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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
17/83

ドワーフの湯宿

ドワーフの湯宿


「それで、フミト君はインサニティ商会をどう思う?」

 ビルド支店長から先ほどの微笑みが消え、若干怒りを抑えた締まった表情になる。

「黒幕ですね」

「やはりそうか。本拠地を持たない行商商会というのが響いているのか、証拠が出てこない」

「奪った商品はどうなっているのでしょうか?」

「正直わからない。国内には出回っていないようなので、国外に持ちだしたとしか思えない。国境も囲われてるわけではないからな。他国から手引をされたのであれば私どもではどうすることも出来ないしな」

「国をあげて調査すれば、他国から干渉されるかもしれないのと、国内の商会に信頼されていないという不信感が広がってしまうのもあるでしょう」

「現状では対処療法しか無いのが辛いところだ。幾つか確認されている実行部隊の有力なユーベルを捕獲出来たことは僥倖といえよう」

「彼は元騎士でしょうか、黒鹿毛の軍用馬を持っていただけではなく、剣筋もしっかりとしたものを持っていたように思えます」

「そうなるとより他国からの手引が疑いやすくなるな、国内の貴族という点も捨てきれないが、王都近くの魔獣の森から出てくる魔獣を防ぐという点でそんなに派閥が割れているとも思えんしな」

「私は冒険者ですので、行使できる力は限られています。ですが、インサニティ商会についてはできるだけ手助けさせていただきたいと思います」

「フェスティナ商会の為にか?」

「意地悪な言い方をなさいますね、全商会の為にですよ。建前は……ですが」

「言われ損な気がするが、まあ気のせいにしておこう」

「ありがとうございます」

 お互いに軽く笑い合う。

「さて、話を戻そう。盗賊達は何時渡してもらえるのだ?」

「今すぐにでも可能です」

「わかった。ラファエル!手の開いてるものに冒険者を20人手配だ!今夜から監視させ、そのまま会頭に送る。集合場所はフェスティナ商会!そして牢の手配4部屋だ!急げ!ラファエルは伝え次第私と共に行動!」

「はい!すぐ伝えます!」

 隣の一般職員室には大きな声なため聞こえているだろうが、伝えに走る。

「私とラファエルは君と同行し、フェスティナ商会へと向かおう」

「承知しました、何時向かわれますか?」

「今すぐだ。もうほかの仕事などやってられん」

 少し驚きつつ聞く。

「身軽な人ですね」

「今回は特別だ、特別すぎる案件だ」

「そうですね、それでは向かいましょうか」

 ラファエル君の足音が聞こえたのでそう伝え、行動に移す。


 ビルド支店長とラファエル君を引き連れフェスティナ商会へとたどり着く。

 まだ馬車から荷物を下ろしている最中だった。既に馬車3台は下ろし終えており、残り1台となっていた。

「あれ?フミトその人って」

 歩いてくる俺に気づいたギルンが質問する。

 俺が軽く頷くと慌てて荷物を足元に置き、ビルド支店長に小走りで近寄って挨拶をする。

「お久しぶりです!ビルド支店長!」

「ああ、覚えているよ、ギルン君だったかな?」

 二人がガッチリと握手を交わす。

「はい、覚えていただいて光栄です!それで今日はどういったご用件でしょうか?」

「ユーベルを捕まえたと彼から聞いてね」

「承知しました、ティモールさん呼んできますね」

「お願いする」


 ようやく余裕が出て来たのか、日が陰り始めていることに気づく。そんなにイレギュラーは無かったように思えるが、時間が経つのが早い。


 数分後、ティモールさんが商会から出てきてビルド支店長に挨拶をする。

 ティモールさんはフェスティナ商会設立前から自身で起こし、商売をしていた元鍛冶師のドワーフだ。エステファンの将来性と商才、人柄に惚れてフェスティナ商会の支店1号店となってくれた人だ。鉱石の鑑定眼に並ぶ商人はいないと言われている。

