討伐報酬
討伐報酬
風呂から上がり、ローブ姿でゆっくりと部屋でくつろいでいるとギルン達が部屋に入ってきた。
「お?フミトもう風呂あがりか?」
「おう、女性陣の会話が恥ずかしくてね」
そう答えた時一つの荒々しい風が吹いた。
「あれ?今のジルフ爺さんか?」
「だな……覗き……いや、聞き耳立てに行ったな……?」
なんという神速……、男としてはある意味見習わなければならない行動力なんだろうが、共感してはいけない。
「ギルン達も入ってくるか?」
「そうする。夕食はみんなで間に合いそうか?」
「女性陣を待たせる事にはなるが、大丈夫だと思うよ」
「後は爺さん次第かな?」
「そうだな……」
ギルン達は準備を済ませ、部屋を出て行った。
ベランダに椅子があるので、そこでお茶を飲むことにする。ベランダは4畳程もあり、かなり広く作られている。
ほんのり肌寒い空気が湯上がりの火照った身体を優しく冷ましてくれる。温かいお茶を飲みつつ景色を堪能していると、隣の部屋から声が聞こえてきた。どうやら女性陣が戻ってきたようだ。その喧騒も彩りと思い引き続き景色を堪能してると、ベランダを遮っている壁の外からナイアが湯上がりで頬が赤く染まり、艶のある表情でこちらを眺めている。
「ナイアどうした?」
「ふふっ、良い黄昏っぷりですね」
「まだ枯れてないぞ」
「枯れゆく様ですから、黄昏であっているかと」
「まだまだこれからだよ」
「お爺さんの様な言い回しですね」
ナイアが笑い出す。言った後で後悔してる自分。
「うるさい……」
「はい。ジルフさんはお風呂場の通路で枯れ切っていましたよ」
笑いが堪えられない感じで話す。
「未遂で済んだか。ホッとしたよ」
「毎度のことですからね、なれました」
「迷惑かけて済まないね」
「いえいえ、問題ありませんよ」
「食事はギルン達が来てからで大丈夫か?」
「はい、そう伝えておきます」
「よろしく」
「はい。それでは後ほど」
(もう少し……)
顔を引っ込めて女性陣の部屋に戻るナイア。
「ん?」
よく聞き取れなかった。まぁ良いか。景色もいいしね。
ナイア達が戻ってきてから四半刻くらい経った後ギルン達が戻ってきた。黄昏を通り越し枯れ果てた爺さんを連れて……。
「さ、食事にしよう」
ジルフ爺さんはローブ姿の女性陣を見て即復活した。気持ちはわからなくは無いが、表には出さないでおく。
翌日、全員でフェスティナ商会へと向かい、片道分の獲得資材の精算に入る。
今日は冒険ではないので皆手持ち武器だけで、防具は脱いで軽い格好だ。
魔獣
・グラスボア2匹(内一匹破損)
・アグリーバック6匹
・ウルフ(皮)9匹
・ワーウルフ(爪・皮)4匹
・突然変異種ウルフ(赤)1匹
以上で小金貨5枚、銀貨1枚、小銀貨4枚となった。
盗賊
・黒鹿毛軍用馬1頭
・バスタードソード(軽量化魔法)1本
・ロングソード3本
・ショートソード5本
・ダガー14本
・サーベル1本
・グレートソード1本
・弓4本
・ハードレザーアーマー5個
・ブレストプレート2個
・ハーフプレート2個
・ブレストスケイルメイル(サンドリザード)1個
・スクエアシールド2個
・グローブ10組
・貨幣 小金貨12枚 銀貨10枚 小銀貨11枚 銅貨5枚
以上で、金貨9枚、小金貨7枚、銀貨3枚、小銀貨1枚、銅貨5枚となった。
「盗賊捕まえるほうが美味しいかも?」
ノンナが納得できる一言をつぶやく。
「常にいるわけじゃないのよ?それに魔法武器や軍用馬を持っている盗賊なんてありえないんだから」
ユーベルが持っていた武器には軽量化の魔法がかかっており、高額で引き取ってもらえた。
「えーと、ユーベルがいない9人で貨幣無しだと、小金貨5枚、銀貨3枚、小銀貨1枚になるよ?」
俺が計算しなおして伝える。貨幣無しにしたのは一番安定しない部分なためだ。無一文ということもありうる。
「魔獣の合計額とあまり差がないんだ。それじゃ盗賊いらなーい」
「そうだな、盗賊は疲れるだけだし、魔獣より行動読みづらいし面倒だらけだな」
「私はすごく緊張しました」
「私も昨日は余裕がなかったです」
「そうですね、私も対人戦は久しぶりでしたので、緊張しました」
「わたしもー!緊張したよー」
やはり、対人戦は普段と違うために疲れたようだ。ノンナやナイアは経験あるだろうが、この駆け出し二人には重荷だったかもしれない。だが、敵は選べないし選んでくれないので、これも経験と思ってもらおう。
