指名依頼
指名依頼
翌日俺とレンティは、フェスティナ商会で金貨22枚を受け取り、爺さん達のバロックへと向かう。今日は自由行動にしたので、俺とレンティだけだ。
「エイブラムス爺さん、レンティの槍できてるか?」
「おう、マイセン!レンティ嬢ちゃんの短槍終わっとるよな?」
「今持って行くぞい」
穂先まで含めて150cmほどの槍を持ってきた。レンティの背と同じくらいだ。
「レンティ、振ってみな。感触を確かめてみるんだ」
「はい」
レンティは昨日と同じように槍を振ってみる。体のブレは昨日も少しあったが、慣れていけば問題ないくらいだと思えた。
「問題なさそうじゃな。後は鍛錬すれば使えいるようになるじゃろ」
「そうだね、後は練習用の武器はいける?」
「おう、それも出来てるぞい」
「助かる。一緒にもらっていくよ。エイブラムス爺さん全額今日支払っていくよ」
袋から金貨22枚を取り出し、エイブラムス爺さんに渡す。
「ちょうどじゃな。他は何か作ったりしないのか?」
「そうだね、俺に扱えるかわからないけど、手甲を作ってもらおうかな?」
「手甲とは防具か?」
「そうだね、ガントレットより軽くて手の甲と腕の一部を鋼で守る物かな」
「軽くて良いのか?そうなると薄くなるんじゃが」
「確か盾みたく受ける防具じゃなくて、武器を逸らす防具だったはずだから厚い鋼より取り扱い重視かな」
「ふむ、わかった。適当にやってみよう。しかし、売れないじゃろ?」
「そうだね……。対人防具だからね……」
魔獣の攻撃は人間の攻撃より圧力がすごいため、正直片手一本で攻撃を逸らすことなど到底無理だろう。ただ単に憧れている程度で作るから、やっぱり道楽だな。羊皮紙に簡単な絵を書き渡す。
「いつまでに作るんじゃ?」
「いつでも良いよ。すぐ貰っても使いこなせないだろうしね」
「わかった。気が向いたら作ることにする」
「ちなみに、カタナはまた作るとしたら一本の金額はどのくらいになる?」
「ふむ、鋼抜きで金貨5枚がいいところじゃな」
「あら、やっぱりそのくらいかかるか」
「また作るか?お前さんの鋼でまだまだ作れそうじゃぞ?」
「60cmのヤツ二本作っておいて、刀身が太いやつ。それと今回作ったやつ。使うか全くわかんないけど」
「わかった。こっちも適当に作っておく。気が向いたら取りに来い」
「あいよ。ノンナの馬具と槍、よろしく」
「任せておけ、綺麗に仕上げてやる」
「楽しみにしておくよ」
レンティと昼食を済ませ、宿に戻ってみると宿の隣にある修練所でナイアがカタナを振っていた。
「ナイア、どうだい?使いこなせそうか?」
「これ、全くサーベルとは違いますね、形状は似ているのですが、重さも重心も全く違います。同じ切り裂く物かと思ったのですが、こちらのほうが運用は難しいようです。でも気に入りましたのでなんとかします」
「そうか、俺も少しやっていくかな?レンティ、先に帰ってて」
「私も少しやっていきます」
改めて長いカタナを振るってみると、重心や身体の運用がバスタードソードとはだいぶ違うことがわかった。叩いて割るバスタードソードと、引いて切るカタナの運用方法が違うのは当たり前の事だ。何度も振るい体に染み込ませるしか無いなと思い無心で振る。
ナイアも少しずつ慣れてきたようで、戦闘イメージでカタナを振り始めた。レンティは基本の上下突き、武器を絡め取る回転を反復練習していた。
半刻ほど訓練しているとギルンが顔を出してきた。
「やってるね、フミト。変わった武器だな」
「お、ギルンか。爺さん達に作ってもらったやつだ、カタナと言う」
「ほー、綺麗だな。美術品じゃないだろうな?」
「立派な武器だよ。まだ実践では未使用だからどこまで通用するかなんとも言えないけど」
「ふーん。なら実践してみるか?」
「ギルンとか?」
「いやいや、何言うんだ。俺相手にやっても意味ないだろう。冒険者ギルドが呼んでるんだよ。フミト達を」
「ギルドが?俺達をか?」
「そう、さっきギルド職員の顔なじみからそう聞いた。顔出してみたら?」
「なんだろう?行ってみるよ、ナイア、レンティまだここにいるか?」
「私はついていくことにします。レンティさんは?」
「私も行ってみます」
3人でギルドへ向かうことになった。
「私達を呼んでいると伺ってきたのですが、どなたかわかりますか?」
同時に3人のギルドカードも提出する。受け取ったギルド職員がカードの確認を終えた後、
「はい、少々お待ち下さい」
ギルド職員を待つことにする3人に声をかけてくる人がいた。
「あれ?どうしたんです?3人揃って」
「ん?リーアこそどうしたんだ?」
「私は少しでもお金を稼ごうと思いまして……」
少しうつむくリーア。後ろめたいことでは無いだろう。
「ひょっとして今回の武器のことか?」
