Episode3 - ファーストエンカウント
本日3話目。
明日からは15時に更新していきます。
無理になるまでは毎日で、そこから先は曜日決めて更新かなぁ。とりあえず、暫くは毎日更新で。
宜しくお願いします。
時間は夜。多分。
というか、私の視界が白黒であるが為にイマイチ昼夜の感覚が掴めない。
まぁ、最初はゲームの仕様を把握する為にトピックスなどを読む時間に充てているので、時間の経過などは正直どうでもいいのだが。
「もぐ……んぐ……ふぅ。しっかしどうしたものかな」
現在、私が居るのはスタート地点である洞窟内部。
そこまで深くはないものの、雨風を防ぐ事が出来る便利な我が家だ。
……マイスペースとしても利用出来る訳だし、結構手厚いフォローがされてるよね。
モンスター側としてスタートしたが故だろう。スタート地点には他の、敵対的な存在は侵入する事は出来ず。また、他のプレイヤーも許可なく立ち入る事が出来ない……所謂マイスペース、マイルームなどと言われる場所として設定されていた。
最初期用の食糧としてか、私のアバターに合わせて『人間の死体』などというアイテムまで用意されていたのには驚いたが。ちなみに味は、ちょっと塩味の効いた肉の様な味。食感はゴムだ。
「まともに行動するには存在昇華を目指さないといけない。その存在昇華をするには経験値を得て、スキルレベルを一定以上まで上げないといけない。でも私のアバターはそれなりに弱いモンスターである、と」
ゲーム内トピックスを読む限り。
スキルにはカテゴリレベルというものと、そのままスキルレベルというものが存在しているようで。
例えば、私の選んだ【噛みつく】というスキルは、『戦闘カテゴリ』に属するレベル1のスキルという扱いになっているらしい。
「キャラレベルっていうモノが存在しない代わり、スキルレベルとプレイヤースキルで何とか戦っていく類のゲームってワケだ」
腹ごしらえとして食べていた死体の最後の一片まで腹に収めた所で、私は立ち上がる。
長期目標として、存在昇華を行う事。その為の短期目標として……出来れば適当に戦闘を行う事で経験値を得る事。
……とは言え、この洞窟の外ってどうなってるんだろうか。
出来れば戦いやすい……隠れやすい場所が多めにあると良いのだが、と考えながら。
私は洞窟の入り口から外をちらりと見てみると。
「おぉ……湿地帯、とかそういう感じ?」
草原にも見えなくはないものの。
水場が多く、沼の様な場所や岩なんかが転がっている見通しの良いフィールドがそこには広がっていた。
生き物も……私の視界内には大体数体程ではあるが見つける事が出来ている。
「あれはゴブリンかな?」
小さ目の、仏教における餓鬼の様な風貌のモンスター。
手にはこん棒らしき棒を持ち、ボロボロの布を腰に纏っているそれ。凡そどのゲームでもゴブリンと呼ばれるであろうそのモンスターは、まだこちらには気が付いていなかった。
……周囲が静かだからか、結構しっかり足音も聴こえるね。……いや、これスキルのおかげか。
私の選んだ初期スキルの中の1つ、【聞き耳】。
視界が白黒になり、いつもよりも低い位置から周囲を見渡す事になったが故に、耳を使う行動にボーナスが入るこのパッシブスキルを選んだのだ。
「数は3体。足音の大きさ的に……私よりちょっと小さいくらいかな?……イケるか?」
最初のスタート位置近くに居るモンスター。
そこまで気合を入れて戦う必要もないかもしれないものの、逃げの選択肢も頭の中に入れておいた方が良いだろう。
「ま、ある程度やってみて決めるって形で――やってみようか!」
洞窟から勢い良く飛び出し、ゴブリン達へと……私から見て一番近くにいた個体へと向かって駆けていく。
ある程度、アバターの動きに慣れるという意味合いもある初戦闘。それに、これからこの周辺で活動する事が多くなるのだ。出来る限り、この湿地での動き方というのも学んでおきたかった。
……結構泥に足が取られる……けど!
