表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
21/83

蠢く者

蠢く者


 翌日フミト達は襲ってきた盗賊の隠れ家を探しに早朝から出発していた。エリアは大きく分けて街道のダウラギリ山側とその反対側。深い森では無いのでナイアがいれば1日ずつで発見できるだろうとの考えにおいて実行に移した。基本森の中を歩くことになるので、ノンナはシザーリオに乗らず、革紐を無口に通し、引いて歩いている。槍も無いので、正直今は荷物持ちとしての馬である。軍用馬の利用としては贅沢な使い方ではあるが、その為に他の馬を借りる方が高く付くので、しかたがないだろう。

「歩きづらいよー」

「それもそうでしょう。森の中ですからね」

「ナイアはそんなに苦労無いんじゃないの?」

「そうですね、生まれた森とは違いますが、私としては気持よく歩くことができています」

「やっぱりエルフさんは違うんですね」

「……少し羨ましいです」


 一人を除き全員人間族なので、森より平地の方が得意である為、多少疲労感がたまりやすいようだ。ノンナは元気娘なので放っておくとして、リーアは初の最前列で消耗しているみたいだし、レンティは元々体力少なめなので結構辛いのだろう、短槍を杖代わりにして歩いている。一刻以上捜索し、短い休憩をした後ではあるが、半刻毎に休憩を入れるべきかもしれない。


 そう思った時、

「はわっ!」

 リーアが声を上げ転ぶ。


 一瞬攻撃かと思い、背負っていたカタナを抜き身構え、辺りを確認するが、特に動く気配はない。

「ナイア、何かいたか?」

「いえ、私にもわかりません」

「レンティ、ノンナ、周囲を確認。ナイア、リーアを助けてやってくれ」

 警戒しながらリーアに近づく。

「すいません、ただ転んだだけです」

 恥ずかしそうに頭をかくリーア。だが、その足元を見ると転んだ理由がわかった。


「スネアトラップだな。リーア、ブーツを脱いで怪我が無いか確認してみてくれ、万が一もあり得る」

 スネアトラップとは、一番簡単なものは草と草を結び合わせるものだ。足が入るくらいの穴を地面に開けておくのもスネアトラップである。だが、今回のスネアトラップは樹木に少し太めの木を括りつけたものになっていた。スネアトラップは単体では特に殺傷力等は低いのであまり気にしないことが多いが、複数のトラップと掛け合わせることによって効果が絶大になったりする。草のトラップの先に落とし穴や、穴タイプのトラップの中に毒虫を満載する等。今回の木に括りつけたタイプは先端に毒針を仕込んでおくこともあるので、ブーツを脱いで確認と言うのはしかるべき対応である。


「特に何もないです。捻挫や何かの痛みも無く、問題ありませんでした」

「それなら良かった。ナイア、トラップがあるということはやはりこの辺りに何かあるな?」

「そうだと思います。これから進行速度を少し遅くして注意していきます。リーアさん、足元も注意してくださいね」

「はい、ご迷惑おかけしました」

「いや、これから覚えていけばいいよ。こういうトラップは養成所じゃ教わらないでしょ?」

「さわりの知識だけなら習いました。実際に引っかかってみると全く気づきませんでしたし、別物ですね」

「森の中は頭の上も足元も注意しなければならない。更に敵襲があるかもしれないので、全方位にも注意が必要になる。索敵範囲の広いレンジャーがいないと結構難しいことではあるんだ。俺達にはナイアがいるから簡単に進んで入るけどね」

「そうなんですか、ナイアさんありがとうございます」

「お礼は依頼を達成してからね」

「はい」


 幾つかのスネアトラップやシュート(落とし穴)トラップを避け、四半刻後一軒の小屋が見えてきた。これだけのトラップの中に作られた小屋であるので、ここが盗賊の隠れ家だと考えられる。突入前に休憩をするために声をかけようとした時、リーアから悲鳴が聞こえた。