「えっ?はい、やはり高いものなので、あるい程度はお渡ししないといけないと思い、何か短い間でできる仕事が無いかと思い……」
本当に良い子だ。カタナに比べれば大したことのない金額なので、爺さん達も今回はそんなにつけていないだろうから別にいいよと言ったのだ。
「そんなに気にしないでいいよ。カタナの付属品を買ったと思えばね」
「そうですか……、ありがとうございます」
釈然としない表情でお礼をいうリーア。借りを作ることが嫌なのかな?こっちは借りと思っていないんだけどね。
「今更ですが、私はカタナの料金をお渡ししていませんでしたね、いくらになるのでしょうか?」
ナイアが質問してくる。そういえばこちらも何も考えずに使うか?と聞いただけで、金銭のことを考えていなかった。
「どうしようか?買うことにする?借りることにする?買うとすれば金貨5枚以上になるけど」
「金貨5枚でも私には厳しいですね……、お借りできるのであればありがたいです」
「よし、それじゃそうしよう」
「私の槍はいくらなのでしょうか?」
「それも良いよ。リーアのより安いだろうしね、気にしないで」
「そうですか。ありがとうございます」
あれこれ話していると先ほどのギルド職員から声が掛かる。
「フミトさん、今のメンバーは5人ですよね?その5名に依頼が来ております」
「私たち名指しですか?」
「はい、先日の盗賊の件で、調査依頼になっています」
「調査か、ちなみに期間と金額はどのくらいでしょうか?できれば依頼主もお教え頂けますか?」
「期間は2日ですね、金額は一人小金貨2枚です。依頼主はルブリン商会です」
「なるほど、依頼内容はどうなっていますか?」
「依頼内容としましては、アピの街からフミトさんたちが襲撃を受けた地点までの間に、盗賊たちの隠れ家みたいなものがあるか確認してください、それと、もしあった場合なのですが、隠れ家の調査も合わせてお願い致します」
「ナイア、2日で調査出来そうか?」
ナイアはダークエルフなので、森の知識はエルフと同等にある。その為、たとえ森の中に目印が無い中歩いて行っても迷子になることは無い。そして、街道からダウラギリ山の麓である崖まではさほど深い森になっているわけではないのと、その反対側も森が広いわけではないので、調査範囲はナイアの能力で丸二日あれば余裕だろう。
「問題ありません。あの距離でしたら半日づつで行けそうです。出発予定まで余裕がありますので受けても問題ないと思います」
「レンティ、リーアはどうする?ノンナは多分行くというだろうけど」
「私は行きます!少しでも足しにしたいので」
「私も槍の訓練を含めて行きたいと思います」
「よし、それじゃ決まりだな。5人で調査に向かいます」
「わかりました。それでは明日から2日でよろしいですね?」
「はい、お願いします」
ギルドを出て3人にこれからの行動を指示する。
「それじゃ、準備しないとな。街道で分けて半日ずつ調査する。半日調査してアピに戻る予定。だから、食料は昼食分のみで良いと思う。最悪の事を考えて一食分追加でも良いけど、多分問題無いだろう」
「わかりました。荷馬車は必要になりますか?」
「いや、シザーリオに持って行ってもらおう。ノンナにお願いすることになるけど、大丈夫だろう。積み荷用の馬具はこれから爺さん達のバロックに行って借りてくる」
「それでは、食料等は私達で準備しますね」
「こっちは2人で大丈夫です。ナイアさんはフミトさんと一緒に行ってください」
リーアが突然言葉を挟んできた。
「いえ、私もやりますので」
「冒険者としてこれからです。色々と覚えなければならない事がありますので、お店の主人と聞きながらまとめてみたいのです」
真面目な顔をして説得を試みるリーア。準備等も全部やってもらっているようでは一人前にはなれない。何が必要で、何が余分で、何が余剰分まで持っていくものなのか。試行錯誤しながら覚えていくほうが身になりやすいだろう。
「わかった。リーア、レンティ、準備よろしく。お金は足りるか?足りないなら今渡すけど」
「大丈夫だと思います。もし足りなかったら帰ってからお支払いするということでお願いしてみます」
「そうか。それじゃ、頑張って」
「はい!」
二人を見送った後、ナイアに声をかける。
「それじゃ、行くか。爺さん達にお願いしなきゃならないからね。一人でも綺麗な女性が居ると対応が変わることがわかったから、ナイアがいてくれて助かるよ」
「はい。お役に立てて嬉しいです」
「あとでノンナの説得も一緒に良いかい?」
「はい。ノンナは大丈夫だとは思いますけど」
「まあ、4人で勝手に決めちゃったから、仲間はずれって思われない様に一応ね」
「はい、わかりました。今日はシザーリオと街の外まで走りに行ってるはずですから、もうそろそろ帰ってくるはずですね」
「外まで行ってるのか。まあ馬に追いつける魔獣はここらだとグラスクーガーぐらいだし、問題ないか」