「こんにちは、いや、もう今晩は、ですかな?ビルド支店長」

「こんばんは、で良いと思うよ、ティモール支店長」

「フミトお疲れ様、後は承知していますよ。お任せください」

「わかりました。荷降ろしを手伝ってから宿に向かいます」

「はい。よろしくお願いします」

「フミト君ありがとう」

 一礼し、荷降ろし所に向かう。


 レンティが疲れた顔しながらよたよたと木箱を運んでいる。

「レンティ、お疲れ様。『レッサーストレングス』かけてないのかい?」

「持久力には効きませんので……」

 声に張りがないな……、本当に疲れてそうだ。

「それもそうだな。手伝うよ」

「まだ1台ありますので、そこからお願いします」

「わかった」


 数が少ないので終わりかけとおもいきや、海塩の荷馬車が手付かずだった。一番重いのを最後に残したのか。仕方がない、がんばろう。


 四半刻後、荷をおろし終え、職員に頂いたお茶で一息つく。

「フミトさん、あの方はどなたですか?」

 隣りに座っていたナイアから質問が来る。

「ルブリン商会のビルド支店長だ、その隣が職員のラファエル君」

「なんでそんな人がここにいるのー?」

「今回捕まえた盗賊に仇を返したいと言う人達がいてね……。」

「話長くなりそうですね、後にしませんか?」

 ナイアの顔を見ると、少し疲れているようだ。こっちも疲れているのでその意見には賛成だ。

「そうだね、俺も疲れた。風呂に入りたい」

「温泉♪温泉♪」

 座り込んでいたノンナが小躍りしだす。

「私、温泉初めてです」

「私も初めてですね」

「そうか、それじゃ行くか。ギルン!後は明日で構わないな?」

「おう!お疲れ!俺達もそろそろ終わる頃だ。アピ支店の職員に最終チェックが終わり次第宿に向かう」

「宿はいつもの『ドワーフの湯宿』で良いんだな?」

「そうだ、先に行っててくれ」

「おう、お先に!」


 挨拶を終え、振り返ると冒険者の1団と繋がれた盗賊たちがいた。

「フミト君ユーベル達を頂いていくよ、本当にありがとう、報酬については後日フェスティナ商会に届けさせてもらうよ」

「はい、わかりました、それではお気をつけてください」

「ああ、ありがとう。出発!」

 号令をかけると冒険者二人で一人の盗賊の腕を掴み後ろから押して歩く。ユーベルだけは縄でしっかりと腕を固定され足以外は動けないようになっていた。


「フミト、いつの間に報酬の話をしておいたんですか?当商会にまで報酬を払う必要は無かったと思いますが」

 少し苦笑いをしながらティモールさんは話す。

「あちらが言い出したことですし、素直に受け取っておきましょう。それにルブリン商会と太いパイプができるというのは非情にいいことだと思いますけど」

「フミト、当商会に力を入れてくるのはとてもありがたいことですが、もう少しご自分の利益になることを考えなさい」

「適度に考えてますよ。高額にしなかったのは彼女達の成長を考えてのことです。お金に目の眩んだ冒険者は将来あまりいい傾向に見られないので、私としては良い判断だったと思いますが」

「そうですね、それに関しては私も同意見です。ですが、高額にしてから指南料等徴収することも出来たのではないですか?それが対面がよろしくないのであれば、ルブリン商会から個別報酬をいただくことも出来たでしょうに」

「それはパーティーメンバーにフェアじゃないですね」

「そうですね。でもそのくらい欲を持っても良いのではないかと言いたかっただけです。今回の結果は、私個人としてはいい結果だと思いますが、商人としてはまだまだと思ったまでです」

「商人にはなりませんと言うか、なれませんので」

 軽く笑い合い、一呼吸おく。

「さて、そろそろ宿に行きます。細かいことは明日でかまいませんね?」

「そうですね、私も少々疲れました。明日でお願いします」

「承知しました。では失礼します」

 お辞儀をし、その場を後にする。


 自分の手荷物を持ち、宿に向かう。もう途中にある酒場等の灯りが眩しい。メンバーの足取りは遅い。疲れもあるのだろうが、二人が初めて来る街ということで少し遅く歩いているのもある。

