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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
11/83

破壊された盾

破壊された盾


「ごごご……ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」

「ごめんなさい……」


 平に謝る新人二人。先の夜襲時に、寝ていたために対応できなかったのをひたすらに謝っている。夜襲対応終了時から30分後に起床時間であったため、そのまま寝かせてあげることにしていた。だが、言わなければいけないことはしっかりと伝える。


「今回は突然変異種のウルフが1匹だったから、結果問題なかったけど、これが盗賊や普通のウルフでも数で押されていたらまずいことになっていたかもしれない。早くなれること。あと、日中気を張り過ぎない、疲れをしっかりと把握し、コントロールすること。難しいことかもしれないけど、冒険者への一歩は戦えることじゃない。生き残ることだ」


 ここまできつく言わなくても、おいおい覚えてもらえればいいと思っているが、反省できる人に、より成長してもらうため、生き残ってノンナやナイアみたいにまた会ってほしい為に伝える。


「それじゃ、出発するよ。隊列は昨日と同じで」



 2~3日目は特に大きな問題は無かった。合計グラスボア一匹と、アグリーバック4匹くらいだ。夜襲も無かったため、新人二人には初日の緊張感がなくなってきたかもしれない。


 4日目昼食時にノンナがこう口に漏らす。


「なーんか、順調過ぎですねー」


 この街道はそこまで突拍子もないことが起きる場所では無いので、当たり前といえば当たり前なんだが。


「ノンナが新人の時は自分で問題を起こしまくったからじゃないのか?」


 陣形考えずに突貫し「助けてくださーい!」といったのを今でも鮮明に思い出すことができる。


「あはは……、あれは若気の至りですよー……」

「まだ時々出るじゃないの。その若くない至って物は」

「いや、若いよ!まだ若いんだから!そういうナイアだって92歳のおばあちゃんじゃないの!」

「ダークエルフの時間は人間より4倍は長いのよ。悪い意味であんたと年齢は変わらないのよ」

「悪い意味ってどんなことなのよ!」

「92を4で割るとわかるわ」

「えーっと、何?」

「お馬鹿。23よ」

「ナイアって23歳なんだ、おばちゃんだー」

「あんたは22よ。一つしか変わらないじゃないの」

「22と23の間には天と地ほどの差があるんですよー」

「22なのに肌ボロボロじゃないの。私のほうがきめ細かくて綺麗ですよ」

「うぅぅ……フミトさーん、フェスティナ商会ですぐ美肌になる化粧品扱ってませんかー?」


 泣きながら言わないでくれよ……。まぁ、普段から食っちゃ寝で、こまめに手入れをしてないノンナの負けだな。ナイアはダークエルフ秘蔵の品を使っているわけではなく、一般的な化粧品を使っているだけなので、日々の手入れと言う女子力の差なのだろう。


「そんな便利な化粧品があったら貴族の間で大騒ぎになっているだろう。なってないのなら、無いだろう。」

「そんなぁ……」

「普段の手入れですよ。リーアさんもレンティさんもこうなってはお終いですからね?気をつけてくださいね」


 この二人は真面目そうだから問題無いだろうな。長期的冒険者設計みたいなものを考えていそうだし。


 食事を終え、少し早いが4日目の野営地点を目指す。天気は全く問題ない。問題があるとすれば、レンティの俺に対する態度だけだろう……。初日に体を眺めちゃったのをそんなに引きずるかな……。


 この日も順調に思えたのだが、ナイアから警戒の声が。


「敵襲!数多い!ワーウルフ3とウルフ多数!接敵10分!陣形を取りつつこちらに向かっています!」

「ワーウルフはノンナとナイアで1、リーアとレンティで1受け持ってくれ!ウルフはまだ数はわからないか?」

 声を張り上げ、支持する。

「ウルフ8です」

「わかった。ノンナ、ナイアは左側、前進しつつ、ナイアはウルフの数を減らせるだけ減らしてくれ。リーア、レンティは中央に。ウルフ1とワーウルフ1を頼む。俺は単独で囮に右から出る。ウルフを引き付け、倒し終わったら援護に入る。良いか?」


「はい!」

 全員揃って声を出す。


「ということだ。爺さんすまない、護衛を頼む」

「任されたよ。あの数じゃ留守番あると辛いじゃろう」

「ギルン、行ってくる」

「心配してないけど、気をつけてな」


「前進!」


 敵部隊を引き付けるために前進する。俺はわざと動作を大きくし、隊列から離れる。隊列からそこそこ離れた辺りでナイアから先制攻撃が飛ぶ。まずは1匹ウルフを仕留める。相手が散会し、走り始める。ノンナが自己強化の魔法を唱える。レンティもリーアに強化をかける。ナイアは2射目を放ち、2匹目を仕留めたところで、長剣に持ち替える。


