Episode8 - 改めて探索を
新しいスキルを得て、実際に戦闘面が劇的に変わったかと言われると……そうでもない。
分かっていた事だが、結局は徒手空拳で相手と渡り合わねばならないし、【捕食】を機能させるには対多数との戦闘では隙が大きすぎる。
しかしながら、
「はい、イタダキマスッ」
「ゲァ!?」
対個戦闘であるならば、全ての強みを活かす事が出来ている。
【聞き耳】と【隠密】によって気が付かれずに近付いて。【筋力増加】によって全力で絞め落とし。【噛みつき】と【捕食】によって容易に自分の力へと変換し。【疾走】によってその場からすぐに去る。
そしてその全てを【野戦技術】によって補助する事で、1体1体を確実に始末し食す事が出来ていた。
……これで5体目。本当に1体1体の強さはそこまででもないな、ゴブリン。
とは言え、これは私が強いのではなくゴブリン側が弱いからこそ出来ている事。
もう少し私が手こずる相手であれば、戦闘中に増援が来てしまう事だろう。
強大な相手にも同じように、食す事で打倒出来れば一番良いのだが……その辺りは今後次第だ。
「……それにしてもこの遺跡ひっろいなぁ……」
【隠密】によって陰から陰へと移動しつつ。改めて落ち着きながらゴブリンの棲む遺跡の中を探索していく。
前回と同じ遺跡ではあるが……それにしても広い。一応侵入する前に遺跡の周辺を探索し大きさを確かめたのだが、どう考えても外と中で大きさが一致していない。
感覚的には、既に遺跡の中心どころか反対側まで辿り着いていてもおかしく無いのだが……どこにも行き止まりや遺跡の出口は見当たらない。
ゴブリンが大量に棲息しているのも、遺跡の内部が異常に広いのも何か関係があるのだろうか。
「っと。また来たねぇー……ん?」
【聞き耳】に此方へと近付いてくる足音が聞こえた為、陰へと隠れながら息を潜めようとしたところで気が付いた。
……この足音、今までのゴブリンとは違う。ちょっと大きい?
音の重さが異なるとでも言えば良いのだろうか。どう考えても、ゴブリンの大きさから出る足音ではなく。
私よりも大きく、そして体重が重い何か。
そう、まるで、
「人間、みたいな……ッ!」
「……ヒュー……ヒュー……」
思わず声に出した瞬間、それは現れた。
薄暗い遺跡の通路。進行方向からゆっくりと、ぬるりと歩いてきたのは……大人の人間程度の大きさの鬼だった。
2本の立派な角。ゴブリンに近い風貌の、しかしながら筋肉がしっかりと付いた身体。
手には私1人分程もあるであろう巨大な棍棒を持ち、周囲をキョロキョロと見渡している。
まるで何か探し物がこの近くにあるかのように。
……流石にヤバいヤバいヤバい!
どう考えても格上。それも、今の私では戦いになるかも怪しい相手。
そんな存在がこの遺跡の中にいるとは思っていなかったが故に、全身から冷や汗が出てきた様な感覚に陥りながら。
早く何処かへ行ってくれ、と陰の中で祈っていると。
「!」
鬼の視線が、私へと向けられた。
【隠密】は発動している。しかしながら、しっかりと……確実に、私と鬼の目がばっちり合ってしまっている。
「は、はろー……?」
「……ァ」
「えーっとぉ……出来れば見逃してくれると……嬉しいなぁ……?」
「ァァアァッ!」
「ダメかぁ!そうだよねぇ!?」
鬼……否、オーガと呼ばれるであろうそのモンスターは雄叫びを上げ、巨大な棍棒を振り上げながらこちらとの距離を詰める為に駆け出した。
歩幅に大きな違いがあるが故に、逃げる事は叶わない。
そも、既に見つかってしまったのだ。雄叫びによって、周囲からこちらへと向かって来ているかの様な音も複数聞こえて来ている。
つまるところ、戦るしかない。
「〜〜ッ!見つけた事、後悔するんだねッ!」
冷静に。焦らない様に。
しっかりと自分の手札を把握した上で戦わねばならない。
「単純に」
オーガが一歩、大きく踏み込んで。
手に握った巨大な棍棒を、遺跡の壁や床が壊れるのを躊躇わずに私に向かって横に振るう。
その動きは素早い。
今まで相手にしてきたゴブリン達と比べると、子供と大人程違う。
「素手じゃ絶対に勝てないのは分かりきってる」
だが、その棍棒が私に当たる事はない。
小さく、尚且つ【疾走】を発動させる様に前へと駆け出しながら、出来るだけ地面と並行になる様に身体を傾けて。
目指すはオーガの背中側。
真正面から勝てる筈の無い性能差があるのだ。死角から死角へと移動しながら戦うのが生存確率が1番高い。
だから駆ける。死ぬ気で、死なぬ様に足を動かし駆け続ける。
……狙うは1点、首元!下手に他を狙っても意味が無い!
私に出来る攻撃方法の中で、唯一オーガにも効きそうな攻撃はただ1つ。
そう、スキルによって強化された口による噛みつきだ。狙うはソレ。しかも安全に噛み付くならば、真正面からではなく背中側からでなければならない。
故に、駆け。故に、避ける。
「ァ!ァ!アァア!」
「よっ、ほっ、ふっ!」
まるでモグラ叩きの様に。
私の事を雑な棍棒の縦振りだけで仕留めようとするオーガに対し、私は徐々に距離を詰めていく。
そうしてある程度まで近付いた所で、
「ガァラア!」
「おっ、そういうの待ってたんだよ!感謝!」
オーガ側が痺れを切らしたのか、再度大きく横に棍棒を振るったのを見て……私は一気に背中側へと踏み込み、そして跳んだ。
全身の筋肉を使う様に、身体を発条のように使い、大きく跳躍し狙うはただ1つ。人間ならば重要な血管が通っているであろう首元だ。
一度の跳躍で足りない高さを、相手の肩に手を置く事で上へと身体を引っ張り上げて。
私は大きく口を広げた。