 少し歩いた先に、歴史の有りそうな木造建築が見えてきた。ここが『ドワーフの湯宿』だ。実はこの国初の温泉宿である。金額もそこまで高くは無い上に、風呂が大きいので人気の宿だ。

「古い建物ですね、どのくらい経っているのですか?」

 リーアから質問が飛ぶ。

「確か70年と聞いた気がしますね、最初の宿はもっと前、アピが作られてすぐに建てられたのだと聞きましたが、70年前に作りなおしたと聞いています」

「そんなに前だったんですね、すごいです」

「私の祖母より前なのですね」


 思い思いに感想を言い合う一行。ここで話していても疲れは取れないので、開き戸を開け中に入る。

「フェスティナ商会で予約してあるはずですが」

「いらっしゃいませ、フェスティナ商会様ですね、いつもご愛好ありがとうございます」

 年老いたが綺麗なエルフが深いお辞儀をする。俗世に出てくるエルフは意外と多く、人間やドワーフとの結婚も少なくはない。最初の子供はハーフになることが多いが、孫辺りからはどちらかの血が強く出て先祖返りとでも言うのか、偏った容姿になる。

「まだ4人後から来ます。男性4人です」

「はい、かしこまりました。それではまずお部屋にご案内いたします」

 この温泉宿はいわゆる日本式の旅館みたいなもので、仲居さんみたいな人がいる。一般的な街の宿は入り口で鍵を渡され勝手に行けというスタンスなので、非情に珍しいタイプだ。

 石畳の廊下を歩き、部屋へと案内される。奥の二部屋に案内される。

「食事を先になさいますか?」

「風呂が先で良いか?みんな」

「私はお風呂が先が良いです」

「わたしもー!」

「私もです」

「さっぱりしたいですね」

「かしこまりました。食事はお部屋で?それとも食堂でなさいますか?」

「食堂でいいか?」

「そうですね」

「かしこまりました。半刻後には準備が整うようにしておきます。それ以降であれば何時でもお越しくださいませ」

「ありがとう」


 仲居は鍵を渡し、建物の入り口へと戻っていく。

 男女に別れ、一人で部屋に鍵を開けて入る。今は寂しいが、すぐむさい男の部屋になるだろう。冒険者にも対応した宿であり、人型の鎧起きや傘立てならぬ剣立て、6人部屋なので6個の室内ロッカーがある。一応鍵付きである。冒険者仲間でも即席だと気が置けないので鍵付きというのはありがたいものだ。土足厳禁なので、部屋の入口でブーツを脱ぎ、部屋履きに替える。剣を起き、鎧を脱ぎ、備え付けのローブに着替え、タオルを持ち温泉に向かう。このローブが浴衣にそっくりなのだ。昔日本人がいたのではないかと思わせるくらい似ている。この温泉宿を作り上げたのが、ドワーフではなく、小柄な日本人だとしたら納得できるくらいだ。


 温泉は通路の手前が男湯で、奥が女湯となっている。奥は行き止まりなため、意図的に向かわないかぎり女湯には向かうことが出来ない。覗き防止だろう。しかも男湯の入り口は通路入ってすぐ、女湯の入り口は通路最奥となっており、その間に男がいると違和感を感じさせる作りになっている。


 脱衣所でローブを脱ぎ、浴場に入ると大きな露天と打たせ湯と2つある。幾度も来ているが、この景色は好きだ。生前日本人として行った旅行先の温泉街で利用した温泉に似ているので、郷愁を感じるのだ。7日間の汚れを落とすためにしっかりと洗う。ちなみにまだ石鹸がこの国では存在していなかった。フェスティナ商会で、記憶を頼りに制作にとりかかり、香りが無いものを試験運用としてここで使ってもらっている。現在は品種改良のため、香料に使うための花を栽培している最中である。蒸留器は出来上がってるので香料を入れた石鹸の試作品はシルヴィアさんに献上済みだ。リンスも考えているが、安定的に香りの弱い酢が手に入らないため、こちらは頓挫している。そういえば、今回入ってくる船が調査に行っていたはずだ。レーニアに戻ったら聞いてみよう。