 ここで少し誤算があった。リーア、レンティにはワーウルフ1、ウルフ1が接敵するように動いてくれたが、ノンナ、ナイアにはワーウルフ2,ウルフ1が行ってしまった。離れた俺にはウルフ4が走ってくる。うまく行かないものだ。まぁ、ノンナとナイアなら問題無いだろう。


 走ってくるウルフを迎え撃つために足を止める。バスタードソードを構え待つ。1頭早い奴がいる。一斉にこないのは好都合だ。縦列陣形といえばいいのかもしれないが、力量差が離れている場合は各個撃破になるため意味が無い。


 飛びかかってくるウルフをまず上段から打ち下ろし一撃で絶命させる。そのまま一歩進み、下段から打ち上げ2匹目の顎から割る。警戒し、止まったウルフめがけて再度一歩進み右から振りぬき剣の先端で頭を割る。一呼吸でここまで上手くいくのは気持ちが良い。


 最後尾にいた残り一匹は警戒してい唸っているが、再度構え直し、突きを放つと4匹目のウルフも絶命した。


 すぐさま彼女達の方に歩き始める。戦闘はこちらのほうが早く始まっていたようで、あちらは今接敵したようだ。


 足の早いウルフがノンナの喉元めがけ噛みつく。だが、盾でうまく抑え、勢いが止まったところで横からナイアが喉を切り裂きウルフは絶命する。二人はそのままワーウルフへと対峙する。ノンナはうまくワーウルフの両手の攻撃を盾と剣を使い防ぎ、少しずつダメージを与えていく。ナイアはステップを使い、攻撃を避けつつ突きや斬撃を見舞って行く。倒すのは時間の問題だな。


 リーアとレンティに目を移すと、最初のウルフの攻撃はうまく避けたようなのだが、倒せないままワーウルフの接近を許してしまったようだ。レンティも火の魔法を放っているが、ウルフも素早く躱す。悪い状況になりつつあるので、羊皮紙を取り出しつつ走りだす。ワーウルフの攻撃を盾と剣でうまくかわしているが、ウルフの爪による攻撃には対処できず、傷を増やしているようだ。何回かワーウルフの攻撃を避けた時、足にウルフが噛みつく。完全にリーアの足が止まり、ワーウルフの強打が放たれる。なんとか盾で防いだが、耐え切れずにリーアは吹き飛ばされ盾も破壊されてしまった。レンティは起死回生のため、大技の魔法を唱えているが間に合いそうにない。ワーウルフが近づき構え、ウルフも飛びつこうとしている。


『アースクエイク』


 自分で作り上げたオリジナルな魔法。地震を起こす魔法だ。半径20mほどの範囲に震度4程度の揺れを起こす魔法だ。中心から離れれば揺れは少なくなり、効果が薄れる。

 震度4程度なので、地割れが起きたり、土壌が隆起しダメージをあたえるとか言うのは全く無い。が、地震を経験したことない者が、揺れるはずのない地面が揺れた時の心境はどうだろう?恐怖を感じるはずだ。そう、この魔法はいわゆる混乱魔法なのだ。


 ワーウルフとウルフは怯え、混乱しリーアに攻撃するのを止めた。


 ただ、残念なことに、これは範囲魔法。しかも無差別。と言うことは、結果は推して知るべし。


「きゃー!!!!!」

「え……え……???」

「グルルルルルル!!??」

「ウォゥ……????」


 味方まで混乱させてしまうのだ……。


 リーアを見ると座り込んだ状態でアワアワと慌て、レンティは頭を抱えながらしゃがみ込んでしまっている。

 発動した自分にも揺れの影響が出るため、ある意味自爆魔法ではあるのだが、ここは元日本人。地震の国からやって来ました。魔法に抵抗し、そのまま走り続け、混乱しているワーウルフとウルフに接敵し、一撃のもとに仕留める。


 ノンナとナイアはこの魔法を一度経験しているために、そして発動場所より遠い位置に居たため、魔法抵抗に成功していた。2匹のワーウルフは魔法の影響を受け、混乱し、ノンナとナイアにより仕留められていた。