「ひゃぁぁ!」


 目の前に逆さになったリーアの顔があり、クルクルゆっくり回っている。トラップワイヤーに引っかかったようだ。

 トラップワイヤーとは、主に足元に輪をロープで作り、トラップにかかった人や動物を跳ね上げるトラップである。

「たぁすけてくださーい……」

 こういう役はノンナの役だと思ったんだけどなー……。今日だけで2回も引っかかっている。少し呆れながらナイアに指示する。

「ナイア、リーアを抑えておくから上のロープ切ってくれる?」

「わかりました」


 リーアの両肩を抑えつつナイアがロープを切る。肩を軸にして足から落ちるリーア。勢い余ってお尻を地面にぶつけて転がってしまう。

「……いたーい……」

 お尻を擦りつつゆっくりと立ち上がり、姿勢を正しおじぎをする。

「すいませんでした。それとありがとうございます」

「うん。気をつけよう……」

 少し呆れてしまったのでうまく言葉が出なかった。


「小休止は無しで行くよ。トラップ周りに多かったから突入時気をつけて」

「窓はなさそうなので、扉から入るしかありませんね」

「そうだな、音に注意しながら突入することにしよう」

「はい」

 小さい声ですいませんと聞こえるが、とりあえず放っておく。


 丸太小屋であり、周りに切り株が多数見える。ここで切り倒して作ったとすれば思ったより時間をかけて作った可能性がある。外見は新しいとはいえないので、数年は使用していた様に思える。ノンナを建物の裏に向かわせ、ナイアと俺がドアの横にある壁に近づき聞き耳を立てる。俺の耳には何も音が聞こえないので、ナイアを見るが、ナイアも首を横に振っている。なので、ドアを開けてもらう指示を出したのだが、ここでリーアが内向きドアのノブに手をかけそのまま入ろうとする。慌ててリーアの身体を抱きしめドアから飛び退く。


 ドンッ!


 小屋の内側で何かが落ちる音が聞こえる。木で作られた桶のようだ。いわゆるバケツトラップだ。

 バケツトラップは、某コントなどで利用されるタライトラップと同等で、頭部に攻撃を与えるのがイメージではあるが、実はそんなに生易しいものではない。迷宮内などで松明を利用して行動している時にオイルの入ったバケツトラップに引っかかると火達磨になってしまう事や、毒薬、スライム等が入っていることがある。

 リーアの無事を確認し、落ちた桶を確認すると、緑色した液状の物体がうごめいているのがわかる。グリーンスライムだ。

 この世界のスライムは某ゲームみたいに易しい初心者向けのモンスターではない。魔法生物で、魔生種とカテゴリー分けされるものだ。特徴としてはまず武器による物理攻撃が効かない。腐肉を好み、体内で溶かしていく。木の桶で保管されていることを考えると、金属腐食系もあるだろう。頭からかぶると火で燃やす以外取り外すことが出来ない魔物だ。

「リーア、大丈夫か?建物にはこの様なトラップがある。他にも弓が仕掛けてあることもあるから、そのまま入ってはダメだ」

「はい……何度もすいません……」

 かなり凹んでしまったようだ。

「意気消沈はまだ早い、気を持ち直せ。調査はまだ終わっていないし、まだトラップはあるはずだ。これで学んで慎重になればいい」

「はい……」

「さて、スライムだが、レンティ、外に出すからお願いできるか?」

「はい、わかりました。火でよろしいですよね?」

「ああ、火系でやってくれ」


 外に落ちていた薪等を利用しスライムを外に掻き出す。スライムのついた薪は増殖することもあるので、一緒に燃やしてもらう。

『ファイア』

 スライムに突き刺した薪が燃え始め、スライムの水分を徐々に蒸発させ、スライムの残った粒子のようなものも燃やしていく。5分ほどで燃やし尽くし、灰だけになった。


 オイル系のスライムと言うのもあるので、安易に火をつけていいかというとそうではない。金属腐食系とオイル系では相性が悪いので火が弱点となる事が多いが、オイル系のスライムに火をつけると大爆発することがあるので注意しなければならない。


 建物入口を注意深く観察し、他にトラップが無いことを確認し室内に入る。室内は大きなテーブルが一つ、椅子が10脚あった。希望的観測でしか無いが、先日の10人で全員の可能性が出てきた。奥に3部屋あり、右側の部屋、奥の部屋、左奥の部屋となっている。まず右側の部屋のドアを蹴り開け壁に隠れる。矢が飛んで来ることが無いことを確認し、中を覗いてみる。2段ベッドが2個あり、物が散乱していた。ここの調査をレンティにお願いし、奥の部屋へと向かう。同じ様にドアを蹴り開け、壁に隠れる。どうやらここもトラップが無いようだ。ここは奥にドアがあり、そのドアから90度右にドアがあった。まず、右側のドアを蹴り開け、壁に隠れる。ここもトラップは無いようだ。中を覗くと最初の右側の部屋と同形の2段ベッドが3個あり、物が散乱していた。リーアにここの調査をお願いし、この部屋の外にあるに注目する。引き戸になっていた。ドアの周囲を注意深く確認しながら引いて開ける。ドアを開けると外に出てしまった。裏口を見てもらっていたノンナがこちらを見ている。

「ノンナ、誰かいたか?」

「いなかったですよ?」

 普段はここから出入りしていたのかもしれない。扉の木枠がかなり削れている。ノンナにも聞いたが、外に盗賊が隠れている様子もないので、最後の左奥の部屋へと向かい、同じように蹴り開け壁に隠れる。


 ダンッ!


