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頭痛

作者: 花浅葱 羽羅

 頭が痛いのだ。それはもう大きな金槌でどおんと叩かれた様な、重く響く痛みだ。理由はさっぱり見当たらない。兎に角朝起きたらもう頭が痛かったのだ。少々理不尽だと思いつつ、男はふと何の拍子も無く水瓶へと歩きだした。冷たいもので喉を少しでも潤せは少しでもましにはなるかと思ったのだった。のそのそと男は歩く。ゆるりと一回地面を踏むごとにどおんと響く痛みに、顔をしかめながら大の大人が歩いていく(ザマ)は非常に滑稽な姿だった。

 みいんみいんと蝉がけたたましく鳴く木の下をくぐってからからと下駄の音を響かせながら水瓶に近づくと、たむろって居た小さな五羽の雀が男を一度だけ見てから飛び立った。笑われている様に見え、男は本日幾度目かの盛大なため息をついた。


 水瓶の蓋を静かに外すと、そこ(・・)には()が綺麗に見えるほど透き通った水があった。ほんの少しだけその水の美しさに見惚れてから、近くに置いておいた柄杓を手に取りゆっくりと柄杓を水に沈める。すると、その水は透明で水あめの様に甘みととろみがあるように男に錯覚させたのだった。


 柄杓から椀の様に軽く握りこんだ手に水をすすぐ。手から伝わる冷たい水の感覚に、一度ぶるりと震えてから口を近づける。蝉の声が一気に遠くなった。冷たい水が暑さでほてっていた喉をすべる様に流れてゆく。その時、まるでその一口は水あめよりも甘いように男は思ったのだった。


 柄杓を水瓶の近くに置き、外した時と同様に静かに蓋を閉める。男は鼻歌でも歌うような雰囲気でからからと音を立てて石を渡るように庭を歩いて、自室に向かった。もうあの重く響くような頭痛のことなど忘れていたのである。


 暑い夏の日差しの下、隣の垣根で五羽の雀がぴいと鳴いた。

 実に簡単で単純な男だと、雀は笑ったのでしょう。

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