「誰も傷つかなかったし、良い経験だったと思うしか無いね」
報酬は合計額の半分をフェスティナ商会が取り分であるため、残り半分で冒険者が頭割りすることになる。半分は取り過ぎと思われるが、冒険者には既に成功報酬が払われることになっている。それに今回は特別に盗賊が居たため、大金になってはいるが、本来片道で小金貨1~2枚程度懐に入れば良いほうなのだ。
フェスティナ商会の職員に両替してもらい、各々に報酬を配る。
「一人、小金貨9枚、銀貨3枚、銅貨6枚、小銅貨5枚になるね」
「おー!結構おいしいー!」
「なかなか頂けましたね」
「こんなに頂いて良いんでしょうか?」
「ありがとうございます」
現在の日本円に直すと一人約19万となる。1周間19万円は美味しいと思われる。この世界の一般家庭が贅沢をしなければ一月小金貨3枚でやりくり可能なので、片道で3ヶ月分儲けたことになる。
「さて、これが獲得資材による報酬ね。それで次が本命」
「本命ですか?」
全員頭をかしげる。
「討伐報酬が出たよ。ルブリン商会から」
「おー!出たんだー!」
「そう、その額が結構大きいんだ。だから悪いけどみんなフェスティナ商会に預けてもらうことになるけど、良いよね?」
「どのくらいの額になったのですか?」
「一人、金貨10枚とルブリン商会の後ろだて」
「ええ?!そんなに!?」
流石に全員驚く。ノンナがニヤニヤしだし、あれが買える、これも買えるうっはー!って叫んでるが、放っておく。
「商会の後ろだてとは、どういう意味なのでしょうか?」
ナイアから説明不足の部分を質問される。
「今後冒険者活動に必要な資金を借りることができるようになったんだ。普通は都市級冒険者や貴族くらいしかやれないことだよね。それを今回の討伐メンバー全員に適応するって事。後は武器や防具の融通とかもあるはず。まあ、一応借りる時には返済プランとかの審査があるはずだけどね」
「そんなに……、あの盗賊はそれほどのものだったのですか?ずいぶんと行動に迷いがなく統一感がありましたが」
「そうだね、それは簡単に話すとルブリン商会にとって、ユーベルはカタキだったんだ。とある商人のね」
エイワスのことを思い出すが何とか平静を保つ。
「それでこんなに高額になったのですね、そういえば戦闘中にフミトさんが少し怖くなっていましたが、ひょっとして?」
「ああ、気づいたんだ。そう、俺の友のカタキだったんだ。ユーベルは」
「そうだったんですか……」
高額だから普通に喜んで貰いたかったのだが、誤魔化すことをしないで話した。思い出して辛い気持ちになったが、告白することにより、少し気が楽になる。質問したナイアが気まずそうな顔をするが、こちらが少しスッキリした顔になったのか、胸を撫で下ろしたようだ。
「ごめんよ、湿っぽい話になってね、それで預けるでいいかい?」
「あれ?10枚ですよね?お馬さんはいくらだったんです?」
ノンナが嫌なタイミングで質問する。まだ諦めてなかったか、この小娘は……。
「金貨5枚だよ」
まぁ、嘘は言わないでおこう。
「なら買っちゃう!!あの子買っちゃう!!!」
ほらきた……。
「貴方ね、どう面倒見るのよ?冒険中も冒険していなくてもお金はかかるのよ?それに登録料はどうするの?軍用馬は登録必須よ?」
「ううう……何とかするもん!」
「無計画に言うんじゃありません!」
「たすけてー!フミトさーん!」
泣きながら言わないでくれ……。だが、こればかりは擁護できん。
「一月小金貨3枚はかかると思いな。冒険中であれば野草で食費は少し浮くが、それ以外の食料を持ち歩かなければならない。軍用馬に荷馬車を引かせるつもりか?それこそ可哀想だぞ?」
「うう……」
「それに、ノンナ、お前は盾職だ。馬に乗っている時に襲われて他のメンバーが攻撃されるのを見ているのか?」
「う……」
「可愛いから飼うのも気持ちはわかる。馬の一生は大体15年だろう、その時ノンナが冒険者をやめていたら食費はどうする?飼えないから売るのか?」
「……」
「酷な事を言ってるが、現実を見るんだ」
大きくうなだれたままで小さく頷く。
「諦めてくれるな?」
「はい……」
