Episode5 - 湧いて出てくる
「やめておいた方が良かったかなぁこれ!」
「ゲヒャヒャ!」
「ギッヒィ!」
「ガガッ!」
駆ける駆ける駆ける。
薄暗い遺跡の中。苔の生えた石畳の上を、現状の最速で、全力で駆け抜ける。
背後へちらと視線を向ければ、そこには10体は居るであろうゴブリンが思い思いの武器を片手に迫ってきていた。
「流石に限界値は5体までだったかぁ……!」
『行動経験値が一定量貯まりました。スキル【疾走】Lv1、【恐怖耐性】Lv1を獲得しました』
「ありがとう!あとで確認するッ!」
アナウンスについ返答しつつ。
どうしてこのような状況になってしまったかを思い出す。
それは数分程前の事だ。
―――――
「さっきからゴブリンが出てきてるのはここだけど……ふぅーむ」
湿地を進んでいく事、数分。
私は再度草むらに隠れながら、少し離れた位置に居るゴブリン達を見守っていた。
何やら、石造りの歴史のありそうな遺跡の様な建物に集まっていた為だ。
……遺跡である事には間違いないんだろうけど……アレ、もしかしてダンジョンとかそういう類の奴?
ゴブリン達が出入りを繰り返しているその場所をダンジョンと仮定するのであれば。
あそこの中には大量のゴブリンが暮らしている可能性がある。
「……【隠密】のおかげで独り言喋ってても気づかれないのはいいけれど。どうしようかな、ちょっとだけ覗いてみようか」
流石に装備もアイテムも何もない、ほぼ裸と変わらない状態でダンジョンを攻略しようと考える程、私は極まったゲームプレイヤーではない。
だが、どれくらいの難易度で、ゴブリン以外のモンスターが出てくるのかどうかを確かめるくらいは……まぁ良いんじゃないだろうか。
それに、自分の限界を一度知っておきたい。3体までならばゴブリン相手に後手を取る事はないが、それ以上ならばどうなるのか。
無事勝てるのか、辛勝といった結果に終わるのか。果ては数の暴力で叩き潰されるのか。
この辺りは、強さの指標が現在存在していない私にとって確かめておかねばならないモノではある。
「それに、ゴブリン以外のモンスターを全然見ないのも気になるしね。原因があのダンジョンがある事なんだったら……流石に私の食事環境の改善の為に攻略しないといけない訳だ」
初期スポーン位置である洞窟を離れ、ここまで歩いてきたものの。
ゴブリン以外のモンスターには全く出会う事はなかった。ダンジョンの影響範囲内である為なのか、それとも他のモンスター達を駆逐して余る程にゴブリン達が湿地の中で脅威的な立ち位置なのか。
……うん、気になるね。
ゲームの中に生きている人々の為ではなく、単純な好奇心。
元来、個体毎の脅威度は低く設定されがちなゴブリンというモンスターがそこまでの脅威となっている理由があるのなら……その原因を見てみたい。
ただ、そう思っただけの事。
「よし、まずは……真正面から押し入ってみようか」
故に征く。
私は草むらの中から、全身を発条のように使う事で跳び出して、
「景気良く1発目!」
「ギァッ!?」
「ギギッ!」
「ゲヒャ!」
まだこちらに反応出来ていない、比較的近くに居た1体に対して全身の体重を乗せた拳を叩き込んだ。
難しい狙いなどは付けず、胴体を狙ったそれはゴブリンの身体にめり込み、何本かの骨を折る感覚と共に身体を吹き飛ばす。
「君達に恨みは無いけど、私の好奇心の為に糧になってくれると嬉しいな!」
ログに殴り飛ばしたゴブリンが死亡した旨が流れたのを、横目で確認しながら。
私はこちらを敵と認識したゴブリン達が襲い掛かってくるのに対応していく。
……思ってたけど、やっぱりまだ慣れないなこの身体!
現実の身体と比べて幾分か小さく、それでいて筋力量はスキルのおかげで現実よりも多い。
少し力んだだけでも、自分のイメージしていた出力とは違う結果が出る事に少しだけ難儀しつつも。私はそれを是として立ち振る舞う。
ゴブリン達の対応の仕方はほぼ同じだ。
こちらへと素手で向かって来る者。棍棒を矢鱈目鱈に振るう者。少しは賢いのか、こちらの動きを観察しようとする者の3パターン。
数的には、素手が1、棍棒が2、観察が1だ。
「――だからまずは、武器持ちを対処する」
棍棒の重さ故か、それともゴブリン達が棍棒の重さに振り回されているのか。
素手で向かって来る者よりも幾分か早く、私の身体に当たりそうになったそれらを何とか避け。その内の1つを掴み取り、逆に奪い取って。
棍棒を持っていた個体を蹴り飛ばし、近付いて来ていた素手のゴブリンと激突させた。
「うん、良いねこの棍棒。丁度良い重さだし……何より!」
再度こちらへと棍棒を振るおうとしていた1体の頭部を狙い、奪い取った棍棒をフルスイングすれば。
【筋力増加】も相まってか、何かが割れるような水っぽい音と共に棍棒持ちのゴブリンの頭だけが千切れ、飛んでいく。
「肉は叩けば柔らかくなる!っとと、ごめんね。つい力入れすぎちゃったや」
光の粒子となって消えていくゴブリンの胴体に平謝りしつつ。
私は周囲の残りのゴブリンへと追撃しようとして、
「……あちゃ、逃げられたか」
残りの3体が何処にも居ないことに気が付いた。
彼らの棲家であろう遺跡の中へと逃げて……否、敵対者が来たと仲間達に報せに行ったのだろう。
「5対1はやった感じ問題なかったし……いけそうかな?それ以上になるとどうなるか分からないけど経験経験っと」
足取りは軽く、思考も軽く。
私は遺跡の中へと一歩、足を踏み出した。
――そうして、時は現在へと巻き戻る。