 ここにはアロートラップが仕掛けられていたようだ。向かいの壁に矢が突き刺さり、刺さった壁が変色している。どうやら毒矢のようだ。用心していてよかったと思う。

 慎重に入り口のトラップを確認し、問題ないと判断し室内に入る。

 まずアンモニアの臭いが鼻につく、視界には大きな机とダブルベッド。そのダブルベッドの下には足と腕を繋がれた女性が座り込んでいた。座り込んでいる辺りには水が染み込んだ跡がある。

「ナイア!来てくれ!あと、リーアも!ノンナと調査を交代してこっちに来てくれ!」


 ナイアとリーアが駆けつけ、中の女性を見ると絶句していた。彼女は意識がもうろうとしてこちらを見ているが焦点があっていないのがわかる。誰が入ってきたのかさえ理解していないだろう。

 基本この国には奴隷がいない。奴隷程度で街間の安全を守れるわけではないのと、金銭的に厳しくて奴隷になるのなら、冒険者になり一発逆転を狙うことが多い為だ。国自体で奴隷禁止にしているわけではないが、奴隷を使役していると嫌悪される対象になるため、貴族層ほど奴隷を嫌っている傾向がある。

 もし冒険者になれない人でも冒険者ギルドや商会、農場等がいつでも人員を必要としているので、奴隷にまで落ちる人がほぼいないのである。犯罪奴隷と言うのはあるが、基本的に国有事業の土木工事系に充てがわれる事が多い。それに、性的な行為に関しては認められていないため、あからさまにこの女性の待遇がおかしいというのが一目でわかる。

「ナイア、リーア、裏に井戸がある。身体を洗って食事を食べさせてくれ。ある程度意識がはっきりし、言葉が話せるようならここで話を聞く。駄目なようならシザーリオに載せてアピまで送って、回復してから話を聞く」

「はい、わかりました」


 気を取り直して机を確認する。ナイフを取り出し、引き出しをナイフで開ける。全部の引き出しを同じように開けるが特にトラップは無かった。中に入っている書類は殆ど無く、ダガーや少ない宝石、砥石等が入っていた。その中で1枚だけ羊皮紙があり、内容を確認する。


『3後末オ』


 これだけ書かれていた。何かの暗号だろうが、この情報だけでは全く意味がわからない。インサニティ商会との繋がりがあると思われたが、正直わからなかった。だが、物的証拠になると思い、すべて持ち帰ることにする。


 机の他には隠し扉等があるわけでもなく、宝箱的な物も無い。中継地点なのか、一時休憩所の様なところなのだろう。魔獣に襲われる可能性があるのにこの様な所に居るのはよほど腕に自信があるのだろう。

 部屋を出ようとすると鳥かごが足元に転がっていた。中には何もいなかったが。


 部屋を出ると、レンティとノンナが大きなテーブルにめぼしい物を並べていた。ダガーや服、革のブーツ位だ。この部屋に一つ箱があったが、中身は調味料と粉、多分小麦粉だろう、くらいしか入っていなかった。

 ナイアとリーアの所に行こうとしたが、身体を洗っている可能性があるのでレンティとノンナに各部屋の状況を確認する。

 二人とも、これ以外は特に何もなかったか?

「右の部屋には薄い毛布4枚だったよ。それ以外には着替えかな?数着の服だけ」

「奥の部屋はダガーと革のブーツがありました。同じく毛布が6枚ありました。数着の服のほかは何もありませんでした」

「そうか。見つけた女性の状態を見てきてくれ。身体を洗い終わっていたら見つけた服を着せてくれ。大きいかもしれないが、彼女の着ていた服をまた着せるのは忍びない」

「はーい、行ってくる」


 ノンナが行くのを見届けてから椅子に座り考える。ここは盗賊の隠れ家で良かったのか?彼女は誰なのか。そして先ほど見つけた羊皮紙。単なるメモ書きということもあり得るので、考えすぎるのも問題だろう。考えていた所でリーアから声が掛かる。


「先程はありがとうございました。おかげで命拾いをしました」

 スライムの件だろう。あれは単純な罠だが殺傷力が高い罠である。この国の冒険者は基本魔獣と闘うことが多いのであまりこの様な調査作業には向かない人もいる。ただ知識がないだけという人が多いのもその理由だ。

「いや、先に言っておくべきだったよ。この様なトラップがあると。多分俺達が入ってきた扉はダミーで、本来は奥の扉から出入りしていたのだろう。塵や埃がドアに溜まっていたのでまずそこで気づくべきだった。この前からミスが多いな。俺は。」

「いえ、私が無知なだけです。もっと色々と教えていただいて足手まといにならないようになります!」

「ああ、頼むよ。今日はスネアトラップとワイヤートラップ、後はバケツトラップとアロートラップを覚えたことだ。基本これとシュートのトラップ等を組み合わせることが多い。ま、室内で闘うことや調査等はほとんどないだろうけど、安全に開く扉は探査先では無いと思ったほうが良いよ」

「はい。わかりました」


 この様な会話をしている所に声がかかる。どうやら女性の身体を洗い終え、着替えも済んだようだ。





今のところスライムさんでの○○な事は考えておりません。需要が多いようでしたら考えるつもりですが、安易に入れるつもりはありません。ご了承ください。


2016/01/04 三点リーダ修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