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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
19/83

頑固ジジイ

頑固ジジイ


 アピの冒険者ギルドは、レーニアと同じくらいの規模であるのか、ほぼ全く同じ作りになっている。寸分違わずとまでは言わないが、かなりそっくりなため、生前の日本を思い出す。こちらでも経営努力をしているのか、同じ商会の支店が同じ設計と言うのは多くある。特徴的な商会であれば屋根の上に木の馬を載せていたり、大きな盾を載せていたり、酒樽だったりと面白い特徴は多い。少し歩くと盾を背にした取り合う手の紋章の冒険者ギルドが見えてくる。


「ノンナ、登録は俺にして、ノンナに貸し出すという形にするけど良いか?」

「え?なんで??」

「実はな、都市級であれば補助がもらえるんだよ。今までずっと使うこと無くてやってなかったけど、それを利用させてもらう。それを使えればその街での厩舎を安く借りることができる」

「おー!そんな便利な制度があるんだー!ならお願いします!」

「わかった。一応ノンナに貸し出し契約も書いてもらうから一緒に来てくれ」

「はーい!」




「はい、登録名はシザーリオ、馬主はフミトさんで、騎手がノンナさんですね。わかりました。それでは金貨2枚頂きます」

 金貨2枚を渡し、ギルドカードに所有馬と貸付人の記入をしてもらう。ノンナは借受人と借り馬の記入をする。

「では、このメダルを馬の鞍に付けておいてください。証明の証となります」

 職員から跳ね馬の彫り物がしてある金属のメダルを受け取る。裏には馬主名と騎手名と馬名が魔法で印字されていた。これもドワーフによる馬とアピの象徴であるツルハシと槌の細工がしてあり、これだけで美術価値が有るのではないかと思わせるほど綺麗な作りになっている。


「登録料ってそんなにするんだ……」

「出世払いで良いよ」

「ありがとうございます……」


 ノンナの顔が青い。登録だけでこの金額は流石に暴利だろうと思わなくもないのだが、これで全国的にシザーリオはノンナのものになる。本当はもっとめんどくさいことになると思っていたのだが、運良くシザーリオは過去に登録されていなかったようだ。鞍にはメダルを入れる所に何もなかったのもその原因だ。そう簡単に落ちるものでもないので、意図的に取り外された可能性はあるが、意図的に外すのは所有権の放棄という意味も含まれる。他には失踪届もギルドには届いてないとのことなので、事は簡単に進んだ。


 そして一行は頑固ジジイこと武器防具制作のドワーフ達3人の元へと向かう。武器防具製作所『バロック』名付け親は誰なのか気になるところだ。


「爺さん達、生きてるかー?」

「なんじゃ糞ガキ、まだ生きてたのか」

「相変わらずひどい扱いだなー」

「お互い様じゃ」


 この白短髪ヒゲ無しの筋肉爺さんはドワーフのエイブラムス。一番俺と悪巧みをしている人。武器防具両方が専門だ。鉱石にも詳しく一人で鉱山に潜り込み掘ったりしている。

 180歳になった今でも掘りに行っているそうだ。


「お、フミトじゃないか。例の出来とるぞ」

 こちらの長い白髪で頭にタオルを巻いているのはマイセン。元々綺麗な金髪だったのだが、加齢とともに白くなったらしい。現在180歳。武器を専門にしており、今回も面白いものをお願いしていた。


「フミト、お前さんがその鎧を着てからワシには何も儲けがないのじゃが、今日は何か買っていくんじゃろうな?」

 3人目の爺さんはブラムド。175歳。防具が専門で、口ひげを生やした少しいじけやすい爺様だ。


「一気に言われて俺はどうすりゃいいのよ。俺のことは後回しでこの子たちをよろしく。ノンナとナイアは知っているよね?それで、こっちがリーア、回避の盾職。それでもう一人がレンティ、魔法職だ」