 冒険者とは思えない事を考えつつ身体を洗い終える。7日ぶりの洗剤はとてもすっきりとする。垢を落とし、爽快感を感じつつ露天風呂に浸かる。

「ふぃ~~~~~~」

 思わず気の抜けた声が漏れる。だが、気持ちが良いものなので人に聞かれようが気にしない。ダウラギリ山や外の景色を一人で堪能していると騒がしい声が聞こえてくる。


「おー!いつ見ても広いねー!」

「そうですね、私もお気に入りの場所です」

「は~~、いい景色ですね~……」

「綺麗です」


 女性陣が壁を隔てた露天風呂に出てきたようだ。そんなに壁が厚いわけではないし、壁は高さ3mほどで途切れているため声は良く聞こえる。

「湯船にはしっかりと身体を洗い流してから入るのですよ」

「はい、わかりました」

「わかりました」


「おお!石鹸があるよナイアちゃん!」

「これは嬉しいですね、旅の疲れもこれでより癒やされそうです」

「石鹸ってなんですか?」

「身体や髪を洗うための物よ。灰汁より綺麗に洗えるの。でも、まだ販売してないそうよ」

「それがこれですか。私の母が綺麗好きでしたが、灰汁を使っていました、そんな商品ができたら買い占めそうです」

「しっかりと泡立ててから使うのですよ?」

「あわあわー♪」

「え?ヌルヌルする??」

「これは面妖な……」

「腕だけ洗ってみたのですが、これは全然違いますね!普段から持ち歩きたいくらいさっぱりします!」

「おぉぉー……ヌルヌルを洗い流すとサラサラに……」




「あーさっぱりした!」

「もう少し隅々まで洗いなさい」

「明日も入るから大丈夫だよー」

「それでも洗わないでしょう……」

「この石鹸と言うのは色々な所が綺麗になるので全身くまなく洗いたくなりますね!」

「素晴らしいものです、早く製品化しましょう!」


 女性陣にはやはりなかなかの評価のようだ。初めて使う二人からは絶賛されている。商品開発者としてはかなり嬉しい言葉だ。シルヴィアさんがこんなのじゃ駄目!と言っていたので、少し自信をなくしていたのだが、高級品として出したかったのかな?

 洗い終えてから湯船に浸かる音が次々と合計4つ聞こえる。すると聞き逃せない言葉が聞こえてきた。


「おお!リーアちゃんも浮いてる!」

「ちょっと、恥ずかしいです!あまり見ないでください!」

「何を言ってるのよ。貴方も少しは浮いてるでしょうに」

「一番プカプカしてる人が何を言ってるの」

「……邪魔なだけよ」


 一人会話に混ざっていないのは気が付かないことにしておこう。うん。


「フミトさん、洗っている時の会話は聞いていてもいいですが、今のは聞いてば駄目ですよ?」

「おうふっ!」

「え??フミトさん居るんですか???」

「隣は男湯ですからね、まだ居ると思いますよ、行く時部屋をノックしても出てきませんでしたから」

「いやぁ!恥ずかしいです!」

「……」


 すいません、しっかりと聴こえちゃいました。居たたまれなくなったので湯船を出る事にする。


 そうか、3人は浮くのか……。





いつも通りに数話先まで書き、今さっき投稿しようと見なおしていた時に気づきました。あれ?温泉回じゃないの、と。全く意識しないで温泉入れてました。艶っぽい文章が無くて期待していた方には申し訳ないです。完全に頭から抜けてました。次回あれば……あるかな……?その時には少し艶っぽいの頑張って入れてみます。


2016/01/04 三点リーダ修正

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