います」

 貴族の出世レース等から追い落とされた人や、謀略によって盗賊に落ちた人等が居るために、この情報は確定では無いと思う。だが、定期的な打ち合わせはかなり気になる点ではある。

「他に気づいたことはありますか?」

「すいません、これ以上は気づいたことはありません」

「ありがとうございます。では質問を続けさせていただきます。貴方はどのようにしてここに連れてこられましたか?」

「オルティガーラの街外れの農場を私の家族が営んでいました。そこに彼らが襲って来て私以外、皆殺されてしまいました。その後盗賊たちの荷馬車の奥で買い殺され、20日はかかっていないと思いますが、ここに連れてこられました。多分2年位前になると思います」

「わかりました。貴方は盗賊団との関わりあいが無いと判断された場合、故郷に戻りたいと思いますか?」

「婚約者がいましたが、この体ではもう戻れません。家族もいませんし、どこか置いて頂ける所を探したいと思います」

「その婚約者に伝言などはありますか?知人を通して探し出せるかもしれません」

 一瞬、彼女の顔から輝きが戻るが、すぐ諦めた顔になり、

「いえ、もう死んだことになっているでしょう。彼も新しい婚約者もできているでしょうし、家族の農場も売り払われてしまったと思います。余計な波風は立てたくありません」

「わかりました。知人に連絡は取ることは現状やめておくことにします。今後連絡を取らなければならないことがあるかもしれませんので、この様な言い方になってしまうのは承知してください」

「はい」

「最後にキツイことを聞きますが、貴方は何故生きていたのですか?」

「ユーベル達は旅に出ると1ヶ月位は戻ってきません。その間この住処は自由に出来たのですが、満足行く食料は残してもらえませんでした。かと言ってここがどこなのかも見当がついていません。少ない食料で少しづつ生きながらえてきました。性の処理をするのはユーベル達がいた時だけですので、一人で心細い方が多かったと思います。今回はすぐ戻ってくるということで、ロープに繋がれていたままでしたので、何も食べることが出来ず、飲むことも出来ず死を待つことしか出来ませんでした。なので、何故生きていたのかという問に対しては、心の何処かで助かるかもしれないという希望があったからだと思います」

「わかりました。以上で質問を終わります」

「私は盗賊団との繋がりが無いと判断して頂けたのでしょうか?」

 切実な顔をしてこちらを覗きこむアマーリア。

「すいません、今の段階ではなんとも言えません。ただ、街へ連れて行っても問題ないとは判断しました。一度冒険者ギルドが貴方を預かることになりますので、そこからの判断になると思います」

「そうですか……、でも少しは信用していただいたのですね?」

「私個人としては……ですが」

「それでも信用していただいてありがとうございます」

「いえ、どこまでお力になれるかわかりませんので。少しの休憩の後に2刻ほど森の中を進みますが、歩けますか?」

「すいません、そこまでは無理だと思います……」

「わかりました。ノンナ、シザーリオに乗せてあげて、ノンナがいれば大丈夫でしょ?」

「はーい。私がいなくても大丈夫だと思うけどね」

 たまたま近くに来たノンナに声をかける。シザーリオはやはり賢い馬のようだ。


 リーアにアマーリアを任せ、ナイアを連れて家の反対側に向かう。

「ナイア、街道まではどの位で出られそうか?」

「半刻はかかると思います。そこから1刻ほどで街に辿り着けそうなので、街道に出るのが良いと思います」

「わかった。それならナイアの指示に従おう」

「彼女は本当のことを言っていると思うかい?」

「多分本当でしょう、少し元気になったのは開放されるかもしれないという希望と空元気だと思います。それと信頼してもらえないと連れて行ってもらうことも出来ないという恐怖心が彼女を奮い立たせたのだと思います」

「そうか、ありがとう。ここの所、俺の判断間違えてばかりだから少し自信を無くしててね、助かるよ、ナイア」

「いえ、とんでもないです。いつも助けていただいてありがとうございます」

 頬と耳が少し赤くなっている。褒められ慣れて無いのだろうか?少し微笑んだ顔が可愛く見える。

「こちら側は『サーチ』使っているから皆の所に戻ろう。少し休憩したら街に戻る」

「はい、わかりました」


 戻るとアマーリアはもう限界だったようだ。リーアに身体を預け横になっている。

「アマーリアさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。少し休ませていただきました」

 起き上がろうとするアマーリアを止める。

「まだそのまま寝ていてください。もう少し休憩しますので、安心してください」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして。リーアさんもう少しお願いできますか?」

「わかりました」

 ひざまくらを続けるリーア。2年もまともな生活が出来ない上に、最後の拘束による絶望が原因か、身体が生きることを拒否し始めていたのだろう。だが、もう彼女には生きるための火が点いた。後は肉体と精神の休息だけだろう。考えている内にアマーリアさんから寝息が聞こえ始めた。まだ昼過ぎであるが、最悪盗賊団に関与している者が来ないとも限らない。あとすこし休憩したら街へ帰らなければならない。だが、その少しの休憩でも深くしっかりと取ってもらうために、自分のマントを彼女にかけてあげた。


 いや、男性の服を着てるから胸元が見えそうだからというわけじゃ無いよ?ほんとだよ?