「「よろしくお願いします」」

「うむ。よろしく頼む」

 お互いに挨拶を済ませ、本題に入る。


「マイセン爺さん、レンティに合う武器って何か無いかな?近接ができるといいけど、近接すぎるのも体術が無いから厳しい」

「そうなると槍じゃな。この娘っ子腕力無いじゃろ。重い物持たせても足かせにしかならんぞ」

「やっぱそうだよね。んじゃ、短槍ある?」

「作りかけのがあるんじゃが、あれはお前さんの鋼だ。それでも良いか?」

「勝手に実験してたんかい。ま、それでいいよ。樽差しで良いから短槍の見本とか無い?」

「奥にある。勝手に見ろ」

「あいよ。レンティ、あの扉の中が倉庫になってる。そこで短槍を4~5本探して持ってきて。自分の直感で良いよ。それを軽く振り回してみて自分に合いそうなのを決めて」

「はい、わかりました」

「他に気になる武器があれば一緒に持ってきていいから」

 レンティはコクンと頷き倉庫に向かう。


「それと長剣ある?リーアの長剣は、ギルドでの樽差しだったそうで、そこまで良いのじゃないんだ」

「なんじゃ、それもお前さんの鋼で作ってあるぞ?」

「おい……。あれ俺が金出したことになってるんだよね?勝手に使っちゃ駄目だろう」

「細かいことは気にするな」

「気にするよ!でも、あの鋼なら良いか。それ頂戴」

「おう、取ってくる」

 頭が痛くなるが、大雑把な性格なので、助かってる部分もある。主に金銭的だが。


「ブラムド爺さん、黒鹿毛軍用馬用の防具ってある?戦争じゃなく冒険に使えるやつ」

 少しいじけてるブラムド爺さんに声をかける。ちょっと嬉しそうな顔をしてこちらに振り向く。女の子なら可愛いのに爺さんだからな、この人。


「おう!あるといえばある!無いといえばない!」

「どっちだよ!」

「作ればある!」

「あっそ。んじゃ作ってもらえる?ギルドメダルが取れにくいヤツと、馬の足にじゃまにならない前掛けと、荷運び用の部分も」

「荷運び?運ぶだけなら軍用馬じゃ無いほうが良いじゃろ?」

「この子が馬を買ったんだよ。盗賊団の戦利品だから格安だけどね」

 ノンナが頭を下げる。

「ほー、動物に好かれそうな子じゃな、やはり相性は良いのか?」

「はい!バッチリです!」

「ふむ。ま、任せとけ、馬に負担にならない様に作ってやる」

「ありがとうございます!」

「で、馬はどこじゃ?」

「外に連れて来てます。ノンナ案内してあげて」

「はい!」

 二人は馬を確認しに外に出ていく。


「エイブラムス爺さん、例の武器出来たって言ってたけど、見せてもらえるかな?」

「おう、持ってくるよ」

「よろしく」


「フミトさん、あまり口悪く無いですね」

 リーアが前説明したことに疑問を持ち、質問をしてくる。

「女の子が4人も来たからじゃない?いつもはもっと酷いよ?」

「そういえば、私の時もこんな感じでしたね、口は悪くなかったです」

「単なるエロジジイか……」


 まぁ、気持ちはわからなくはない。教え子ということで性的に見ることが難しいが、全員美形ではある。ナイアは誰もが振り向くレベルだし、レンティはお嬢様と言っても良い。リーアは薄幸の美女とでも言えるような容姿だし、ノンナは健康美で肌の手入れをもっとしておけば美女の分類に入るだろう。


「ほら、こいつがお前さんの品だ」

 エイブラムス爺さんが3本の剣を持ってきた。木で作られ漆のような塗料で彩られた鞘、握りは木綿糸で飾られており、鍔も飾りが彫られている。鞘から抜いてみると片刃で反り返った刀身、波打つ波紋、尖った帽子。そう、日本刀である。バスタードソードを作る時に作った鉄は日本刀の工法で作られている。芯金と側金。柔らかい鋼を硬い鋼で包む方法。おかげで曲がらずに使うことができているので、遊び心を出し作ってもらったのだ。3本の内1本は長刀より長いサイズ(120cm)、一本は刀サイズ(60cm)、一本は脇差しサイズ(40cm)やはり、日本男子憧れの一品である。