【聞き耳】と同様に、初期スキルとして取得した【筋力増加】。
効果としては、全身の筋力を言葉通り増加させるという簡単な説明のパッシブスキル。しかしながら、レベル1と言えどしっかりと効力を発揮してくれている様で。
「結構しっかり進めるもんだ!」
「ギッ!?」
「ゲヒャ!?」
「ギッギッ!!」
力強く、泥の混じったぬかるんでいる地面を踏み締めて。
一気に1体のゴブリンへと接近し、その顔面を殴り飛ばす。
技など何もない、ただの力任せ、勢い任せの拳。しかしながら、パッシブスキルによって増加した筋力によって、その威力は私の考えていた以上のものとなった。
「ヒュゥ、何本か骨砕けたんじゃない?っていうか、意外とリアルだね」
拳から伝わる、何かを砕く感触。
振り抜いた腕から肩にかけて感じる、何かが軋むような違和感。
不意の一撃を顔面に喰らったゴブリンは、勢い良く吹き飛んでいくと共に、地面に倒れ四肢を痙攣させているのが見えた。
「ギギッ!」
「ゲッ、ヒャヒャ!!」
「うん、君らの言葉は分からないんだ私。だから、もうちょっとスキルやこの身体のテストに付き合ってくれると嬉しいな!」
突如現れ、仲間の1体を弾き飛ばした敵を見て。
残された2体は、遅れて状況を理解したようだった。こちらの動きを見逃さない様に、しかしながら仲間と離れない様にと、武器を構えながらこちらを睨み声をあげる。
……仲間を呼んでる様子は……無いね。
【聞き耳】によって、周囲から増援が来る様子はない事は分かっている。
故に、
「寝ておきなッ!」
「ゲヒャッ!」
殴る。
相手が消極的な動きをしている間に、反撃の隙を与えない様に。
後のことを考えず、全身の力を出し切る様に筋肉を動かしていく。
突然、ゴブリン達もタダでやられる程弱くはない。殴りかかってきた私に対し、棍棒を振り回す事で対応しようとしてきたものの。
……ある程度のダメージは許容範囲!
左肩を打たれ、衝撃で身体のバランスが崩れつつ。
しかしながら、私の放った拳は1体のゴブリンの腹部へと突き刺さる。
クリーンヒットとは言えないが、それでもそれなりのダメージが入ったのだろう。そのまま気絶するようにその場へと崩れ落ちていく。
「ッァカ……!」
「痛っ……このゲーム痛覚設定も入ってるやつか。あとで設定変えておかないと」
衝撃と痛みはイコールと言える程の強さではないけれど。痛みは思考を鈍らせてしまう為、あまり良くはない。
とは言え、目に見えて動けるゴブリンは残り1体のみ。
他の個体と同じ様に棍棒を持ってはいるものの。たった2発の拳のみで他のゴブリンを戦闘不能まで追い込んだ相手を前に、足は震え逃げ腰になっているのが見て分かる。
少しばかり気の毒に思えるが、私も私でまだこの身体を試したいのだ。手を抜く事はしない。
「他の2体はまだ生きてる。呼吸が聴こえてるからね。君は私を倒せれば彼らを救う事だって出来るはずだよ」
「……ゲゲ」
こちらの言葉の意味など分かってはいないだろう。だが、語り掛けつつ。
私は飛び掛かる為の力を足に溜めていく。
……まだ試せてないのは【噛みつき】だけ。スキルの挙動も気になるけど……それ以上に、ゴブリンの味も気になるよねぇ?
口の中に涎が溜まっていくのが分かる。
ゴブリンなんて、どんなファンタジー作品でも食べられていた記憶はない。もし食べていたとしても、きっと美味しくはないだろう。
だからこそ気になるのだ。
ドラゴンならば、上質な脂と肉の旨味を。スライムだったら、ゼリーの様な食感や味を。グリフォンなんか、鳥肉とライオンの肉を楽しめる筈だ。
ならば、ゴブリンは?どんな味がするのか気になって、気になって気になって。
「ッ」
跳んだ。
溜め込んだ力を放出するように。足を発条の様にしてゴブリンへと向かって距離を詰める。
【噛みつく】なんて名前のスキルだ。口で攻撃しなければならないだろう。
そう考え、頭部を前に……大きく口を広げて迫っていけば、
「ゲ、ギィ!!」
「あ、がッ……~~~ッ流石に食欲に支配されすぎたッ!」
その頭を、棍棒によって思いっきり殴打されてしまった。
痛みと衝撃で我に返り失敗を恥じつつ。フリーの両手でゴブリンの両肩を捕まえる。
「ヘヘッ、へへへ……流石に肩を抑えちゃえば抵抗しにくいでしょ」
「ギ、ギギィ……!」
ゴブリンは逃げ出そうとしているものの、筋力差によって私を振り払う事が出来ていない。
私はその様子に満足し、ゆっくりと再度大きく口を開いて、
「じゃ、イタダキマス……♪」
「ギ、ギィ……ギヒャァァァ!」
その肩へと噛みついた。