 四半刻後彼女を起こし、街へ帰るために行動を移す。

 来る時とあまり変わらず先頭をリーアとナイア。2列目をレンティとノンナ。2列目の真ん中にシザーリオに乗ったアマーリアさんが居るのが違う点だ。


 ナイアの支持に従い、街道へと向かう。来る時とは違う道のため、罠が仕掛けられているかもしれないので注意深く進む。だが、ナイアの予想より四半刻早く街道に出ることが出来た。どうやら獣道の様なものがあり、それに沿って街道に向かった所、罠も無く進めたとの事だ。盗賊団が普段から利用していた獣道なのだろう。街道から入る場所はナイアが覚えておいてもらえるだろうが、ギルドへの報告するために、いま出たところと反対側の木に目印をつけ、街へと目指す。


 アマーリアさんが馬上でもかなり披露しているようなので、少しずつ休憩をはさみながら進み、1刻が過ぎた辺りで魔獣と遭遇した。


「進行方向やや右、魔獣1、ベアです。接敵5分」

「リーア、盾頼む、あとナイアと俺が行く。レンティとノンナはアマーリアさんの護衛よろしく」

「はーい」

「わかりました」


「ナイア武器はどうする?俺はカタナを試してみる」

「そうですね、私も試してみようと思います」

「私はもうフミトさんの剣にしています。ぶっつけ本番ですね」

 カタナを抜きつつ前進し、3人の凸陣形を組む。

 ベアは単体で行動することが多い魔獣だ。力が強いので一発が痛い、だが、大振りが多いので避けやすい。相手の攻撃を上手く避けることで簡単に攻撃が可能となる。


 接敵し、リーアがベアの右からの一撃をバックステップで避け、すぐ一歩前に進み突きを放つ。ベアの右肩に突き刺さり、ベアがうめき声を上げ一歩下がる。合わせて俺とナイア攻撃を仕掛ける。ナイアは突きを脇腹に放ち、俺は一気に踏み込み、首元へカタナを振り下ろす。

 綺麗にカタナが入り、一撃で首を撃ち落とし、ベアは絶命した。


「綺麗に切れたな。これすごい武器だ」

「そうですね、私の突きも抵抗なくスッと入りましたよ」

「フミトさんの鋼で作った長剣も良かったです。いつもの剣より刺さった後曲がる様な感覚がありませんでした」

 思ったより良い武器に仕上がっているのでかなり嬉しくなった。

「金貨20枚の価値はあったな。刃こぼれもどうやら無いみたいだ」

「こちらのカタナも刃こぼれありません」

「私も大丈夫でした」

 日本刀は首を切り落とす時に骨に当たるから、普通は刃こぼれするらしいのだが、こちらの世界の物質は多少違うのかもしれないな。


 斜面の下に首を向け血抜きをする。その間にノンナ達と合流し、休憩に入る。

「フミトさんのカタナすごいね~!見せてもらって良い?」

 背中に背負っているカタナを鞘から抜き、ノンナに柄を向け渡す。

「おー!なんかわからないけど、これすごい!ほしい!」

「金貨5枚以上だよ」

「え?5枚?そんなにするの?これ?!」

「新金属で未発表な上に、この武器も新武器で特別な製造方法だから金貨10枚になるかもね?」

 金貨10枚はわからないが、爺さん達で無ければ金貨10枚は妥当な金額だろう。

「そんな武器を使っているのですか……?!」

 アマーリアさんも会話に混ざる。馬の上とは言え疲れているだろうが、流石に金額で驚いたようだ。

「特殊な作り方で作った武器ですからね、流石に研究開発費を考えればこのくらいはかかると思います」

「そうなんですか……」

「多分誰でも使える武器じゃ無いですね。身体の運用とかだいぶ違うから、普通の長剣と同じ使い方だと多分折れはしないけど、大差無いかもしれないですね」

「え?そうなの?ナイアちゃんも持ってるけど、ちゃんと使えるの?」

「まだ正直わかりません。色々と試すつもりでしたがフミトさんが倒してしまいましたので」

「ごめん……一撃で終わるとは思わなかったんだ……」

 腕を切ればよかったと思ってはいたが、いい具合に首筋が見えたので思わず手が出てしまったのだ。

「でも、なんとなくフミトさんの見てわかってきましたので、次は問題ないと思います」

「そう?ごめんね?」

「いえ、大丈夫です」


 四半刻後、ベアの内蔵を取り出し、体を4分割にし、持ち帰ることにする。シザーリオが少し嫌な顔をしていたが、我慢してもらおう。


 その後、特に魔獣に襲われること無くアピまで帰ることが出来た。そのまま冒険者ギルドへ顔を出すために向かうことにする。




質問や追い詰める様にしなければならない所はどうも苦手ですね。言い回しも変ですし。そのうちもう少し良い言い回しが見つかったら修正するかもしれません。


2016/01/04 三点リーダ修正

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