「おー!すげー!これは良いもんだ!」

 刀サイズの剣を鞘から抜き出し、眺める。このまま恍惚とした表情で乱心することは無い。

「綺麗な武器ですね、サーベルですか?」

「フミト、これはカタナというものじゃったな?」

「カタナですか?初めて聞く名前です。どちらのものですか?」

「んーと、俺の妄想から出来た武器?」

 この世界には残念ながら同じ武器が無かった。あるのかもしれないが国交が無い国で作られていた場合見つけることは困難だ。

「綺麗です……」

 リーアも見とれている。実用段階ではここまでしっかりと磨かなくても良いと思う。と言うか冒険中の手入れじゃここまでの光度は無理だろう。

「爺さん磨きすぎじゃね?」

「調子に乗ったら綺麗になったんじゃよ、波紋も綺麗に浮き出たしの」

 乗らなくてもいいのに。ま、気持ちはわかる。だが、勿体無くて使いづらいじゃないの。


「しかし、お前さんの鞘の注文、苦労したぞ。武器留が無くて抜けないようにしろというのは面倒じゃったよ」

「ごめん、でもこうじゃなきゃカタナじゃないしね」

 日本刀にはハバキと呼ばれる鞘を押さえる部分がある。記憶を頼りに絵に書いて渡しただけでここまで再現するとは探究心の強い爺様達だ。


 刀サイズの物を鞘に収め、興味津々のナイアに渡し、脇差しサイズの物をリーアに渡す。俺は長刀より長いサイズの物を抜き出し、人のいない方向に移動し一振りしてみる。

 バスタードソードとは運用が違うため、上手く振れない。少し修正しつつ再度振ってみる。身体が持っていかれるような感じがあるので、長すぎたかもしれないと後悔があるが、使ってみるか。


「良い出来だ!」

「そうじゃろう、だが長すぎはしないか?」

「うん、ちょっと長かったかも。バスタードソードと同じくらいの長さでやりたかったけど、これでもまだちょっと短いんだよね。身体の運用を修正しなきゃね」

「ワシには振れなんだ」

「爺さんが駄目だったの?ホント?」

 あれだけ筋肉質でバランスも良い爺さんが振れないというので驚き、思わず振り向く。

「身長が足りんのじゃ……」

 驚きからなんとも言えない表情に変わる。爺さんの身長が150cm位だ。そうか、身長か……。


「フミトさん、短槍持ってきました。それとレイピアも持ってきました」

「お、それなら今から突いてみてくれる?」

「はい」

 返事をすると俺の方に向かい突こうとしてくる。

「ちょっと!逆!逆だよ!人のいない方に!」

「そうですか。わかりました」

 防具してないんだから、突かれたら痛いじゃないの。

 レンティは短槍を突いてみるが、すぐにバランスを崩す。そりゃ両足がほぼ揃っていればバランス崩すよね。

「レンティ、足は肩幅より少し広く、腰を少し落とす。握る位置は利き手が後ろ、片手はやや真ん中で」

 注意するとすぐ実行に移した。まだぎこちないがバランスを崩すことは減った。

 2~3本試す内により慣れてきたのだろう。4本目になると結構見栄えが良くなった。だが、5本目では一気に崩れた。


「4本目のバランスがあってるのかな?一番見栄えが良かったよ」

「そうじゃな、それが良さそうじゃ。その短槍を元にお前さんの鋼で槍の穂先を作ろう」

「よろしく」


 ちなみにレイピアも振ってみたが、お遊戯みたいで可愛かった。以上。


「嬢ちゃん、剣を持ってきたぞい」

 マイセン爺さんがリーアの長剣を持ってきた。バスタードソードと同じように芯金を柔らかく、側金を硬いものにしているそうだ。


「ちょっと振ってみな、リーア」

 武器を手渡し、レンティが槍を振り回していたスペースで振り始める。


「重心バランスとかもいいですね、さほど重さを感じません。今使っているのとほとんど変わりない様に使えると思います」

「そうか、良かった」


 ノンナとブラムド爺さんも戻ってくる。

「フミト、ありゃいい馬じゃ。かなり賢いぞ?」

「そうなのか。ノンナの直感もすごいな」

 えへへーと照れながらニヤニヤし始める。

「あ、そうだ。ノンナの武器も考えなきゃ。槍はどうだ?使ってみるか?」

「え?私の武器?どうして?」

「馬に乗りながら今の長剣じゃ戦いづらいだろう。それに馬に乗りながら盾職は出来ないだろう。だから攻撃職に変更だよ」

「え?って、そうだよね~。わかった槍使ってみる」

「奥から槍の見本持ってきな。何本かあるだろうからそれで試してみな」

「はーい!」

「マイセン爺さん、穂先はまだあるよね?」

「おう。たっぷりとあるぞい」

「そんなにいらないよ」


 会話に入ってこないナイアを見てみると、まだカタナを見てうっとりしていた。さらに鞘から抜いたり、戻したりと感触を確かめてもいた。

「ナイア、それ使ってみるか?」

 ハッとしてこちらを見る。

「え??使うって??何をですか?」

 どうやらうっとりしすぎて聞こえてなかったようだ。

「そのカタナ使ってみるか?」

「私で良いんでしょうか?」

「いいよ。俺にはこの長いのあるから」

「ありがとうございます!大切に使わせていただきます!」

 すごい嬉しそうな笑顔でお礼をいう。カタナを思いっきり抱きしめ喜ぶ。大きな膨らみに鞘が埋もれ思わず目を見張るが、慌てて目をそらす。


「いいものじゃな」

「ああ、いいものじゃ」

「素晴らしいものじゃ」

 こらエロジジイども!


