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英雄の遺産  作者: りょう
第二章-吹き荒れる双剣舞姫-
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第一話 トラブルメイカー

ようやっと第二章開始

ここからダレンバートはしばらく空気


 目が覚めて、柔らかい布団に包まれていることに気が付いた時、やはり自分は1000年後の世界にいるのだと自覚させられた。

 少なくとも、1000年前に自分が寝起きしていたのはこんなに肌触りの良いベッドなどではかった。十分な休息は得られるが、今のように気持ちの良い目覚めはなかった。



 「お早う御座います、マリア様」



 遺産の少女が起きると同時に、挨拶をしてくる侍女。

 マリアというのは、「いつまでも英雄の遺産呼ばわりじゃ、何だか味気ないしな」とダレンバートに付けられた名前だ。

 彼女のかつての通称である“殺戮の天使”(バトル・マリア)を参考に付けられた名前である。何とも安直なことだ。



 「朝食を摂られた後、お召し物を変えましょう」



 「……別に面倒だから良いのに」



 「そういうわけにもいきません。せっかくその様な可愛らしい容姿をお持ちになっているのですから、これを飾らないのは罪ですよ」



 何故か拳を握り、力説する侍女。この侍女は何かにつけてマリアを可愛い、可愛い、と言って着飾ろうとしてくる。

 マリアは1000年前に生きていたこともあり、この世界の常識を全くと言っていいほど知らないが、この侍女が普通でないことぐらいはわかる。



 「……じゃあ、お願い」



 「はい!! 精一杯おめかししましょうね!!」



 これではまるっきり子供に対するそれである。

 初日はそれなりに抵抗したものだが、今となってはどうでも良くなりされるがままとなっている。

 1000年も眠り続けたショックでも受けると思っていたが、彼女の無駄に明るい性格で、ある意味助かっているのであった。















 マリアの扱いは非常に微妙なものであった。

 マリアは間違いなく英雄の遺産であり、本来であれば国を挙げて、いや、それこそ世界を挙げて歓待すべきなのだろう。

 しかしながら、事はそう単純にはいかない。なまじマリアは強大な力を持っていたため、その存在を危険視されるおそれが大いにあった。

 宝石とか剣のような使い手が居なければ無害であればまだ良かったのだが、意志のある大量破壊兵器となれば、話は別だ。

 いつ裏切るのか。いつ暴走するのか。いつ壊れるのか。

 人とは、分からないものに対して必要以上に恐怖を抱くものである。

 時には苛烈に、過敏に、激烈に。

 そうして恐怖を抱かれたものの末路とは、総じてろくなものではない。


 そして、その得体の知れない力をアークス王国が独占しているのもよくない。

 この事態が他国に知られれば間違いなく在らぬ誤解を招くに違いない。

 特にデラーゼル帝国なんかは喜び勇んで攻めてきそうである。

 「我々は大量破壊兵器をもつアークスを征伐する!!」とかなんとか言って。



 「故に“世界管理局”(ユナイテッド)に任せるのが一番だと思うね。僕は」



 「まぁ、ジークお兄様ってば惚れ惚れするヘタレっぷりですわ」



 「最近特に冷たくなったね、シシリア。昔は僕にキスをせがんできたのに」



 「頭が湧きすぎて記憶を捏造し始めましたか。お脳のお医者様をお呼びいたしましょうか? それとも葬儀屋がよろしくて?」



 あぁ嘆かわしい! と光が溢れんばかりの黄金の髪を持つ頭に手をやるシシリア第一王女。

 今まさにヘタレと揶揄されたジークの妹姫である。



 「いや、だって彼女を抱えるメリットなくない? マリアが100人いるんなら他国の牽制にも使えるけど、一人だよ?」



 「確かにそうかもしれませんが、彼女の利用法が無いわけでもありません。それとも、英雄の遺跡なんてただの観光名所にしておくべきだったかしら?」



 そう言われて唸るジーク。

 所詮英雄の遺跡と言えど、殆ど探索しつくされた墓標だ。

 ぺんぺん草も生えないぐらい取り尽くされた後なのだからと高を括っていたのが間違いだった。



 「まぁいずれにせよ、報告だけはしておくよ。秘密にしておいて後でばれると傷は大きくなるからね。小さいうちに治療しておくべきだ」



 「仕方がないですね。最悪、英雄の遺跡を失った分お金を頂きたいものです」



