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第3話 仙台行き

 夫をバンコクに見送った日の2日後、紗枝は仙台に向かった。9時36分発のやまびこ107号の指定席をあれからすぐに取った。大体2〜3日の滞在の予定で、仙台ワシントンホテルの連泊も予約するなど、すべての準備は整った。

 東北新幹線は、2月11日、金曜日、予定通り東京駅を出発した。紗枝は少し緊張していた。きっと浩二は紗枝の顔など覚えているはずがない。でももし覚えていたとしたら・・・?紗枝を見た時の浩二の反応がどうか考えたら、ちょっと怖くなった。一度は嫌われてしまった自分。あれから20年もの長い長い時間は、きっと二人にとってプラスとなることは何一つなかったはず。

 

 後方に飛んでいく窓の外の見慣れない景色をぼんやりと眺めながら、紗枝は一人考えた。この仙台行きは、紗枝にとってどんな意味があるのか。ただ衝動的に何かに突き動かされているだけなのか。でも、もしこのチャンスを逃したら、一生後悔をするような気がする。ただ純粋に浩二に逢いたいと思った。逢いたいというよりは、彼を一目見たい、というのが本当の気持ちだった。

 雑誌の中の浩二に目をやる。とても充実した目をしている。それは遠いあの日、アパートの玄関先で紗枝に見せた目と一緒だった。変わっていない。きっと彼は変わっていないのだ。


 仙台駅に降り立った。空気が凛として冷たかった。駅の時計は12時をさしていた。約2時間半の旅。あっという間だった。東京〜仙台といっても、結構近いものだと紗枝は思った。  まず最初にサテンドールの場所を探すことにした。まるで土地勘はなかったが、前もってインターネットで地図を打ち出しておいたので、ほとんど不安はなかった。


「青葉通り、これがそうか。」

地図を片手に、辺りを見回した。地図によると、青葉通りをまっすぐ行くと、あの有名な広瀬川にぶつかるらしい。とてもきれいな街並だった。紗枝は一人、このきれいな町をぶらぶら歩くことにした。すっきりと晴れた日だったが、町の所々に雪が残っていた。いかにも北国らしい景色だった。(浩二がいつも見てる景色・・・)この先に彼の卒業した大学がある。彼はこの土地でどんな青春時代を送ったのだろうか。

 

 だんだんお腹がすいてきた。そういえば、東京駅でコーヒーを一杯飲んだだけで、朝から何も食べていなかった。時計はもうすぐ12時半になる。折角仙台に来たのだから、何かおいしいものが食べたいと思いながら、そんなのんきな自分をちょっと笑ってしまった。夫もいない。誰もいない。全くの自由。開放感で一杯になる。

 

 サテンドールの場所まではかなりの道のりがあった。それでも、別に何時までに行かなければいけないというのはなかったので、途中で食事を取ったり、お茶を飲んだり、お土産売り場を覗いたり。美しい景色を眺めながら、のんびりと散策をした。20年前の思い出と、現在の仙台の景色と空気とを交錯させながら。

 

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