第7話 再会
照明が明るくなった店内は、まだライブの熱気に包まれていた。なかなか席を立てなかった紗枝は、誰もいなくなったステージに目をやった。浩二の面影がちらつく。とてもいいステージだと思った。昔のようなパワーはないにしても、洗練された大人のステージだった。
レジで清算をしようと、ゆっくりと立ち上がり、出口に向かった。レジはまだ少し込んでいたが、でも、大体の人がもう店の外に出たようで、紗枝の後ろにはほとんど人がいなかった。本当は急いで外に出たかった。浩二に逢いたいとは思わなかった。レジで待ちながら、考えただけでも胸が苦しくなる紗枝だった。
「紗枝・・」
呼び止められた気がした。気のせいだろうか、いや、確かに紗枝と呼ぶ声がした。振り向くべきか、瞬間に迷った彼女は、一歩横に動いて、後ろの人に道を譲った。
「紗枝ちゃんじゃない?」
気のせいではなかった。確かにその声は浩二だった。(私に気づいてくれたんだ。忘れられてなかったんだ。)紗枝は静かに振り返った。
「やあ、驚いたな。何年ぶり?・・・聴きに来てくれたんだね?」
紗枝は黙ったままうなずくと
「よかったよ、ステージ。」
そう言うのがやっとだった。
二人の間に沈黙が流れた。
「おーい、はらちゃん、どうしたー?」
「あ、今行くよ。」
バンドのメンバーが呼んでいた。
「ごめん、あとで・・・あ、ちょっと待って、どこに帰るの?」
「あ、今日は、ワシントンホテルに泊まるの。」
「オーケー、じゃ、あとで。」
手を振って浩二は小走りに紗枝の前から消えていった。(あとで・・って・・)紗枝の心臓の鼓動が早くなる。
どきどきしながら一人店の外に出る。熱くなった体に、北国の夜風がとても心地よかった。通りまで、何も考えずに歩く。(浩二が、逢いに来るかもしれない・・・どうしよう)紗枝にはもう周りが何も見えなかった。