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その1

世界で一番可愛いお姫様がいました。

お姫様は誰からも愛され、誰をも愛しました。とくに隣の国の王子とは心から愛し合っていました。

王子との縁談はとんとん拍子にすすみ、明日はいよいよ婚礼という夜。

お姫様の寝室に、とつぜん黒き魔女が現れました。


「お前など王子の妃にふさわしくない。誰にも愛されず朽ちておしまい!」


そう言って、魔女はお姫様に呪いをかけます。もうもうと紫色の煙がたちこめ、何も見えなくなりました。

しばらくたって、お姫様がこわごわ目を開くと、紫色の煙も魔女の姿も消えていました。

お姫さまは手足をぶるぶるふって、ちゃんと動くか確かめました。あーあー、と声が出るかも確かめました。

どうやら問題なさそうだ、と一安心していると、お姫様の侍女が寝る前の飲み物を持って部屋にやってきました。


「あんた、だれ!?」


侍女はとつぜん叫びました。お姫さまはびっくりして答えます。


「私よ! 私……。えっと、私って、だれだったのかしら」


侍女は叫び声を上げ、お姫様は混乱し、駆けつけた兵士につかまってしまいました。兵士はそのままお姫様を王様のところへ連れて行きました。

ところが、王様もお妃さまも、娘のお姫様のことが誰だかわからないのです。


「そなたは姫をさらったと訴えられているが、まちがいないか」


王様にそう聞かれて、お姫様はびっくりしました。だって、姫は今ここにいて、さらわれたりなんかしていないのですから。


「私はどんな罪もおかしていません」


どんなにお姫様が話しても、誰もお姫様のことを信じてくれず、牢屋に入れようとします。

その時、お姫様が飼っている黒猫が飛び出して、お姫さまを守るように立ちはだかりました。そうして一生懸命にゃあにゃあと王様に話しかけるように鳴きました。

王様には猫の言葉はわかりませんでしたが、あまりの一生懸命さに心をうたれ、こう言いました。


「そなたを無罪にすることはできない。だが命はとらない。国外追放とする」


お姫様は誰にもわかってもらえないまま、お城から追い出されました。そこへ黒猫が追いかけてきて、にゃあと鳴きました。

お姫様には猫の言葉がわかりました。魔女の呪いのせいで動物の言葉がわかるようになっていたのです。


「お姫さま、あなたが誰だかボクはしっています。だけど、それを教えてしまったら呪いはとけなくなってしまいます。あなたは自分の手で取り戻さなければいけません。あなた自身の名前を」


お姫様は心細くて泣きそうになりました。けれどぐっとこらえました。そして黒猫に見送られ歩き出しました。

たった一人ぼっちで。だけど上を向いて堂々と歩きました。自分の手で自分の名前を取り戻すまで、決してあきらめないと心に決めて。


隣の国に来た姫は、王子に一目だけでも会えないものか、と、お城に行ってみましたが、お城の兵士はとりあってくれません。

そこへ、優雅な馬車がやってきました。なんと、乗っていたのは黒き魔女と王子様でした。王子様は婚約者のお姫様が行方不明になったと知り、力ある魔女に魔法で探してもらおうと、黒き魔女をお城に呼んだのでした。

お姫様は魔女に向かって叫びました。


「お願い、私の名前を返して!王子様、私を思い出して!」


馬車の窓からチラリとお姫様をみた魔女は、


「あら、うすぎたない格好をした、誰とも知れない女が騒いでいるわ。うるさいから、おだまり」


そう言うと、お姫様に魔法をかけ、石にしてしまいました。

それを見ていた石工が、お姫様を可愛そうに思い、自分の庭に運びました。きむずかしやの魔女は、一度かけた呪いを解いたりしないことは有名でした。魔女に歯向かえば、今度は石工が呪われるかもしれません。せめて、石像が朽ちてしまわないようにと、石工は毎日、お姫様の石像のほこりを払い、みがいてやりました。