 「……無理なんじゃね?」



 「でしょうね」



 はぁ、と溜息を吐いて無駄に装飾が施されたソファに背を預けるジーク。



 「それにしても……」



 「何ですか?」



 「いや、1000年前はマリアみたいなのがあと100人以上はいたんだよね?」



 これはマリア自身から聞いた話だが、“殺戮の天使”(バトル・マリア)は少なくともあと100人はいたらしい。

 兵器と言うからには、あと何人かはいたであろうことは予想していたが、まさか100人とは予想の範疇を大きく超えていた。

 マリアの全力がどの程度か判然としないが、最上級魔法程度は軽々操れるようだ。

 アークス王国屈指の実力者であるダレンバートを持ってして、「マリアに1対1で勝てるヤツは、多分王国内にはいないだろうな」と言わしめたのだ。

 そんなのがあと100人である。



 「そのようですね……。しかも英雄達はマリア達より圧倒的に強かったらしいんですよね?」



 「どれだけ化け物だったんだって話だね。しかもそれだけの戦力を所持しながら、“魔王”(アークデーモン)は倒せたが文明は滅びたって言うんだからなぁ……」



 この話はマリア自身が体験したことではない。

 マリアとダレンバートが出会ったとき、マリアが遺跡の端末で調べた時に得た情報だ。

 内容は簡単に以下の通りだ。


 1000年前、英雄の登場と、“殺戮の天使”(バトル・マリア)の運用開始により、人間達は“闇の眷属”(ダークスポーン)の軍勢を破竹の勢いで撃破していった。

 しかしながら、長期の戦争により人間側は疲弊しており、これ以上の戦争の長期化は不可能と判断し、5人の英雄と“殺戮の天使”(バトル・マリア)を一気に投入。

 “魔王”(アークデーモン)が直接指揮する本隊へと短期決戦を挑んだ。

 結果は人間の勝利。見事“魔王”《アークデーモン》を討ち取った。

 だが人間側も多大な代償を払うこととなった。

 “殺戮の天使”(バトル・マリア)の大半は激しい戦いにより機能停止。さらに戦いの余波が大きすぎて、実に世界の90%の人間が死に絶えたのだという。

 また英雄達の行方も知れず、これから残された人間だけで復興するのは、途方もない年月が必要となるであろう。

 というような形で締めくくられ、その後どのような経緯で人間が復興したかは一切記されていなかった。


 何故マリアが今の時代まで生きていたのかというと、マリアは当時“冷凍睡眠”(コールドスリープ)状態であり、戦争に参加していなかったためとのこと。

 正直言って意味の分からない単語が端々にあった。



 「まぁ、とにかく何も問題が起こらないことを祈ろうか」



 事はそう簡単にはいかないものである。












 マリアは侍女を引き連れて城内を歩いていた。理由は単純、暇だったからである。

 マリアはあまり表に感情を出さない質であるが、感情がないというわけではない。寧ろ、1000年前と大きく違うこの世界に対し非常に興味を持っていた。

 現に侍女に対し、アレは何なのか、これはどういうものなのか、と質問を多くぶつけている。

 侍女もそんなマリアに嫌な顔一つせず、ニコニコと全ての質問に答えている。

 小さな妹ができた気分である。


 城内を歩いていたところ、外廊下に差し掛かったところで金属がぶつかり合う音が耳に入った。



 「何の音?」



 「おそらく、騎士団の稽古だと思いますよ。気になるのでしたら、見に行かれますか?」



 「うん」



 騎士団と言えば、ダレンバートも入っていたはず。

 何となく興味をそそられたマリアは、音の聞こえた方角へと歩を進めた。

しばらく進むと、訓練場が見えてきた。

 そこでは筋骨隆々の男達が剣(木剣、或いは刃を潰したもの)を振るい、または弓矢を引き、もしくは走ったりして訓練に精を出していた。

 その様子をしばらくボーッと眺めていたマリアだったが、目当てのダレンバートがおらず、訓練内容もさしておもしろくなかったため、



 「つまんないな」



 という至極失礼な言葉が漏れてしまった。



 「おい、今お前つまらんとかぬかさなかったか?」



 そして、無駄に地獄耳な騎士団員の一人が聞きつけてしまった。

 騎士とは非常に栄誉のある役職であるため、プライドの高い人達が多い。彼も例に漏れない存在だったようだ。



 「言ったけど?」



 「ふん、戦いのいろはも知らぬ小娘に馬鹿にされたとあっては、騎士の名折れというものだ。今すぐ撤回しろ」