 ツッコミを入れようか迷っている最中にノンナが戻ってきた。

「槍もってきたよー!」

「そうか、それじゃ振ってみろ、養成所で少しは学んでいるだろう?」

「うん!やってみる!」

 流石にどの槍も身体がブレることが無い。2m強の武器を突くのにぶれないのは流石に身体の作りの差だろう。幾つか試した中で、これが良い!と言っていたので、それに合わせて作ってもらう事にした。


「あと、練習用の刃引きした長剣と、同じく練習用の刃引きしたカタナ2本ずつある?」

「おう、問題なくあるぞ。カタナは失敗作で良いよな?」

「大丈夫。それと、レンティの短槍とノンナの槍の穂先カバーを普通のとハードレザーで二種用意お願いできるかな?

「ハードレザーで作るのか?」

「訓練用にさ。全部どのくらいで作れる?あと5日ほどでレーニア戻っちゃうけど」

 まだ護衛任務中であるので、自由はさほど無い。

「レンティ嬢ちゃんの槍は明日にでも仕上がるよ。ノンナ嬢ちゃんのは3日ほど待ってくれ」

「シザーリオの馬具は4日はかかるな。なめした皮はあるのじゃが、綺麗に仕上げたいのでな」

「わかった。よろしく頼む、で金額だが、全部でいくらになる?」

 エイブラムス爺さんに振り向き尋ねる。


「金貨で22枚じゃな」

「……それホント……?」

「しょうが無いじゃろ、お前さんのは木炭が大量に必要じゃ。それに研究開発として1年以上かけとるんじゃ。そのくらい貰ってもバチは当たらんじゃろ。それに無いとは言わせんぞ?」

 金貨1枚でそこそこ良い武器が買えてしまう世の中でこの金額は正直びっくりしている……。ある意味道楽で作った様なカタナだから、仕方がないのかもしれない。


「わかったよ……。手持ち無いから明日にでも持ってくるよ」

「おう。小銅貨一枚もまけんぞ?」

「おう……」


 ふと隣に居たリーアを見ると青い顔をしていた。他のメンバーにも心配させてしまったかと思い、振り向いてみると、レンティは全く表情を変えてなかった。少しホッとしたのだが、ナイアは未だに恍惚とした表情をし、耳まで垂れていた。ノンナは面白くなってきたのか槍を振り回してはしゃいでいた。


 呆れるようにして店を出るとリーアが話しかけてきた。

「私そんなにお金払えないと思いますけど……」

「ああ、そこはいいよ。多分カタナ3本で後はおまけだと思うから」

「おまけですか?!そんなにあの3本は高いのですか?」

「そうだね、新技術でまだこの爺さん達以外は作り方を知らない鉄だからね。しかもそれを利用した特殊な武器だから余計にだろうね」


 鉄から不純物を取り除く技術はあったのだが、炭素を混ぜ鉄を作る、折り込んだ鋼を組み合わせるという技術は全く無く、その知識から使える鉄に仕上げるのは並大抵の努力じゃなかっただろう。

 日本刀の制作も俺のイメージ図と言葉だけで近づけたのは爺さん達の努力と才能だろう。


「そうですか。では、私はいくらお支払いすればよろしいですか?」

「ああ、いいって言ったのは全額支払うから良いよって意味ね、あれでもそこそこ儲けてるんじゃないかな?あの爺さん達は。ただ、新技術開発費としては安いと思うよ?」

「そうなんですか。ちなみに私達の武器と馬具を含めるといくら位になるのでしょうか?」

「ん~、金貨2枚行かないと思うよ。爺さん達の値段ならね、それに鋼の代金はもう支払ってあるから、もう少し安くなるかもね」

「え?鉄のお金はもう支払ってあの金額なのですか?」

「そうだね、高いと思うだろうけど、多分20本位失敗作あると思うよ。それを含めての金額だからね、ある意味やすいと思う」

「そうですか……」

「でも、その失敗作も上手く使える部分を残して売るんだろうな。あの爺さん達は」

「そうなんですね」

 最後はクスリと笑うリーア。痛い出費となるが、これは自業自得だからしかたがない。






おおまかな設定を決めていますが、文章にすると細かい部分が無いと説得力が無くなる。資料を調べる。文章に起こす。使い方があってるか再度調べる。確認する。を繰り返しています。矛盾点等がありましたらご連絡頂ければと思います。即修正は難しいかもしれませんが、早めに違和感無いように修正したいと思います。


2016/01/04 三点リーダ修正

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