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30の魔法使い  作者: 圧縮
本編
10/83

野営地

野営地


 血抜きの終わったグラスボアの内蔵を取り出す。内臓が好きな人もいるようだが、洗浄もままならない現状では、食することは難しい。その上、6日も保管しておくことを考えると、肉に臭みが移ってしまうので、取り出しておくことが望ましい。木の灰で体の内側を洗う。これも水が貴重なためだ。水魔法で洗うこともできるが、量を出すには能力と魔力が必要になる。木の灰であれば、お湯をわかす時などに常時使うため、直ぐ手配できる上に予備も馬車に乗せやすい。洗った木の灰と、捨てる内臓はそのままにしておくと魔獣を呼び寄せてしまうので、スコップを使い穴に埋める。


 全て終わったところで手を洗おうと水筒に手を伸ばした所、レンティが水魔法で手を洗浄してくれた。気が利くいい子じゃないか。ジルフ爺さん達に馬車に乗せてもらい、出発する。


 その日は最後に2匹の襲撃を受けた。襲撃者はアグリーバックと言う、長い一本角の生えたインパラのような魔獣だ。群れによる縄張り意識が強く、攻撃的なのが特徴。同数だとウルフにも立ち向かうほどだ。今回は2匹ということで群れからはぐれたか、襲われた後の群れなのだろう。


「今度はどうする?またリーアとレンティにやってもらうか?」


 とナイアに相談する。


「あと少しで野営地点だからここは早く倒してしまいましょう。私とノンナでやります。ノンナ行くよ。」

「はーい、ぱぱっと終わらせてきまーす」


 野営地店が近いということで、迎え撃って出る。

 接敵距離200m辺りで、ナイアがロングボウを構える。弦を引ききった状態で2秒ほど止まった後に放す。綺麗な放物線を描き、アグリーバックに刺さる。一撃で仕留めたようだ。


「はい。後はノンナね。できるだけ遠くで倒すのよ?」

「いつもズルいって思うんだけどー」

「ズルくないわよ。ほら、行ってらっしゃい」

「はーい」


 とノンナは小走りでかけていく。


 お互いが近づいてくると、アグリーバックが角を構え突進してくる。

 ノンナはそのまま盾を構え、「よいしょー!」の一声でアグリーバックの頭を盾で叩きつける。よろけたアグリーバックに追撃を行い、一撃で首を切り落とした。


 二人はそのまま2匹のアグリーバックの血抜き作業にはいり、俺はレンティに風魔法の依頼をする。木の灰とスコップ、水を持ちリーアに留守番を頼み3人に近づく。


「突貫はしなくなったけど、力任せなのは変わらないんだな。角を避けてから攻撃すると思ったが、そのまま打ち払うとは思わなかったよ」

「流石に相手によって変えますよー。グラスクーガーとかにはこの手は通用しないですしねー」

「ほんとに苦労しました。虚実を理解していなかったので、賢い魔獣に対すると傷が絶えなかったです」


 二人はアグリーバックの体を下半身から上半身へと押し出しながら話す。


「うー……、仕方ないでしょー、難しいんだもん」

「だから、お馬鹿と言われるんですよ」

「やれやれ……。レンティも魔法ありがとう。疲れは大丈夫?」


 一歩離れたところでこちらを見ていたレンティに声をかける。


「問題ありません」

「そう、あと少しだからがんばろう」


 疲れているのに気づく。声に張りがない。夜営時の歩哨はどうしようかな?