ある日、遠い国のお金持ちが、その国の王様の依頼で、石工のところに石像を買いに来ました。お金持ちは、お姫様の石像を一目見るなり


「まるで生きているようだ!すばらしい!これをゆずってくれ」


と言いました。石工は断りましたが、お金持ちは無理やり石像を自分の国へ運んでいってしまいました。


遠い国に運ばれた石像は、すぐに王様の前へ出されました。王様も一目見て、この石像が気に入りました。

しかし、お城づきの魔法使いが、言いました。


「これは、魔法で石にされた人間です。すぐに魔法を解いてやりましょう」


王様が許可したので、魔法使いはたくさんの薬品と難しい魔法を使い、お姫様を人間に戻してくれました。お姫様は、今までの出来事を王様に話しました。


「それは可愛そうに。しばらくこの城で休んでいきなさい。その間に、黒き魔女があなたの名前をどこに隠したかも、わかるかもしれない」


お姫様は、ドレスと部屋を与えられましたが、今の自分は姫ではないからと断り、台所の下働きをさせてもらうことにしました。

慣れない仕事で大変でしたが、お姫様は一生懸命、働きました。

ある日、お城の裏庭で王様の猫に餌をやっていると、猫がお姫様にいいました。


「最近、王様のカナリヤが変なんだ。前はすごくおいしそうだったけど、今はすごく嫌なにおいがする。病気なんじゃないかな」


お姫様は、すぐに王様にそのことを伝えました。たしかに、カナリヤは最近、鳴かなくなったといいます。

すぐに動物のお医者様が呼ばれ、カナリヤを診ました。カナリヤはお腹に卵が詰まって、もう少しで死ぬところでした。無事に卵を産み終えて、カナリヤは歌いだしました。


「魔女の宝は山の中。魔女のばあさんが守ってる」


お姫様はびっくりして、カナリヤに聞きました。


「どうしてそんなこと知っているの?」


「物知りカラスたちがいつも歌っているのです」


お姫様は、王様にいとまごいをして、山にカラスを探しに行きました。

山はカラスだらけで、真っ黒でした。そして、カラスたちは口々に「魔女の宝は山の中。魔女のばあさんが守ってる」と歌っていました。


「その歌は、ほんとうなの?」


お姫様がたずねると、カラスたちはぴたりと口を閉ざし、いっせいにお姫様を見つめました。何千、何万もの黒い瞳に見つめられ、お姫様は怖くなりました。

しかし、勇気を振り絞って、もう一度、たずねました。


「魔女の宝は、この山の中にあるの?」


カラスたちは言いました。


「パンをおくれ、パンをおくれ。おいしいパンをくれたら、教えてやろう」


お姫様は王様のお城でもらったパンをカラスたちに投げてやりました。


「これっぽっちじゃ足りない、足りない。俺たちみんな腹ペコだ」


さあ、お姫様はこまりました。

何千、何万ものカラスをお腹いっぱいにするくらい大量のパンなんて、どうやって手にいれれば良いのでしょう。

途方にくれたお姫様は、フラフラと町へ戻りました。

町の端っこの麦畑で、農夫が虫取り網をブンブン振り回していました。


「いったい、どうしたのですか?」


お姫様はたずねました。すると、農夫は、こう言いました。


「バッタの大群が、麦を食い散らすのです。このままでは、麦は一粒も取れなくなってしまいます」


お姫様は、農夫にたずねました。


「私がバッタを追い払ったら、万のパンを焼けるほどの小麦をくれますか?」


農夫は答えました。


「そんなことは、お安い御用」


お姫様は、麦畑のバッタに話しかけました。


「ここから北、魔女の森がある。すばらしい下草が広がっているわ。麦などでなく、森の草をお食べなさい」


それを聞いたバッタたちは、答えました。


「それは素敵だ!こんな畑じゃあ、明日には食べつくしてしまう。すぐに森に移動しよう」


バッタはいっせいに飛び立ち、魔女の森に向かいました。

農夫は腰を抜かしましたが、お姫様が立たせてやると、約束どおり、万のパンを焼けるほどの小麦をくれました。


しばらく行くと、水車小屋の農夫が、ほうきを振りかざして暴れていました。


「いったい、どうしたのですか?」


お姫様はたずねました。


「ねずみがたくさん住みついて、粉をはしから食うのです」


お姫様は農夫にたずねました。


「私がねずみを追い払ったら、この小麦を全部、粉にひいてくれますか?」

「そんなことはお安い御用」


お姫様は水車小屋のねずみに話しました。


「ここから北、魔女の森に、すばらしい野いちごの群れがなっています。粉などでなく、野いちごをお食べなさい」


「それは素敵だ!こんな粉じゃあ、昼までには食べつくしてしまう。すぐに森に移動しよう」


ねずみはいっせいに走りさり、魔女の森に向かいました。

農夫は腰を抜かしましたが、お姫様が立たせてやると、約束どおり、万のカラスが満腹するほどのパンを焼ける小麦を粉にひいてくれました。


しばらく行くと、パン屋のおやじが、頭をかかえて座り込んでいました。


「いったい、どうしたのですか?」


お姫様はたずねました。


「北の森の魔女が、森へ入ることを禁じたため、まきが足りません。このままではパンが焼けません」


お姫様はパン屋にたずねました。


「私がまきを持ってきたら、この粉を全部、パンに焼いてくれますか?」


「そんなことはお安い御用」


お姫様は、北の森に向かうと、バッタとねずみに言いました。


「さあ、あなたたち、おなかがいっぱいになったなら、どうか、たきぎをあつめてちょうだい」


森中に散らばっていた、バッタとねずみは、われさきに、たきぎをくわえて、お姫様のもとに駆け寄りました。

お姫様は、たきぎをひとくくりにくくると、ぐいぐいと引っぱりました。ところが、たきぎはとても重くて、ちっとも動きません。

お姫様が途方にくれていると、ねずみとバッタが、みんなでたきぎを押してくれました。それで、お姫様は町へ帰れました。

パン屋にたきぎを届けると、パン屋はびっくりしていいました。


「すごいぞ!これだけたきぎがあれば、これから一年、パンを焼き続けられる!」


早速、パン屋はお姫様の持ってきた粉を、パンに焼いてくれました。


お姫様は、そのパンを持って、北の森へ戻りました。


「さあ、カラスたち、パンを持ってきましたよ」


お姫様がパンを放り投げると、カラスはあっというまにパンを食べてしまいました。


「さあ、カラスたち。教えてちょうだい、あの歌は、ほんとうのことなの?」


お姫様がたずねると、カラスの首領が、げっげっげ。と笑って言いました。


「かわいそうなお姫様。一生懸命、がんばったのに、答えはみんな、やぶのなか。俺たちみんな、魔女の子分さ」


そう言うと、カラスはいっせいに、お姫様に飛びかかりました。

ところが。

木の後ろからねずみたちが、草の中からバッタたちが飛び出して、つぎつぎカラスにとびかかりました。カラスは、とてもたまりません。みんな地面に落ちて、バタバタともがきました。

たった一羽だけのこったカラスの首領に、お姫様はたずねました。


「さあ、あなた、教えてちょうだい。あの歌は、ほんとうのことなの?」


カラスの首領は、しぶしぶ答えました。


「ほんとうさ。魔女の宝は山の中。魔女のばあさんが守っているのさ」


お姫様は、カラスたちを自由にしてやると、一人で魔女のばあさんの住家へむかいました。

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