説得成功。あれだけ懐いていたし、喜んでもいたのだ、応援したいが現実を見ると冒険者で軍用馬を持つものはほぼいない。騎士などで補助金が出る場合は別だ、騎士は戦争に出向く義務を持つためだ。冒険者には自由意志を持たせるが、その分補助は無い。
だが、しばらくうなだれた後、迷いを吹っ切れた様に言う。
「やっぱり買う!多分あの子をここで手放す方がダメだと思う!今回の報酬も一日小金貨1枚だし、なんとかなる!」
こちらに向かい、真剣な眼差しで答える。説得失敗。
「ノンナ!あなたね」
と言いかけた所でナイアを止める。
「本当に買うんだな?しっかりと面倒みるな?」
「はい!」
「わかった。そこまで言うなら止めない。なら、ティモールさんに直接話してきなさい」
「はい!!行って来ます!」
本当に大丈夫なのか、今でも自信がない。正直悲しむ顔が見たくない程度ではあった。直感派のノンナであるから、何か思う所があるのだろう。いや、ただ可愛いだけという可能性もあるよな……。
「ほんとによろしかったのですか?」
心配で顔を覗き込んで来るナイア、こちらも不安な表情でいる。
「まぁ、何とかなるだろう。ただ、武器や防具は見なおさなきゃならなくなるだろうな……」
「盾職から攻撃職にですか?」
「そうだね、ランスは降りてから使えないから、槍でも持ってもらうか?」
「ノンナはある意味器用ですし、突撃しがちなのでやれるとは思いますが、リーアさんがメインになるんですよね?」
「え?私がですか?」
「そうなるねー……、いける?リーア」
「今はなんとも……。やれなくは無いと思いますが、先日の盗賊団が相手では不安が残ります」
不安な表情で答えるリーア。レンティも顔をしかめている。
「だよね……。ま、リーア以外攻撃職になるから、殲滅速度は上がると思う。ある意味そこまで負担にならないかもしれないかな?それにリーアには防御系と回避系、筋力系の魔法はしっかりとかけるということで」
元自分のパーティーが盾職2人ではあったが、火力過多であったことを思い出す。
「わかりました!やってみます!」
「ありがとう。ノンナのパーティーでの位置は遊撃になるかな?」
ナイアに質問を投げかかける。
「そうですね、馬を利用してかき回してもらうことが良いと思います。後は単騎駆ですかね?」
「今のメンバーだとそうなるよね。ナイアの弓が届く範囲でなら自由にさせても援護できるから問題ないかな?」
「はい。でも、そうなるとかなり広い範囲になるのではないですか?」
ナイアは500mは当てることができるのと、特殊技能で鷹の目の様に目標をズームアップして見ることができるので、やろうと思えばもう少し距離は増やせる。
「そうか、騎馬特攻の加速ってそんなに距離いらなかったよね?」
「そうですね、当てるのは結局乗ってる人の腕ですから」
「ま、帰りの戦闘でそれを試してみようか」
「はい。となると、リーアさん達とのパーティー編成で戦闘を試すということですね?」
「はい!がんばります!」
「わかりました」
お願いする前に言われたので、少々空振りな気分に……。
そうこうしている間にノンナが戻ってきた。
「ティモールさん良いってー!よかったー!」
「そうか、わかったよ。後で登録しに行こう、それまでに名前決めてあげなよ?」
「はい!でももう決めています!」
「お?なんて名前にしたんだ?
「彼女にはシザーリオって付けたいと思います!」
なんか前世で聞いたことあるような気がするんだが、気にしないでおこう。
「わかった、では冒険者組合に行って登録しよう。その後でリーアとレンティにあのクソジジイの所に連れて行かなきゃね」
「わっかりましたー!」
「っと、その前に、討伐報酬は預けるで良いのかな?」
「はい、私はそれで問題ありません」
「私もそれでいーよー!」
「お願いします」
「私もそれでお願いします」
ティモールさんに預けることを伝え、各々手続きをしてもらった。ギルドカードと同じようにフェスティナ商会のカードを作り、魔法で名前と秘匿した金額を書き入れる。この金額は専用の読み書き装置を使わなければ読み取れない設計になっている。さすが魔法。便利だ。
「それじゃ、まず冒険者ギルドだ」
フェスティナ商会を後にし、冒険者ギルドへ向かうことにする。
報酬部分おかしいところがありましたらご指摘頂ければ幸いです。読みなおして箇条書きしたのですが、漏れがあるかもしれませんので。
2016/01/04 三点リーダ修正