「さて、どうしよう……この二人……」


 悩みつつ馬車の方を見ると、御者が慌てて馬を抑えているのが見える。爺さんが剣を肩に担ぎ、手を招いている……。


「そうだよな……」


 ノンナとナイアが近づいて来て文句を言う。


「『アースクエイク』使うなら、前もって言ってください!経験していても慌てそうになるんですよ?」

「もうね、びっくりしたよ!」

「ごめんなさい……」


 後輩に怒られる7歳近く上の先輩の図。


「それより、二人をなだめてやってもらえないかな?俺は爺さんの所に行くよ」

「あー……、届いちゃったんですね……、わかりました」

「了解っす」


 恐怖と混乱から脱していない二人をノンナとナイアに任せ、爺さんに向かう。



 ~~~~~



「もう大丈夫ですよ。リーア、レンティ」


 しゃがみ込み、リーアの頭を撫でながら話す。


「じ……地面が……ゆ……ゆれ……」

「はい、揺れましたね、でももう大丈夫です。落ち着いてくださいね」

「……何が起こったの……?」


 レンティさんは少し正気に戻るのが早かったようですね。リーアを軽く抱きしめ、なだめつつ答える。


「フミトさんが魔法『アースクエイク』を使ったのですよ」

「魔法?!あの地の揺れが魔法?!」


 絶望的な顔をしつつ言葉を絞り出す。


「あんな強力な魔法使えるのなら最強じゃないの!なんで今まで使わなかったのよ!?」

「……いいえ、あれは単なる混乱魔法です」

「え……?混乱魔法?」

「魔法抵抗の高い者や、地揺れに慣れているものに対しては影響ありませんので。ただ、難点があり無差別に魔法が影響してしまうのです」

「そう、私は抵抗できなかったのね……」

「魔法を使わないのは、羊皮紙を消費してしまうの。回数制限があると思えばわかりやすいですね」

「そうですか……」


「リーアさん、もう落ち着いてきましたか?」

「はい……、なんとか……」

「傷は大丈夫ですか?足噛まれているようですが、血止めの『ヒーメス』はできますか?」「もう少し落ち着けば、『ヒーリング』まで使うことができます」

「治癒魔法使えたのですか?それは心強い」

「生活魔法などはさっぱり使えませんが、治癒だけは中級くらいまでなんとか使えます」


 落ち着きを取り戻したリーアは、自分に治癒魔法をかけ、傷を塞いでいく。


「みっともない所をお見せしました。もう大丈夫です。フミトさんに助けて頂いたで、良いんですよね?」

「そうですね、私もしっかりと見れたわけではないのですが、足にウルフが噛み付いた後、ワーウルフに飛ばされたようですね」

「多分、そうですね、盾も壊れてしまっていますので、なんとかその一撃は防いだようです」


「リーア、ごめん、守れなかった……。攻撃当てられなかった……」

「レンティ、大丈夫。これからだよ。フミトさん言ってたじゃない、生き残るんだって」

「そうだね……。二人でお礼言わなくちゃね……」


 馬車の方を眺めてみると、フミトさんの頭に拳を振り下ろしているジルフさんが見えた。


「いたそー……」

「あれは痛いですね……」

「フミトさんどうしたんです?」

「『アースクエイク』の影響が馬にまで届いた様です。馬は臆病でしょ?それで今怒られてるのでしょう。たぶん、もっと良い魔法あったじゃろってね」

「そうですか、私達の不手際で怒られてしまったのですね……」

「グラスボアでうまく立ち回れていたので、大丈夫とこちらが思い込んだのも間違いの要因です。今思えば、道中複数の敵に対峙してもらうことをしてないので、それもこちらの判断ミスですね」

「いえ、私が魔法をうまく当てられれば……」

「それも含めてです。フミトさんも同じ思いだと思いますが、生き残って欲しいのです。冒険者は良い素材を得ることができれば一攫千金を得ることができます。ですが、そこにたどり着くまでに命を落とすことも多いのです。少しの報酬でも生きてさえいればまた笑い合うことができます。それを思い出にすることができます。なので、一歩一歩で構いません、成長してください。今回の失敗を糧に多くを学び取ってください」

「「はい!」」

「良い返事です」


「私も何か言いたいー」

「ダメです。貴方が話すといい話ではなく、落ちが付きますので」

「ナイア酷いよー!」


 緊張が溶け、笑い出す。どうやらもう大丈夫のようです。





範囲魔法が味方にも当たる設定にしてしまったので、どうすれば味方を巻き込んでも平気かと考えた時に思いついたのが地震でした。

東日本大震災では知人が被害を受け、大変だったと聞いています。

すべての地震や災害の被害に合われた方々の心中ご察しいたします。


グレートアースクエイクと怯えたイギリス人達の経験した地震ですが、震度2だったそうです。聖書に終末の~と書かれていた部分に地震が関係しているそうですが、経験していない人にとっては恐怖だったみたいですね。


10/30 誤字修正

2016/01/04 三点リーダ修正

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