 血抜きも終わったようで、二人が内蔵を取り出し、灰で洗浄し、灰と内臓を埋める。

 またレンティが水魔法で手を洗っている。やっぱりいい子だ。


 ジルフ爺さんの荷馬車にアグリーバックを載せ、野営地点まで移動する。


 この野営地点は、アピ - レーニア街道で多くの冒険者が野営している地点だ。

 見通しがよく、近くに水場がある。焚き火の痕跡がしっかりと残り、誰がおいたのかレンガでかまどがあったりする。

 皆で分担し、テントの準備と、食事の準備、樽に水の補充、馬に水と食事を与える。武器の使用があったものは、優先的に武器の手入れを始める。

 食事ができる頃、既に辺りは暗くなってきていた。


「今日はお疲れ様。護衛任務初日はどうだった?」


 夕食は肉と野菜のスープに小麦粉を練って麺状にした物を入れたものだ。味付けは塩と香辛料。胡椒はふんだんに。それと果物が別に付く。

 食事を受け取り、新人冒険者二人の隣に腰を下ろす。念の為にリーアの隣に。


「流石に疲れました。ここまで歩き続けたのはそんなに無かったのと、護衛任務ということで気を張っていたのか結構ヘトヘトです」


 疲れた顔してリーアは答える。初日は誰しも気が張って疲れてしまうのは仕方がないこと。慣れてくれば気を抜ける部分は気を抜き、締めるところは締められるようになる。こればかりは教えることはできない。自分で学んでいかなくては。


「私はまだ大丈夫です」


 頼もしい言葉だ。だが、疲れた顔をしている。


「無理した後で限界が来てしまうと他の同行者に迷惑がかかるから、少し余裕がある時は疲れたで良いよ。余裕を見せることが他の人への威嚇になり、冒険者として登りつめる為の一つの武器というのは間違いではないと思うけど、人に頼っていいんだよ」


 と伝える。俺も自分一人でなんとかなるとは思ってはいない。いくら弱い敵でも圧倒的多数で囲まれれば命の危機になる。ゲームなどでは剣一振りで10匹くらい倒せてしまうが、実際はよほどうまくやらないと2匹目くらいで武器が刺さり、抜けなくなる。強い人と言うのは、間の扱いがうまく、多数相手であっても、基本一対一で対峙している。一人を倒すのが早いために、複数同時で倒せていると思えるだけなのだ。いい例が日本の時代劇。劇という予定調和ではあるが、相手をコントロールし一人ずつ一刀のもとに倒していく。実践でやられたらたまったものじゃない。こういう事をできる達人等は、基本少数なため、こちらも数で頼らざるをえない。一人で生きて行けているという人は、結局は周りが見えてないだけだと俺は思う。まぁ、この乱世とは言わないが、死と隣合わせな世界では特にそう思う。


「わかりました。では、私も疲れています」


 お?やけに素直だな。だが、冒険者としての洗礼はまだこれからだ。


「そうか。疲れているところで悪いんだが、夜間の歩哨も冒険者はしなくてはならない。リーアとレンティ、ノンナとナイア、そして俺という3チームがいる。一刻半毎の交代で行こうと思っている。最初は二人でやってもらえないか?」


 この提案は、相手を気にしてのことだ。もし夜襲が無ければ一番疲れが取れるのが最初なのだ。2番めはまとめて寝ることができない。3番目は次の日まで起き続けなければならない。体力的に問題なければローテーションで行こうと思っているが、行きは固定になるだろうと思っている。ちなみに1刻とは不定時法と呼ばれ、江戸時代などで利用されていた日の出・日没を基本とした時間だ。日の出から日没までを6等分したのが1刻(いっとき=約2時間)となっている。なのでこの場合は3時間だ。現代時刻でわかりやすく例えると、4時起き5~6時出発、17~18時到着、19時就寝位だろうか。


「はい。わかりました」


 と言葉をもらうが、二人ともより疲れた顔になっている。他の時間帯をやれば、楽な時間だと気づいてもらえるとは思うが、それは体感しないと理解してもらえないだろう。


「ということで、ノンナ、ナイア、二人は3番目で良いかい?」

「はい。わかりました」

「はいっす!」


 もう慣れたもので、彼女たちは普通に受ける。人数が多ければ、1日毎に歩哨が回ってくる等楽ができるのだが、5人ではこれが精一杯。ジルフ爺さんも戦闘力として含めればいいと思われるが、彼は依頼人でもある。依頼人にそのようなことをさせるのは緊急事態だけだ。