 どうやらこの騎士は自分が馬鹿にされたと思っているらしい。

 マリアは騎士の腕前を馬鹿にしたわけではなく、単純に訓練が面白くないと言っただけである。



 「だって、つまんないものはつまんない」



 しかしながら、マリアはその差を理解できず、撤回する必要性を全く感じていなかった。



 「貴様!!」



 「騎士様、お止めください! この方は……」



 「うるさい!!」



 「キャア!!」



 苛立った騎士がマリアの傍にいた侍女を殴り飛ばした。

 如何に騎士と言えど、この様な行いをすれば普通に罰せられるのであるが、沸点の低い騎士はその判断ができなかったのだろう。

 流石の行いに、周囲の騎士達が止めに入ろうとしている。



 「……」



 マリアは別段、この侍女に対して思い入れはない。

 出会って数日の付き合いであり、親しいと呼べるような間柄でもない。

 しかしながら、いつも甲斐甲斐しくニコニコと自分の世話を焼いてくれているこの侍女が殴り飛ばされた時、マリアは胸の奥に言いようのない靄を感じた。



 「侍女風情が!! 我々のやることに異議を申し立てるなど!!」



 「ねぇ」



 「なんだこむすっ……!?」



 マリアに話しかけられたことで、視線を侍女から移す。

 マリアを視界に入れた途端、全身から嫌な汗が噴き出した。怒気を発しているわけでも、殺気を放っているわけでもない。

 彼女はただ自分を無感動に見つめているだけの筈だ。

 その筈なのに、騎士は微動だにできなくなっていた。

 戦いに身を置く者としての本能だろうか。とにかくこの少女に特級の危険を感じ取った。



 「っ……」



 「理由はよくわかんないけど、取り敢えず暴力は止めないかな?」



 「こっ、これは暴力などではない! 礼儀のなってない侍女に対する躾だ!!」


 「そう」



 何でも無さそうに呟くマリア。



 「でもアナタの意志は関係ないから」



 ふ、といつの間にか視界が真っ青に染まっていた。



 「え?」



 自分の目がおかしくなったのかと思ったが、どうやらこれは空のようだ。

 背中と後頭部が痛いから、仰向けに倒れているらしい。

 いや、倒されたらしい。


 ワケがわからなくなり、上体を起こしてみる。そこには、マリアが侍女を助け起こしている様子があった。

 


 「おい、大丈夫か?」



 倒れたままボーッとしていたのを心配したのか、近くにいた仲間が彼を助け起こしに来た。



 「あ、あぁ。何が起こったかわからないが、なんとか」



 「だろうな。俺等も全くわからなかったよ。ただ一つだけハッキリしてるのは、彼女が何かをやったということだけだな」



 離れたところから見ていた者達でさえ何があったか理解できなかったらしい。



 「しかし、いくら何でも度が過ぎるぞ。お前が怒りっぽいのは知ってるが、せめて相手は選べよ」



 「相手だと?」



 「そうか、お前転属してきたばかりだから知らないのか。お前が殴り飛ばしたあの侍女。あの子は───」



 「何ですか、この騒ぎは?」



 男だらけの汗くさい場所に不釣り合いな凛、とした声が辺りに響く。

 艶やかな暗黒色の長髪を、青色のリボンでポニーテールにした、軽装の少女だった。

 少し吊り目がちで強気な顔に化粧気は全くないが、それでも整った顔立ちは彼女が美少女であることを示している。

 侍女のことは知らないが、こちらには見覚えがあった。

 己が所属する、アークス王国第七師団副長ステア・フォルスティだ。



 「フォルスティ副長!」



 「まだ休憩の時間ではありませんよ、騎士ジャン」



 ジャンを責めるように見つめるステア。

 彼女は真面目で、厳しいことで有名である。

 もし訓練をせずに、あまつさえ女子を殴ったとばれてはどのような罰を与えられるか分かったものではない。

 何とか誤魔化そうと、とにかく口を開いた。



 「いえ、これはですね……」



 「それとも、あそこで顔を腫らしている私の妹(・・・)と、何か関係があるのですか?」



 美人を怒らせると恐い、というのは今のことをいうのだろう。

 僅かに怒気を孕んだ自分の副長の美しい相貌を見た時、ジャンは深くそう感じ、後悔した。

 終わった、と。

割とやっつけ

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