基本軍用馬はギャロップ(全速力)で走れば時速40km以上になるので、大抵追いつかれることが無い。少人数であればウルフが編隊を組み、襲ってくることもあるが、一度でも攻撃が外れれば、遠くに逃げてしまうので大抵襲われることはない。
街や都市間の緊急伝令等は、基本1個小隊規模、最低人数は10人で行う。秘匿文書であれば、2名の選抜士官が文書を持ち、その他4名が各々の護衛という形だ。伝令のみであれば全員に伝えられる。馬で行けば早いというメリットはあるが、野営が不便というのがある為と、途中で盗賊などに襲われても最低限突破できる力を持つというのがその人数の理由だ。この世界で緊急伝令は騎士たちの華形の職業になっているのは、武器の扱いや馬の扱いに長けていないとなれない部隊であるからである。
そのような軍馬であるので、心配することはさほどしなくて良いだろう。
「エイブラムス爺さん、荷物載せられる貸出馬具ない?」
午前中ぶりにバロックに顔を出す。出迎えたエイブラムス爺さんはしかめっ面でこう答える。
「あると思うか?」
「そう思って来たんだけど、無いの?」
「どうせあの嬢ちゃんのだろ?悪いが無い。栗毛曳馬用しかないぞい」
「あらー。爺さんとこ当てにしてたんだけどな、どうするか」
「お前さん完全に忘れてないか?」
「ん?何を?」
「馬は今どこに預けてる」
「あー!騎士団対応した厩舎があったな。そこに行けばあるかも?」
完全に失念していた。普段から馬の運用をすることが無いので、すぐ思いつかないのも無理は無い。
「そうじゃ。ほれ、行って来い」
「そうする。ありがと爺さん。ナイアごめん、厩舎に行こう」
「はい。わかりました」
厩舎に着き厩務員に事情を説明するとそのような馬具があるとのこと。騎士団で使うこともあるので、そこそこ数を揃えていると言っていた。
「それじゃ、2日お借りできますか?」
「はい。わかりました。1日小銀貨2枚です」
「それじゃ、先に渡しておくよ」
小銀貨4枚を厩務員に手渡す。合わせて貸出書にもサインを入れる。サインを書き終わった所で後ろから声がかかる。
「あれー?フミトさんにナイアじゃない。どーしたの?」
この気の抜けた声は……と振り向くとやはりノンナだった。
「指名の仕事が入ったんだ。ノンナには確認しないで受けてしまったが、問題ないか?」
「いいよー!それで、何するの?」
「盗賊の隠れ家探し」
「面白そー!やるやる!」
「お、ありがとう。それで荷物をシザーリオに持って行ってもらいたくて、馬具を借りてたところなんだ」
「荷馬車引かせるの???」
「いや、馬具って言ったでしょ。載せるだけ」
「ならいいよー」
「わかった。明日から出るから」
「はーい」
宿に戻るとリーアとレンティも買い出しを終えていたようだ。
「フミトさん、買い出しはこのくらいでよろしいですか?」
2日とは言え、半日で戻ってくる予定なのでそんなに量は必要ない。確認はすぐ終わり、
「これで問題無いだろう。シザーリオにも載せられるしね」
「このくらいなら余裕だねー」
「そうそう、明日の隊列はリーア、先頭でよろしく。それとナイア。2列目にノンナとレンティ。最後尾に俺という形で行く」
「え?私が先頭で良いんですか?」
「武器が間に合ってないからノンナでも良いかと思ったが、早めになれたほうが良いと思ってね」
「はい!がんばります!」
「ナイア、面倒見てやってくれ。ノンナ、後ろからで良いから助言をしてやってくれ」
「はい、わかりました」
「あいよー!」
「明日は早朝から動く。昼には調査打ち切って戻る予定にするから、今日は早めに寝ること」
「はい!」
魔獣などが出てきたらカタナの初実践だ。新しい物を使う時の高揚感があって、ほんの少し眠るのが遅くなったのはしかたがないことだろう。
自分の決めたルールに一つペナルティが発生しました。
中世ヨーロッパを基本とした剣と魔法のファンタジーという点で、オーバーテクノロジーになるものは入れないということです。本筋には関係ない部分ですが、再度調べた所、一つ間違えて書いてしまった部分があります。
泡立つ石鹸は、産業革命以降でないと作れない可能性があるということです。作れたかもしれませんが、自分では何を合わせれば良いのか正直わかりませんでした。
泡立たない石鹸は、かなり古い時代からあったそうなのですが。使い方は体に石鹸をこすりつける様に使うそうです。海外の映画などではたまにそのシーンがあったりしますよね。
もし、無くして欲しいという意見が多ければ、添削したいと思います。そのままでいいよ、もしくは何も意見がなければ現状そのままにし、この世界の石鹸にはそういう性質があったというご都合主義にて進行します。
以上です。ご意見、ご感想お待ちしております。
2016/01/04 三点リーダ修正