「ギルン、一刻半3交代のいつもと一緒で良いかい?」

「ああ、構わない。夜間ずっと寝ていられるだけでこっちは幸せなんだからな」


 街の中がいかに安全かわかる一言だ。アピ - レーニア間に一つ街を作ってほしいものだ。この地域は、まだ歴史が浅く北方には人類未到達地域がある。レーニアでさえ100年に届かないくらいの歴史だ。アピも同じくらいだが、頑固なドワーフの集団があそこに良い鉱石があるはずだという理由で無理やり街を作った経緯がある。他の街道では、街道から少し離れたところに村があったりするのだが、この街道は全くない。冒険初心者のこころと体を鍛えるのには適しているとも考えられる。その上金払いが良いからギルドはここに初心者を送ってくるんだろうな。あの親父は。

 食事が終わり、後片付けも終わる。個々にテントに入り寝る準備をしていく。


「はい、これマントね、持ってなかったよね?それと、火を消さないようにね。消しても良いけど、夜襲が増えるよ?火の光で夜行性の魔獣が少し近づかなくなるから。それじゃ寝るよ、1刻半後に俺を起こしてね。そこのテントに一人で寝ているから」


 リーアとレンティにマントを渡し、火を絶やさないように伝え、俺も寝ることにする。もうノンナとナイアは寝るためにテントに入っていった。


「ありがとうございます。夜はやっぱりマントが無いと少し冷えますよね。お借りします」

「お借りします」


 最後に一回り確認をして異常がない事を確認してからテントに入る。いつものことではあるが、こちらも初心者との初日は疲れる。マントに包まるとすぐ意識が遠のいた。



 一刻半後、リーアの声で目が覚める。途中で起こされなかったので、何事もなかったようだ。二人の顔はすごく眠そうだ。


「お疲れ様。何事もなければ朝までぐっすりと眠れるからね。おやすみ」

「おやすみなさい」

「……おやすみなさい」


 あくびをしながらリーアが、意識が飛びそうになりながらレンティが挨拶する。ふらふらと自分たちのテントに向かって行く。この様子だと入ってすぐ眠ってしまうことだろう。


 ジルフ爺さんの馬車に向かい、薪を取り、火に焚べる。燃え移ることを確認してから、焚き火と反対方向に行き、地面にナイフを刺す。左腰についている羊皮紙バッグから一枚のポストカードより少し大きい羊皮紙を取り出し唱える。『サーチ』オリジナル魔法で、4時間超えるくらい半円形100mほどの索敵が行える。ちなみに一番安い羊皮紙だと2時間50メートル限度であるため、中級の羊皮紙を使用している。


 この時間を利用して、武器の手入れを行う。刃こぼれはないか、サビは出ていないか、油切れは起こしていないかなど。


 一人だと暇な時間が続く。見ている方向に気配も無いし、探知魔法にも何も引っかからない。

 このような時により強く思う。嫁がほしいと。前世では初体験は未遂で終わり、その女性も深みにハマるほど惚れてはいなかったが、ある種きつい言葉が聞こえた。その為、初体験だけがもう目的ではないのだ。だが、初体験の夢は捨てきれず、変なアタックをしては振られ続けている。容姿的にはエルフから比べると酷いものだが、一般的な人間と比べるとそこそこ見れる方ではある。本人は気づいていないのだが、前世からの呪いのような妄執があるおかげで、意識し始めると相手が引いていく悪循環が起きている。これが大問題なのだが……。


 寂しい思いをたっぷりと味わっただけで時間は過ぎてしまった。ノンナとナイアを起こし、歩哨を引き継ぐ。


「おあようございます」

「おはようございます」


 二人は装備を整えテントから出てくる。ノンナはまだ眠そうな顔だが。


「特に問題なかったよ。後はよろしく」


 と伝え、早々にテントに戻る。マントにくるまった後、ナイフを回収し忘れたのを思い出すが、朝でも問題ないことに気づき、そのまま寝ることにする。


 眠りに入りしばらく時間が経た後、魔法による警戒音が頭のなかに鳴り響く。アラームの魔法に何かが探知された音だ。直接音が鳴っているわけではなく、自分にだけわかる形だ。起き上がり装備を整え終えたところでナイアからの声がする。


「敵襲!起床!数1!ウルフ!接敵3分!」


 3分ということはナイアが見落としたのか?珍しいこともあるもんだ。テントから飛び出し、ナイフの刺した方向に駆け出す。御者の面々は装備はそこそこに馬の方へ駆けて行く。ジルフ爺さんだけは剣をしっかりと持って行った。さすが年の功。


「ナイア、ウルフはどこだ?」

「前方50、突然変異種かも知れません。私でも見分けるのが難しかったです」

「わかった。1匹なら俺がいこう。昨日から特に働いていないから新人にふんぞり返ってる人だと思われそうなのでね」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「おねがいしまーす」


 ウルフが単独とは珍しいが、突然変異種なら納得行く。エルフの目は赤外線探査装置のような見え方ではなく、普通の人間の目と同じように夜間でも色の識別ができその能力が高いというもの。今回は暗い空間で色が見分けにくかっただけだった。

 バスタードソードを割れる形の鞘から取り出す、羊皮紙バックからライトの魔法を取り出し、剣を構えながら走しり出す。

 戦闘範囲に入る直前、立ち止まりライトの魔法をウルフの顔にめがけて発動させる。走っていたウルフに突然光の爆発が起き、視界を奪われ混乱する。両手でバスタードソードを構え直し右腹側から心臓をめがけ刺突する。1撃でうまく仕留められたようだ。

 改めて光源の中ウルフを確認してみると、全身の毛の色が赤黒い。黒や灰色が一般的な色な為、突然変異であることは間違いなかったようだ。赤という色は夜間の視認性を著しく低下させるため、夜襲には適している突然変異種だと言える。ナイフ、水筒、スコップを持ってきたナイアが合流し、目を見張る。


「赤だったんですね、このウルフは。見えないわけです」

「突然変異種と言うのは的確だった。ただ、一突きで絶命したので、それ以外の能力は分からなかったが」

「良い経験でした。次からはもう少し早く発見できると思います」

「同じような変異体がいないとは限らないしね、よろしく頼むよ」

「はい。それにしても、結構良い色ですね……。高く売れそうです」

「やっぱり?ならこの襲撃は美味しかったということになるな。しっかりと寝れなかったが、よしとするか」


 ウルフの肉は臭みが強く、極少数の愛好家以外はほぼ口にしないので、毛皮のみ剥いで埋めることにする。剥ぐのはナイアに任せ、ウルフを入れる穴を掘る。ナイアは手慣れたもので、腹から裂き、肉と皮の間にうまくナイフを滑らしていく。5分程度で皮を剥ぎとってしまった。

 ウルフの中身を埋め、野営地に戻ってくると留守番をしているノンナから感嘆の声が。


「何その色!きれー!!」

「珍しい色よね。アピより、レーニアでエステファンさんに渡した方が高くなるでしょうか?」

「アピにはドワーフがいるからね、最終的な価値はアピの方が高くなるような気がするし、悩むね」


 と口々に感想を言っていく。


 ふと気づく。新人冒険者二人がいない。


「ノンナ、リーアとレンティはどうした?馬車護衛か?」

「あれ?そういえばいないね?」


 軽く見回しても見当たらない。多少焦りを感じるが、一番の疑惑が他に思いつく。


「まさか……?」


 二人のテントの中を覗くとぐっすりと眠っている二人を発見した。



盾は鈍器です。

現在少し先まで書き進めています。投稿忘れていたなんて事はありませんよ。違いますよ……たぶん。

ストックが無くなることが自分へのストレスになる可能性があるので、連日投稿はやめておきます。

なので、投稿ペースはあまり変わらないと思われますので、ゆっくりとお待ちいただけると幸いです。


10/30 誤字修正

2016/01/04 三点リーダ修正

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